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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第13話 滝都フォール②


「これ、換金を頼む」

「ま、魔水晶が、こ、こんなに……お手持ちの分は、これで全てですか?」

「いいえ。魔法使いがいるから、いくらか残してあるわ」

「早くお願い」

「は、はい……少しお待ちください」


宿屋で一晩寝て疲れを取り、ギルドへやってきたソラ達。山ほど出した魔水晶のせいで、受付嬢に驚かれてしまった。

これでもAランク以下のものしかないのだが。


「さてと……どうする?」

「まだ休みたいわね」

「わたし達はソラ君みたいに強くないもん」

「おい、俺を変人みたいに言うな」

「「え?」」

「おいおい……」


しばらくして、受付嬢が戻ってきた。


「お、お待たせしました」

「終わったのね」

「Cランク魔水晶が58個、Bランク魔水晶が22個、Aランク魔水晶が8個。合計318万8000Gになります」

「それじゃあ、金貨は2枚だけで、もう1枚分は銀貨にバラしてくれ」

「そっちの方が分けやすいもんね」

「分かりました」


置かれた金貨は3枚だったため、受付嬢は1枚を持ってまた奥へ戻る。

この買取。ソラ達としては普通だ。だが、これだけの数、これだけの金額を取引していれば、否が応でも目立ってしまう。


「何だあいつら」

「お前知らないのか?」

「あの3人、SSランクの冒険者だぞ」

「はぁ⁉︎SSランク⁉︎」

「そうは見えねぇよな」

「だが、領主様の屋敷へ入っていったのを見たやつがいるらしい」

「お貴族様とも何かあるのかね」

「それにあいつら、さっき山ほど魔水晶を出してたぞ」

「ここで大量の魔水晶だと……あそこか」

「でもあそこ、10階より下の情報無いじゃないか。どうなってるんだ?」


魔巣の鬼畜さ(というか恐ろしさ)はよく伝わっているようだ。偶然ながらも、3人の実力を証明するちょうど良い機会になっていた。

そんな中、ソラ達へ近付いていく人影がある。


「なあ、あんた」

「ん?」


その少年は灰眼に銀の短髪を持ち、頭からは銀色の狼の耳、さらに銀色の尾もあった。どうやら狼獣人の中でも強いと言われる種族の1つ、銀狼獣人のようだ。


「あんたら、強いんだって?」

「まあ、SSランクだからな。それなりには強いぞ」

「自己評価では、よ」

「だったら……」


背負った槍に手を当て、ソラを睨む。その目に宿る意思は、強い。


「オレと勝負しろ!」


そして槍を取り、ソラにそう告げた。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「さて、この辺りでいいか」

「何でわざわざ外でやるんだ?ギルドの中に場所があるじゃねえか」

「素直なやつに手の内を明かさせたく無いからな。俺達は仕方ないとしても、有象無象に見せるのは気が進まない」

「オレは気にしないぜ?」

「その中の誰かが敵になるかもしれないのにか?人生、何があるか分からないんだぞ?」

「そうなのか……」


銀狼獣人の少年、ドラの得物は両端に両刃の刃がついた槍、長さは2.5mか。刃は比較的長く、30cmほどある。両端に刃があるというのは珍しい。


「さてと……剣で槍の相手をするには、相手の3倍の技量が必要だって話は知ってるな?」

「ああ。有名だろ?」

「それを踏まえて戦え。せいぜい、(あらが)ってみせろ」

「なめたことを……」

「将来的には分からないが、今はそれだけの差がある。それを感じ取れるようになれ」

「それが間違いだってこと、照明してやる!」


槍というものは、基本的には突きと払いのどちらか、まれに薙ぎで動く。これは形状と歴史からそう組み立てられてきたものであり、剣の側にはそれに対する対抗策もある。

なので……


「オラァ!!」

「はぁっ⁉︎」


こんな剣のように振り回す(・・・・)者の相手をすることなど、剣士側は考えていない。薙ぐを超えてアクロバットショーのような見た目だが、実際に的確な攻撃をしてくるため甘く見ることはできなかった。

