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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第7章 我が道行く新たな星

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第10話 氷都アイシティ③




「そうか、いなかったか」

「何も収穫が無く、申し訳ありません」

「いや、これでいないと断言できるだろう。よくやってくれた」

「ありがとうございます」


町に戻り、ギルドへ偽の報告をしに来たソラ達。本当はダンジョンに潜っていたのだが、そんなこと言えるはずもない。


「今回はこのように公言する。だが……」

「万が一見つけたら討伐する、それで良いですか?」

「ああ。頼んだぞ」

「任せてください。その代わり、報酬はしっかりいただきます」


事務的な会話だが、これで終わりだ。ソラは部屋を出て、前と同じように待っている2人と合流する。


「ソラ君、おかえり」

「報告だけだから、そう疲れることは無いけどな」

「面倒を受け持ってくれてるもの。お礼は言うわよ」

「なら、注いでくれるか?」

「うん、良いよ」


グラスにウォッカを注いで貰い、一気にあおる。ただ、これだけ呑んでも、酔うことはできないだろう。


「……少し自分が嫌になるな」

「どうしたの?」

「町の安全のために尽くしている人を騙して、自分のことをやったんだ。嘘の報告もしたしな」

「仕方ないわ。あんな所に人を入れるわけにはいかないもの」

「それを理解していても、ってやつだ。ただの自己嫌悪だな」

「そっか……じゃあ、もっと呑む?」

「ああ、貰えるか?」


そうしてまたあおる。気分的なものなので、しばらくすれば収まるだろう。ミリアとフリスは気にせず呑んでいた。


「ああ、強い」

「当たり前ね。というか、呑みすぎよ」

「そうかもしれないが……これだけ呑んでも大丈夫なのか」

「そうだね。わたし達もそうだけど、ソラ君はもっとだもん」

「酒に逃げる、なんてしたくないが……それができないのは少しツライだろうな」

「それなら、私達を頼りにしてね」

「わたしもだよ」

「そう、だな……頼む」


簡単に丸め込まれたが、ソラは気にしない。もう夜も深まっていたため、ギルドを出て宿に向かうことにした。


「……不思議だね」

「どうした?」

「こんな所まで来て、こんな風に喋って。ソラ君と会うまで考えてなかったもん」

「フリス、もしかして酔った?普段なら言わないわよね」

「そうじゃないけど……感傷的にはなっちゃったかな」

「人でなくなっても、心は人だった頃と変わらない。それが普通だ」

「ソラ君も、だもんね」

「そうね。じゃあ、私もなりましょうか?」

「おいおい。3人ともだと、止める奴がいないじゃないか」


そしてソラ達は夜の町を歩いていった。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「どこかな?」

