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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第10話 花都フラワリア②



「確かにこれは……雑草駆除だな」

「でしょう?」

「手加減はいらないよ」

「証明部位は残さないといけないけどな。まあつまり、この町の周りは……」


見渡した先にいるのは、畳半畳ほどの大きさを持ったコケ、木でできた蛇や狼や熊、さらにビックトレントなど。植物のような魔獣ばかりである。


「植物魔獣のっ、巣窟か!」


雑草駆除とは、Cランク以上の植物系魔獣の討伐依頼のことだった。


「あれだけ花だらけなんだから、予想できなくもないけどね」

「でも、こういうのって珍しいよね」

「この一帯だけとはいえ、ゴブリンすらほぼ駆逐されるレベルってのはな。集まりすぎだろ……魔人でもいるんじゃないか?」

「……否定できないわね。実際問題、集まりすぎだもの」

「でもそれだったら、町を攻めるんじゃない?こんな感じなのは昔かららしいし、違うと思うよ」

「確かに。正解は見つけられそうにないか」

「それより、早く倒しちゃおうよ」

「そうだな」


とはいえ下限は5体、ソラ達なら簡単に終わらせてしまう。


「さて、次はどこだ?」

「倒せる数に制限は無いんだから、気にしなくても良いけど……依頼としてはこっちよ」

「……奥か。まあ、予想はできていたが」

「多分その通りだよ。全部だもん」

「はあ……採取もあったし、少し面倒だな」


ミリアとフリスの案内で奥へ進む。今度は場所の分かっている依頼のようだが……


「大木伐採……間違ってはないが……」

「だって大きいんだもん」

「それに、そのまま持っていけば追加報酬よ」

「それが大変なんだぞ……仕方ない、やるか。援護は任せた」


ソラ達の前にあるのは全高4mの大木、メガトレントだ。幹は直径1m以上と太く、木材として使えるように切断するのは容易ではない。今のソラでも、集中しなければ難しい。


「ちっ、やっぱり魔法の方が楽か」


飛ばされた葉を、振るわれた枝を避け、接近していく。2人の方にもある程度攻撃が行っているため、比較的楽になっていた。


「ふぅ……これで終わりだ」


メガトレントがミリアとフリスに気を取られた一瞬を突き、ソラは足を広げて腰を落とし、納刀して居合の構えを取る。そして振るった。


「うわぁ……」

「……凄いわね」

「一応、稽古の内容に似たこともあったからな」


高さと太さの比がおかしいため、また枝がやたらと大きく長いため、メガトレントだったものはほとんど倒れない。

それへソラは近付くと、薄刃陽炎を使って枝葉を打ち払う。その断面はヤスリをかけたかのように滑らかだ。水や風の魔法では余程上手くやらない限り、ここまで綺麗に切断できないだろう。


「よくこんなことできるよね」

「日本刀は切断重視だからな。技がしっかりしていれば、大抵のものは斬れる」

「それでもよ。普通ならできないわ」

「まあ、相当稽古を重ねないとできないのは確かだが……ん?」


2人から秘密にするためだと言われ、今のソラは魔力探知を切っている。そのため探知は五感に頼るしかないのだが……奥に目を向けた時、ソラは何かを見つけた。


「なあミリア、フリス……」

「ええ……分かってるわ」

「え?……あんなの、聞いてないよ?」

「把握されてなかったか、増えたんだろうな……」


視線の先には、同様の大木が3本。すでに3人に狙いを定めて来ている。

というか、この様子だとフリスも魔力探知は切っているらしい。


「まったく……1人1体だ。良いな?」

「綺麗にはできないわよ?」

「1体は確保してる。気にしなくていい」

「分かった。じゃあ、燃やすね」

「それはやめろ」


フリスの制御力なら森に被害を出したりしないだろうが、木材としては使えなくなる。トレント系は優秀な素材となるため、追加報酬は多いのだ。


「しっ!」

「やぁ!」

「いけー!」


まあ、戦い自体は問題無い。ソラは同じく居合、ミリアは枝を切りつつ根元を削って、フリスは風魔法で根元を削って倒した。


「さて、次だな」

「うん。ミリちゃん、どこ?」

「覚えなさいよ……今度はこっちね」

「大変そうだな」

「昔からだもの。慣れるわ」

「どうしたの?」


フリスが素なのかワザとなのかは分からないが、2人はため息を吐く。その後森の中を進み、次の獲物を見つけた。……そいつの見た目的には、見つけたくなかったが。


「……薬草って、アレがか?」

「ええ。実際に使われてるらしいわ」

「臭いがきつそうなんだが……」

「うん、酷いよ」

「そうだよな……ルーララフレシア、ラフレシアだもんな……」


ルーララフレシア、Bランク魔獣だがAランクのメガトレントを凌駕するサイズを持ち、ツタを使った攻撃をしてくる、ラフレシア型の魔獣だ。ラフレシアということで、腐臭も当然ある。