確かに両刃なのだから、振り回して使うこともできる。だが斧などより軽く、剣より刃が短い槍を振り回すのは、普通なら有効ではない。薙ぐというのは、相手を追い詰めるための技であり、直接倒すためのものでは無いからだ。

だが、ドラはそれをやってのけている。かなりのスピードで、刃先がブレず、正確に振るっていた。薙刀や斧槍(ハルバード)などに威力では劣っているが、槍が効く相手なら殲滅力で勝っている。恐らく、天性の才能を持っている上に、努力も惜しまなかったのだろう。


「ちっ、厄介な」

「まだまだぁ!」


またドラの槍が比較的長めなこと、穂先には風の付加がかけられていることもあり、並大抵の相手では近寄れないだろう。まさに暴風だ。

だが、駆け引きはまだまだ。ソラには敵わない。


「けどな……よっと」

「なっ、はぁ⁉︎」


ソラが槍に手を当てて少し体を動かした瞬間、ドラの体が宙を舞った。

原理としては、振り回される槍の支点を変え、運動ベクトルを変える、という技だ。合気道と同じようなものだが、こちらは元々、相手を頭に叩きつけることを目的にしている。危険度は圧倒的に高い。

今回はそこまでやらないが。


「い、今のは……」

「ただ投げただけだ。俺は武器も抜いて無いぞ?」

「そんな馬鹿な……」

「これが俺とお前の違いだ。さて、今ので心が折れたわけじゃないなら、もう一度かかってこい」

「……ああ、行くぜ」

「良い度胸だ」


ドラは構えを取り、ソラを真っ直ぐ睨む。一度やられたのに再び挑もうとするその心意気、ソラも感心し、薄刃陽炎を抜いた。


「武器、抜くのか」

「その気概に答えるのに、武器無しだと失礼だろ?」

「……変なやつだな」

「礼に始まり礼に終わる。俺の教わった武術でと考え方だ」

「どういう意味だ?」

「簡単に言えば、相手を尊重しろってことだな」

「それなら、分かりやすくて良いぜ」


その言葉を最後に、両者構える。ドラはいつ動くべきか迷っているようだが、ソラは動じない。


「オラァァァ!」

「しっ!」


そして両者はほぼ同時に動いた。その結果……


「……くそっ」

「今のはなかなか良い手だったな。成長の芽もある」


ドラは無手となり、薄刃陽炎を首に突きつけられている。ドラの槍は離れた木に突き刺さっていた。


「何が起きたんだよ……」

「スピード的には大したこと無いが、客観的に見ないと難しいかもな。ミリア、分かるか?」

「ええ、あれくらいならね。ソラ、刀で払うよう見せかけて、蹴ったわよね」

「なっ……」

「ああ、その通りだ。刀ばかりに注意がいっていたからな」

「ひ、卑怯なことを……」

「卑怯?戦いにおいてやれること全てをやるのは基本だぞ?それと俺は、徒手空拳も専門だ。それをお前が知らなかった、それだけだな」

「た、確かに……」


何だか騙されているような気もするが……実際その通りだ。そしてその駆け引きに関しては、ソラはミリアやフリスの数段上にいる。


「他にはこの槍……中に鉄が入ってるようだが、それで安心するのはいけないな」

「何がだよ」

「俺なら鉄ごと斬り落とせる」

「……は?」

「本当だよ」

「私も最初は目を疑ったわ」

「でも、できちゃうんだよ」

「槍だと、穂先を斬り落とされる可能性もあるからな。そういったことも考えろ」

「なんだよそれ……だが……」


ドラは何かを決めたような目をして、口を開いた。


「オレに戦い方を教えてください!」

「……どうしたんだ?急に」

「オレ、村のために強くならないといけないんだ。みんなを守れるように……」

「なるほど。まあ、良いぞ。見所もあるからな」

「ありがとうございます!」

「俺の稽古は厳しいが、ついてこれるか?」

「はい兄貴!」

「ちょっと待て」


ソラにとって、弟子入りの許容は簡単だが、こちらの許容は難しかった。


「え、駄目か?」

「駄目というか、俺にも弟がいるからな……そんな呼び方はされなかったが」

「だったら、良いじゃない。好きにさせましょう」

