第23話 火都バードン⑥
「ふぅ……生き返るわね」
「ミリアも温泉好きになったな」
「仕方ないじゃない。気持ち良いのよ?」
「ソラ君は最初からだもんね〜」
「そういうフリスもだぞ?」
火宮から帰ってきた後、3人はすぐに温泉を貸し切っていた。前に来た時もそうだったが、ソラの影響で3人は温泉に浸かることが多い。温泉好きと言われても、否定はできなかった。
そんな中で、ソラは杯を傾ける。
「ふぅ……美味い」
「逆に言うけど、ソラもお酒が好きになったわね」
「確かに。だが、それも仕方ないな」
「そうだね。ミリちゃんがたくさん呑んでるもん」
「ワインとかはそうだけど、これは違うわよ?」
「温泉で熱燗ってのはよく聞いていたからな。最初は物は試しだったが、良いものだろ?」
お盆を温泉に浮かべ、その上に徳利やお猪口などを乗せていた。これも風情だが、ソラのノリという部分も多かったりする。
なおこの熱燗、ソラの自前だ。火魔法と土魔法の併用で徳利を温めており、加減しづらいので少し温めになっている。
「そうね。貰っても良いかしら?」
「わたしも良い?」
「ああ、良いぞ。ツマミはいるか?」
「うん。何があるの?」
「細かく切った味付けの濃い干し肉に、干し魚。チーズやソーセージ、ツマミ用のパンもあるぞ」
「じゃあ……パンを貰うわ」
「わたしは干し肉かな」
指輪からツマミになるものを出し、3人で分け合う。日本酒もいくつか追加され、ちょっとした酒宴のようになってくる。
「それにしても……これで半分か」
「光宮、風宮、水宮、火宮。4つ目が終わったのね」
「後は土と氷、雷と闇だね」
「闇以外はほぼ予想できてるんだがな……」
「土ってあったっけ?」
「明確には分からないが、ほぼ絞れるだろ?その中から探せば良いだけだ」
「それより、問題は闇よ。手がかりすら無いわ」
「隠れてるのか、あるいは北か……もう1度地図を見て探すぞ」
「そうね。100年くらい前のものが良いわ」
「今どうなっちゃってるのか、分からないけど……」
「それは仕方ない。こちら側の誰にも非はないんだからな」
魔王に占領されて以降、ベフィア北部の情報は一切入ってこない。国の上層部なら別かもしれないが、一般人レベルでは暗黒大陸のような扱いである。
ソラ達としても、あてもなく彷徨うなんてことはしたくなかった。
「ねえソラ君、そろそろ出る?」
「のぼせると大変だし、そうだな」
「ちょっと呑みすぎたかもしれないわね……ご飯食べれるかしら?」
「ここの夕食、結構多いからな……無理だったら俺が貰おう」
「そう?ありがと」
「礼を言われることじゃない」
この程度のことでも、3人に笑顔は絶えない。
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「ヘルマンティスが?」
所変わって冒険者ギルドの一部屋。ギルドのサブマスターと向かい合い、話を聞く。
「ええ。冒険者の1パーティーが発見しました。この町から北西の方角です」
「距離は?」
「走って半日ほどだと。森の中なので正確には言えませんが」
「そうなんだ」
「ですから、SSランクである貴方方に……」
「ソラ、良いわよね?」
「ああ。あと数日はいる予定だったから、問題無い」
「あ、ありがとうございます!」
その後少々打ち合わせをした後、3人はギルドを出て西門へ向かう。その足取りは……当たり前だが軽かった。
ヘルマンティスというのはSランクの魔獣で、その名の通り巨大なカマキリだ。まあ、ただのカマキリでは無いのだが、気落ちする理由は無い。
「それにしても、おかしいわね」
「フォールではベヒーモスとドラゴン、ウォーティアにはエルダードラゴン、ここではキングゴブリンに魔人、そしてヘルマンティス……いくらなんでも、集中しすぎだ」
「それに、もっといそうだよね」
「恐らく魔人だな。俺の倒した奴がそんなことを言っていた」
「そいつを倒さないと、ずっと続きそうね。私達がいる間は良いけど……」
「いなかったら、そうだな。早く見つかると良いんだが」
「邪魔してれば、勝手に来るかもしれないよ?」
「それだったら楽で良いな」
勿論、相手によってはそんな気楽なことを言う余裕は無いだろう。だが、今から重い雰囲気でいても何の解決にもならないため、軽く見ることにしている。相対すれば、油断はしない。
そんな風に話をしつつ、3人は西門へ到着し、そのまま外へ出た。
「さて、どこにいるか……」
「こっちって言われただけだもんね」
「数日かかるのは嫌よ。でも……」
「それは何とも言えないな。どこに向かうか、そんなことは分からないから、話にならない」
「やっぱり、歩いてくしか無いかな?」
「跡が残っていれば楽なんだが……」
