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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第22話 火宮②




「……何だこの部屋」

「滅茶苦茶ね」

「ソラ君、こんなの言ってたよね」

「本当にあるとは思って無かったぞ」

『余所見など、いい身分だな』

「ちっ、散開!」


火宮(ひのみや)のボス部屋、そこには直径1mほどの球状の岩が至る所に浮かび、足場となっていた。また下は全て溶岩で、足を滑らせたら一巻の終わりである。

だが、溶岩の上に立つ古竜(エンシェントドラゴン)は容赦しない。ブレスを吐いてきたので、3人は3方へ散ってかわした。


『ソラ君、どうするの?』

「そうだな……ミリア、フリス、2人がメインでやってみるか?」

『私達が?』

「ああ、今まで中心は俺ばかりだったからな。古竜なら稽古にもちょうど良い」

『そっか……ミリちゃん、どうする?』

『良いわよ。そういった連携の練習もできるものね』

「よし、俺はサポートにまわる。2人とも頼んだぞ」


ミリアはスピードを生かして古竜に接近、フリスは全体を見渡せるよう古竜から離れ、ソラはその中間あたりに陣取る。

そんな形だけはいつも通りでも、中身は異なっていた。


「今なら……行くわ!」


ミリアは跳びまわって撹乱しつつ、古竜に刃を突き立てていく。まだ本格的な攻撃には移っていないが、翼はだいぶ傷ついている。


「ここと、ここ……ミリちゃん!」


フリスは水魔法を溶岩へ叩き込み、水蒸気爆発で古竜の動きを阻害していた。勿論、ミリアに当たるようなことはしていない。


「やらせるか」


ソラはそんな2人を見て、刀か魔法かを選択する。ミリアの反対側から斬りかかり、フリスから気をそらさせるために魔法を放つ。

本格的に攻撃していないため拮抗しているが、ソラ達優勢で状況は進んでいた。


「そろそろトドメを刺すぞ」

『そうね、全力ではないし、大丈夫よ』

『いつもとは逆?』

「ああ、最初は俺から行く。2人の順番は……言う必要もないな」

『問題無いわ』

『ソラ君とより長いもん』


ほとんど双子のように生きてきて、ソラと会う前も共に戦っていた2人にとって、連携自体はとても簡単なことだ。あとは相手に合わせて戦うことだが……これにはソラとの旅が役に立つ。


「はぁ!」


まずソラが突っ込み、片目を斬る。そしてすれ違いざまに足へ水槍を放った。


「やぁ!」

「行って!」


そして水蒸気爆発で体勢を崩した古竜へ、2人が同時に攻撃する。ミリアの氷を纏った双剣が古竜の首を十字に切り裂き、フリスの放った雷が頭蓋と胴体を破裂させた。

共に神術とはいえ、なかなかの威力である。


「2人とも、良くやった」

「ソラのおかげよ。目くらまし……って言うにはやりすぎだけど、楽だったわ」

「近くにいたから、ソラ君ばっかり警戒してたもん。簡単だったよ」

「ミリアもフリスも、神術がかなり強力になってたからな。安心して任せられた」


戦いの余波でかなりの数の岩が破壊されたが、まだ移動できるだけの数はある。それをたどりながら、3人は奥へと進んでいった。


「さて、精霊王は……奥にいるみたいだな」

「ここにはいないね」

「戦いの最中にここにいる方がおかしいのよ。だけど……」

「どうした?」


ミリアには何か心配事があるようだ。


「体が火でできてる、とかじゃないわよね?」

「そんなまさか……いや、ありえるな」

「え、熱いの?」

「このダンジョンだと溶岩の体っていう可能性もある。熱いで済むか?」

「会いたくないわね」

『……失礼な方々ですね』


声を聞き、ソラ達が目を向けた先にいたのは、炎のように赤い髪をした偉丈夫。決して溶岩の塊ではない。


『そろそろかと思い様子を見にきてみたら……人のことを火だるま扱いですか?』

「それはその……すまない」

『大方、アポロンのせいなのでしょう。あいつも何故わざわざ光たがるのか……』

「わざわざって?」

『下級の精霊はともかく、精霊王ともなれば姿を自由に変えられます。多くは人と同じ姿なのですが……』

「一部例外もいると」

『ええ。半神半人様や巫女様に会うのに、そんな格好というのはどうなのか……』

「まあ……最初だったのが幸いしたか?」

「最初だと、勝手も分からないものね」

「姿なんて気にしてなかったしね」

「ああ。それで話は変わるが、お前の名前は何だ?」

『失礼しました、ソラ様、ミリア様、フリス様。火の精霊王ヘパイストス、只今参上いたしました』


丁寧に言っているが、上半身裸の筋肉ダルマである。別の意味で暑苦しい。


「来た要件は……まあ、他と同じだ」

『それでは、まず神術の実演ですね?』

「ああ、頼む」

『かしこまりました』


ボス部屋の方が広いため、3人と1柱はそのまま動かずにいる。そして僅かではあったが準備も終わった。


『では……参ります』


ヘパイストスは足下の溶岩を集め、圧縮させる。最初直径2m近かったそれは20分の1以下に圧縮され、太陽のように発光を始めた。そしてしばらくした後、ビックバンのごとく爆発する。

