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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第19話 火都バードン④



「やっと見えたな」

「長かったね」

「本当、やっとね」


次の目的地である火都バードンが見え、安堵するソラ達。そしてそんな彼らは……ゴブリンの群れを掃除しつつ、町へ進んでいる。


「それにしても、何でこんなにいるんだ?」

「しかも道の上に、よ。道まで出てくる魔獣なんて、そんなにいないのに」

「1つの巣全部じゃないかな?」

「多分そうだな。理由は分からないが」

「追い出されたのかな?」

「無謀にも町を攻めようとしてたりして」

「フリスの方がまだありえるか……ミリア、いくらゴブリンでも、流石にそんな馬鹿では無いだろ」

「そう?」

「ゴブリンだよ?」


ミリアが双剣を振るうと、5匹のゴブリンが一気に倒された。それを見てもなお、ソラ達をエサのようにしか見ていないようである。


「……馬鹿かもしれない」

「でしょ?」

「だってゴブリンだもん」

「だが、その判別は早計だと思うぞ?」

「……どういう意味よ?」

「俺達がゴブリンの集落を攻めた時、怯えたやつがかなりいたじゃないか」

「それは……そうね」

「それを考えるとおかしいよね」

「だから、何かあるはずだ」


低ランクの魔獣は知能が低いが、生物としての本能はある。絶対的強者と戦った時、怯えない個体が0というのはありえない結果だ。


「まあ、これは今考えても意味の無いことだな……っと、また来たか」

「目的に関しては、私が正解みたいね」

「多分そうだよ。集落が1つじゃなくて3つくらいになったけど」

「どっちにしろ、ここで倒すだけだ。行くぞ」

「うん」

「ええ」


そして3人は雑草を刈るかのように、そのまま進んでいった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「騒がしくなってきたな」

「何だろうね?」

「魔獣の群れか何かを見つけたのよ。私達が関わる必要は無いわ」

「そうだと良いが……」

「どうしたのよ?」

「何か嫌な予感がしてな」

「え〜」


バードンにある冒険者ギルド。そこに到着して寛いでいた3人の耳に、入る話し合う声。冒険者が集まっている理由はそう無いので、内容の推測も簡単だ。

ソラ達としては放っておいてほしいのだが……その集団が3人の意思を尊重するとは限らない。


「そこの3人、あんたらも参加しないか?」

「あ……」

「何にだ?」

「キングゴブリン狩りだよ。ここから数日行った先の巣で見つかったんだぜ」

「なるほど、それであの騒ぎか」

「それで、あんたらも参加しないか?Bランクはあるだろ?」

「でも、私達が行くと……」

「……いや、行こう」

「ソラ君?」


ミリアとフリスの予想とは異なり、ソラの返答は参加だった。そんな2人の疑念に気付かず、男は話を進める。


「そうか、助かるぜ。出発は明日の朝、集合は東門だからな」

「ちなみに、帰って来るまで何日の予定だ?」

「行くのに1日半、戦闘で半日、帰りに1日半だから、3日と半日だ」

「それなら良い。明日の朝に東門だな」

「ああ、頼むぜ」

「こちらこそ」


その男が戻っていった先には、20人近い冒険者が集まっている。まだ声をかけている段階だろうが、かなりの人数が集まりそうだ。

そして3人だけになったところで、追求は始まった。


「ソラ、何で引き受けたのよ。キングゴブリン何て巣の中にいても私達の敵じゃないわよ?」

「ここに来る前のゴブリンの様子、忘れたのか?」

「何か変だったよね……あ」

「……キングゴブリンに何かあるってこと?」

「可能性は高い。キングゴブリンじゃなくても、魔人の可能性だってある」

「……そういうことね」

「魔人が1人だけならあの面子でも勝てるだろう。だがもし複数いたら、全滅する可能性だってある。この町にいる冒険者の上位層だろうし、それだけは避けたい」

「温泉があるからね?」

「……まあ、それは否定しない」

「ソラ君ったら」


その可能性は十分考えられるため、ミリアもフリスも否定できない。そしてソラはこの仮説を念頭に、可能な限り万全で丸く収まる策を打つつもりだ。


「だが、ゴブリン狩りでは前に出るなよ?他の連中の稼ぎを邪魔するのだけは、やめておいた方が良い」

「分かってるわ。私達、お金に問題は無いもの」

「警戒くらいで良いよね?」

「ああ。あの様子なら、キングゴブリン程度を倒すには十分だろう」

「一切手助けしないっていうのは怪しまれそうだけど」

「だったら、夜のうちにある程度狩っておこう。広く警戒しておけば、怪しまれない程度には倒せるはずだ」

「夜営の時に魔獣が来ないと変だもん」

「そうすれば、上手く説明できるわね」

「そういうことだ。魔人がいなければ、それを功績にできる」


食料等は自分達で用意するとはいえ、何もしなければ不信感を抱かれるだけだ。SSランクだと知られた場合は別だが、このままならこれが最良だろう。


「問題は魔人がどれくらい強いか、ね」

「そうだが、俺達より強いってことはないだろう」

「何で?」

「数万のゴブリンに勝る戦力を持つ相手が、わざわざ苦労してゴブリンを使うか?」

「そう……そうね」

「そっか、そうだよね」

「そういうことだ。そう気負わなくて良い」


適当な料理を食べつつ、3人は会合が終わるまでギルドに残っていた。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「ん……こういう場所のお酒っておいしいよね」

