第3話 古都ロスティア⑦
「誘拐ってことか?」
「恐らくは。少し目を離した隙にいなくなっていたらしい。勝手に何処かへいく子では無いから……多分」
バルクの両親の家に預けられていた2人は、変わりなく元気らしい。メルは学校にも通っていたそうだが……昨日の帰りから行方が分からなくなっているという。
「こういう話はよく聞くのか?」
「いや、そんなに……そう言えば最近噂になってたか……」
「話してくれ」
「巷の噂だが、魔神の信者がやってることらしい。既に相当数の若い女性や子どもが行方不明になってるそうだぞ」
「なるほど……」
3人が魔神の信者と言われて思い出すのは、あの馬鹿だった。あれだけならただの騒がしい連中だが、実害が出てしまえば話は別。あの時もそういう恐れがあったから連行していったのだろう。
「取り敢えず、ギルドへ行って情報を集めるか。やっぱりあそこが1番良い」
「うん、急ご」
「ええ。こういうことは早く終わらせるべきね」
「まただが頼む、助けてくれ」
「任せろ。さくっと終わらせてやる」
ソラ達は話もそこそこに、ギルドへ向かって走り出した。
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「早くしろ!」
「支部にも声をかけに行きなさい!」
「宿にいる連中にも言え!それぞれの支部でもやらせろ!」
「人海戦術だ!騎士が動かないならオレ達が行くぞ!」
「早くしねぇと間に合わねぇ。急げ!」
ギルドに着いたソラ達だが、その中では冒険者達がかなり慌てていた。いや、慌てているというより、急いで準備していると言った方が正しいか。
「騒がしいね」
「何かあったのは間違いないが、この様子だと……」
「そこの3人!話は聞いたか?」
「いや、まだだ。今来たばかりだからな」
「ならちょうど良い。こっちに来てくれ!」
「ソラ?」
「まあ、取り敢えず行くぞ」
中心になっていた冒険者の1人に呼ばれ、3人はテーブルの1つへ向かう。飲み物などは無いが、急だから仕方がない。
「それで、何の騒ぎだ?」
「若い女性や子どもが誘拐されている話は知ってるか?それの犯人、魔神の信者どものアジトが分かった」
「やっぱりか」
「話が早いわ」
「良かったね」
「良かった?まあそうなんだが……」
「こっちの話だ。それで、何で分かったんだ?」
「誘拐場面を見ていた冒険者がいたんだ。多勢に無勢だから助けることはできなかったらしいが、アジトまでつけて行けたらしい。攫われていた金髪の人間女の子が上手く気を引いてくれたおかげだそうだ。アジトは古い砦の地下で、中も少し確認したらしい。攫われた人は無事だそうだぞ」
「メルちゃんだね」
「メル?」
「俺の知り合いの娘だ。昨日、学校の帰りから行方不明らしい」
「昨日の帰り頃か……時間も合ってる。その子で間違いないな」
「それで、救出と討伐に参加しても良いか?」
「ああ、腕の良いやつは歓迎する。オレはAランクのザックラだ」
「俺はソラ、こっちはミリアとフリス。3人ともSSランクだ」
「……は?」
「俺はソラ、こっちはミリアとフリス。3人ともSSランクだ」
「……ラ、ランクをもう1回」
「SSランクだ」
「…………はぁ⁉︎」
3回も聞かれるというのは初めてだが、この反応には慣れたものだ。というかソラは、バルクに伝え忘れていたことを思い出していたりする。
「エ、エエ、SSランクって、何でこんな所にいるんだよ。もっと北に行けよ」
「ここだって十分北だ」
「SSランク魔獣なんか出ねぇぞ!」
「Sランクなら時々出るだろ。それに、俺達は知り合いに会いに来たんだから、関係ない」
「そ、そうか……」
少々無茶な説得の仕方だったが、落ち着いたのだから良しとした。ソラは彼を再度座らせ、話を続ける。
「それで、何人で向かうんだ?」
「まだかき集めてる段階だ。まあ……冒険者だけで500人は参加するだろう」
「そんなに必要なの?」
「逃げられないように包囲網を敷く予定だ。突入そのものは50人くらいだな。お前達は勿論……」
「先陣を切る。潜入も得意だからな」
「というか、気付かれる前に殺すだけね」
「貴方達には残念かもしれないけど、騎士団も動くわ。すぐに準備できる少人数だけになっちゃったけどね」
