第17話 水宮①
「……こんな所にもあるんだ」
「見つからないわけね」
『うん!』
『見つかったこと無いんだよ〜』
『お魚いないって、みんな帰っちゃうの』
『遊んでくれないの』
「そりゃ、来ないよな」
「来るわけないわ。魅力が一切ないもの」
「こういう風に隠したりもするんだね」
ウォーティアの近くで見つけた精霊王のダンジョンへの入り口。だが問題無いとしても、それがあるのは……
「池の底、か……」
「どうするの?」
「やっぱり、シーアの時と同じよね?」
「ああ、魔法をかけて潜るぞ。扉の向こうがどうなってるか分からないからな」
「中にも水があったら、魔法が無いと無理だもんね」
「そういうことだ。後は扉のすぐ先に魔獣がいる可能性だが……」
「考えても仕方ないわ。覚悟して行きましょう」
「うん。それに、古竜以外は大丈夫でしょ?」
「あれがボス部屋の扉って確率は低いし……行くぞ」
そうして、魔法を受けた3人は潜っていく。扉までは20mほどあったが、魔法のおかげで問題なくたどり着いた。そして扉を開けたが、水はその先へ流れない。ソラ達は警戒しつつ、ダンジョンへと踏み込む。
そんな3人を迎えたのは、壮大な光景だった。
「……何だこれは……」
「水が……」
「……浮いてる、わね」
直径200mを優に超える水の球体がいくつも、奥まで続いている。そしてそれらのサイズはバラバラだが、規則正しく整列しているように見えた。
「これでどうしろっていうのよ……」
「アレを渡って進めってことだろう……普通なら無理だぞ」
「あ、なんか岩みたいな所もあるよ」
「水も無しい、あそこで休憩できるな」
ソラ達が見える距離にギリギリ1ヶ所、水に飲まれていない空飛ぶ島のような場所が見えている。休憩するのに、あそこ以外の選択肢は無いだろう。
罠はあるかもしれないが。
「取り敢えず、目の前の球まで跳ぶか」
「魔獣もいるわよ?」
「来たら倒せば良い。魔法も使えるし、最初は俺が行く」
「任せるわ」
取り敢えず最も近い球へ向かう。身体強化を使って大きく跳んだソラはニュートン力学に従い、減速しつつも近づいていくが……
「うおっ?」
球まで残り20mという所で、急に加速に変わった。ソラは体勢を整え、水に飛び込む。
『どうしたの?』
「重力の方向が変わった。どうやら、球の中心方向に引かれるみたいだな」
『そんなことできるのね……』
「俺も驚いてる。だがこれなら、水の表面を歩いて進めるぞ」
『そうなの?』
「ああ。別の魔法をかけるから、俺の合図で跳べ」
そう言うとソラは水面から出て、宣言通り水の上に立った。ミリアとフリスもソラを信じ、足から水へ向かう。
「うわっ、凄いね!」
「いや、原理自体は水の中を動くより簡単だ。問題は魔獣が足下から来ることだが……」
「それは大丈夫よ。しっかり見えるもの」
「なら、問題無いか。水の中は俺とフリスが、外に出てきたらミリアが対処してくれ。他の球から飛んできた時は、3人でやるぞ」
「ええ」
「うん」
そして3人は進み始めた。球を渡っていくとほぼ毎回魔獣が出てくるが、そう大した数では無いのですぐに倒し終える。
「魔獣はまだCランク程度か」
「数も少ないし、楽で良いわね」
「ねえ、ソラ君」
「フリス、どうした?」
「この先って、どんな風になってるのかな?」
「それは……どうだろうな。風宮と同じか?」
「そうね……下には何もないみたいに見えるし、そうかもしれないわ」
「そのうち、上下感覚が狂いそうだけどな」
「球と球の間は普通だから、大丈夫よ」
「意識すれば何とかなる、か……それと、進んでいった先に何があるか、だな」
「分かんないんだし、考えすぎじゃないかな?」
「だが、警戒でも意味はある。何もないなんてことは無いはずだ」
そういう理由で、3人は警戒を抜かずに進み続ける。そしてこのダンジョン、水宮を踏破するため、絶対に必要な場所へやってきた。
「さて、問題の島だな」
「罠は……この距離だと分からないわね」
「表面、燃やしちゃう?」