「さあ。でも、2人が頼りなのは事実よ。早く見付けましょ」

「凶暴じゃないとはいえ、逃して良いやつじゃないからな」


北風が吹き抜ける中、3人が受けた依頼は町の中での探し物だ。普通ならこれはFランク冒険者、子どもなどに任せるのだが、今は任せるわけにはいかなかった。


「ナイトキャット……体は小さいし、探すのは面倒だ」

「受けてから言っても遅いわよ?」

「分かってる。ただの愚痴だ」

「でも、本気に大変だよね」

「しらみ潰し……いや、暗闇で人気の少ない場所にいるか?」


ナイトキャットはDランクの魔獣だが、人を積極的に襲ったりはしない。だが危害が加わりそうになれば反撃するので、十分な戦闘能力が無いと捕獲は無理だ。

しかも、逃げ込んだ場所が悪く、闇ギルドがあるとされるスラム街だった。元々は町の中心的エリアだったらしいが、家が増えすぎて逆に不便となり、廃れてしまったらしい。


「それにしても、何で町の中で魔獣を飼ってるんだか。というか誰だ」

「大きな商人らしいわよ。特に禁じられてるわけでもないし、罰は無いわね」

「でも、逃がしちゃうなんて駄目だよね。信頼落ちちゃうもん」

「そういうのがあるか。冒険者への報酬も払わないといけないし、損ばかりだな」

「それはわたし達が貰うんだけどね」

「それは言わないの。私達が逃したみたいになるじゃない」

「だったから、闇ギルドに罪をなすりつけて殲滅するか?」


笑顔でする話ではない。だが、3人からすればその程度の扱いだった。


「……それも良いわね。魔人の代わりには十分よ」

「おいおい、本気にしたのか?」

「でもソラ君、やらないんだったらあんな風には言わないよな」

「まったく……ちょうど良く相手がいたらだぞ」


ソラは否定しなかった。つまり、そのつもりがあるという意味である。


「子どもを連れ去ってるって噂のある連中だ。見付けたら容赦しなくて良いぞ」

「そう。じゃあ、問答無用で良いわね」

「はーい」


スラム街ということで、やはり周りの雰囲気は悪い。ボロボロの服を着た人々が路地裏に座り込んでいたり、萎びた野菜や謎の薬を売っている店があったり、錆びついた剣や鉈を持つ者達がいる。流石に完全武装の冒険者然としたソラ達に喧嘩を売る者はいなかったが、逆の者はいた。


「……つけられてるな」

「え、そうなの?」

「流石ソラね。私には分からないわ」

「相手も相当の手練れだ。2人が分からなくても仕方ない」

「そう。具体的には?」

「例えるなら……気配だけを頼りに人混みを走り抜けるとか、気配だけで魔法を当てるとかだな。今のこれは殺気に近いから、比較的楽だが」

「それでも、わたし達には無理だね」

「気にしてないわ。それで、どうするのよ?」

「まだ反応を探る。様子見だ」

「それで?」

「見てるだけなら放置。そうでないなら……案内してもらうぞ」


魔力探知を使っても、人の区別はつけづらい。膨大な魔力を拙い制御力で操っているのなら分かりやすいが、魔力が少ない、もしくは制御力の高い相手だとかなり知覚が難しくなる。それでも、よく知った相手なら判別できるが、初めての相手では無理だ。