だが、こいつの真価は他のことだ。


「いくら知ってたとしても、これはやめてほしいな。面倒だ」

「うん。わたしも嫌かな」

「虫だらけってのはね……嫌いじゃないからまだマシだけど」


ルーララフレシアの周りには、キラービーやポイズンスパイダーなどの虫系魔獣が何体もいる。ムカデ系がいないだけマシかもしれないが、厄介だ。


「さて、どうしかけるか……」

「ルーララフレシアの移動速度は遅かったはずよ。そのままでもいけるわ」

「虫は私とミリちゃんで相手して、ソラ君がルーララフレシアとやる?」

「それでも良いが……3人で虫を殲滅した後、連携してやっても良くないか?幸い、ルーララフレシア自身の戦闘能力は低い」

「そうね……」


今ソラ達は、ルーララフレシアから100mほど離れた茂みの中に隠れている。3人にとっては一瞬でゼロにできる距離だが、ルーララフレシア側にはかなりの距離のようだ。


「ソラの案で良いわ。久しぶりに3人でやりたいもの」

「うん。わたしも良いよ〜」

「よし、じゃあ行くか」


方針が決まり、フリスの弾幕を合図に突入する。


「ミリア、正面は任せろ」

「裏から回るのね。分かったわ」


片方の足を吹き飛ばされたクモや、羽根が千切れたハチは蹴られ、斬られていく。すぐに壁に穴が開いた。


「ミリア、牽制!フリスは周りを倒せ!」

「ええ!ソラも早く来なさいよ」

「一気にやっちゃう!ソラ君下がって!」

「ああ!」


ルーララフレシアのツタはミリアが引きつけ、フリスが魔法で周辺の虫系魔獣を攻撃する。そして残党をソラが処理していった。


「ミリア!左だ!」

「はぁ!ありがと」

「大丈夫ならそれでいい」


ミリアを狙った最後の1体も倒し、ルーララフレシアは丸裸だ。ツタは再生しないので、ドンドン数を減らしていく。


「ミリア!花の根元を斬るぞ!」

「そうするしかないわね。ソラ、援護お願い」

「良いのか?臭うぞ」

「私の方が良いわ。臭いは……後でお願いね」

「はぁ……分かった、任せる」

「ええ」

「2人とも行くよ!」


フリスの風刃を皮切りに、ソラとミリアの斬撃が襲いかかる。ソラの一閃によりツタの約3分の1がまとめて断ち切られた所へ、ミリアが入り込み……


「これで、終わり!」


花を完全に分離した。やはり花は人の頭のような部位なのか、それだけでルーララフレシアは動かなくなる。

だが3人の、特にミリアの顔は暗めだ。


「うっ、やっぱり臭うわね……」

「まったく……ちょっと待ってろ」

「流石にこれは……本当にできてる……」

「できるんだ……凄いね」

「臭いの元になってる分子を壊したからな。他の分子との区別が大変だが、神気も使って二酸化炭素や水にすれば……」


詳しく説明しても、化学系の知識の劣るベフィアではかなり難しいことだ。その上、そういった知識は広く知られているものではない。


「ミリちゃん、分かる?」

「神気を使ってることはね……」

「……ま、まあ、できるんだから良いだろ」


なので、こうやって流すしかなくなってしまう。2人もそこまで気にしないので、問題は無いが。


「それより、何処を回収するんだ?ツタか?」

「……花よ」

「……これを使うのか?」

「そうらしいよ」

「昔の人は何でこんなのを使おうと思ったんだか……」


ブツクサ言いつつ、花を回収したソラ。ツタは何にも使わないそうなので、土に埋める。

そして探索を再開し、最後の獲物を見つけた。


「観賞用……何か間違ってる気がするんだが」

「気のせいよ。そういうことにしましょう」


ルーララフレシアに比べれば小さいが、それでもかなりの大きさを持つBランク魔獣、ヒルウィップ。こいつは中央に大きな花を持ち、それを大量のツタが守っている存在だ。

そして依頼は、こいつの花を綺麗な状態で集めることである。


「確かに綺麗ではあるが……デカすぎるだろ」

「それは気にしちゃダメだよ」

「部屋の隅にでも置いておくのよ、きっと」

「それくらいじゃないと無理か……下があんなツタだって知ってるかどうか怪しいが」

「気にしたって意味ないよ。それで、行く?」

「ああ。さっきと同じで、3人で叩くぞ」


ヒルウィップの花はユリに似ており、そのサイズゆえ大きい。ふさわしいサイズの花瓶に入れれば映えるかもしれないが、ソラとしては遠慮したいところだった。

が、そういうことばかり気にしていられないので、攻撃を開始する。まずはソラがツタを数本斬り落とす。だが……


「ちっ、再生するんだったな!」

「ゆっくりだけど、厄介ね」

「燃やしちゃう?」

「ダメだ。火が直接当たらなかったとしても、花が綺麗なままとは限らない。地道にいくぞ」


純粋に、攻撃と再生のせめぎ合いだ。……ソラ達相手だと競争になどならないのだが。


「よし、終わりだ」


ヒルウィップのツタは全て無くなり、花は斬り落とされた。まあ、当然の結果である。


「これで終わりだな」

「ええ。依頼分はこれだけよ」

「でも、倒せるだけ倒そうよ。追加だってあるんだし」

「そうだな……帰るのはあと少し探索してからにするか」

「分かったわ。私ももう少しやりたいし」

「どれだけ見つけれるかな?」


その後、やりすぎたソラ達によりギルドの受付嬢が悲鳴をあげることになるのだが、3人が気にすることはなかった。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「凄いね〜」

