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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第7章 我が道行く新たな星

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第2話 古都ロスティア⑥



「こっちで合ってるのよね?」

「間違いない。地図通りに、この谷の上を抜けている」

「じゃあ、もう少しで泉が見えるのかな?」

「ああ。そこを一気に飛び越えて、反対側へ行くぞ」


ヘルウルフすら追いつけないようなスピードで、3人は森の中を駆ける。


「跳べ!」


そして100mを余裕で超える泉を、一足で飛び越えた。そのまま走り、木々の間を抜けていく。


「もう夕方か……」

「ソラ、夜はどうするのよ?」

「徹夜で走っても大丈夫だよ?」

「いや、それは集中力が無くなるから却下だ。そうだな……日が沈んだら休んで、日が昇ったら出発だ」

「それくらいが良いわね。分かったわ」

「じゃあ、何処まで行くの?」

「そうだな……あの山の稜線付近だ。急げば間に合うだろ」


かなり離れているとはいえ、10km程度だろう。日没まで時間は無いが、今のスピードなら間に合わせられる。

問題は……


「ふっ」

「はぁ!」

「行って!」


バルクの言った通り、魔獣が多いことか。敵では無いとはいえ、邪魔にはなる。死体は片っ端から指輪に入れているが、その手間もかなりかかっていた。


「間に合う、よね?」

「間に合わせる。容体が急変する前にな」

「でもそんなこと、私達には分からないわよ?」

「できるできないじゃない、やるんだ。俺達が悲しんでいたら、救えるものも救えないぞ」

「……そうね。ごめんなさい」

「諦めちゃ駄目だよね……」

「良いさ。落ち込んだ後にどうするかが大切だからな」


素晴らしい話だが、超高速で森を走り抜けながら行われている会話だ。ターボババァ以上の化け物である。


「日が沈むわよ」

「もうちょっとだね」

「なら大丈夫だな。走れ」


日が沈む直前に、3人は目標としていた山の稜線に辿り着いた。そこからは、最後の目印がよく見えく。


「目的地は……あの山脈の向こうか」

「結構早く着いたわね」

「ずっと走ってたもん。当然だよ」

「昼飯は保存食だけだったからな。これで明日の午後は探すことに集中できそうだ」

「見つかるわよね?」

「見つけるさ。必ずな」


そしてソラ達はテントを立て、食事の準備も始める。

料理担当のミリアが手に取ったのは、干し肉や切り刻まれた野菜など。時間をかけるつもりは無いようだ。


「それで、今日は簡単なもので良いわね?」

「ああ。早く寝て、動けるようになっていた方が良い」

「そっか……」

「後でバルクへの請求を増やせば良い。だろ?」

「うん、そうする」


そうして用意されたスープと、各自が取り出したパン。それで夕食を済ませた後、少し談笑していたのだが……


「……っち」

「またなのね」

「え〜」


邪魔が入らないという保証は無い。


「かなり多い……寝れるのはいつになることやら」

「この数よ。朝まで続くかもしれないわね」

「結局徹夜かもしれないねね」

「数日程度なら大丈夫だが……早く終わらせるか」


視線の先では、CランクからAランクまでの魔獣が、争うようにソラ達へ向けて走っていた。暗闇だが、身体強化で暗視能力も上がるから問題無く見える。


「ほぼ全方位からだな……フリス、魔法で数を減らせ」

「わたしだけでも全滅させられるよ?」

「余分な力を使う必要は無い。ミリア、走り回って数を減らせ。残った奴らは俺が倒す」

「ええ、任せて」


ミリアは飛び出し、フリスは魔力探知で得た情報を元に魔法の起点を決める。ソラは刀の柄に手をかけ、その時を待った。


「行けぇ!」


まず初めに、フリスが魔法で魔獣の数を減らしていく。森の中だが、障害物の多い場所は慣れていた。


「はぁ!」


次にミリアによって、生き残りの約半数が倒されていた。速く回ることを第一としているため取りこぼしも多いが、問題無い。


「次は向こうか。ふっ!」


残りは、ソラによって殺されるのだから。魔法と刀を併用し、無駄なく順番に倒していく。魔獣の進みに合わせているため時間はかかるが、安定している。


「ちっ、上もいるぞ」

「私がやる?」

「いや、俺が撃つ。フリス、魔法を増やしてもっと数を減らせ。ミリア、殲滅してくれ」

「うん」

『ええ、分かったわ』


こんな不確定要素が入っても揺るがない。ソラが光魔法で撃ち落としている間、ミリアとフリスで地上の魔獣をシャットアウトする。

そしてかなりの時間が経ち、ようやく落ち着いてきた。


「減ってきたよ」

「後続もいなくなってきたな。一気にいくぞ」

『任せなさい』


ここで初めて3人は自分から動き、魔獣の殲滅へ動く。そうして全てが終わった時、まだ空は暗いままだった。


「……何とか、日の出前に終わったな」

「ようやく寝れるわね……」

「何だか疲れちゃった……」

「早く寝るぞ。疲れは残すなよ」

「ええ。それで……一緒に寝てくれないかしら?」

「わたしも。一緒に寝て?」

「まあ、それも良いか」


いつもより強力な結界を張り、3人はテントの中へ入っていく。

なお翌朝、このあたり一帯は焼け野原となっていた。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「ここね……」