3人の背後に立った人物はそう告げた。だが、この登場はソラだけでなく、ミリアとフリスにもバレていたりする。
「マスター!本当ですか?」
「ええ、さっき伝令が来たわ。現在すぐに用意できる精鋭達を同行させる、とね。それと、被害者への援助や冒険者への報酬もあるそうよ」
「良し!」
「お久しぶりです。懐かしいですね」
「久しぶりね。でも、たった2年でこうなるとは思って無かったわ」
「俺達もです」
「びっくりだよね」
「確かに成長は早かったと思うけど、ここまで来るのにたったの1年だもの。早すぎるわ」
「思ってたより早いわね。あの後何があったのかしら?」
「別に、ただエリザベートでSSランクの魔人を倒しただけです」
「エリザベートって……まさかあの?」
「おいおいおい……」
あの、と言われてもソラ達には分からないが、何となく予想はできる。情報の集まりやすい冒険者ギルドでこれだけの情報を出せば、推測は容易だろう。
「まあ、ここから半年も経ってない頃だし、驚かれても仕方ないか」
「でもあれ、ソラ君がいなかったら勝てなかったもん」
「ええ。私とフリスだけじゃ足りなかったわ」
「2人も大暴れしてただろ。それに、俺1人でも、俺達3人でも無理だ。他の人が抑え込んでいたから勝てたんだぞ」
何故か過去の苦労話に発展したソラ達。それを見ている冒険者とギルドマスターは……
「ねえ、ザックラ君」
「何でしょうか、マスター?」
「この3人に任せておけば、全部終わっちゃいそうな気がしてきたわ」
「奇遇ですね、オレもです」
3人をよそに、達観したかのような顔を見せていた。
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「あれか?」
「間違いない。」
「あのような砦が残っていたとは……取り壊すよう進言をしなくては」
目標とされる砦を丘の上から睨む、ソラと冒険者達のリーダーとなったザックラと、派遣された騎士や兵士達の指揮官のマルス。この丘から見えるだけでも、砦はかなりの大きさだ。恐らく、直径はキロ単位だろう。
またこの丘の背後には、3桁の人員が待機している。冒険者の方が多いが、互いに優れた者同士が来ているため騒動は無い。むしろ冒険者と騎士が混合で雑談をしたりしていた。
なおその強さから、ソラが総指揮官となっている。本人はあまり乗り気では無かったが、旗頭として士気を上げるために了承していた。
「それで、突入部隊の準備は?」
「冒険者から30人、全員Aランクで選出済みだ。言われた通り、全員の得物は長剣サイズまででな。オレも行くぞ」
「こちらも精鋭騎士20人、武器は同じだが、半数は魔法も使える。実力も冒険者に劣ることは無い。当然、私も行く」
「その50人と俺達3人を加えた53人で砦内部へ入る。残りの人員は俺達が突入後、砦周囲に3重の包囲網を敷き、誰も逃すな。指揮は騎士側の副官にあずける」
「おう。だが、専業の魔法使いがいなくて良いのか?屋内とはいえ、使えないわけじゃないぞ?」
「魔法ならフリスがいる。必要なのは人質を守るための壁になれる戦力だからな」
まあソラは無能では無い、というか指揮でも結構有能なので、間違った判断では無い。前線に出たがるのが問題かもしれないが。
「奇襲はスピードが命。まず俺達が見張りを排除するから、少し遅れて突入部隊は来てくれ。残りの人員は遅れて、だ」
「3人だけで行くのか?騎士の中にも隠密行動に優れた者はいるが」
「数が少ない方が見つかりにくいし、俺達なら確実に早くやれる。こっちの方が問題が少ないからな」
「それは確かに……」
「じゃあ、先に行くぞ。ミリア、フリス」
「大丈夫よ」
「うん、行こ」
そう言って3人は丘の中腹から森へ入り、砦へ向けて歩いていく。その最初の目的地は、2人の門番が立つ砦の入り口だ。
「暇だなぁ……」
「そう言うな。我らが神への供物のためだ」
「でもよぉ、何で俺達は儀式に参加できねぇんだよ。本当の功労者は俺達じゃねえか」
「それは……確かに」
「それにガキの血で女を清めた後はお楽しみだろ?何で年寄りか金持ちだけなんだか」
「建前上は功労者だからな。実働は俺達だが」
「俺達がいねぇとできねえのにな。だが1人だと儀式なんてできなぇし、こういう時ぐれぇは……」
