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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第8話 風宮②



「開けるぞ。良いな?」

「ええ。準備万端よ」

「作戦はさっきの通り?」

「ああ。変更があったら言う」

「分かった〜」

「じゃあ、行きましょう」


ボスは予想通り、巨大な翼を持った緑のドラゴン。竜巣よりも広いボス部屋の中央に陣取っており、距離感がおかしくなりそうだった。


「……風の古竜(エンシェントドラゴン)、やっぱりか」

『そう、我こそは風の精霊王アルテミス様の側近……』

「御託はいらないわ」

「大人しく倒されて」

「言うなら死んでから言え」


魔法の乱舞が古竜を襲う。ソラの氷とフリスの水、どちらもかなりの威力だ。

なお、ミリアはソラに言われた通りにルーメリアスを振るっていた。見た目はただの素振りだが、それにかけられたエンチャントが陣を作り、2人の魔法を大幅に強化している。ソラの実験が、こんな形で実っていた。


『いきなり何をする!』

「ちっ、無事か」

「なら次ね」

「いくよ、ソラ君」

「ああ」

『ちょっと待て!話くらい聞かんか!』

「1回嫌な思いをしてるんだ。真面目に聞いてられるか」


と言いつつ、ソラは全方位から魔法で生み出した、大量の魔力を込めた鉄の弾丸を撃つ。フリスも細く絞った雷を数十本、避けられぬ様に放った。

だが、弾丸は全て古竜の近くでそれ、雷は霧散する。


「え?」

『ふはは、そのようなものは効かぬ』

「……高圧の空気を纏っているのか。あの程度の弾丸だと圧力差を越えることはできないし、それだけ絶縁体があれば雷も通らない」

『何を言っているかわからんが……我が壁はそのようなものでは貫けんぞ』

「だったら、こうするだけだ。メテオレイ」


質量と速度が伴えば防げない。そう考えたソラは高い天井のすぐそばに巨大な(隕石)を作り出し、それを雷魔法で加速、古竜へ向けて叩きつける。


『やらせぬわ!』


だがそれは、ブレスによって迎撃された。ソラの思惑通りに。


「落とされたか……予定通りだ」

「ええ」


双剣が纏うのは、漆黒の如き闇。いくら古竜が作った魔法とはいえ、濃密な魔力と神気を含んだ闇を完全に防げるものではない。


『な!紙の如く⁉︎』

「全然違うわよ!」


だが、空気の壁は切り裂いているとはいえ、ミリアもかなりのスピードと力を込めている。そんな簡単にやれているわけでは無いのだ。

なお、これは対魔法特化にソラが作ったものなので、物理的に大きな意味は無い。


「鱗は切れないわね……」

「だが、それでいい」

「うん」

『ぬかせぇ!』

「うるさい。黙ってろ」

『ふが⁉︎』


……口の中へ巨大な水球を叩き込む。さらに雷も放った。ワザと不純物を混ぜた水、導電性は良い。


『この……』

「フリス!今だ!」


そして古竜が怒り、力を溜めようとした瞬間、そこを狙う。

ソラはペンのような物体を3本、左手に持ち、投げる。それは雷魔法の加速も受け、高速で飛んでいく。さらに古竜の目の前で先端が開き、中身を古竜の周りにばらまいた。

その中身とは……黒鉛と硫黄と硝石の粉末。


『ガァ⁉︎』


つまり黒色火薬だ。フリスの火球が引火し、大爆発を起こした。

古竜の周りは高気圧、空気(酸素)が大量にある……つまりよく燃え、衝撃波も強力になる。物理現象のみとはいえこの威力、古竜にもかなりのダメージを与えていた。


『ぐぅ……だが、この程度!』

「いや……終わりだ」

「その通りね」

『な⁉︎まっ……』

「誰が待つか」

「はぁ!」


ソラが首を、ミリアが心臓を、それぞれ斬り裂く。神気を込めていたこともあり、古竜の肉体でも簡単に切断された。


「もう終わり?」

「早……くは無いわね。光宮と比べると早いけど、余裕なんて無かったわ」

「空気の壁から何から、ほぼ完全に対策をしていたからな。予想が外れなくてよかったが」

「本当にその通りよね……」

「それで、もう大丈夫なの?」

「ああ。トドメには神気を使ったし、復活することはない。消耗が大きいから、復活されたら最悪だしな」

「かなり使っちゃったもんね」