「本当、楽しいわ」

「そういえば聞いたこと無かったが、2人は高級な酒場とかに行く気は無いのか?金銭的には問題無いが」

「ええ、嫌ね。色々と厳しいもの」

「マナーか?」

「そうよ。商人の娘が言うことじゃないけど、かしこまった場所はそんなに好きじゃないわ。ソラが一緒なら良いけど」

「わたしも同じだよ。ソラ君が行くなら、着いて行くけど」

「いや、2人に無理はさせないし、俺もこういった自由な方が好きだからな」

「じゃあ、このままで良いわね」

「もっと呑もうよ」


ギルドを出た後、日本酒を呑みつつ、話に花を咲かせるソラ達。3人の言う通り、ここは場末にある普通の酒場だ。中程度の冒険者や仕事終わりの職人、さらに中小商人など、平均的な人々が多くいた。

こういう酒場なら、他の人の話も耳に入る。


「おいお前、知ってるか?」

「何が?」

「勇者様だよ。王国が召喚したってのは聞いてるだろ」

「それか。聞いたことはあるな」

「ああ、あの噂?王国の人以外は何も話さないわね」


やはり勇者であるジュン達は有名になっているようだ。噂程度ではあるが、王都から離れたこの町でも話が出るのだから、相当なものである。

さらに2人の商人らしき男が話している席へウェイトレスが向かい、彼女も会話に参加した。


「その勇者様が、帝国に来るらしいんだよ」

「その話、どっから聞いたんだ?」

「ステイドから来た行商人だよ。1ヶ月前に、コロッセオに行こうとか話してたそうだぜ」

「だったら、もう来てるかもしれないわね」

「確かにな。この町に来るのも早いかもしれない」

「良いわね。未来の英雄様に会えるなんて」

「サインでも貰うか?」

「おいおい、気が早いぞ」


そういった有名人ならば、こういった話もあるだろう。


「ジュン達、結構有名になってるんだな」

「あの性格だもの。人気も出るわ」

「黒髪黒眼って、珍しいもんね」

「それだと俺も入るだろ」

「1人だけだもん」

「そうよ。それに、ソラはもう有名じゃない」

「限られた相手だけだがな。広がり具合はあいつらほどじゃない」

「そうかな?」

「違うと思うわよ?」

「ん?」


別の席でも、噂話は進んでいた。


「そう言えば、こんな噂知ってる?」

「なになに?」

「あの勇者様に、戦い方を教えた人がいるんだって」

「それって騎士でしょ?」

「それが冒険者らしいのよ。騎士団が束になっても敵わないような、ね」

「私、カッコ良い男の人って聞いたわよ?」

「実際そうだって」

「へぇ〜」

「勇者の師……うん、良いじゃん」

「狙うの?」

「見つかれば、よ。でも、悪くないでしょ?」

「悪いどころか最高よ。冒険者なら、私達だって芽があるもの」


冒険者という身近な存在である分、こういう人も普通にいるだろう。

だがその噂の人物、すぐそばにいるのだが。


「……そこまで噂になってるのか」

「さすがにこれは……ソラ、色んな意味で気をつけなさい」

「今のままでも十分目立ってるけど、それ以上だよね……」

「話が繋がったら最悪だ……というか絶対誰か繋げる……」


いつかは今までやって来たことと、勇者の師が繋がるだろう。だがソラとしては、今はまだやめてほしかった。最良は精霊王のダンジョン全てを攻略した後だが……その願望が叶うとは限らない。

なお、容疑者筆頭はオリクエアである。


「まあ良い、呑むぞ」

「現実逃避?」

「ソラにしては珍しいわね」

「今考えてもどうにもならないんだから、仕方ないだろ」

「そう言ってるけど」

「実際のところはどうなのよ?」

「……想像してみると嫌になってきたから、考えるのをやめたい」

「そうだよね」

「ソラらしいわ」

「お前ら……俺を何だと思ってるんだ」

「ソラ」「ソラ君」

「……何も言い返せないな」


こう言われると何も言い返せなくなるのは、いつも通りだ。


「まあ良いわ。呑むっていうのは賛成ね」

「じゃあソラ君、お酒持ってきて注いでね」

「待て、それ完全に俺が下っ端みたいだろ」

「え、違うの?」

「違うに決まってるだろ!」

「違うわよ、フリス。ソラは私達のために色々やってくれるじゃない」

「あ、そうだね」

「……はぁ」


こんな風に冗談に言い返せなくなるのも、いつも通りである。










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