「だったら、俺達みたいな下っ端で儀式をやるか?やり方は分かるし、それならお楽しみも、かひゅっ……」
「なっ、がっ……」
喉を1撃で引き裂かれ、声も上げられずに血の海へ沈む者。心臓と脳を同時に貫かれ、一瞬で絶命する者。門番は他の誰にも気付かれることなく、ソラ達によって処分された。
「よし、ミリアは外周の見張りを今みたいに殺していけ。フリスは城壁の上に登って、中庭にいる連中を頼む。俺は内部に入って、先に様子を見てくる」
「使う魔法はアレで良いんだよね?」
「ああ。維持は大変だろうが、頼めるか?」
「任せて」
「突入部隊も動き出したな……あいつらがここに来た時にまた集まるぞ」
「ええ、分かったわ」
そして、3人は外と上と中に分かれる。これが崩壊の始まりだった。
「さてと……本気で走れば、声も上げられないわよね」
ミリアは一旦森の中に入り、砦周囲にいる人を確認する。そして、トップスピードで駆け抜けていく。
「がっ⁉︎」
「ぐっ……」
そのまま2人の頭部を貫いた。圧倒的な速度の差で、気付かれることなく殺している。頭部を狙ったので、門番に比べて血はそこまで出ていない。
「遅い……まあ、仕方ないわね」
別の目標を求めて、ミリアは走っていった。
「おっとっと。ここからだと……意外といるんだね」
いつぞやのソラが使っていた飛行魔法のようなものを使い、城壁の上へたどり着いたフリス。そこからさらに城壁の対岸へ向かい、中庭を覗き込む。
これだけ大きな砦だと、中庭もサイズは村が複数入るほどだ。そこに朽ちた木材に混じって、掘っ建て小屋がいくつも建っていた。人員も相当数いるので、フリスはまず、他から孤立した10人ほどを目標に定める。
「暇だな」
「俺達だって、我らが神のために働いたってのに」
「司祭様も、になんか褒美をくれればいいのにな」
「だよな。あの女ども、1人くらいオレ達が、ぁ……」
「どう、ぅ……」
だがその者達は急に首を押さえて悶え始め、声なく苦しみ、そのまま動かなくなる。まるで首を絞められたかのように、静かに死んでいった。
「ちょっと酷かったかな?」
対象の周囲を真空にする魔法を使った張本人は、他の人員も倒していった。
「中は……簡単な迷路になってるか。多少の偵察なら問題無いだろ」
扉を開け、中へ入ったソラ。そのまま蝋燭の灯さない影へ潜む。蝋燭はそう多くないので、これくらいなら簡単だ。
「はぁ、見回りなんてだる、がっ……」
「さて、こいつは……この部屋の樽の中に入れておくか」
外と違い、血が何処かへ流れ出ないとは限らない石壁と石床の中、ソラは首をへし折って見回りの者を処分していた。殺した者は小部屋や収納スペースにしまっており、簡単に見つかることは無いだろう。
「あれ?あいつどこ行、ぎっ……」
「こいつも同じ場所だな」
影で気配を消し、運悪く近づいた者を死角から襲う。正面突破の方が得意なソラだが、こういったことも普通にできたりする。
「さて、そろそろ戻らないと問題になるか」
まだ半分ほどしか進んでないが、20近い人数を殺したソラ。影を進み、獲物を捕らえ、門へと戻っていった。
そうして再合流した3人。そこにはちょうど突入部隊50人もたどり着いている。
「中を偵察していたのか?」
「その通りだ。外の見張りはほぼ殺されてる。中も、半分は殺っただろうな。死体は隠してるから、まだ奇襲されたとは思ってないはずだ」
「それは流石だな。それで、偵察の結果は?」
「偉そうな連中も、誘拐の被害者もいなかった」
「でも、儀式みたいなのをやってる、もしくは準備しているのは今らしいわね。見張りとかが話してたわ」
「結構人数も多そうだし、何処でやってるのかな?」
「恐らく地下だろう。入り口はまだ見つけられてないが、見当はついてる」
「どこだ?」
「砦の東側だ。そこから来る巡回が反対からに比べて異様に多かった」
「なるほど……ならば急ぐべきだな」
「ああ。今犠牲者が出ているのか、まだ出ていないのか分からないが、早く救出するぞ。奇襲にこだわるな、強襲しろ」
「おう、任せとけ」
「こちらも、今すぐ行動できる。鎧と盾持ちだ、前衛は任せろ」
「よし、ならば一気に行くぞ。先導は俺達3人、その後ろに騎士、冒険者の順で続け」
そして53人で砦へ突入する。発見次第ソラ達が見回りを片付けており、未だ大声は出されていない。