「ああ。ここに陣取って正解だな」

「そうね。花も星も綺麗だし」

「町の方だって綺麗だよ」

「こういう場所での花酒、悪くないな」


大きめの(ます)に入れた日本酒に花弁を浮かべ、星や花を見ながら呑む。ミリアとフリスも夜食をつまみつつ、晩酌をしていた。

なお、その場所は……


「でも、ここにいて大丈夫なのよね?城壁の塔の上なんて」

「問題無い。神気も使って隠れてるからな」

「……本気なんだね」

「こんなことで捕まってたら、馬鹿みたいだぞ」

「それもそうね」


あまりにも本気すぎる。まあ、簡単にできてしまうので問題にもならないが。


「でもまあ、こんな風になるなんて思ってもいなかったな……」

「何?」

「こんな場所で、2人と結婚して、綺麗な景色を見ながら、一緒に酒を呑む。こんなこと、考えられなかったからな」

「ソラったら……」


酒の勢いから、普段は言わないようなことまで言ってしまう。


「ねえ、ソラ君……」

「ん?どうした?」

「……もしここにいなかったらって、考えたことある?」

「それは……俺がベフィアに来なかったらってことか?」

「うん……」

「はぁ……ミリア、もしかして相談されてたのはこれか?」

「ええ。心配性よね」

「仕方ないじゃん!ソラ君が無茶ばっかりしてるように見えたんだから!」

「そうか……すまないな」


それはソラだけでなく、フリスもだ。だがこれは、ソラの心に大きく響いた。


「もしベフィアに来なかったら、か……」

「え?」

「友達と馬鹿やって、何かに挫折して、何かを達成して喜んで……多分2人とは違う誰かと結婚して、子どもを育てて、老いて、死ぬ。そんな普通の暮らしを続けてただろうさ」

「ソラ……」

「……俺は、あの世界が好きだった。馬鹿で駄目で不完全で、争いばっかりで、エゴだらけで、でも何故か上手くいってる、あの世界が」

「やっぱり、未練があるんだね……」

「でもな……」


平和だからこそ、魔獣なんて共通の敵がいないからこそ、様々な問題がある。だが、それを乗り越え、人類は発展していった。

そしてソラは、それが好きだったのだ。人が必ず幸運になるとは限らない、だが不幸から抜け出す手段は残っている、あの世界が。自身が入れるかどうかは別にして。


「もしかしたら、俺はそんな世界に馴染めなかったかもしれない」

「え?」

「どういうこと?」

「稽古とはいえ、戦いが好きになった俺に怯えない人はいない。強くなりすぎて、化け物呼ばわりされるかもしれない。壊れてしまった俺のことを、本当に理解してもらえることなんてない……」

「……」

「師範や師範代にさえ避けられていたのは分かってたさ。俺の方が強いんじゃないか、そう思わせるほどには強かったからな」

「それは……」

「どうしても、異常すぎたんだよ、俺は。あの世界で、あの国で暮らしていくにはな」

「ソラ君……」

「誰にも認めなれない、誰にも信じられない、誰にも愛されない。そんなんだったら、1人で戦って死んだ方がマシなんじゃないか……そんな風に考えたこともあった」


絶対にそうなるとは限らない、それでも可能性はある。それをソラは恐れたのだ。

だがそれは、もう必要ない。


「だけど……今は、2人がいる」

「え?」

「俺がどんな無茶をやっても、ついて来ようと努力してくれる。俺を目指して進んでくれる。俺と一緒に歩んでくれる……それだけでも嬉しいんだよ」

「ふふ、まったく……」

「だから本当に、2人を好きになれて良かった。それだけでもう、幸せだ」

「ソラ君……」

「よくそんな恥ずかしいことが言えるわね」

「前にも言っただろ?俺の本心だ」

「ソラったら」

「ただまあ……」


ここでソラは一気に酒を呷る。さらにもう1杯、一息に呑んだ。


「こういうガラにないことは言うものじゃないな。呑んで忘れよう」

「そうしたいかもしれないけど……でもソラ?」

「何だ、ミリア?」

「私達、多分神気の影響なんだと思うけど、酔いにくくなってるのよ?」

「……そうだったな」

「多分、無理だね」


翌日、このこともきっちり覚えてしまっていたソラであった。












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