第5話 結路①
「予想はできていたが……この数は大変だ」
「面倒よね。しかも相手は……」
「私とソラ君がメインになっちゃうね」
「今のミリアなら十分対処できる。頼むぞ」
「ええ、ソラとフリスだけに負担を強いるつもりは無いわ」
「そういうのも良いけど、来たよ」
「フリス、頼む。俺達はその直後だ」
ソラ達へ飛んできた弾幕は、フリスが全て叩き落とす。
「行って!」
「ああ」
「ええ」
そして、ソラとミリアは駆けた。上空では弾幕の相殺……いや、圧倒的な弾幕での蹂躙がおきかけているが、フリスも2人の獲物は残すだろう。
そうして見えてきたのは、数多の結晶体だ。
「数は多いが雑魚だ。フリスの援護もある。やるぞ」
「勿論よ」
キューブ系の魔獣は、魔法に特化しており近接戦闘能力は低い。それでも魔弾を連発してくるのだが、ソラ達なら対処は容易である。
特に難しいことも無く、すぐに殲滅した。
「ふう……ソラ、フリスは?」
「大丈夫だ。こっちに向かってる」
「襲撃されたりはしてないのね。良かったわ」
「ここの連中相手に、フリスが遅れをとるとは思えないけどな」
「それもそうね」
談笑しているソラとミリアのところへ向け、走ってくるフリス。2人には劣るとはいえ、並みの前衛より速い。そんなに時間はかからなかった。
「ゴメン、遅くなっちゃった」
「俺達が速いだけだ。気にするな」
「そんなに待ってないとか言いなさいよ」
「取り繕う必要なんてない仲だろ?それにどちらかと言えば、フリスの護衛をやめて走っていった俺達の方が悪い」
「それはそうだけど……」
「ううん、気にしてないから大丈夫だよ」
「まあ、これは気にしなくて良い話か」
「そうね。それにしても、雑魚相手に手間取ったわね……」
「魔力はそんなに使わない方が良いもん。仕方ないよ」
「使わなくても殲滅できるなら、それに越したことはない。それと……」
大規模魔法を使えば簡単に殲滅できるが、余計な魔力消費は無い方が良いに決まっている。探知できない距離だと失敗も多いため、ソラはやらせようとしなかった。
そんなソラは苛立ちを隠さず、近くの柱に埋め込まれた白い球体を睨みつける。
「面倒なのはこいつだな」
「どういうことよ?ただの水晶じゃない」
「いや、こいつで監視されてる。魔力探知の範囲外から攻撃されたこともあったからな」
「うん。わたしより広かったもん」
「キューブの魔力探知範囲が広いってことは?」
「Bランクでそれはありえない。それに、狙いが甘いからな。直接捕捉していれば、こうはならない」
つまり、報告された地点へまんべんなく撃ち込んでいるということだ。山なりで遅いとはいえ、密度が高いと対処も面倒になる。
「これがずっと続くなら……大変ね」
「ああ。Sランクでも相手をするのは厳しいかもな」
「魔法ももっと使うし……大丈夫かな?」
「フリスは守りに徹してもらうか?俺達の負担は増えるが、キューブ系ならなんとかなる」
「そうね……ソラが魔法を使うのはどうなのよ?魔力量はフリスより多いわよね?」
「そんなに得策じゃない。闇魔法が使えるとはいえ、制御力はフリスの方が上だ。山なりだと魔弾も遅くなるし、俺は接近して早めに殲滅した方が良い」
「うん。わたしは大丈夫だから、お願いね」
「分かったわ。早めに倒してくるわね」
こんなに不利な状態で、奇襲することはほぼ不可能だ。どうしても、先手は奪われてしまう。
「……魔法だ。狙われたな」
「数は?」
「多いよ。100くらいかな?」
「いや、初弾だけなら50だ。魔獣の数もそれくらいだろう」
「でも、いくつかは大きいよ?」
「キューブ以外もいるか……エレメントか?」
「多分。Sランクって感じはしないもん」
「じゃあ、そのつもりでいくぞ」
「私が先行するわ。殲滅には時間がかかるけど、撹乱だけなら簡単だもの」
「フリスの負担も減るし、それで良い」
道中に魔法攻撃を受ける可能性もあるが、ミリアのスピードなら回避は簡単だ。任されたミリアは最高速度で駆けていった。
その後ろをソラは進みつつ、高威力な魔法の進路上に闇魔法を作り出す。すると、ミリアが予想外の連絡をしてきた。
『ソラ、聞こえるわよね?』
「ミリア、どうした?」
『魔獣を見下ろす位置にいるんだけど、キューブとエレメントだけじゃないわ』
「……なんだって?」
