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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第7章 我が道行く新たな星

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第5話 ???




「ここは……何だ?」


全てが白い通路。光すらどこから来ているか分からないようなSF空間。


「何で俺はこんな所に……何も思い出せない?」


だが、ここに来た要因らしき記憶は一切ない。何も覚えていないのに、何故かここにいる。


「ソラ!」

「ソラ君!」

「ミリア?フリス?」


そこへ、2人が駆けよって来た。直線だけのようだが直前まで知覚できていなかったあたり、この通路の異常性は見た目だけではないようだ。


「何故ここにいるんだ?」

「その言い方だと、ソラも同じみたいね」

「気付いたらここにいたんだ」

「来る前のことは、何か覚えてるか?」

「ううん、何にも覚えてないよ」

「さっきまでバルクさんの店にいたはずなのにね」

「バルク……ああ、そうだったな」


これ以前の記憶も曖昧になっているらしい。2人に言われなければ、宴会が開かれていたことすら忘れていたかもしれない。


「それでソラ、どうするのよ?」

「そうだな……取り敢えず、真っ直ぐ進むぞ。何かヒントがあるかもしれない」

「うん、分かった」


進んでも進んでも変化の無い通路を、3人は歩いていく。というか、変化が無さすぎて暇すぎた。


「暇だね」

「でも、気は抜けないぞ」

「そうね……」

「どうした?」

「何でもないわ。行きましょう」

「うん」


時折会話をしつつ、進んでいく。だが、この変化の無さは異常だ。そしてもう1つ。


「……おかしい」

「ソラ?」

「余りにも直線が長すぎる。それに、奥まで見通せているのもな」

「何で?」


地球において、人間の地平線は約4km先だと言われている。これはベフィアでもほぼ同じだ。だがここは、絵画の一点透視図法のように、どこまでも直線が続いている。身体強化で視力を上げても、壁が見えないほどだ。