古竜相手に遅延戦術など、自殺行為でしかない。魔力を一気に使い、短期決戦で倒さなければ、ソラ達の方が負けていただろう。

が、ソラは魔水晶を回収すると、扉とは別の方向に目を向けた。


「さてと……そこにいるんだろ?」

『流石ですね。お分かりでしたか』


その視線の先、何も無かった空間から人型が現れる。というか、人だ。それもかなりの美人である。アポロンのあの光は何だったのかと叫びたいくらい、マトモな女性だった。

ちなみに、ミリアとフリスが気付いていなかったようで、かなり驚いている。


「え、いたの?」

「……綺麗な人……」

『ふふ。ミリア様、そんなに見つめられても、貴女様にはお相手がございますでしょう?』

「そ、そそ、そそそそそんなのじゃないわよ!」

「落ち着け、ミリア。からかわれただけだ」

「わ、わわ、わわ分かってるわよ!」

『……大丈夫、なのでしょうか?』

「まあ、からかうと時々こうなるな」

「久しぶりな気もするけどね」


ソラとフリスにいじられるのには慣れても、他の人にされるのはまだ無理なようだ。これが戦闘中ならすぐに戻るのだろうが……今は違うので良しとする。


「落ち着いたか?」

「え、ええ……そ、そんなつもりはないからね?」

「ああ、分かってる。ミリアは俺のものだし、俺はミリアのものだ」

「そんな恥ずかしいこと言わないでよ……バカみたいじゃない」

「ねえ?わたしは?」

「言わないと駄目か?」

「ううん、知ってるもん」


時間をかけてミリアを落ち着かせる。その行為自体は間違いではない。

だが、3人だけの世界に入り込むのも、あまりよろしくない。


『あの……お話は……』


この場にはもう1()いるのだから。


「「「あ」」」

『忘れていたんですね……』

「いや、意図的に思考の外に置いていた」

『酷いです……』


ミリアよりもいじりやすそう、そうソラは思ってしまったのは内緒だ。


『では、自己紹介を。私はアルテミス、風の精霊王でございます』

「知ってると思うが、俺達はソラ、ミリア、フリスだ。これからしばらく、よろしく頼む」

『はい』


3人と1柱は扉を開け、奥の部屋へ移動する。その部屋は木製だが、大量の魔力や神気で保護されているため、並の金属より頑丈だろう。装飾も綺麗だ。

なお当然ながら、その部屋には宝箱もあったが……誰も気にしていなかった。


『では、何を致しますか?』

「そうだな……取り敢えず、お前の神術を見せてもらうことは可能か?」

『かしこまりました』


アルテミスは眼を閉じ、神術を使う。彼女の術はアポロンとは違い、神気を粒子状にしてあたりに振りまいている。


息吹(いぶ)け、命よ』


そして言霊に従うように、柱という柱から芽が出、成長し、若木となった。すぐに部屋の中は森のように緑で囲まれる。

そしてアルテミスが術を操作すると、逆再生のように柱は元に戻った。


「植物を操る?風だけでできるのか?」

『いいえ。魔力のみですと、風の他に土や水、それに光も必要になります。ですが神気ですので、この辺りはどうにかできます』

「風以外の魔法も使えるの?」

『精霊王ですので。最も得意なのが風というだけです』

「そうなのね……やっぱり私も……」

「ミリちゃん?」

「何でもないわ」


前回の会話からミリアが何を考えているのか、ソラは予想できていた。だが、指摘はしない。持つ者が言うと、嫌味のように聞こえかねないからだ。


「面白そうだな……やってみるか」

『それよりも、使って慣れること、神気を増やす方が先決です。応用よりも、基礎の方が大事ですので』

「そうだが、やってみたいんだよな……基礎練習の後に少し試すだけにしよう」

「基礎練習って言ってるけど、絶対私達とは規模が違うわよね」

「そうだね。わたし達は神気を混ぜる練習だけど、ソラ君は神術の練習だもん」

『その通りです。ソラ様だけ隔離いたしましょうか?』

「その方が良いかもしれないわね」

「お前らな……」

「冗談よ」


気が合うのか、もうすでに2人とアルテミスは仲が良さそうだ。ソラも、微笑ましく見ている。

若干疎外感を感じていたりするが。


「さてと……やるか」


そんな邪念は追い出し、ソラは集中する。

戦闘中では無いので急ぐ必要はない。だがそれ故に、集中の度合いは深かった。


「光よ」