だが、これだけの大人数で動けば対応されるのも時間の問題だ。
「……あれだな」
「何がだ?」
「入り口を見つけたのね」
「うん。15人が1ヶ所に、立ったまま集まってるよ」
「なるほど。間違いなさそうだな」
「だが、恐らく待ち構えてるぞ。動きが慌ただしい」
「仕方あるまい。それで、どうする?」
「騎士は半数で敵を扉の前からどけ、冒険者の半数と協力して倒してくれ。数人は証人として捕らえたいだろうが、無理はするな。残りは扉を開けて突入だ」
「了解した。このまま行くぞ!」
走りながら後ろは準備し、前はタイミングを計る。そして最後の曲がり角に到達した瞬間、動いた。
「突撃」
「「「うおおぉぉぉ!!」」」
ソラの号令とともに、まず騎士が突撃する。身の丈に迫るほど大きな盾を構えた彼らは敵集団をこじ開け、道を作る。
そして後ろから来た冒険者が敵の背後を取り、すぐに包囲殲滅戦の要諦を見せ始めた。
「ここは任せる」
「無論だ。下は頼むぞ」
「当然」
指揮官としてマルスを残し、残りは地下への階段を駆け下りていく。先は暗く何も見えないが、ソラとフリスは把握していた。
「良かったね」
「ああ、まだ犠牲者は出てない。何か動きはあるが……ちっ、ザックラ!」
「おう、どうした?」
「俺達3人だけで先行する。扉は開けておくから後は任せた」
「お、おい!」
100段は余裕であるだろう階段を、10段飛ばしで進んでいく。そこまで急ぐ理由は、魔力探知で把握していた状況にあった。
「離して!」
「ふん。むしろ最初に選ばれたことを感謝するのだな」
「いやぁ!」
「静かにしろ!」
メルの右手を掴んでいる男。その姿はまるで司祭のようだが、ほぼ黒色というのが異様さを示している。
メルは必死に抵抗しているが大人と子ども、引きずられてしまっており、あっという間に祭壇らしき場所まで連れていかれた。
そのまま男は刃物を用意し、他の男達がメルの両腕を天井から伸びた鎖に固定し、下に樽を用意する。
「さあ、我らが神への供物にしてやろう!」
「お、かあ、さん……」
男はメルへ向け、ナイフを持った腕を振り上げ……
「ひぎゃ⁉︎」
「……誰に手を出したのか、お前らは分かってるのか?」
ナイフごと腕を斬り飛ばされた。それを成したソラは、鎖を切断してメルを解放し、腕の中に抱えこむ。
「ソラ、さん……?」
「メル、目を瞑っていろ」
「う、うん?」
そして男の鳩尾へ蹴りを入れ、気絶させる。傷口も火魔法で焼いて止血した。証人というか、見せしめにするのに十分なくらい、この中では偉いのだろう。
それで間に合っているので、周囲にいた雑用係っぽい連中は片っ端から斬り殺す。
「まだ目は開けるなよ」
「うん……」
次にソラは、突っ込んできた槍を構えた護衛らしき連中を殺していった。メルを抱えたままだが、武器を持っただけの一般人に劣ったりするわけがない。いつもと変わらぬ一方的な展開だ。
また、ミリアは他の被害者周辺にいる敵から倒していき、フリスは門の前に陣取って各所へ雷魔法を放っている。魔法使いが1人だけでいるが、この場にフリスの弾幕を突破できるような使い手はいなかった。
「行くぞぉ!」
「「「「「おおぉぉぉーー!!」」」」」
そしてそこへ、残りの25人が突入してきた。彼らはすぐさま被害者の確保に向かい、誰1人人質に取られることなく円陣を組む。そこからは掃討戦だ。
人質を取ろうとする連中は騎士や冒険者に阻まれ、背後からミリアに殺されていた。逃げようとする連中は、フリスの弾幕で蜂の巣にされていく。ソラはメルを抱えたままなので、主に魔法で援護していた。
「終わりだな……少し任せる」
「どこへ行く気だ?」
「扉の外だ。ミリア、フリス」
「この子がいるからよ。ええ、こっちに問題は無いわ」
「こっちも大丈夫だよ〜」
「分かった。メル、もう少し待ってろよ」
「うん」
ソラはザックラに後処理を任せ、メルを抱えて扉の外へ出ていく。ミリアとフリスも一緒だ。
「もう良いぞ」
「良いの……?」
ソラに下ろされ、目を開けたメルを、ミリアが包み込んだ。
「あ……ミリア、お姉、ちゃん……」
「よく頑張ったわね。偉いわ」
「こ、怖かったよぉ……」
「大丈夫。もう大丈夫よ」