どう考えてもおかしい


「フリス、ロスティアからバードンが見えるか?」

「山があるから無理だよ?遠いもん」

「その山だって、丸みで隠れて全てが見えることはない。だが、ここは見通せる」

「それが変なのね?」

「そういうことだ。光を歪めてるのか……ん?」


普通にしていては脱出できない。なのでソラはヒントを探そうとしたが……その前に、背後から近づく気配に気付いた。


「……何か来るな」

「うん。前の方?すぐだよ」

「ここにもいるのね。行くわよ」

「待てミリア、早まるな」

「え?まあ、そうね」


2つずつ、交互に奏でられる足音。巨大な体に似合わず、それは静かだ。大きな口を開け、冷たい風を纏うそれは……


「フェンリルだね」

「SSランク魔獣、早く倒しましょう」

「ああ。だがミリア、何でそんなに好戦的なんだ?」

「そう?変わらないわよ?」


そんなやり取りの最中でも、3人は集中していく。


「じゃあ……行くぞ!」

「ええ!」


そして2人は突っ込み、フリスは魔法を放った。


「ガァ!」

「くっ⁉︎」

「きゃあ!」


だがフェンリルの叫びで衝撃波が発生し、ソラとフリスは吹き飛ばされる。フリスの魔法もかき消されていた。


「何だこいつ……」

「今の何よ……」

「ソラ君、ミリちゃん、どうするの?」

「言ってる場合じゃない、来るぞ!」


ミリアとフリスの意識が思考に傾いた瞬間。その一瞬のうちに、フェンリルの口がミリアの目の前に来ていた。


「え⁉︎」

「ミリア!」


だがソラはその横顔を蹴り飛ばし、ミリアを抱えて後退する。顔に向かって青い炎を放っておいたので、追撃は無い。


「大丈夫か?」

「大丈夫よ……でもSSランク魔獣って、こんなに強くないわよね?」

「ああ。神気を使ってる様子も無いし……まさか」

「何なの?」

「本物に限りなく近い偽物か?」

「本物って……魔獣よね?」

「いや、俺のいた世界では、フェンリルは神話で出てくる神獣だった。神を打ち倒すほどのな」

「そんなの……」

「だが、こいつは逸話も何も無い偽物だ。倒せない道理は無い」


北欧神話では最強クラスの神獣だが、ここにいるのが本物なわけがない。ただの力を持った獣、この程度で臆するわけにはいかないのだ。


「行くぞ!」


ソラとフェンリルが同時に駆け、刀と爪が当たり金属音をあげる。


「やぁぁ!」


そこへミリアが斬り込んだ。残念ながら弾かれてしまったが、スピードでは勝っている。


「ナイスだミリア。フリスは?」

「毛皮に弾かれてナイスも何も無いわよ。フリスなら、後ろにいるわね」

「あんなに下がると……いや、問題ないか。それで、決め手は俺で良いな?」

「ええ。私は撹乱に努めるわ」

『通路が狭いし、わたしもそうする』

「じゃあ、行くわね!」

「……勝手に行くな」


先行するミリアと、次々と魔法を放つフリス。フェンリルは巨体に似合わず狭い通路の中を縦横無尽に跳ね、魔弾を避けるかそらしていく。ミリアのスピードにも目が慣れたのか、最初ほどのクリーンヒットは無かった。


「しっ!」


だがそこへ、ソラが突っ込む。ミリアとフリスに気を取られていたフェンリルはそれを避けきれず、右前足の腱が半分断たれた。


「やったわね」

「いや、この程度じゃ阻害にもならないらしい。完全に斬らないと無理か……それにしても硬いな」


だが、フェンリルの動きは衰えていない。むしろ怒りで速くなっているようだ。そのせいで、ほとんどの攻撃をかわされている。というか、ソラ達にも何度か危ない場面があった。


