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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第11話 滝都フォール①

「ひゃー!」

「フリス、怪我だけはするなよ」

「はーい」

「……分かってるのかしら?」

「俺が治せるしな……」


滝壺にて水浴び中の3人、真夏なので仕方が無い。……1人だけ滝下りになっているが。


「はあ……」

「憂鬱そうね」

「だってなぁ……ずっとつけられてた上に勇者の師匠だぞ?何を言われるか分からん」

「そうね。それで、どんな人達なのか気になるわ。ソラが気付かないんだもの」

「かなり高い技量を持った連中だろうな……オリクエアの手駒の中でも、上位クラスか」

「町中だけでも、気付けなかったものね」

「外までつけてきてたら、流石に気付く。光宮や風宮にいた期間は見失ってたんだから、確定だ。ただ、町中だけって言ってもな……」


ソラは大きめの岩に座る。ミリアもその隣に腰掛けた。


「ソラは気配に(さと)いものね」

「流石に本職に敵わないってことは分かっていたが……感情的には無視できないな」

「でも、自信をなくすことは無いわ。ちゃんとやってるじゃない」

「何だよそれ、皮肉か?」

「いいえ、違うわ。信頼してるのよ」

「……そんなこと言うな」

「そんな顔で言っても、説得力無いわよ?」


顔を綻ばせていては、威厳も何もありはしない。まあそんな感じなので、ソラとミリアは水浴びをして涼んだ。

ただ町中ではないので、2人とも警戒は怠らない。


「いぇーい!」


1人だけ思いっきり遊んでいるが。


「……フリスは楽しんでるな」

「ええ。本当、まるで子供ね」

「それは前からだろ?そこが可愛いんだが」

「あら、フリスだけなの?」

「ミリアは優しいじゃないか。こういう時もな」

「まったく、口が上手いわね」


先ほどのソラと同じように、微笑んでいては責めているように見えない。まあ、この2人の間にそんなことは無いのだが。

なので、話の内容はこの後のことに移る。


「さてと、オリクエアのことは町に着いてから考えるか」

「対面してからの間違いでしょ?」

「まあ、その通りなんだが。……アルを使ってやろうか」

「やめてあげて。心労で倒れるわよ?」

「親バカな分、ダメージは大きいが……確かに倒れそうだな」

「でしょ?今倒れられると帝国が困るわ」

「アルもだな。何かするのは確定だが、せめて穏便(・・)にしてやるか」

穏便(・・)に、ね……」

「ああ、穏便(・・)にだ」


含みを持たせているだけでなく、ソラは悪い顔もしている。隣にいるミリアも似たような感じだ。

なお、オリクエアがこのタイミングで寒気に襲われたかどうかは、定かではない。


「っと、魔獣だな」

「まあ、出るわよね。何処にいるのよ?」

「向こうの森の方だ。これは……狼か?」

「……疑問系なんて珍しいわね。取り敢えず、フリス!」

「うん!分かってるよ!」

「なら良いわね。それで、ソラ?」

「ああ、原因は分かった。半分が狼で、もう半分がウルフウッドだ」

「2つの群れが1つになったってこと?珍しいわね」

「狼の方はブラウンウルフだな。珍しいというか、普通ないだろ」

「うん。魔人がいないと、滅多に見ないよ」

「帰って来たな。とはいえ、この規模だと魔人はいないはず……自然にできたか」


基本的に、魔獣が別種と群れることはない。別種相手では、下手すれば同族相手ですら、殺し合いをしたりするのだ。一部の高い知能を持った魔獣以外、獣とほとんど変わりはない。


「まあ、その辺りはどうでもいい。町に入る前の手土産だ、殲滅するぞ」

「ええ」

「うん」


その後は語る必要も無いだろう。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「やっと来たか」

「お久しぶりです!」

「アル、元気そうだな」

「はい!」

「背が伸びたみたいね」

「元気すぎて倒れないでね?」

「ミリアお姉さんもフリスお姉さんも、お久しぶりです」


帝国内でも有数の都市、滝都フォール。ここの領主は前述の通りゼーリエル侯爵家だ。オリクエアがいてもおかしくないし、ソラも覚悟していたが……やられたことを考えると腑に落ちなかった。

また、その隣にいるアルベルトはもう10歳である。貴族の跡取りである彼は、帝王学なども学んでいるのだろう。前よりも責任感が強く、他人を見下すことのない、しっかりした為政者となる下地ができているようだ。