「綺麗な場所だね」

「こんな状況で来たくなかったな」


到着した場所は、様々な花が咲き乱れる花畑だった。そのうち5割以上はほぼ同じ形、違う色の花だが、カラフルで綺麗だ。道中が魔獣だらけでなければ、観光地かそれ以上の扱いを受けているだろう。実に勿体無い。

そんな中でソラは薬草の特徴を書いた紙を持ち、探しものの特徴を言う。


「さて、探すのは……大きな白い花の咲いた草だ。葉は紫陽花に似ているが、花の形は違うぞ。高さは人の膝くらいみたいだな」

「今咲いてるの?」

「どうやら、成熟した段階で咲くらしい。咲いたものしか薬にならないそうだな」

「へえ、季節が関わらないなんて珍しいわね」

「他には、根も回収するらしいぞ」

「掘るの?」

「いや、そのまま抜けるそうだ。人参みたいに太い根が1本、そこから細い根が生えてるみたいだな」

「細い方はいらないのね?」

「ああ。だから、取りすぎないように注意しろよ」


例外もあるが、このタイプは抜きやすい。あとは探す手間だが……これが問題だった。


「それと、よく似た毒草もあるみたいだから気を付けろ」

「……見分け方ってあるんだよね?」

「葉の裏に毛が生えているのが薬草、無いのが毒草だ。分かりやすくていいな」

「毒草の方って、食べちゃうとどうなるの?」

「……痺れ、吐き気、頭痛や腹痛に始まり、手足の麻痺と視力の低下、さらに内出血。一時的なものみたいだが……病人には絶対に駄目だな」

「……滅茶苦茶ね。苦しめる目的でしか使えないわ」

「実際、そんな風に使われるんだろうな。変なことさえやらなければ、死ぬことはないらしいし」

「拷問だね」

「ああ。ちなみに薬草の方は、風土病以外にも色々と効くらしいぞ。加工の仕方次第だが、発熱や腫れ、頭痛に腹痛、内臓の不調に傷まで効くみたいだな」

「……違いすぎよ」


片や拷問用の毒薬、片やほぼ万能の薬。見た目は似ているのに中身は正反対だ。量を間違えれば薬も毒になるのだから、もしかしたら成分量が違うだけの近縁種なのかもしれない。試す気にはならないが。


