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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第14話 滝都フォール③



「え、兄弟子がいるのか?」

「ああ、1年くらい前にな。10日程度で卒業した優秀なやつだ」

「スゲェ」

「俺は少しの技と心構えを教えただけだ。強くなるのは本人がやることだからな。それに、お前も同じくらいになれる。俺はそう見込んでるぞ」

「お、おう、そうか?」


夜、フォールの酒場にて酒盛りをする男達。そんな所にいるのはソラとドラ、4人の中で男2人だけだ。


「それで兄貴、姉御達とはどれくらいの付き合いなんです?」

「それ、聞くものか?」

「当然」

「まったく……約2年半だ。短いかもしれないが、過ごした時間は濃いからな」

「惚気るか」

「お前が聞いてきたんだろ……それで、相手はいないのか?」

「いたら良いんですけどねぇ……」

「将来の村長だったら寄ってきそうなものだろ」

「オレの村、村長の立場が低いから、そんなのはねぇな」

「そうなのか?」

「爺も親父も、色々と動き回ってるぜ。尊敬はされてるけどな」

「戦士って意味でか?」

「おう。強えからな。まあ、兄貴には勝てねぇだろうが」

「それならもてそうなんだが……」

「甘いぜ兄貴。何度も死にかけてるような男に、女が寄ってくるか?」

「……それほどなのか?」

「オレが覚えてるだけでも3回はある。それに爺は右目が無えし、親父は左手の薬指と小指が無え。魔獣にやられたんだと」

「その程度で済んでるならまだマシだが……」

「家に帰って来るのも遅えしな。村長の義務だとか言って、色んな所を駆けずり回ってるんだぜ」

「なるほど」


ブラック企業と同じような感じらしい。まだ敬われる分だけこちらの方がマシなのだろうが。


「そんな死にかけるような一家に入りたい女は少ねえんだよ」

「だったら、死にかけることがないくらい強くなれ」

「勿論だ!よろしく頼むぜ、兄貴」

「任せろ。弟子に死なれるのも気分が悪いしな」


そんなことを言われたドラは上機嫌で、ソラと同ペースで呑んでいる。そしてドラはソラの酒の強さを知らない。つまり……


「ぐがー……」

「まったく……自分の呑める量は把握しておけ」


簡単に酔い潰れてしまう。呆れつつも酒を呑むソラ。するとその背後に、2つの人影が立っていた。


「どうだった?」

「いなかったわ。派手に動いていたんだけどね」

「でも、何か変だったよ。魔獣が慌てた感じだったんだもん」


勿論、他の人ならソラが背後を許すわけがない。ミリアとフリスだ。


「すまないな。2人だけに調査させて」

「良いわ。でも、少しくらいは呑ませてよね。せっかく頼みを聞いてあげたんだから」

「ソラ君はずっと呑んでたんだしね」

「分かった。付き合おう」

「じゃあ、このカクテルを頂戴」

「……いきなり強いやつか」


と言いつつ、ソラもドラと一緒の時とは比べ物にならないくらい強い酒を呑んでいる。それでも、思考が鈍ることはない。


「それで……その結果はどう考えるべきか……魔人じゃないなら、生態系の異常か?」

「調べようがないわ。調べた人がいるかどうかすら分からないもの」

「それに、3人でやるには広すぎるよ?」

「そうだとしても、だ。俺達以外に誰ができる?」

「いないわね。私達ほど自由に動き回れる冒険者は」

「ただし、ドラにはバレないようにやるぞ」

「え?」

「……他の冒険者に、ゼーリエル家の人に見つかったら、不要な混乱が起きかねない。それだけは避ける必要がある」

「それがどれだけ大変か、分かってるのよね?」

「当たり前だ。まあ、陽動がメインだけどな。派手に暴れれば、そのうち出てくるだろ」

「そんなことより、呑もうよ!」

「まったく……酒は呑んでも飲まれるなって言葉、知らないのか?」

「知ってるよ?」


いつも通りの調子で、酒宴は続いた。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「うおぉ……頭痛てぇ……」