「それにしても、遅いぞ。こっちは明後日にはここを出るんだが」

「そうか、こっちはつけられてたって聞いたばかりで腹が立ってるんだ」

「子供だな……それより依頼だ。帝都まで護衛してくれ」

「断る。3日後からダンジョンに潜るからな」

「指名依頼にするぞ?」

「商人や貴族からの指名依頼は断っても問題無い。多少信頼が落ちても、すぐに取り戻せる」


SSランク冒険者なら、仕事に困ることはない。特にソラ達は今までに立てた武功が滅茶苦茶なため、多少の無茶は効くのだ。


「ふ、変わらないな」

「まったくだ。こっちは良い迷惑だぞ」

「部下に後をつけさせていたのはすまなかった。帝国として、勇者の師匠の情報は少しでも多く欲しかったからな」

「だからって、その後もつける必要は無いだろ」

「情報が必要だと言っただろう」

「本当か?」

「……アルを喜ばせたくてな。すまない」


その理由は分からなくもないが、もう少しやり方というものがあるだろう。そう思いつつ、ソラは視線を隣に移した。


「さて……アル、練兵場はあるか?」

「向こうにありますけど……稽古をつけてくれるんですか?」

「ああ。前からどれだけ成長したのか、楽しみだな」

「はい!」


アルベルトが先導し、ソラは練兵場へ向かう。


「ミリちゃん、わたし達はどうする?」

「そうね……ソラ達と一緒に行きましょう。見てあげるのも良いわ」

「うん。それで良いよ」


そしてミリアとフリスもついていった。オリクエアは仕事でもあるのか、悔しそうに屋敷へ戻っていく。ソラの目論見通りだ。

練兵場は直径150mほどの広さであり、その内部には様々な装飾が凝らされていた。そんな芸術館にもなりそうな練兵場に到着した4人、そのうちアルベルトの手には木剣が、ソラの手には木刀が握られている。この2人は練兵場の中央へ向かい、ミリアとフリスは上の観戦用の椅子に座り待つ。


「ここか」

「はい。ここはゼーリエル侯爵家の町なので、帝都より大きな練兵場を使えます」

「この見た目だと、祭りの会場にもなりそうだな」

「凄いですね。何で分かったんですか?」

「オリクエアが、お前の父親が、この綺麗な内装を何にも使わないと思うか?」

「……絶対使います。先祖代々なんて関係ない、とか言いそうです」

「確かに言いそうだな……まあ、雑談はこの辺りで終わりにするか。さあ、かかって来い!」

「はい!」


そのセリフを受け、アルベルトは木剣を構えた。ソラは特に構えなどは取っていないが、油断は一切存在しない。


「やぁぁ!」


アルベルトが初手に選んだのは突き。格上の相手に対し、威力よりもスピードで勝負するというのは悪くない選択だ。

それでも、ソラが相手では通じない。アルベルトの攻撃は全て避けられ、何度も首筋に鞘が当てられる。圧倒的な実力差だが、アルベルトは諦めず立ち向かう。


「大振りはするな。無駄無く鋭く、だ」

「は、はい!」

「相手の動きも予想しろ。土壇場だといつか手詰まりになる」

「分かりました!」


ソラは適時アドバイスをし、稽古を続けていく。そこに容赦は欠片も無い。それが無茶だとしても、やってほしいからだ。

確かに、ソラはアルベルトの成長の上限は低いとみている。だが、それが乗り越えられないものだとは限らない。教え子にはできる限り成長して欲しいのだ。

とはいえアルベルトはまだ子ども、そんなことを考えているうちに限界に達した。


「よし、ここまでだ」

「ありがとう、ございました……」


アルベルトの疲労はそう多いわけではなく、休めばすぐに回復する程度だ。ソラはアルベルトを連れて壁の方まで行くと、水を与えて休憩にした。その際、魔法で岩の椅子を作ったりしている。


「順調に強くなってる。努力は怠らなかったみたいだな。偉いぞ」

「でも、ヒカリさんはもっと凄いです。魔法があるのに、剣も使えるんですから」

「高い才能があるってことだ。諦めて、自分の道を進むしかない」

「そうですか……」

「そんなに気を落とすな。誰にでも、埋められない才能の差はある」

「ソラさんもあるんですか?」

「ああ。例えば、俺はミリアほど速くは、っと」


ソラは薄刃陽炎を抜き背後へ一閃する。それは2つの刃を振るった人影ごと弾き飛ばした。

その人影……ミリアは着地するなり、口を開く。


「何言ってるのよ。ちゃんと反応して、反撃までしてくるじゃない」

「色々と裏技があるからな。正攻法だと、俺が負けかねないぞ」

「そんなの関係無いくらいの技があるでしょ?」

「無茶を言うな。知覚できなかったら反応できないぞ」

「……見えませんでした」


完全な不意打ちであり、アルベルトが反応できなくても仕方がない。知覚どうこう以前に、隔絶した速度差があったのだ。……ソラなら殺気だけで反撃をしそうだが。


「さて、戻るか……すみません、アルを風呂に入れておいてください」

「かしこまりました」

「ちょっ、ソラさん」

「流石にそんな土まみれは許容されないぞ」


アルベルトをメイドに預け、ソラ達は屋敷へ戻る。この町には諜報関連の者が多いのか、例の事件についてのことを知っている人が多く、感謝の目で見られることが何度もあった。


