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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第7章 我が道行く新たな星

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第1話 古都ロスティア⑤

「新年」

「明けまして」

「「「おめでとうございます」」」


紋付袴と黒留袖の3人。去年も見たとは言ってはいけない。


「まあ、ネタ系は去年やったからいいな」

「ちょっとソラ君」

「そういうこと言ったら台無しじゃない」

「良いだろ。それでは、本年もこの作品をよろしくお願いします」


作者からも、よろしくお願いします。









「もうちょっとだね」

「ああ。もともと、バードンとロスティアは近いからな。日程にそう狂いは出ない」

「そうね。近いと、予定を立てるのが楽で良いわ」

「そっか。それで、バルクさんのお店、楽しみだね」

「そういえば、2年ぶりか……元気にしてるか?」

「大丈夫よ。むしろソラの方が心配されてるわよ、きっと」

「確かに、そうかもしれないな」


次の町へ向かう3人は今、他の13人の乗客と共に乗合馬車に乗っていた。馬車に揺られること2日、後1日なので、だいぶ慣れている。

馬の足が遅いベフィアだが、その分力は強い。それに他の町へ行く人間が全員旅慣れているとは限らないため、乗合馬車の需要は高い。

なお、ソラ達は依頼を受け、護衛のような形で雇われている。報酬は乗車料金と相殺されてゼロだが、隣町へ行くにはちょうど良い。

ちょうど良い、はずだった。


「と、盗賊だ!」


外にいる御者から言われ、馬車の中は騒然とする。

大抵の場合、乗合馬車に乗るのは単独で戦う力の無い者だ。ソラ達のように護衛の冒険者を求めているのだが……一般的に言って、盗賊の数に対処するには少ないことも事実だ。


「落ち着け。人数は?」

「さ、30人以上だ……頼むから大人しくしていてくれるか?」

「何故だ」

「抵抗したら殺されるだろう……あいつらは抵抗しなければ殺されないから、頼む……」

「御者としてなら、その判断は間違いじゃないだろうが……人としては駄目だろ」

「ソラ君……」

「ああ。そうなるだろうな」


盗賊には、大きく分けて2種類いる。今までソラ達が倒してきたのは、問答無用で商人や護衛を殺したりする盗賊だ。こちらは強い馬鹿がいたり、切羽詰まってあとが無い者達に多い。なお、被害が派手に大きくなるため、発見しだいすぐに騎士や冒険者などによって討伐される。

そしてもう片方は、脅して金品を巻き上げる盗賊で、頭の回る者がいる場合に多い。人数も、馬車を包囲するために少し多めだ。こちらは抵抗しなければ殺されはしない。そして短期的な被害は小さいため、上のような盗賊や魔獣より優先度が低く、長期に渡って被害が続いてしまう。