「それより……飛んで近付けばいいだろ」
「はい?」
「え?」
「だから、飛ぶんだよ」
ソラの言った意味が分かっていないミリアとフリスだが、実際にやれば意味は分かる。ソラは早速魔法をかけ、実演した。
それにつられ、2人も試す。
「……こんなに自由にできるのね」
「神気を使えるようになったからな。2人には俺との繋がりがあるから、思考を現実に持ってくることができた」
「わたしにはこんなのできなかったもん。」
「風魔法だけじゃなくて、土魔法と闇魔法も使ってるからな。重力をどうにかすれば割と簡単になる」
「じゃあ、できないね……」
「いや、神術ならできるかもしれないぞ。属性は無いらしいからな」
「本当?」
「ああ。というか、原理関係無く浮けるようになる気もするが……」
ソラは神術、神気について、己の心象を具現化するものだと考えている。なのでフリスがイメージさえできれば、障害は無いはずだ。
「っと、調べるの忘れてたな」
「そうね。先に行くわ」
「ああ、俺は下を見てから行く。フリス、魔力探知は任せられるか?」
「うん。神術も使ってみるよ」
「頼んだ」
そうして、一通り調べたソラ達。その結果は……
「無いわね」
「わたしも無いよ」
「俺もだ。意外だな」
「ここの精霊王、性格が良いのよ。きっとね」
「だと良いが……」
心配しすぎと言われるかもしれないが、今までがアレだったのだ。ここだけで安心できる要素は無い。
「ねえ、考えるのは後にしようよ」
「そうだな。しばらく休憩するぞ」
「他に無いけど、見晴らしが良すぎる気もするわよ?」
「だが、ここしかない。水の上よりはマシだ」
「見晴らしって、どこも同じじゃないかな?」
「……それもそうね」
見晴らしの良さは一長一短なので、この場で議論きしれるものではない。そしてどこも同じなら、陸地の方がマシだ。
「そういえば、さっきの空飛ぶ魔法を使えば、簡単に先に行けるわよね」
「いや、あれは消費が激しすぎる。古竜との戦いの前に、魔力切れになる可能性が高い」
「そうなんだ……」
「俺が完全に操れてないっていうのもあるから、そのうち少なくなるはずだ」
「じゃあ、期待していいの?」
「ああ」
術者同士の談義なのでミリアは蚊帳の外だが、特に気にしていない。むしろ2人のためになることを気にしていた。
「さて、そろそろ行きましょう。何か来たみたいだしね」
「いるのか?」
「ええ。遠いけど、向こうの方に」
「ん?……何だあの群れは」
「いつものことでしょ?」
「そうとは言ってもなぁ……編成がおかしすぎるだろ」
ミリアが見つけた群れ、そこでは鳥系魔獣が水棲系魔獣を掴んでおり、そのおかげで球の間を移動できているようだ。
いくらダンジョンの中とはいえ、この構成は普通ならありえない。
「あの様子だと……ここにいる間は攻めてこないな」
「それどころか、あの距離から動かないと思うわ。実際にさっきからあそこにいるだけだもの」
「魔法の届く距離がバレてるの?」
「いや、やろうと思えばあそこも射程内だ。魔力探知の範囲外だが……それが狙いか?」
「じゃあ、近付きましょう。どうせ倒すんだし、ここじゃなくても変わらないわ」
「罠だとしても食い破る。それだけだ」
その後、全方位を囲まれつつもソラ達は魔獣を殲滅し、先へ進んだ。
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「ふう、この球はこれで終わりだな」
「多かったね」
「それに、Aランクが中心になってきたわね。だいぶ進んだみたいよ」
「だが、これからが正念場だ。Sランク以上が山のように押し寄せてきたら、捌ききれないぞ」
「そんなことあるのかな?」
「このダンジョンだと……ありえる。風宮より包囲されやすい」
巨大な水の球ということで、見晴らしはとても良い。それに四方や上方からだけでなく、足下から魔獣が襲ってくる可能性もあった。
魔力探知があるとはいえ、場所取りを間違えれば死にかねない。