「全然当たらないないわね」

「掠めただけだと、有効な攻撃にはならないからな。どうやって仕留めるか……」

「難しいわよ。陽動が効かないもの」

『止められたら楽なんだけどね』

「止める?捕縛にはグレイプニル……アレを応用するか」

「え?」

「少し時間を稼いでくれ。捕まえる」

「できるの?」

「分からない。ただ、試してみる価値はある」


ミリアとフリスだけでも時間稼ぎは可能なので、任せる。その間にソラは集中していく。

捕まえるとしたらあれしかない。そして生半可なものでは引きちぎられる。なので……


「捕らえろ、氷縛陣!」


神術として発動した。壁や床や天井が薄い氷に覆われ、そこから鎖が飛び出していく。ただ数が少なく、フェンリルは避け続ける。


「まだまだ!」


だが100を超えても鎖は増え続け、4桁に届かんとしていた。通路はドンドン狭くなり、前にも後ろにも行けない。完全に閉じ込められていた。

そしてついに、フェンリルの右前足に鎖が絡まる。


「我、今、なすべきことをなさん……何よりも強き意思マインド・オブ・キング!」


気を取られて動きの止まった瞬間を突き、必殺の居合が放たれる。

手段は違うが北欧神話の終わりと同様に、フェンリルは口から真っ二つに斬り裂かれた。


「ふう……終わったか」

「お疲れ様」

「魔獣とは比べられないくらい強かったからな。古竜(エンシェントドラゴン)5体分くらいか?取り敢えず、俺の攻撃が効いて良かった」

「本当ね。私達は少しの傷しかつけれなかったのに」

「うんうん。ソラ君、強かったよ」

「そこはまあ、色々と手札を持っていたから……ん?」

「どうしたのよ?」


ふと壁に目をやると、その一部分に違和感を感じた。先ほどまでは無かったものだ。


「……試してみるか」


ソラは薄刃陽炎の柄に手をかけ、構える。


「ソラ⁉︎」

「ソラ君⁉︎」

「はぁ!」


そして壁に向かって一閃した。普通なら壁に傷が入るだけだが……


「扉?」

「何処でも横を斬れば良かったのか?まあ、良い。行くぞ」


壁は崩れて通路になり、その先には扉が見える。どう考えてもおかしい。ただ、若干警戒しつつ扉に近付いたが、そこには何の違和感もなかった。


「ただの扉だな」

「ええ。罠があるようには見えないわ」

「魔力も神気も感じないよ」

「じゃあ、開けるぞ」


ソラが先頭に立ち、扉を押し開ける。そして中へ突入した。


「何故、何でこれが……」

「ソラ?」

「ソラ君?」


そこにあったのはソラはよく知る、だが2人は知らない部屋。それも当然だろう。


「何なのよ、これ」

「板?ちょっと広い部屋だね」

「……俺のいた道場だ。10年以上、俺はここで稽古をしていた」

「へえ」

「そうなんだ」

「……何でここにあるか、疑問に思わないんだ?」

「だって考えても仕方ないもの」

「ソラ君しか知らないしね」

「……そうか」


これには、漠然とした違和感を感じる。どうにも、何かおかしい。

何かあるかもしれないと、ソラは隅々まで探していく。


「どうしたのよ?」

「ソラ君、何かあるの?」

「あるはずだ。何も無いわけがない」

「大丈夫かな?」

「気が済めばやめるわよ」


2人に呆れられたとしても、ソラは探し続ける。


「ん?何だこれは……」


そして神棚の下に1つだけ、本来と異なる物を見つけた。それは、円の中にある釣り合った天秤。釣り合っているということは、等しいということ……


「どうしたの?」

「ソラ?」


見た瞬間に理解した。探知した瞬間に知覚した。壁も、床も、空も、大地も、ミリアも、フリスも、ソラ自身以外の全てが等しく同じだということを。


「そうか、ここは……そして2人は……」

「ソラ君?」


ソラは薄刃陽炎を抜くと振り向いて一閃、ミリアとフリスの首を落とす。


「ちょっと!何するのよ!」

「よく言う。首が落ちても話せるほど、2人は人間離れしてないぞ」

「ソラ君、これは……」

「偽物が2人の声で喋るな。お前は何者だ」


刀を2つの首に向け、ソラは問う。偽物も観念したのか、2人の体は溶けて消え、新たな姿を取る。それは……


「今度は俺と同じ体か。悪趣味な」

「悪く言うなよ。一応、これが本来の姿なんだからな。それで、何故分かった?」

「違和感は最初からあった。仕草、雰囲気、口調、言葉遣い。それに戦い方だって若干違った。ミリアはあんなに突っ込まないし、フリスは後ろに下がりすぎないぞ」

「決め手は?」

「俺の道場の風景を見た時の2人の反応は、確実に違う。本物の2人に影響が出るかもしれないから放置していたが、確証が出て心配する必要が無くなったからな。それで、もう斬って良いか?」

「待ってくれ、我はお前の敵ではない」

「……話くらいは聞いてやる」


それだけで殺すかのように放っていた殺気を抑え、ソラは話を聞く。それでも手は柄にかけたままなのだから、信頼はしていないようだ。


「ソラ、お前は人から神になる人間の共通点を知っているか?」

「急になんだ?まあ、神話程度だが……片親が神だったり、神の伴侶だったり……確か、神殺しもあったな」

「そう。そしてそれらの共通点は、神を己に取り込んだということだ。その中には……神の魂の欠片も含まれる」

「つまり……オリアンオスの介入、それを俺が受け入れたと?」

「そんなちゃちな話じゃない」

「何?」


想定外の解答にソラの思考が一瞬止まる。警戒も止まっていたが偽物は何もしない。ただ、話を続けた。


「俺はお前が生まれた時から、魂に宿っていた。ずっと昔からお前を知っている」

「は?」

「元は名のある戦いの神でな、お前の戦いの才が馬鹿げて高いのもそのせいだ」

「その自覚はあるな……」

「まあ神といっても欠片、健全な魂を取り込むことなんてできない。だから介入はせず、眠っていた」

「だがオリクエアがそれを歪めた。俺が神としての力を得始めたから、介入したと」

「そして今、お前は俺を越えようとしている」

「ちょっと待て、それじゃあ……」

「取り込まれる、そういうことだ。ただの破片にはどうすることもできない」

「お前……」

「むしろ、子どもの成長を見れて嬉しいくらいだな。見守ってきただけだが、息子のように思っていた」

「それでこんなことを?」

「強くなれよ、小村空。我を継ぐ者が、弱くて良いわけがない」


その言葉に込められた強い意志に、ソラも口を(つぐ)む。しばらく、静けさが場を支配した。


「そしてゆくゆくは奴らを……そして娘を……」

「何だ?」

「いや、何でもない」


ソラは何を言ったのか聞こうとしたが、その前に幻像のソラ、神の欠片の体が光の粒となり、崩れ始める。


「もう限界か……最後にこんなくだらないお喋りに付き合わせて、悪かったな」

「いや……これで納得できた。こんな場所を作ってくれて、ありがとな」

「これから先は神として生きろ。後戻りは許されない。立ち止まることも、振り返ることも、道に迷うことも、背くことも、許されなくなるからな」

「そんなことはしない。もう覚悟は決めていたんだ。あとは突き進むだけだ」

「なら良し。では頼んだぞ、息子よ」

「ああ。あんたの力と心意気、俺が受け継ぐ。こんな言い方はおかしいかもしれないが……任せてくれ、親父」


そして空間も崩壊を始めた。











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