勿論、ヘパイストスにもソラ達にも被害は無い。


「……凄いな」

「わたしにはできないもん……ソラ君は?」

「似たようなことはできなくはないが……見た目だけだし、他の神術を使った方が効果も高いだろうな」

「それだけ制御も上手なのね」

「ああ。流石は精霊王だ」

『この程度、我らほどの力と時があれば自然とできるようになります。未だ人の時に縛られるソラ様ができる方が素晴らしいことなのです』

「その時間をかけたことが大切だ。まあ、この感覚は人でないと分からないかもしれないが」

『ですが賛辞です。喜んでお受けいたします』


やはり精霊王の感覚は違うようだが、人間の考え方も分かるようだ。問題になったりはしていない。


「さて、次は奥に行って……取り敢えず休憩だな」

「そうね。時間的にも、もうそろそろ食事よ」

「やった!」

「そうだな……火を強めにして、揚げ物でも作るか。唐揚げやカツだな」

「良いわね、それ」

『自分も手伝いましょう』

「ああ、分かった」


そう言って再奥の部屋へ入り、食事の準備を始める。衣をつけるまではソラとミリアが担当し、油へ完全にヘパイストスに任せた。その結果……


「ん、美味いな」

「ソラの味付けも良いけど……揚げ具合が本当に良いわ」

『火加減ならお任せください』

「ソラ君、覚えてね」

「おい、無茶を言うな……まあ、やれるだけやってみるか」

『どれだけでもお教えしますよ?』

「そうだな……フリス、火魔法は使えるんだから、一緒に受けろ」

「ええ〜」


何だか、別の稽古が始まりそうであった。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「さて、準備は良いな?」

「ええ、大丈夫よ」

「わたしもできてるよ」

『ソラ様達の実力、拝見します』


古竜のいないボス部屋にて、対峙する1人と3人。そして少し離れた場所で見守る1柱。

変な場所だが、ここでどうしてもやりたいとソラが言ったのだ。そのために、岩の数は戻されている。


「それで、本当にここでやるの?」

「ああ。こういう場所で」

「でも、他にこんな所で戦うことなんて無いわよ」

「だからだ」

「え?」

「俺達の力が増せば、高速で空中戦をやる可能性もある。それこそ、この岩で加速した時みたいにな」

「ソラ君、それって……」

「そこまで考えて無かったか?俺は確実にあると思ってるが」

「そうなのね……思いつかなかったわ」

「まあ今は考える時間でも、構築する時間でもない。やるぞ」


迷っていても、戦いで迷うことはない。ソラの言葉を合図に、ミリアもフリスも構える。


「まあ、こういう経験も悪くないわ。フリスの魔法で跳べても、全力で進めるわけじゃないもの」

「最近は使ってないけどね。風魔法だと強度が足りないもん」

「あれは面白かったがな。まあ、今のミリアには少し足りないだろうが」


会話をしながらでも、隙を探るのは日常茶飯事だ。まあミリアとフリスにもほとんど無いし、ソラの隙は誘いでしかない。結果として、しばしの膠着状態に陥っていた。


「動かないか……なら、俺から行くぞ」


そこへソラは一石を投じる。気付かれないように膝を曲げ、一切の違和感を感じさせることなく跳んだ。反動で岩が砕け飛んだが、気にしない。


「遅い」


そしてそのまま突撃し、フリスの首を狙って振るった。


「フリス!」


だがこの刃が届くことは無く、ミリアに遮られる。そして2人はそのまま落ちていった。


「流石に防ぐか」

「ええ。」

「だが……それならどうだ?」


ミリアへ出の早い風魔法を放ち、吹き飛ばす。その隙にソラは氷で足場を作り、離脱した。


「ミリちゃん!」

「大丈夫。フリス、追うわよ」

「うん」


ミリアがスピードを生かして追い、フリスが魔法で邪魔をする。いつも通りだが、この2人にとって最も確実な手だ。

それを受け、ソラも戦法を変えた。


「これで、どうだ!」


岩だけでなく氷も使い、急な方向転換を繰り返すことで2人を撹乱する。そして隙を突き、一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)を繰り返した。