ただ下記の場合でも、若い女性や子どもは攫われる可能性が高い。この馬車の中では、約半分が範囲内だろう。ミリアとフリスも確実だ……攫えるなら、だが。


「俺としては2人が攫われるなんて認められないから、今の段階で依頼を放棄して逃げても良いんだが……」

「おいあんた!それは無いだろ!」

「まあ、それだと後味が悪いからな。行ってくる」

「私達はここにいるわ。別の方向から来るかもしれないもの」

「ソラ君、頑張ってね」

「ちょ、ちょっと、やめてくれ……」

「俺がやりたいからやるんだ。外野は黙ってろ」


騒ぐ乗客を宥め、騒ぐ御者を黙らせ、ソラは1人で盗賊の前まで歩いていく。


「あ?男が1人だぁ?」

「何考えてんだよ」

「女を出せよ、女を。分かってんだろ?」

「いや、分かってないのはお前達だ」

「あ?」

「降伏勧告だ。抵抗するなら容赦はしない。大人しく降伏するなら……町くらいまでは連れてってやる」

「はぁ?立場分かってんのか?」

「ざけんなよ……」

「てめぇら、やっちまえ!」

「忠告はしたからな」


盗賊達は20人が同時に突っ込んでくる。1人に対しては多すぎるが、恐らくそのまま馬車へいくつもりなのだろう。見せしめを持って。

だが……


「この程度、刀を抜くまでもない」


首を折られ、心臓を潰され、頭を砕かれ、ソラの背後には死体しか残っていない。

残った盗賊10人も、何が起きたか分かってないようだ。


「は?」

「あ?」

「さて、お前達はどうする?」

「なっ……てめぇ何やった」

「何って、普通に殺しただけだ。不思議か?」

「あんなあっさりと……」

「降伏するなら、命だけは助けてやるぞ?」

「ざけんな!」


殺気を放ちつつ、ソラは少しずつ近付いていく。盗賊は自分達が不利だと分かっていても逃げられず、結局、降伏したのは3人だけだった。7人は抵抗し、一瞬で殺されている。


「畜生が……」

「恨むんだったら、盗賊なんて始めた自分を恨むんだな」

「ちっ」


生き残りは縄で手と首を縛られ、少しも抵抗できないようになっている。そして馬車の側方に括り付けようとした時……予想外のことが起きた。


「おいルーザス!何でこんなのを連れてきやがった!」

「そ、そんなことを言われても、こんなに強いなんて思っても……ひっ⁉︎」

「……お前も同罪か」


いくら叫ばれたとはいえ、正直に答えるなんて馬鹿すぎる。まあ、知らないと答えても結果は変わらなかっただろうが。


「あ、あああ……お、お助け……」

「するわけないだろ!」

「ぎゃあ⁉︎」


容赦無く蹴りを叩き込み、縛り上げた。まあ、御者から悲鳴が上がれば、当然乗客も心配する。


「何なんだ……?」

「御者も盗賊の仲間だった。襲撃も仕組んでいたみたいだな」

「そ、そんな……」

「もう捕まえた。盗賊も残りはその3人だけだ。もう終わったから、心配するな」


終わったと聞き、安心する客達。だが、問題はここからだった。


「馬車は……ミリア、フリス、できるか?」

「少しなら、ね。でも、本職の人と比べたら下手よ?」

「わたしも、ミリちゃんと同じくらいだよ」

「できないよりはマシだ。それで……御者はミリアとフリスが交代でやってくれ。見張りは俺がする」

「分かったわ」

「任せて」


この後、報奨やら乗客からの感謝やらで大変なことになるのだが……今までド派手ににやってきたことに比べれば、まだマシだったりする。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「結構な値段になったな」