「まったく……自分の呑める量は把握しておけ」

「延期なんてのは……」

「無い」

「だよなぁ……」


翌日、町の外へ続く大通りを進むソラ達。ドラ1人だけ体調が悪そうだが、容赦なく稽古を宣言する。二日酔いだろうと、サボることは許さない。自業自得なのだから、当たり前だが。


「だいたい、兄貴はなんで平気なんだよ。オレより呑んでたじゃねえか」

「個人差だ」

「信じらんねぇ……」

「そんなことより、早く移動するぞ」


そうして、町の外の草原に着く。すぐそばには森や川があるが、魔獣が来ても問題無い。むしろ探す手間が省けたと喜ぶほどだ。


「まずは……そうだな、お前の基本的な部分を鍛える」

「と、言うと?」

「喜べ、ずっと俺と模擬戦だ」

「げぇ……」


自信を持っていた分、昨日やられたことが相当ショックだったのだろう。

とはいえこれも自分のため。すぐにやる気を取り戻し、ソラに対して構える。


「さっさと始めるぞ」

「この……やったらぁ!」


素早く、鋭く踏み込むドラ。大振りと小振りを使い分け、追い詰めようとした。

だが、ソラは攻撃を全て避ける。薄刃陽炎は抜かれているが、1度も使われていない。


「何で、こんなに、当たらない、んだよ!」

「昨日はお前が変なことをしてきたから驚いたが、もう目が慣れた」

「そんな馬鹿なこと……」

「本当だ。さてと……」

「うおぁ⁉︎」

「もう1度だ。来い」


ソラは槍をかわして腕を取り、投げる。その際には槍を奪うことも忘れない。

そうして完全に丸腰となったドラへ槍を投げ、続きを促した。


「ラァァ!……あ?」

「遅いぞ」


再び動き始めた槍、その先端近くをソラはすでに掴んでいた。そして繰り返される。


「何で避けられる……」

「確かにお前の動きは速い。体調が悪いにも関わらず、昨日とそう変わりない。技のキレも十分だ」

「だったら何で……」

「ただし、お前の動きは派手だ。それゆえ、次を想像しやすい。勿論、それを防ぐための対策もある」

「対策だ?」

「何だと思う?考えてみろ」


ソラの教えたいことは、当人が自分で答えを見つけるしかない。ソラが出せるのは一般論、手掛かりまでだ。


「……相手より早く動く、か?」

「惜しいな。それは正解へ至る1歩手前だ。正解は大きく分けると2つ、1つ目はフェイントだ」

「フェイントが?」

「相手を自分で誘導する、と言ってもいい。自分が次にどんな動きをするか分からなくしたり、相手の予想とは違う技を出したりする。対人戦限定だが、かなり有効だ」

「そうなのか……」

「俺の動きが読めないことがあるだろ?あれがそうだ」

「なるほど」

「そして2つ目は、どんな体勢からでもほぼ全ての技を出せるようにすることだ」

「……は?」


ドラも、2つ目は理解できなかったらしい。だが、これも重要なことである。


「これは魔獣狩りの時も使えるぞ。常に全ての状況に対応できるようになるからな」

「それは分かるけどな……」

「対人戦においては、全ての技を出せるなら、相手に狙いを絞らせにくくなる。1つ目と合わせれば有用になるのは分かるな?」

「あ、ああ」

「それなら良い。具体的にどうやるかは、自分で見つけろ」

「教えてくれないのか?」

「教えられない。個人個人でやり方は違うからな」


こうして再び、ドラが宙に舞う時間がやってきた。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「……身体強化に関しては、少しずつ進めていけ。戦い方は、ちゃんと初歩ができてきてるな」