「よくついて来るな」

「私の方が速いもの。追いつけないのが悔しいわ」

「追いつけないように逃げてるからな。これは俺の勝ちか」

「余裕なのは、今だけよ!」


ミリアはさらにスピードを上げ、ソラへ追いすがる。フリスの魔法と相まって、かなり危ない場面も多くなった。

まだ切っていない手札は、ソラの方が多いのだが。


「まあ、流石に近接だけだとキツイか……魔法も使うぞ」

「ええ、来なさい」

「いつでも良いよ」

「良い心構えだ。行くぞ!」


薄刃陽炎を振り上げると同時に、ソラの背後に100を超える黒い弾丸が生成される。それは闇魔法単体では無く黒い礫、闇魔法を含んだ氷だ。

そして、振り下ろすと同時に射出された。


「フリス!」

「うん!」


そんなに威力は高くないため、岩が砕けることはない。だが、人を行動不能にするには十分な威力がある。いくら2人が身体強化をしているとはいえ、喰らいたいものではない。

ミリアは全力で避け、フリスは火魔法で迎撃した。


「さて、俺も行くぞ」


だが、ソラも止まっていたりはしない。魔法で狭めた進路の先に陣取ったり、魔法で足止めした所へ突っ込んだりと、破茶滅茶な大暴れを繰り返していた。


「フリス、大丈夫?」

「ソラ君が上手なんだもん。数じゃ押せないよ」

「視界を塞ぐとどうなるか分からないし……最悪ね」


フリスの方が弾幕系の魔法は上手いが、戦闘そのものに関してはソラの方が上だ。死角からの狙撃や進行方向を先読みしてそこに放つなど、人の弱点を狙うのが上手い。

その結果、2人を掠めたりするものも増えてくるが……直撃は1つも無かった。


「これも凌ぐか」

「ギリギリよ」

「わたし達には考えられないような方法で攻撃してくるんだもん」

「だが、凌いだのは事実だ。次は……」


ソラの戦闘能力のおかしさは、この2人が最も良く知っている。というか1番の被害者だ。

その経験からまた何か来ると分かっていたが……嫌な方が来た。


「捕らえろ、氷縛鎖」


唱えると同時に、ミリアの周囲にある岩から大量の氷の鎖が飛び出す。その数、100以上。

全てがまるで生きているかのように、自由自在に動いていた。


「ちょっ、何よこれ⁉︎」

「ミリちゃん、こっち!」


だが急に現れたとはいえ、簡単にミリアを捕捉することはできない。驚きながらもスピードを生かして逃げる。それを援護しようと、フリスは火弾で氷を溶かそうとした。


「もう1つだ」

「え⁉︎あ!」


だが、それを許すソラではない。フリスの周囲からも氷の鎖を出し、狙わせる。自分の方に来るとは思っていなかったようで、大した抵抗もできずに捕まった。


「フリ、きゃあ!」


そしてミリアも囚われる。最初は1本だけだったが、それを外そうともがく間に3本が追加され、5本7本と増えていく。そして10を超えれば、後はされるがままだ。

さらに、目標を捕らえた氷の鎖は一度溶けて繋がり、1つの枝分かれした鎖となる。こうなると、抜け出す方法はほとんど無い。


「ソラ、何よこれ。全然動けないわよ」

「魔法も神術も使えないんだけど……」

「一応、ドラゴンも捕まえられるように作ったものだ。まだそこまではいっていないだろうが、魔法は阻害できるから人を捕まえるには十分すぎる。かなり神気をつぎ込んだから、半分は神術みたいなものだし……ミリアとフリスだからな。俺の神気を流し込んで使えなくした」

「じゃあ、魔力も神気と沢山使うの?」

「ああ。だいたい2人で……1割だな」


3人の中でも特に膨大な魔力を持つソラの1割。それがどれだけの量なのか、分からない2人ではない。

というか、普通の魔法使い1人分を余裕で上回ってるのではないだろうか。


「……まあ、ソラが滅茶苦茶なのもいつも通りね」

「時々ビックリする魔法を使うもんね」

「この魔法だったら、特異なのはジャミングだけじゃないか。まだマシだろ?」

「それが滅茶苦茶なのよ。魔法を使えなくするなんて聞いたことないわ」

「そう言われてもな……体の表面を闇魔法で覆っただけだぞ?手足では内部へ浸透してるから身体強化も弱体化できるが、根本的な解決にはなってない」

「よく分かんないけど……取り敢えずソラ君、出して?」

「ああ、ちょっと待ってろ」


氷の鎖を動かして2人を岩の上に移動させ、魔法を解除する。ミリアとフリスは魔法が使えるか確認したが、問題無く発動した。

ジャミングは妨害電波などのように、無秩序な魔力を相手に流し込むことで成立する。だが、これだけでは制御能力の高い相手には通じないため、闇魔法も併用していた。

まあ、前例の無いことをイメージだけでやったため、結局は量でのごり押しだ。


『いやはや、素晴らしいです』

「神気の扱いについてはまだまだだと思うが?」

『それはそうですが、戦闘に関しては何も言う所がございません。神となった者を殺せるだけの実力もあるでしょう』

「そうなの?」

『はい。流石に、オリアントス様のような上級神には敵いませんが、今はいない下級神の方々なら確実です』

「まあ、私達はそういうことには興味無いわね」

「ああ。強くなるだけだからな」

『可能か不可能かという話です。覚えていても損は無いかと』

「それはそうだね」

「ああ。まあ、取り敢えず戻るぞ」

「そろそろ食事ね」

『では、また腕を振るいましょう』


……仲良くなりすぎだ。













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