「使える馬車一式だもの。大きいし、最低でも金貨数枚分の価値はあるわね」

「その見立てだと妥当なのか……流石商人の娘、凄いな」

「褒められるほどじゃないわ。これくらいなら、家の皆は普通にできるもの」

「うん。わたし達は護衛の人の真似ばっかりやってたから。お兄ちゃんの方が凄いよ」

「まあ、本職ならそうか」


朝から衛兵に説明して盗賊を引き渡し、ギルドへ行って依頼の結果を説明し、乗客達からの感謝を聞き、馬車と馬を専門の店に売り、ようやく一息つけたソラ達。

店では売るなんて勿体ないとも言われたが、駿馬すら凌駕するスピードを長時間出せるのだから、この3人が馬を所有する意味は無い。むしろ色々と面倒だ。


「さて、バルクの店に行くか」

「う〜ん……わたし、ちょっと小物が欲しいんだけど」

「私も欲しいわね。それに、こんな朝早くから行っても迷惑よ?」

「いくら俺達が上客でも、限度はあるか……分かった。先に買い物に行くぞ」

「うん!」


あの店がやっているのは昼と夜、残りは仕込みの時間だ。ソラ達なら拒絶はされないだろうが、迷惑なことに変わりはない。

3人は通りを進み、店を少しずつ見ていった。


「あ、ここなんて良いんじゃないかな?」

「そうね。外から見えるものだけでも、綺麗よ」

「2人が良いなら、ここにするか」

「うん」

「ええ、良いわ」


そして、ミリアとフリスが目をつけた店へ入っていく。中には髪留めや根付(ねづけ)などの装飾品が多くあり、早速2人は試し始める。


「ソラ君!これ、可愛いよね?」

「ああ。似合ってるぞ」


長い髪をまとめ、宝石のついた簪を刺したフリス。似合うからと色留袖に着替えているが、それも間違いではなかった。


「ソラ、これは?」

「可愛いな……本当に可愛い」

「そ、そんなこと言わないでよ……」


こちらも着替え、和紙でできた花のついた簪で髪を留めたミリア。普段は凛々しいが、こういった可愛い物をつけると雰囲気が変わる。


「っと……これで良いか?」

「あ、お土産忘れてた」

「ここで買っても意味ないだろ。他の町で買った物にしておけ」

「そっか……アレかな。じゃあ、これも買うね」


渡すお土産の代わりに、もう1つ追加するフリス。ソラは2人が選んだ物を持って会計へ行き、全額支払った。金貨数枚程度、この3人には大した金額ではない。


「時間は……ちょうど良いくらいか」

「そうね。ここからはちょっと遠いし」

「寄り道もしたら、ちょっと過ぎちゃうかな?」

「昼の忙しい時に行くよりはマシだろうな。ゆっくり話せるから、むしろ良いはずだ」


途中にあった呉服屋で新しい色留袖を買ったりしつつ、目的地へ向けて歩いていく。そして着いたバルクの店には……暖簾が無かった。


「ん?閉まってるのか?」

「でも、鍵は開いてるよ」

「変ね。全然やってる気配が無いわ」

「入る?」

「ああ。問題は無いからな」


引き戸を開け中へ入る3人。予想通り、とは言い難い状態が中にはあった。


「よおバルク、久しぶりだな」

「……ソラ。2年ぶりか……」

「どうしたのよ。元気がないわね?」

「何かあったの?」

「何か……ああ、まあな」

「……深刻か?」

「この上なく」

「教えてくれ」

「……奥へ行くぞ」


バルクに案内され、店の奥にある居住区へ向かう。前に来た時は、学校から帰ってきたメリアールや暇なアルファードが遊びまわっていたのだが……


「マリーさん!」

「……何があった」

「病気だ……もう長くないらしい」

「メルとアルは?」

「俺の両親の家に預けている。感染るかもしれないし……こんなマリーを見せたくはない」

「そうか……」


今はマリーが布団に伏しているだけ。埃や汚れは無いが、寂しい空間になっていた。

そのマリーは元気が無く、顔は土気色だ。ミリアやフリスと話しているが、相当辛そうである。


「どういう病気だ?」

「風土病、というべきなのか……この町にいる人が、稀にかかる病気だ。ここまで重篤になる話はほとんど聞かなかったけど……マリーは……」

「治療法は無いのか?」

「あるにはある。だが……」

「どうした?」


バルクが言い淀む意味が分からず、首を傾げるソラ。だが、その答えはすぐにやって来た。


「……向こうの山を幾つも超えた先、そこだけに生える特別な薬草が必要って言われたよ……片道1ヶ月だとさ。しかも、道中は魔獣が大量にいるそうだ……何でこんなことに」


確かに、これは納得できる話では無い。ただバルクは、目の前にいるのがどんな人間か忘れていた。


「……ミリア、フリス」

「準備したものはまだ残ってるわ」

「わたしでも……10倍くらいは大丈夫かな?」

「何の話を……」

「バルク、薬草の詳しい場所を教えてくれ」

「行ってくれるのか?それでも……」

「身体強化全開で走れば、10倍速くらいなら余裕だ。魔水晶もストックが大量にあるし、問題無い」

「地図、貰えるかしら?流石に場所が分からないと行けないわ」

「それと、薬草についても教えて貰える?」

「確かにそうだな……薬草の絵か何かあるか?特徴も詳しく書いてあると良いんだが」

「ああ、あるぞ。もし持っている人がいたら買い取るために、な。少し待っててくれ」

「結局、使われる場面は変わったが」


収入が途轍もなく多いソラ達は、様々な場所でお金を使うことで貯まり続けるのを防いでいる。そのおかげで、すぐに旅立つとしても問題無いだけの物資が手元(指輪内)にあった。


「……よし、これだけあれば大丈夫だな。ああそうだ」

「何だ?」


だが、冒険者としてはこれは外せない。


「依頼、俺達への使命依頼で冒険者ギルドに出しておけよ。冒険者がギルドを通さずに依頼を受けるのは、褒められたことじゃないからな。勿論、成功報酬を十分用意してだぞ?」


オリクエアの時は貴族同士ということで揉み消していたが、普通はそうもいかない。緊急時(近くにギルドが無い時)以外でギルドを通さず冒険者を使うのは、一般的には許されていないのだ。


「だよな……」

「冒険者は安くない。まあ、俺達とプライベートな繋がりがあるって言えば、かなり少なくても問題無くなるが」

「……具体的には?」

「金貨1枚もあれば受け取ってもらえるはずだ。それ以上を提示されたら、脅してでも下げさせる」

「そんな金額だと流石に……この店を担保にしてでも」

「やめろ。そんなこと望んでない」

「だがな、それくらいの話だぞ。金払いが悪いと、ウチの信用に関わる。料亭でも、そういうのはあるんだ」

「そうだな、だったら……」


どうしても折れないバルクへ、ソラは言い放った。


「治した後、美味いものをたらふく食わせろ。文句は言わせないぞ」

「……はっ。だったら、ありえないくらいの高級食材を買い占めてやる。腰を抜かすなよ?」

「その意気だ。さて、ミリア、フリス、良いな?」

「ええ」

「行こう、ソラ君!」

「……ソラ、改めて言いたい」


全ての準備を終え、出発するソラ達。そこへバルクは声をかけ、頭を下げる。


「頼む。マリーを……助けてくれ!」

「……普通なら、もう助からない。それは分かってるな?」

「ああ、分かってる。だから……」

「その通り、この時に俺達が来て良かった」


本当に、運命を操られているのではないかと疑いたいほど、運が良い。


「俺達3人なら、確実に救ってやれる」

「良いんだな?」

「SSランク冒険者、なめるなよ。どんな不可能だって、可能にしてやる」

「ソラ……」


救いたい命を救えないなんて、そんな後悔はしたくない。決意を新たに、ソラは行く。


「まったく。変わんないな、お前は」

「それはお互い様だろ?」

「違いない。さあ、行ってくれ」

「ああ、任せろ」


そして3人は駆け出した。










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