「それにしても、球が大きくなってきたわね」
「魔獣はランクが上がるにつれて、大きなものも増えるからな。妥当なところだろう」
「移動が大変になっちゃったけどね」
「それは仕方ない。俺達がどうこう言えることじゃないからな」
「まあ、こうやって歩いて進めるだけマシよ。泳いでなんて大変すぎるもの」
「それはこのダンジョンの良い部分だな」
ソラ達が今いるのは、直径1kmを優に超えるのではないかという水の球だ。これほどの大きさになると、全長20mのアクアスピノやそれに類する巨大魔獣が次々と出てくる。強さ的にはそう大したことないが、邪魔なことに代わりは無かった。
「あ、魔獣だよ」
「下と……上か?」
「上……ドラゴンね」
「いや、ワイバーンだな。海辺で魚を取ってるようなやつらだろう」
「そんなのも再現されるのね」
「そういう場所だ。やるぞ!」
総数は100頭ほど。1方向から来るため、先手を打ちやすかった。魔法である程度倒し、近接も使って殲滅する。魔力消費を抑える、3人がよく使う手だ。
そして約半数を落とした所で、ミリアが呟く。
「やっぱりワイバーンとなると、足場の悪さが響くわね……」
「すまないが、完全に地上と同じにはできない。水の上を歩くっていうのは、そういうことだからな」
「大丈夫よ。さっき言った通りだから」
「ソラ君、ミリちゃん、来るよ」
「分かった。ミリア、次で終わらせるぞ」
「ええ。ワイバーンの背中なら、良い足場になりそうね」
「私も援護を……あれ?」
一時離脱していたワイバーン達が再度来る。そこで殲滅しようとしていたソラ達だが、フリスがあるものに気付いた。
「ねえ、ソラ君……あれ……」
「フリス?どうし……おいおいおい」
「……何よ、あれ」
そこから見えたのは巨大な波、恐らく津波だ。ソラ達が走るより遅いが、ここは球。反対側から来ている可能性もある。
「やばい、別の球に行くぞ!」
「え、でも……」
「あれの衝撃は魔法の比じゃない!すぐに逃げるぞ!」
「フリス、行くわよ!」
「ワイバーンが来ちゃうよ!」
「魔法で撃ち落せ!フリスは俺が抱える」
空を自在に飛べるワイバーンに、津波は関係無い。問答無用で攻めてくる魔獣を相手にするため、魔法で素早く倒す必要があった。
そしてソラ達は、別の球へと跳ぶ。
「ワイバーンは落としたわね」
「魔獣は……下から来るよ」
「今度は魚……魔法の方が早いわよね?」
「ああ。だが……ここでもか」
やっとだどりついたここでも、津波が見えた。それと同時に3人は走り出す。
「向こうだ!」
「もしかして、ずっと?」
「多分な。急がないと飲み込まれる」
「流石にあれは……マズイわね」
その後もソラの予想通り、別の球でも津波が次々と襲いかかってきた。そんな時でも魔獣は絶えないので、集中力をドンドン削られていく。
「ちっ、ドラゴンが来たぞ!」
「こんな時に⁉︎」
「ソラ君、良い?」
「1撃で仕留めろ。消耗は気にするな」
「分かった!」
フリスは速度重視で雷を連発し、ドラゴンを落としていく。ミリアは先を進み、水から出てくる魔獣を排除していった。
「ソラ!島よ!」
「あそこへ逃げる。ドラゴンもすぐに退治だ」
「それなら……」
「ああ、もう大丈夫だ」
球は津波で危険、なので島へ跳び乗る。この判断に誤りは無い。
問題は、これだけ追い詰められてもう罠は無いと思ってしまったことだ。
「は?」
「え?」
「嘘……」
その結果……島が、割れた。
「ここもか!」
「ソラ君!」
「アレをかける。すぐに球へ行くぞ!」
「分かったわ」
だが流石はソラ達、対応が早い。すぐにソラが飛行魔法をかけ、跳んだ勢いそのままに反対側の球へ進んだ。
「またドラゴンだよ!今度は右と左から!」
「前にも下からリヴァイアサンが来るぞ……左は俺がやる。フリス、右は任せた」
「うん」
「リヴァイアサンは私がやるわ」
「頼む。それにしても……」
魔獣を排除しつつ、津波を避けて球を渡っていく。
「またこんな場所かよ!」
今日もまた、3人は走り回っていた。