光球を自身の周囲で回転させつつ、次第に複雑な軌道を通らせていく。また、操る数も増やす。


「火よ、水よ、土よ、風よ、氷よ、雷よ、闇よ」


さらに光だけでなく、8属性全ての球を作り出して操った。


「今ここに、全ての力を示さん」


そして、新たな術の開発。基礎的な使い方の戦闘用神術だが、同時並行でやるにはかなりの難易度がある。基礎的な理論は既にできているとはいえ、難しいことに変わりはない。

だがこの神術は、並行して行った方が効率が良い。言葉にし、整理していく。


「夢より(うつつ)に現れしものよ」


ベフィアでは8属性、地球では四元素や陰陽に五行など。この世を統べる法則は、古来から様々な捉え方がなされてきた。

そして突き詰めれば……1つの(ことわり)に行き着く。


「紡がれ、集いて……原初へ帰れ」


エネルギーは物質に変化し、物質はエネルギーに変化する。アインシュタインの見つけ出した性質。そしてそこから生み出される原初の……


「あー、失敗か」


だが、それは形にならず霧散してしまう。ソラは残念そうにしているが……この神術、他の人からしたら酷く恐ろしいものらしい。


「ソ、ソラ君……?」

「何をやったのよ……」

『な、何なんですか、今の……』


3人(2人+1柱)の目は、明らかに今の神術に怯えていた。異質なものだとは分かっていたが、ここまで怯えられるのはソラとしても予想外だ。


「ん?新しい神術だ。失敗したけどな」

『だからってそんな……こ、理に反します!』

「そういうつもりで作ったからな……まあ、俺の力が足りなくて上手くいかなかったが」

『扱うには格が足りなかったのでしょうか?ですがそれだと、暴走しそうなものですが……』

「そうなる前に強制終了させたさ。安全装置まで考えて作らないと、ちゃんとした術とは言えない」

『そ、そうですか』


アルテミスは戸惑っているが、ソラはそこまで気にしない。失敗することの方が当たり前だからだ。

もしかしたら、精霊王といえ自然に近い存在ゆえ、アルテミスはあまり試行錯誤というものを行ってこなかったのかもしれない。ソラには一切関係ないが。


「ちなみに、今のはどう感じた?」

「怖かったわ……こっちに来ないって分かってても、死ぬかと思ったわ」

「凄いエネルギーだったもん。なんか……全部飲み込んじゃうみたいな」

「すまない。だが、そこは成功か……難しいな」

「あれで成功なの?」

「ああ、俺のイメージも2人に近い。正確にその現象を知っているか否かの差だ」


尤も、ソラも理論上、というか空想上でしか知らない。オリジナルのアレンジも多いため、100%の再現とはならないだろう。だが、ここ一番での切り札となり得る神術だった。


「成功がこれだけ……小規模なら完全に成功すると思ってたんだが……これ以上は今やっても無意味か」

「やめちゃうの?」

「アルテミスが言っただろ?格が足りていないってな」

「実感があるのね」

「ああ。今のプロセスを失敗する原因なんて、それ以外に無かったからな」

「分かるんだ……早くできるようになりたいな〜」

「私も……そうね」

「それは良いが、変に焦るなよ?」

「分かってるわよ」

「大丈夫だもん」


焦っても良いことは無い、というのは3人とも分かっている。1歩ずつ着実に進むつもりだ。


「さて、俺も教える側に回るか」

「え、良いの?」

「スタイルの違う2人を1人で教えるのは効率が悪いだろ?それに、神術だけだとバランスが悪いしな」

『ありがとうございます。ミリア様は教えるのが難しいので……』

「アルテミスは遠距離型だからか……ミリア、手取り足取り教えるのと実戦形式、どっちが良い?」

「……迷うわね」

「良いな〜」

「まったく……ミリア、両方やるぞ。フリスは後で埋め合わせをするから待ってろ」

「はーい」

「分かったわ」

『本当に仲がよろしいのですね』

「まあな」


そして数日間ここで過ごした後、ソラ達は外への帰路についた。











ソラ達にとって、古竜はまだまだ格上です。

攻撃力が高いので連打で倒せていますが、地力勝負になったら確実に負けます。


3人もそれは分かっているので、できる限り反撃させないようにしています。

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