魔獣も生きているのだから、痕跡は残す。それを辿っていけば、発見は容易だ。ただし、それを見つけられるかが問題なのだが。
「……こればかりは運だな」
「そうね。いつも通りってことで、諦めるわ」
「早く見つけたいのは変わんないけどね」
「身体強化をして走るのも良いが……別の意味で疲れる」
「結局、1番良いのは歩くことだね」
「その通りだな。行くぞ」
ソラ達は取り敢えず、発見された方角へ向かうことにした。
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「……1体ってのはどこからの情報だ」
確認できたのが1体だったのだから、見つけた冒険者にも依頼したギルドに非はない。仕方が無いことなのだ。
「3体いるわね」
「それに、囲まれちゃってるね」
「気付かれてないのが幸いだな。ここだと、避けるのも一苦労だ」
とはいえ当人達からしたら、そう簡単に納得することはできない。
3人がいるのは少し開けた場所の中央にある密林のような場所の中、そしてその周囲3方向にヘルマンティスがいる。
最初は奥に1体だけ見つけ、奇襲しようとして密林を進んでいたのだが……2体が後方に飛んできたのだ。マズイと感じたその時から、3人は一切動いていない。また、ミリアとフリスの明るい髪は見つかりやすいため、ミリアは頭巾に似た帽子を、フリスはローブのフードを被っている。そのおかげで、まだバレてはいなかった。
「さて、どうするべきか……」
「あれ、絶対警戒してるわよね」
「多分な。何でそんなに……」
「気付かれてないんだよね?」
「気付かれてたら、もっとこっちに注意を払うはずだ。そのはずなんだが……」
ヘルマンティスの鎌は4つ、そしてその鎌には風と雷が付加されている。戦闘準備は万全のようだ。
「どうだとしても、今強襲されたらマズイわよ。3体同時だともっとね」
「こんなに戦いにくい場所だと、動きが予想しづらい。面倒だな」
「わたしならすぐに倒せるよ?」
「魔法ばかりに頼ってられない。それに……ん?」
ソラ達の身体強化は、攻撃と速度に大きく割り振られており、防御系はそこまで高くない。神気も使えるとはいえ、斬撃かつ攻撃に特化したヘルマンティスの1撃を受けてしまえば、即死もあり得るのだ。
だが、ソラの予想と状況は斜め上の方向へ動いていく。
「まさか……いや、あり得るのか?」
「ソラ?」
「ソラ君?」
「静かにしてろ。予想通りなら……」
3人の後方に来た2体が逆回りで進み、元からいた1体に近付いていく。それをソラは見送るように見、ミリアとフリスは心配そうに見守る。
そして、3体が揃った。
「ねえ、どうするの?」
「集まっちゃったわよ?」
「まあ見てろ」
すると、両側の2体がほぼ同時に突撃する。真ん中の1体も鎌を2つずつ使って防ぎ、翅をはばたかせて退避する。その結果、三つ巴の戦いとなった。
「あれ?戦うの?」
「やっぱり争ったな。今のうちに仕掛けるぞ」
「ソラ、分かってたのね?」
「予想の1つに入っていただけだ。本当にやるとは思わなかったが」
「それでもだよ。凄いもん」
「だが疑問もある。争ってるとなると、仲間では無いし……」
ヘルマンティスは暴れ、木がドンドン倒されていく。ソラ達へ意識を配る余裕はなさそうだ。
「……追い出されたか?」
「え?」
「何処か別の場所での生存競争に敗れ、ここに来たのだとしたら?争うのも納得だ」
「そんなことあるの?」
「可能性としてはな。ドラゴンとベヒーモスみたいに、別種なら考えやすいが……同族同士で争う魔獣がいても不思議ではない」
「あ、オークがゴブリンをエサにしてたもんね」
「そういうことだ」
魔獣同士の争いは時折報告されている。人が見ていない場合を考えると、日常茶飯事なのだろう。こうなってもおかしくはない。
ただ、そんな風に話し合う3人をよそに、ヘルマンティス達の戦いは激しくなり、すでに満身創痍となっている。
「さて、そろそろトドメを刺してやるか」
「うん、分かった」
「結局、簡単な依頼だったわね」
「運が良かったからな。報告は……そのまま言えば良いか」
こんなボロボロの相手に奇襲をして、ソラ達が負ける道理は無い。恐ろしいほどあっけなく倒していった。
「終わったな。さっさと帰って温泉に入るぞ」
「うん!」
「まったく、森の中でそんな顔をしてたら駄目よ?」
「そういうミリアも嬉しそうな顔だぞ?」
「ソラ?そういうのは口に出すべきじゃないわ」
「おお怖。フリス、逃げるぞ」
「はーい!」
「あ、待ちなさい!」
こんな場所、遊ぶにはふさわしくないのだが……3人には関係なかった。
第6章END
次章の開始はまだ未定ですが、遅くとも1/1には始める予定です
これからも本作をよろしくお願いします