「これで初歩かよ」

「俺からしたら、だ。冒険者としての評価とは関係ない」

「それならまあ……」

「ここまでこれなかったら、見捨てるつもりだったけどな」

「マジかよ……」


数日後、森の中を進む4人組。1人だけ気落ちしているが、他の3人は気にしない。


「まあ、もう問題無い。後は俺が認めるまで鍛えるだけだ」

「頼むぜ兄貴!」

「代わりに、稽古はもっと厳しくなるけどな」

「げ……」


酷いと思いつつも、ソラ達についていくドラ。自分が強くなるために必要だと感じているからだ。

すぐに前(思考)撤回したくなったが。


「はぁ、はぁ……」

「よくやった。休んでて良いぞ」

「けどよ……100って何で……」

「状況判断能力は養う必要がある。最適なのは対多戦だと考えてるからな」

「……まさか」

「またやってもらうぞ。まあ、ダンジョンに行かないだけ、マシだろ?」

「…………」


とはいえ、疲労が溜まり過ぎればかえって悪影響なので、休息はきっちり取る。

ソラ達にとっては十分な時間、体を酷使したばかりのドラにとっては不十分な時間、休息した。


「さて、次だ」

「もう終わりかよ……」

「文句は言うな。町を襲撃されたら休みなんか……ん?……ああ、まったく」

「どうしたんです、兄貴」

「ああ、お前じゃない。向こうだ」

「……何するのよ」

「ちょっとおせっかい、だ!」


ソラは右に手を伸ばし、そこから雷撃を放つ。その雷はビックベアーを消し飛ばし……すぐ目の前にいた集団を驚かす。


「うおっ⁉︎」

「何だ⁉︎」

「きゃ!」

「おいガキども、お前ら奥に来すぎだ」


その集団には15歳くらいの少年が3人、少女が2人、パーティーを組んだ冒険者のようだ。

だが、その装備の質は悪い。恐らく、新人なのだろう。


「なっ、ちょっ、何で!」

「少し黙れ。森の中で騒ぐと死ぬぞ」

「あんた誰だ!いきなり来やがって!」

「……情報収集もしないのか?ギルドだと結構有名になってるはずだが」

「知らねえよ。お前こそ、森の中で鎧をつけないなんて馬鹿じゃねえの」

「お前ら、兄貴になんて口を「ドラ」……すいません」

「それで、なんでCランク魔獣と戦おうとしていたんだ?お前達だと勝てないだろ」

「そんなこと、やってみなくちゃ分かんないだろ!」

「いや、分かる。せいぜい1人2人が生き残れる程度だぞ」

「嘘を言うな!」

「大方、Eランクに上がって討伐依頼も受けれるようになったから来たんだろうが……そんなお気楽な気持ちで生きれるほど、この世界は甘くないぞ」

「うるせぇ!俺達は強いんだ!」

「そうよ!負けるわけないじゃない!」

「ちょっと、2人とも……」

「黙ってろ!」「静かにして!」

「う……」

「おい、仲間にまであたるなよ。まったく……仕方ない」


最近、〈まったく〉ばかり言っている気もするが、気にしても仕方がない。次なる手は……銀色に目をつけた。


「ドラ、模擬戦だ。現実を教えてやれ」

「兄貴、良いんすか?」

「今のお前なら怪我をさせずに勝てる。それに、対多戦の経験も必要だからな」

「分かったぜ。良いとこ見せてやる」


そして槍を持ったドラだけが5人組の方へ向かう。相手側も、これには驚いていた。


「おい、なんでお前1人なんだよ」

「兄貴からしたら、お前らはオレの練習台でしかないんだと。さっさと片付けさせてもらうぜ」

「ふざけんなよ……」

「ムカつく」

「……ふざけてるのはどっちだ」

「あ?」

「オレもお前らにムカついてんだ。さっさと来い、返り討ちにしてやらぁ」


5人組の内訳は、剣士が2人、槍使いが1人、弓士が1人、魔法使いが1人。バランスとしてはそう悪くない。

だが、実力が違いすぎた。


「ふん、こんなやつ……」

「ドケェェ!」


