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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第7章 我が道行く新たな星

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第4話 古都ロスティア⑧




「メル!」

「お母さん……お母さん!」


バルクと店の前で待っていたマリーと、ソラ達に連れられたメル。2人は同時に走り出し、往来の真ん中というのも気にせずに抱き合った。


「良かったな」

「ええ。頑張った甲斐があるわ」

「怪我も無かったもんね」

「2回連続、感謝のしようもない。アルも……やっぱりな」

「姉が帰ってきたんだ。仕方ないさ」


遅れてそれに参加するアルと、その様子を見ている4人。1人以外は仕事を完遂した側とはいえ、感動は分かち合える。


「さて、凶事が吉事に変わったことだし……」

「もう良いわね」

「うん!」


むしろ最初からこれが目的だった気もするが……


「宴会といくか」

「任せとけ」


宴の準備が始まった。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「……身内だけのつもりだったんだが」

「人、多いね」

「いくらなんでもね……」

「仕方ない……まあ、来てるのは常連ばかりだから、空気も読める連中だ。邪魔だったら出て行かせてやる」


救出成功ということで、宴会が開かれることは知っていた。ただソラ達の予想と違ったのは、そのお祝いは町のとある通りが丸ごと会場となったことだ。バルクの店もそこに面しており、巻き込まれた形になっている。