「うん。問題は無いんでしょう?」

「ありがとうございます、姉御!」

「……やっぱりか。まあ、それで良いぞ」


だが、こうなるともう諦めるしかない。ミリアとフリスに言われなくても、本人が本気なら訂正するようなことはしない。

ソラ自身、久しぶりの弟子に喜んでいるのだから。


「さて、対人戦に関してはさっき見たし……次は魔獣相手に戦ってみてくれ」

「分かりました!」

「でもソラ、ここ滝と岩山ばっかりよ?」

「探すの大変じゃない?」

「任せて下さい!オレ、鼻は効きますから!」

「そういう問題じゃ無いんだが……」


こういった地形でソラ達に同行するというのは、他人が簡単に考えるようなものではない。そしてしばらく後……ソラの心配は当たってしまった。


「いないな……次は向こうに行くぞ」

「でも、あの山の近くの方がいるんじゃない?」

「いえ、向こうは滝が多いらしいわ。地上の魔獣じゃないと、ドラの実力を見ることにはならないわよ」

「ま、待ってくれ……」


10m近いジャンプを繰り返し、岩を軽々と超えていくソラ達。そしてその後を、岩を1つ1つ登りながら追いかけるドラ。銀狼獣人の前衛でも、フリスの身体強化には敵わなかったようだ。勿論、これを実現するには膨大な魔力が必要なのだが。


「この程度で()をあげるな。これから先が辛いぞ」

「身体強化もちゃんと練習した方が良いわよ」

「でも、フリスの姉御は、魔法使いだろ……」

「だって、ソラ君よりわたしの方が魔力多いんだもん」

「それに、魔力の扱いは本職の方が上手い。恒常的な強化だから戦闘には使えないが、強化する母体が弱くても、十二分に効力を持つ」

「そうなのか……」

「いくら素の身体能力が高くても、強化無しで倒せる魔獣は限られる。怠けるなよ」

「お、おう」


ベフィアに来たばかりの頃と比べれば、途轍もない成長を遂げたソラ達。順に成長した故、こういった基礎を疎かにすることはない。


「まあ、そんな状態だと実力を見る以前の問題か。もう少し進んだ岩山の上で急するぞ。そこからしばらくは平坦だからな」

「は、はい……」

「大丈夫かな?」

「慣れない運動をして変に疲れただけだろ。すぐに問題無くなる」


その地点に到着し、ドラが休息を取っている間、フリスは魔力探知で範囲を球から変える練習をしつつ、獲物を探す。またソラは望遠鏡のような魔法を使い、少しずつだが魔力探知の範囲外を探していく。

しかし、フリスの方が早かった。


「見つけたよ」

「ん?ああ、あのビックベアーか」

「Cランクね。大丈夫?」

「ドラの今の実力なら間違いなく勝てる。やれるな?」

「おう!」

「よし。もっと近付いたら、戦い始めろ」


4人はビックベアーの風下にいるため、気付かれにくい。ソラ達の基準に達していないドラでも、バレないように行動することはできた。

そして視認が容易な距離になった時、ドラは突撃した。


「ラァ!」

「……はぁ」


ドラの振るった槍はビックベアーの左足を切り、左腕を裂く。反撃されるも、全て避けるか槍で逸らした。


「ダラァ!」


さらに両眼を突く。ビックベアーは闇雲に腕を振るうが、そんなものが当たるわけがない。


「トドメ!」


そして最後に心臓を貫いた。

1つも傷を負うこと無く仕留めたのだ。ドラは自慢気で、褒められると思っただろう。


「どうだ!」

「……まず1つ」

「おう?」

「なんで最初に首を攻撃しない!狙えただろ!」


だがソラとしては、及第点には程遠い。確実に仕留める手があったのに、それをしなかったからである。


「え、それは実力を見るって……」

「だからって、仕留められる時に仕留めないのは言語道断だ!だいたい……」


この説教は、天頂近くにあった太陽が木に隠れ始めるまで続いた。ドラとしては予想外だっただろうが、良い薬だ。











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