最初に近づいてきた槍使いはドラの槍の柄により、横殴りに吹き飛ばされる。


「なっ⁉︎」

「おい!」

「じゃまだぁぁ!」


さらに剣士2人も剣を叩き落とされ、タックルをマトモに食らった。


「で、お前らはどうする?」

「ひっ!」

「こ、降参、します……」


そして穂先を突きつけられ、弓士と魔法使いは降参する。予想外の戦果にドラも戸惑ったようだが、ソラ達の元へ戻った。


「どうだ、兄貴」

「得物に対する位置取りは良かったな。立ち回りと技の繋ぎを上手くやれば、俺が言うことは無い」

「本当だな⁉︎」

「そこから先は自分で進めってことだぞ?」

「げぇ……」

「それだけ買ってるってことだ。自信を持て」

「あの、すみません……」


振り返った先にいたのは、先ほどボコボコにされた5人組。5人で覚悟を決め……


「僕達も弟子にしてください!」

「「「「お願いします」」」」

「論外だ。帰れ」


即刻断られた。


「なんで!」

「俺は見境のない子どもを弟子にするつもりはない」

「そんな、そこをなんとか」

「第1に、お前達は戦いの経験が少なすぎる。しばらくは大人しく森の浅い場所で戦ってろ」

「そんなぁ」

「ですけど……」

「分かったな?」

「いや、でも……」

分かったな(・・・・・)?」

「は、はい!」


殺気にあてられ、5人組は町の方へ走っていく。その方面の魔獣はほぼ狩り尽くしたので、問題は無いだろう。


「ソラ、少し言い過ぎよ」

「だが、ああ言わないと死ぬだろ。流石に簡単に死なれるのは困る」

「無茶してたもんね」

「そういうことだ」

「でも、何で弟子にしなかったのよ?」

「見所が無かったからだ。経験の無さ云々の方が先はだけどな」

「本当?」

「……どういう意味だ?」

「どうせ見所が無くても、教えたりするわよね」


こう言い切られては、否定することはできなかった。


「……まあ、そこそこの経験を積んで、しっかり頼んで来たらな。もう会うことも無いだろうが」

「結局あの無茶な性格を直すのが嫌だったってことね。それと、殺しもかしら?」

「あれ?でも前に教えてたよね?」

「……あいつらは聞き分けが良かったし、仕事だったからな」


勿論、これはジュン達のことだ。ガイロン達は知り合いだし、同郷に教える故、丁寧に教えていたが。

なお、これを知らない人物もこの場に1人いる。


「何のことだ?」

「気にするな。前にやった仕事の話だ」

「そうか。じゃあ、オレの見所を教えてくれよ」

「急にどうした?」

「さっきのあいつらには見所が無いとか言ってたじゃねえか。オレのも知りたくてな」

「ドラ、お前には本当に見所がある。さっきのあいつらより、強くなれるさ」

「よし」

「ちなみに、さっきの子達ってどれくらいまでいけそうなの?」

「まだ基礎すら危ういレベルだから確定できないが……死ななければ中堅クラスにはなれるな」

「具体的に出せるのね」

「それなら、オレはどうなんだ?」

「Sランクだ」

「……は?」


予想外すぎる返答に、ドラは固まった。それでもソラは容赦無く続けていく。


「最低でもSランク、あるいはそれ以上まで強くなると予想してる」

「オレが……Sランク……?」

「ああ、そうだ。期待外れになったらどうなるか、分かってるな?」

「は、はい!」

「よし、向こうの魔獣の群れを倒してこい」


なお、これは厄介払いみたいなものだ。


「また言い過ぎよ」

「それだけ買ってるってことだ。目を瞑ってくれ」

「わたし達は?」

「この評価の対象外だ。離す気はないからな」

「ソラったら」


この雰囲気にドラを当てさせると、何を始めるか分からないという理由だったが。








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