「大将、そう言うなって」

「そうだ。めでたいことじゃないか」

「メルちゃんが助かったんだろ?騒がねぇと」

「女将さんの復帰祝いもな!」

「そうよ。ちゃんとやらないと」

「というわけで、乾杯!」

「「「「「乾杯ー!!」」」」」


騒ぎたいだけな気もするが。まあ、勝手に騒いでくれるとソラ達はほとんど何もしなくて良い。


「まったく……片付けるのは誰だと思ってんだ」

「ご愁傷様」

「ん?……なあソラ、やけに顔が赤いんだが、呑みすぎか?」

「いや、この程度で酔い潰れたりはしないぞ?」

「それなら良いけどな……」

「それにしても、いつもより美味いな」

「そりゃあ、普段は使わないような高級食材を山ほど使ってるからな。美味くないと話にならないだろ?」

「他の客にも出してるのか?」

「いや、ソラ達だけだ。報酬だからな」

「なるほど。ちなみに、売るとしたら?」

「定食にすると……銀貨は必要か」

「高いな」


物流や畜産などがそこまで発展していない世界だからこそ、高級品の貴重度は跳ね上がる。すぐに手に入るものであっても、それは変わらないのだ。


「それだと……無理をさせたか?」

「いや、そうでもない。俺にだってツテはある」

「そういうものか」

「当然。そうじゃなかったら、仕入れなんてできないぞ」

「なるほど。俺達に例えたら「あのね、ソラさん」……ん?」


2人で料理を食べつつ酒を呑みつつ、色々と話をする。そんなことをしていて気付かなかったが、メルが真横まで来ていた。


「大きくなったら、メルがお嫁さんになってあげる」


そして爆弾を告げた。


「ぶふぅっ⁉︎」

「ちょっ、待てメル、考え直せ!」

「あらあら」

「お姉ちゃん、ソラお兄ちゃんのお嫁さんになるの?」

「アルも落ち着け。いや、落ち着いてるのか」

「落ち着くのはソラよ」

「ソラ君、大丈夫?」


半ばパニック状態の男衆と、冷静な女性陣。幼いアルを除けば対照的……というか、気付いているか気付いていないかの違いだろう。


「おいソラ……もう1回聞く。メル、本気なのか?」

「うーんと……ねえお母さん」

「ふふ、メルが本気だったら、こんな風に言わないでしょ?」

「おいバルク、自分の娘のことくらい理解しておけ……つまり、嘘か?」

「嘘だけど、嘘じゃないよ。お嫁さんになってあげても良いっていうのは、本当だもん」

「……だが、自分から結婚したいわけじゃないと」

「うん」

「ビックリさせるなよ、まったく……」

「じゃあ、大きくなったら迎えに来てね」

「ゲホガホゴホ⁉︎」

「あはは」


大の大人が、完全に子どもに遊ばれていた。


「はぁ、メル」

「ミリアお姉ちゃん?」

「そういう風に遊んじゃ駄目よ」

「はーい……」

「もっと本気でやらないと」

「おい!」


訂正、妻にも遊ばれている。何回もやられて気力を無くし、ソラは机に突っ伏していた。


「はあ……」

「大丈夫?」

「ありがとな、フリス。今のは気疲れだから、すぐに直る」

「でも、何でそんなに疲れてるの?からかわれただけでだよね?」

「子どもがああいうのに絡むと神経使うんだよ……気を抜いて変な約束をしたらマズいからな……」

「そっか。じゃあ、わたしと約束するのは良いんだね」

「ああ、それはそう……いや、今のは無しだ」

「ふふ〜ん、聞いちゃったもんね〜」

「……あとで覚えてろよ」


気を抜いていた所で言質を取られる。ソラは完全に手玉に取られていた。そこへバルクが声をかけてくる。


「おいソラ、要望が来たぞ。宴会芸でも見せてやれよ」

「芸ってなんだ、おい」

「持ちネタだろ?」

「できるだけだ」


人はそれを持ちネタと言うのだが。


「兄ちゃん、何かやるのか?」

「おー見せろよ」

「バルクさんとは旧知なんでしょ?何かやってくれるわよね?」

「メル、こっちで見るわよ」

「はーい」

「ソラお兄ちゃん、何やるの?」

「アル君、見たい?」

「うん!」

「じゃあこっちだよ」

「……逃げ場が無い」


今日は厄日か、と叫びたくなるほど、色々と重なり続けている。そして、もう諦めたようだ。


「どうするんだ?準備なら手伝うぞ」

「……仕方ない。バルク、用意しろ」

「分かった。それで何を?」

「そうだな……」


多少酒は入っているが、この程度の余興なら問題無い。

しばらくして用意されたのは、鶏が丸ごと1羽と白菜、人参、牛蒡(ごぼう)椎茸(しいたけ)榎茸(えのきだけ)、豆腐。そして土鍋だ。


「さて、始めるか」


ソラはおもむろに鶏を手に取ると、土鍋の真上で放り投げる。


「なっ」

「は?」

「え?」


そして鶏を薄刃陽炎でバラバラにし、鶏ガラだけを土鍋に落とした。肉はまな板の上に戻されている。そしてその直後、椎茸も石突を斬り取られ、バラバラになったものが鍋の中に落ちた。さらに火魔法で加熱が始まる。


「流石、速いわね」

「うん、凄いよね」

「お姉ちゃん達、分かるの?」

「ええ。私達はずっとソラと一緒にいるもの」

「凄ーい」


今の動きを認識できたのは3人だけ。ミリアとフリスと、ギリギリだがギルドマスター……


「って、何でいるんですか」

「たまたま入った店に貴方達がいただけよ。さあ、続けなさい」

「はあ……」


出汁が取れた所で水魔法を使って鶏ガラを取り出すと、皮を剥がれた牛蒡と人参が輪切りになって落ちてきた。しかも、わざわざ風魔法で突風を抑えたり、火魔法で加熱を調節しながらだ。宴会芸というか、戦闘技術の無駄遣いな気がする。


「これで、ラスト!」


そして暫く煮込まれた後、榎茸、白菜、鶏肉が入れられ、味噌が入って調理は終わる。


「これで一煮立ちすれば完成だ。どうする?」

「どうするもこうもない。みんなで食うぞ!」

「流石大将、分かってる!」

「よっしゃぁ!食うぞー!」

「楽しみだね」

「うん!ソラお兄ちゃんが作ったんだもん」

「メルは?」

「わたしも」


今見た光景に感動でもしたのか、全員やたらとテンションが高い。ただ材料を入れただけなのだから、特別美味くなるわけではない。ソラは興奮を抑えようとした。


「はは、そこまで期待するほどの、物じゃ、無いぞ……」


ただ、ちょっと息が切れている。


「ソラ、大丈夫か?」

「少し疲れた、だけ…だろ……」


普段ならこの程度で息が切れたりはしない。


「ソラ君、どうしたの?」

「何だか急に、フラフラ……して、な」


それに、体幹の維持も難しくなっている。だが、意識すればちゃんとできるので、問題が出るレベルには達していない。


「顔色が悪いわ。奥に行って休みましょう」

「大丈夫、だ。そこ、ま…で、は……」


だから、そこまで心配する必要は無い。そう言おうとして……倒れた。間一髪、ミリアとフリスが床に落ちる直前で支えたが、既に意識は無い。


「ソラ!」

「ソラ君⁉︎」

「おいおい、どうしたんだよ!」


騒然となる店内。そこに返る声は、1つだけ足りなかった。











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