ミリアとフリスも気配の察知が上手くなっているとはいえ、この相手では難しいだろう。


「さてと、絞り込みをかけるか」

「え、できるの?」

「人の多い所と少ない所を認識する。魔獣の気配だけを知覚できれば良いが……人気の無い所に行けばヒントはあるだろう」

「後ろのも連れてくのね」

「害がないと分かれば去るはずだ。そうでなかったら……争いは避けられない」


というか、この3人が避けることは無いだろう。むしろ自分達から飛び込んでいきそうだ。

そんなことを考えていたからだろうか、その飛び込み先がやってきた。


「ちっ、これか」

「え?……あ」

「どうしたのよ?」

「何かを追いかけ回している集団がいる。その相手は……人間じゃないな」

「……そういうことね」

「急ぐぞ。先に捕まえられたら面倒だ」


魔力探知の範囲が広く精度が高いため、こういった判別もできる。ソラ達が向かった先、そこでは1匹の猫を100人近い男達が追いかけ回していた。


「行け!」

「追い込め追い込め!」

「逃すなよ!」

「売り飛ばすんだ。傷付けるな」


見た目からしてゴロツキ、半グレに近い連中のようだ。幅を利かせている闇ギルドかどうかは分からないが、そういった系統の相手だろう。


「まだ捕まってないんだね」

「だが、時間の問題だ。周囲を囲まれてる」

「ああ。俺がメインの集団の相手をする」

「ソラ君が?」

「フリス、暗殺者の方は頼む。魔法使いが残るなら、警戒しないで来るはずだ。その後は周囲の人から排除してくれ」

「うん、分かった」

「ミリアは周囲に散らばってる奴らをやれ。それでフリスが暗殺者を対処し終えたら、ナイトキャットの捕獲も頼む」

「ええ、任せなさい」

「よし、行くぞ」


通りに近い所を歩いていたソラ達は屋根に飛び上がり、駆けていく。暗殺者が見失わない程度の速度だが、あの集団よりは圧倒的に速い。すぐに追いついた。


「はっ、後少しだ。やっちま、がぁ⁉︎」


そしてソラは屋根から飛び降り、先頭を走っていた男を蹴り飛ばす。一応、薄刃陽炎は抜いていないが……容赦はしないだろう。


「上からとはいえ、この反応の遅さはないな」

「な、なんだテメェ!」

「アレをお前らが捕まえると困る。このまま退いてくれれば何も無いが……」

「ふざけんな!しゃしゃり出てくんじやねえ!」

「やっぱりか。後悔するなよ」


この後の展開は、想定外など起こりようが無いだろう。そして、ここにいるのはソラだけなのだから、周囲も無事では済まない。


「おい、お頭達の方が騒がしくないか?」

「追い立ててんだ。仕方ないぞ」

「いや、金属音も聞こえるんだ」

「走ってれば鳴る。それより急げ」

「良いのか……?」


察しの良い者もいたが、自分達に手を出す相手がいるなんて思ってもいなかった。そこが狙い目だ。


「これだけね……後はフリスに任せるわ」


屋根の上から強襲し、一瞬で殲滅する。これで5組目、周囲の者達は少ないため、ミリアは本来の相手へ向かった。

また、屋根に残ったフリスにも黒ずくめがやってくる。


「やっと来たの?」

「……気付いていたのか」

「ソラ君がね。わたしが分かったのは、ここに来てからかな」

「……なら何故残った」

「ここにいれば来てくれるんでしょ?そうすれば、早く倒せるもん」

「……魔法使いが。調子に乗るなよ」

「そうかな?それより、帰らなくて良いの?帰さないけど」

「……死ねぇ!」


短剣2つを構えた黒ずくめは、一気に接近した。確かに魔法使い相手でそれは正しい……一般的な相手には、だが。


「じゃあ、ミリちゃんの手伝いをしよっと」


そこには炭化した人形が残っただけだった。

そしてソラの方も、かなりの惨状となっている。


「ぎゃあ⁉︎」

「ぐぁ!」

「ひ、ひぃ!命だけは……」

「助けるわけないだろ」


首を、背を、腹を、心臓を。半径5m以内に入った相手を片っ端から殺していく。逃げようとした者も、心折れた者も、皆等しく殺されていく。また逃げようにも背後にはリーダー格がおり、勝手には逃げられない。


「お、お頭、ここは逃げましょうぜ。こいつ強すぎる」

「何を言ってる!相手は1人だ!囲んで殺せ!」

「そうか。囲めば倒せるか」

「当たり前……あ?」


気付くと、お頭の目の前にソラがいた。周囲の人が知覚する前に潜り込んだのだ。


「て、てめ、がっ⁉︎」

「生憎、お前を生かしておく理由は無いからな」


そしてお頭は袈裟懸けに両断される。その瞬間集団は瓦解したが、ソラが逃すわけがない。魔法で全員の頭を吹き飛ばした。


「ミリア、確保できたか?」

「ええ、この通りよ」

「フリス」

「分かってるよね?残りはここだけだよ」

「なら、こいつらも殲滅だ」


依頼のナイトキャットかどうか確認したソラは、お頭の首を持ってギルドへ戻っていった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「もう見えなくなるわね」