緊張の糸が切れ、泣き始めるメル。それをミリアは優しくなだめる。すぐ隣は血まみれだというのに、ここだけ穏やかな空間だった。
「ミリアはいつの間にこんなに懐かれたんだ?」
「前からだよ。何でかな?」
「姉みたいに感じてるみたいだし……年上の方は大変だからか」
「分かるの?」
「多少はな。さて、俺はもう戻るから、メルは任せたぞ」
「うん。ミリちゃんにも言っておくね」
もう既に、周囲どころか砦内にすら敵はいないし、ミリアとフリスを害せる者がいたとは考えられない。
なので、ソラは一応総指揮官として元儀式場へ向かおうとした。ちょうどその時、残りの半数が階段を降りてきたため、1人だけでは無くなったが。
「終わったのか?」
「マルス、そっちも終わったか」
「当たり前だろう。この惨状だと、こちらの方が苦戦したのではないか?」
「それが全然。こいつらが3人でかき乱してくれたおかげでな」
「だから犠牲者がいないんだろ。最初の1人はかなり焦ったが」
「飛び出したのはそれが理由か?ずっと女の子を抱えてたが、もしかして……」
「あの子が探してた娘だ。何がなんでも優先すべきだったが、やっぱり迷惑だったか」
「いや、結果的には犠牲無く勝てたんだ。今さらどうこう言ったりはしない」
「冒険者ならでは、か。それで、捕らえるべき者はいるか?」
「いや、皆殺しになったと……」
「向こうに司祭みたいな男が伸びてるはずだ。腕は斬ったが死んではいないから、見せしめにもできるぞ」
「見せしめ……いや、公開処刑だろうから間違いでは無いか。感謝する」
「それが依頼だからな。他は被害者の治療と誘導、騎士団で証拠品の回収が必要なら早くやって、すぐに出ていってくれ。まとめて燃やすからな」
「ここで燃やすのか?危ないぞ?」
「ああ、地下で火をつけるからかなり危険だ。当然最後にするが、早く終わらせたい」
「了解だ。命じてこよう」
マルスが騎士達を指揮して動いていくのを見送ったソラ。そこへザックラが声をかける。
「……残してたのか」
「最初だったからな。手加減すれば、死にかけで残せる」
「凄いな……そんなことまでできるのか……」
「強くなるために、年月を重ねてきたからな。この程度ならできないと意味が無い」
「年月?冒険者として戦えるのは成人からだぞ?」
「戦い始めるのに、歳は関係無い。まあ俺は……」
「おい、こっちは終わった。もう良いぞ」
「分かった。じゃあ、砦から出ていってくれ」
「おう。お前ら、行くぞ」
「任務終了だ。出ろ」
冒険者、騎士、被害者、縄で簀巻きにされた司祭もどきが次々と扉を通っていく。ミリアとフリスもメルを連れ、先に出ていった。
そして魔力探知で彼らが砦から出たことを確認すると、ソラは魔法を使う。
「燃えろ、全て」
高温の蒼い炎球を両手の中に作り、祭壇のようなものへと放った。砦全てを包み込めるような火力なので、急いでソラも外へ出ていく。
「俺で最後、合ってるな?」
「おう。他は全員確認したぜ」
「それで、首尾はどうだ?」
「今も燃え続けてる。そのうち上まで燃えるだろうさ」
「この砦を覆うなんて、凄え魔法だな……専業じゃないってのに」
「応用力では負けてるけどな。こういった大規模な魔法でしか勝ち目は無いさ」
「そういう問題じゃないだろ」
ザックラは呆れるが、ソラは気にしない。そのままミリアとフリスの所へ向かった。
「おかえり〜」
「ただいま。メルは……寝たか」
「ええ、ヒカリと同じね。子どもにとっては辛かったのよ」
「だが、今回は誰も犠牲になってない。それが1番の救いだ」
「そうだね。メルちゃんも、トラウマにはならないと思うよ」
「その方が良いわ」
「ああ。こんな記憶、忘れたって……ん?」
そんな風に思い出話をしようとしたその時、地面が揺れ始める。
「おい!なんだこりゃ!」
「きゃー⁉︎」
「騒ぐな!慌てるな!」
「に、逃げろ……」
「そこまで脆いか……崩れるぞ!離れろ!」
ソラの言葉を聞き、全員が急いで砦から離れた。体力の落ちている被害者達は誰かが支えたりしながら、誰1人脱落させずに走る。
「結局、最後はドタバタか」
「やった本人が何言ってるのよ」
「でも、結構楽しいよ。こういう明るい方が良いもん」
「確かにな」
「「「「お前らだけだ!」」」」
砦の崩壊を見届け、全員が町へ戻っていった。