「さてと……手分けして探すか」

「広すぎるわよ。3人でやることじゃないわよね」

「でも、やるしかないよね?」

「ああ。幸い、ここに入ってくる魔獣はほとんどいないみたいだ。分かれても問題無い」

「じゃあ、早く始めましょう」

「ああ。この絵は覚えたな?」

「ええ」

「うん」

「じゃあ行くか。魔法はかけておくから、見つけたら連絡してくれ。夕方までには見つけるぞ」


今は昼前、夕方まではかなりの時間がある。帰りは道が分かるから、半日で大丈夫。

そう、思っていたのだが……


「無いな」

『無いわね』

『無いね』


既に日は天頂を大きく過ぎ、3分の1ほど傾いている。まだ時間があるとはいえ、ペースとしては最悪である。


「こんなに見付からないなんて……何か見落とした情報でもあるか?」

『そう思いたいわね。ヒント無しに探すなんて大変すぎるわ』

「ああ。だが、紙には何も書かれてないんだよな……」

『本当?』

『間違いないのね?』

「ああ、何も見当たらない。さっき言った通り、草の特徴だと葉は紫陽花(あじさい)に似てるともあるが……ん?」


これが大きなヒントではないだろうか。何故なら、紫陽花が生えている環境は……


「ミリア、フリス」

『分かったの?』

「まず、陰の部分を探せ。木陰でも岩陰でも何でもいい。できるだけ西日が当たらない位置だ」


紫陽花は陰を好み、乾燥を嫌う。ヒントとしては不十分でも、可能性としては十分だ。この条件でもかなり広いとはいえ、闇雲に探すよりは良い。


『それであってるの?』

「分からない。だが他に可能性が無い以上、試すしかない」

『フリス、やりましょう。ソラの予想、試してみる価値はあるわ』

『……うん、分かった。陰を探すんだよね?』

「ああ。頼んだぞ」


ソラ達は場所を絞り、ポイント間を駆け抜けつつ探していった。花を無駄に散らさないよう気をつけながらとはいえ、とても速い。

だが、時間は刻一刻と過ぎ去っていく。


「くそ、間違ってたか……?」


性質が正反対だとしたら、見つかるわけがない。ハズレの可能性も考え始めていたそんな時、連絡が入った。


『ソラ、フリス、有ったわよ!』

「すぐに行く」

『わたしも!』


その瞬間、弾けるように駆け出す。2人は魔力探知が使えるので、ミリアの場所は把握している。距離はあったがすぐに到着した。

そこは花畑と森が混ざりあっている場所の少し奥だ。


「どれだ?」

「どれ?」

「これよ」


ミリアが手に持った草を覗き込む2人。ソラは絵も出し、1ヶ所ずつ確認していく。


「……確かに。これで間違いない」

「ここにある物で足りるよね?」

「十分だ。でもまさか、少し森側に進んだ所だなんて思わなかったな。木の下近くなら水も丁度良いのか」

「それより、早く取りましょう。10株くらいで良いわよね?」

「必要数は3つだが……予備も含めるとそんなところか」

「じゃあ、取っちゃおうよ」


もう夕方、日が落ちればどうしても効率は落ちる。数は少ないので、3人は手早く終わらせて夜営の準備に入った。


「さて、食事の準備をするわ。少し豪華にするわね」

「ああ。火の回りには気をつけておく」

「わたしは警戒しておくね。念のため、だけど」


そう言ったミリアはソラを使い、ドンドン料理を作っていく。それは昨日とはうって変わり、生肉を焼いた物や新鮮野菜のサラダなど、夜営の時に食べるには豪華すぎるメニューだ。

というか、昨日が普通のはずなのだ。ソラ特製空間収納の指輪の莫大な収納量により、この3人にそんな常識は通じていないが。


「美味しい!」

「朝も昼も簡単に済ませたし、昨日がアレだったからな。当然だろ」

「悪かったわね」

「むしろ褒めてるんじゃないのか?夜営でこれだけの料理ができるんだからな」

「できれば手を抜きたく無かったのよ。仕方ないんだけど、ソラなら分かるでしょ?」

「まあな……我慢することも必要だが」

「してるじゃない」

「ああ。だから褒めたんだ」


3人は食べながら話を進めていく。昨日今日と質素だったせいか、そのスピードは早い。その結果、あれだけあった夕食も日没前には食べ終わり、後片付けも終わっていた。


「日が沈んじゃうね」

「何とか間に合ったな」

「食事も終わったんだから、何とかとは違うかもしれないけど」

「まあ、そういうのは言わない約束だ」


今いるのは花畑の西側で、夕日は見えない。その代わりに、夜の帳が落ちると昼とは違う絶景が映った。


「うわぁ……」

「へぇ」

「凄いわね……」


花畑の半数を占めていた花が光り輝き、他の花も照らされている。さらにそこに蛍のような光る虫が飛び回り、この世の物とは思えない景色が広がっていた。


「こんなの、見たこと無いわよ……」

「うん。海の中だって違ったもん」

「俺も、こんなものは見たことない」

「前の世界でも?」

「……もうそんな言い方が正しいとは思えないけどな。向こうには人工的に光らせることはあったが、こんな自然の光には勝ててない。本物の方が圧倒的に綺麗だ」


LEDなどの人工の光とは違い、暖かな優しい光が辺りを包み込んでいる。アレもアレで綺麗だが、これはまた別格だ。


「……勿体無いね」

「どうした?」

「こんな綺麗な場所、他の人も見たいと思うもん。勿体無いよ」

「いや、俺達しか知らない可能性もあるな」

「何だよ?今までにここに来た人、他にもいるでしょう?」

「だが、ここで夜を明かしたとは限らないぞ。むしろ、夜営するには場所が悪い」

「水場は無いし、薪だってほとんど落ちてないもんね」

「夜営しやすい場所に行くと、ここは木々に隠れて見えなくなる。可能性は高いだろうな」

「確かにそうね」

「それに……」

「ん?」


この花畑が夜営しづらい場所なのは分かりやすい。そう説明した後、ソラは別のことを言った。


「俺達しか知らない場所。その1つにこんな綺麗な所があったって良いだろ?」

「ふふ、本当ね」

「じゃあ、わたし達だけの秘密の場所だね」

「ああ」


思い出の場所というのは、その組だけの記憶の中に残しておきたいものなのだ。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「バルク!持ってきたぞ!」


ソラ達が揃って駆け込んでくる。3人は昨日の夕方に帰ってきて即刻薬屋に渡し、今朝起きるとすぐに取りに行った。そしてできたばかりのものを持ってバルクの店まで走って来たのだ。

なお、薬草取りに行っていた時のソラ達の心配は不要なものだったようで、マリーの体調はまだ変化は無い。


「ありがとう。これでマリーも助かる」

「どういたしまして。依頼されたことだから、気にするな」

「それでも言いたいんだ。ありがとう」

「まったく」


マリーが助かるというのに、バルクの顔は晴れない。

そして、フリスはあることに気が付いた。


「ねえ、メルちゃんとアル君は?」

「そういえば、何で今日もいないのよ?」

「その……よりマズイことになった……」

「……何があった」


前なら、病気が移らないためというので納得できたが……


「今度は……メルが行方不明だ」


騒動の種はまだ無くならないようだ。









前話にあった片道1ヶ月というのは、一般的な冒険者などが歩きにくい森の中を魔獣の警戒をしながら進む場合であり、距離だけなら5日程度です

そしてソラ達の言った10倍というのは、一般人が街道を歩く速度の10倍という意味です。しかし、3人は森の中でもほとんど遅くならず、魔力探知によって警戒は簡単なので、5日の10倍、つまりほぼ半日で着くことができました。

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