「やっと寒い所から離れられるね」

「だが、氷宮を出てからはそんなに寒く感じて無かったんじゃないか?」

「う〜ん、そうかも」

「慣れたのね。まあ、それでも寒いけど」

「そこは仕方がない」


ソラ達はアイシティを出、西へ向けて歩いていく。まだまだ風景は雪山だが、そこから抜けられるとあって、特にフリスの足取りは軽かった。


「それにしても、魔人って何だったのよ?」

「さあな。本当にいたのかもしれないし、似た魔獣を見間違えただけかもしれない。怪しい反応が無かった以上、これ以上の散策はできないしな」

「でも、見た人は多かったんだよね。見間違いは無いんじゃないかな?」

「少なくとも、人に近い姿をしていることは確かよ」

「それはそれで厄介な相手なんだが……ん?」

「どうしたのよ?」

「いや、人型の反応があるんだが……しかもこっちに向かって来てる」

「えっと、それってもしかして……」


散々探した時にはいなかったのに、今さら出てくるなんて何のつもりだ。そう、ソラは叫びたかった。


「魔人?」

「そうみたいだな。そろそろフリスの範囲にも入るはずだ」

「……見つけたよ。結構速いんだね」

「……本当にいたのね」

「間違いない。持ってる魔力も相当だな」

「もうすぐ見えるよ」

「通してはくれないのね」

「ああ。まったく、面倒なことだ」

人間(ヒューマン)どもか……」


そいつは真っ黒な狼人間とも言うべきか、鋭い爪と鋭い牙を持ち、全身を毛で覆われている。体型はかなり細身だが、力は見た目に反して強いだろう。


「見つかったら、戦うしかないな」

「自分から来たくせに何言ってんだ」

「頭大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよ、きっと」

「何故そんなことを言う……俺は十二闘将の1人、ホニャロレスプだぞ!」


何だか厨二病っぽい役職名(???)と名前を言い放った魔人。だが、名前が悪かった。


「ホニャ……何?」

「ええと、ホニャロレイス?」

「いや、ホニャレストだったか?」

「それも違う!」


そんな言いにくい名前だからだ。第一、十二闘将など、3人は聞いたことがなかった。そして……


「ホニャロレスプだ!ホニャロレスプ!間違えるな!」

「え〜、間違えないなんて無理だよ」

「変な名前よね。聞き返すわよ」

「それにしても、よく噛まずに言えるな」

「あ・た・り・ま・え・だ!!自分の名前だぞ!」

「へえー」

「ふーん」

「そうなの?」

「いや、その、当たり前……だろ」


完全に遊ばれていた。ホニャロレスプの方も本来の目的を忘れているようである。


「ってそうじゃねぇ!」

「どうした?」

「何で急に怒ってるの?」

「多分、自分の不甲斐なさを自覚したからよ」

「ちげぇよ!取り敢えず、俺がここにいたことは知られちゃなんねぇんだ。死んでもらうぞ」

「そうか。町で噂になってたけどな」

「何だと⁉︎」

「それも結構は人数に見られてたそうよ。半分くらいだったかしら……」

「馬鹿な……町に入るのは夜中だったんだぞ……」

「あれ?町の中にも入ってたの?」

「それは聞いてないな」

「半分ってのは、外に出た人の中でって意味なのよ」

「騙したな!」

「そんなつもりは無かったんだが」


完全なる自爆だ。ただ、こいつはそう思わなかったらしい。


「もう我慢ならねぇ!ぶっ殺してやる!」

「我慢?そんなことしてたか?」

「勝手に騒いだだけな気がするわ」

「うん。何で怒ってるの?」

「うるせぇ!」


格の違いも知らず、喧嘩を売るのはやめた方が良いのだが……こいつはしなかった。


「死ねやー!!」


確かに、驕るだけの実力はある。普通の冒険者なら皆殺しにできるだろう。だが、ただそれだけだ。


「何がしたかったのよ」

「分かんないね」

「そう言うな。普通の連中は神気なんて使えないんだぞ」


フリスの雷で蜂の巣にされ、ミリアに四肢と頭を切断され、ソラに首級(くび)以外を細切れにされる。瞬殺以外の何物でもない。


「まあ、速かったことは速かったが……」

「それだけだったね」

「ええ。あれなら10人いても私1人で十分よ」

「というか、スピードはミリアの方が圧倒的に上だ。問題になるはずがない」

「それに、ソラ君より動きが雑だったもん」

「それは当たり前よ。ソラより綺麗に動くなんて、人間には無理ね」

「おいおい、何だそれは」


そんな適当な話をしながらも、どうするべきか考える。依頼は終わっていたとはいえ、こうなっては旅を続けるわけにはいかない。


「さてと……報告も必要だし、一旦戻るか」

「出たばっかりなのにね」

「仕方ないわ。言わないわけにもいかないもの」

「むしろ、出たばかりで良かったな。すぐに戻れる」


せっかく町を出たばかりだが、こうなっては仕方がない。3人は元来た道を引き返し、ギルドへ向かう。


「はぁ⁉︎SSSランク⁉︎」


そしてソラ達は最高ランクに到達した。








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