「ミリア、フリス」

「何?」

「どうしたのよ?」

「一応言っておくが、言いくるめられないよう注意しろよ」

「え?」

「オリクエアの奴、多分まだ諦めてない」

「まったく、早く諦めてほしいのにね」

「仕方ないだろ。皇帝に何か言われてるかもしれないし、親馬鹿だし」

「そっか、そうだね」


前者はともかく後者はあれだが、本当のことだから仕方がない。そしてこんなこと、ソラ達には関係無い。


「さてと、取り敢えずは他人の金でメシを食うか」

「酷いこと言うのね」

「笑ながら言っても説得力無いぞ」

「だって本当のことなんだもん。ね?」

「ええ。報酬の残りみたいなものよ」

「予想よりしたたかな答えだな」


したたかというレベルでは無い気がする。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「しっ!」

「はぁ!」

「そこ!」


真夜中、丑三つ時のあたり。ゼーリエル家の屋敷に借りた寝室にて、ソラ達は黒服を相手に戦っている。

黒服は暗殺者らしく、短剣やスローイングダガーなど、小さな刃物を多用している。その表面には薬が塗られているだろう。それをソラ達は避け、的確に反撃していく。すでに部屋の中には30近い人の山ができていた。

突然の襲撃だが、こいつらの所属は明らかだ。それゆえ、血が噴き出したりはしない。


「ふぅ、これで終わりだな?」

「はい……おっしゃる通りです……」

「素晴らしいな」

「……何処で見てたんだよ」


伸びているのは、ゼーリエル家の私兵達だ。諜報を担う家とはいえ、諜報だけではない。暗殺も業務の1つに入っている。それをソラ達を使って訓練したのだーーソラ達には一切伝えていなかったのだが。

そのため、ソラはいきなり現れたオリクエアに批判的な目を向ける。


「流石は勇者の師匠だ」

「勇者に暗殺者は関係無いぞ。あいつらは逆にあしらわれる。というか、何でも俺達に伝えない」

「伝えたら訓練にならないだろう?」

「危うく最初の10人くらいを殺すところだったぞ。これが1つだけだったら、確実に()ってたな」


そう言ってソラが手に取ったのは、ゼーリエル侯爵家の家紋の入ったアクセサリーだ。黒服達はアクセサリーを3つ以上、見えるように身につけている。

ただ、これをつけさせた張本人であろう人物は、素知らぬ顔で別の話題を出してきた。


「追跡は気付かれなかったから、これも上手くいくと思ったが……蹂躙されただけか」

「当たり前だ。戦いは俺達の本業だぞ」

「気配は分からなかったんだろ?」

「いくら諜報関連に疎くても、殺気をぶつけられれば別だ。達人クラスからしたら、この程度隠したとは言わないぞ」

「達人だと自分で言うんだな」

「察知の方は簡単だ。隠す方が難しい」


殺気は殺したい相手だけでなく、攻撃を加える部位にも向けられることが多い。ソラの戦闘技術はこれも利用しており、同じ方法を取られないよう、殺気を分散させたり隠したりする技も身につけている。

そんなソラからすれば、黒服達は及第点には程遠い。ソラを基準としたらほとんどの人が落第になってしまうのだが。


「だが、寝ている間によく気付いたな」

「仕方ないだろ。3人しかいないんだから、夜営の時はどうしても寝ながら警戒する必要がある」

「それで大丈夫なのか?」

「まあ、必要な睡眠時間は短いからな。不都合が起きたことはない」

「なるほど……」


実際は、魔法で警戒する癖がついていただけだ。ただ、迂闊に話すとどうなるか分からないので、おくびにも出さない。

また、神気による肉体の変化も影響を及ぼしている。こちらはより言えないが。


「さて、これで失礼する。お前達、この者達を連れて行け」

「「「「は!」」」」

「彼らは?」

「半分は見習いだ。見学にもならなかったがな」

「そう言うな。まだ話したいことはあるかもしれないが、もう寝させてもらうぞ」

「分かった。夜遅くにすまないな」

「次からはちゃんと言ってくれ」


倒れている黒服を別の黒服が担ぎ出すと、オリクエアとともに扉の外へ出ていく。

それを見送った3人は、すぐにベッドに腰掛けた。やはり、慣れていても辛いものは辛いらしい。


「まったく、迷惑にもほどがあるだろ」

「ここで奇襲されるなんて思ってもいなかったわ。ソラが気付かなかったら負けてたわね」

「そんなことより、眠いよ〜」

「そうだな。寝るか」

「うん」

「普段よりは気楽に寝れるものね」


翌日、アルベルトに非難されるオリクエアを見て3人は爆笑すのが、今は夢の中にいる。











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