『エレメントより大きいわ。読みが外れたみたいね』
「Sランク……エレメンタルか?」
『恐らくそうよ。それで、私はこのまま行けば良いのかしら?』
「……いや、俺が着くまで待て。それで陽動の後、背後から一気に倒せ」
『慎重ね。フリスは?』
「今は俺が援護している。というか、俺に飛んでくる数がかなり増えたな」
『大丈夫なのよね?』
「当たり前だ。フリスも、1人で対処できるよな?」
『うん。警戒しながら、歩きながらでも大丈夫だよ』
『それなら問題無いわね。ソラ、任せたわよ』
「ああ」
ソラは軽く言っているが、ソラ目掛けて飛んでくる魔弾はフリスの半分近くなっている。ただ避けるのは簡単なので、陽動としては十分だろう。
それだけで終わらせるソラでは無いが。
「貫け」
降り注ぐ光の雨がキューブを貫いていく。魔法で防御しようとしたエレメントも、半数近くが核を貫かれていた。
だがエレメンタルは上手く防いだため、核には当たっていない。そして無事なエレメントを統率し、反撃を始めた。それが予定通りとも知らずに。
「牽制とはいえ、この程度か……まあ良い、ミリア!」
「行くわよ!」
背後から襲いかかったミリアにより、エレメンタルの核は破壊された。魔力探知があるとしても、そちらに意識が向いていなければ意味がないのだ。
そのため残るエレメントも2人がかりで掃除されていく。フリスが到着する頃には、魔水晶の回収も終えていた。
「あ〜、遅かった〜」
「フリスの負担を減らしたかったもの。早く終わるのは当たり前よ」
「それでも、あれだけじゃつまらないもん。わたしも攻撃して良かったかな?」
「やめておけ。正確な位置が分からないんだから、魔力の無駄だぞ」
「分かってるけど……」
「はぁ……次はフリスが中心でやるか?」
「良いの?」
「多少なら俺がカバーする」
「やったぁ!」
それほどストレスが溜まっていたのか、フリスの喜びようは凄いものだ。だがそれに対し、ソラの顔は暗い。
「ソラ?」
「いや……フリスのことに気付かなかったのがな……」
「仕方ないわ。適材適所とはいえ、勝てる相手なんだもの」
「まあ、俺達がサポートすへば負けることは無いか」
「ええ。それにフリスの魔力が無くなったら、ソラがやれば良いもの」
「おいこら」
無茶苦茶なことを言っているとは分かっているようで、ミリアは笑っている。だがそれに、フリスが便乗した。
「あ、それなら大丈夫だね」
「フリスも待て。そんな勝手に……」
「え、良いよね?」
「良いわよ」
「……お前らなぁ……」
なおこの後、フリスの魔法乱舞に頭を抱えることになるのだが……ちゃんと予想していたようだ。
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「まさか……いるなんて思わなかったわ」
「王国にいるなんて思うわけないもん」
「ダンジョンとはいえ……」
一辺2mの正八面体、そしてその結晶は透明だ。こんな魔獣、1種類しか知らなかった。
「クリスタルエレメント、こんなところにもSSSランクがいるなんてな」
「古竜ほどじゃないでしょうけど、難敵よね」
「魔法で一気に倒しちゃう?」
「距離が近すぎる。光魔法を放ってくるかもしれないし、動き続けるぞ」
まだ戦いは始まっていないが、壮絶な魔法戦になることは予想できる。フリスをかばう余裕は無いだろう。
できることと言えば、早く倒すことだけだ。
「それじゃあ……先手必勝だ!」
無拍子その他諸々幾多の技を使い、一気に最高速度まで加速する。
そして薄刃陽炎を振るい、水晶の体に大きな傷をつけた。
「やった!」
「いけるわね。これなら……」
「いや、無意味だ」
だがクリスタルエレメントは気にした様子もない。負傷部分をすぐさま修復し、魔力を高め始める。
「再生するなんて聞いてないわよ」
「実体じゃなく、魔力でできているのか?……1撃で核を破壊するしかないな」
「それだって簡単じゃないよ。魔法だって強いし、本気だったら近づけないって思うもん」
「だな。じゃあ、避けるぞ!」
クリスタルエレメントから、百を超える光線がソラ達目掛け放たれた。しかも一方向からだけではなく、曲がったりして全方位から迫っている。しかも、マンンガンのように連射してきた。
「どこの弾幕ゲーだ!フリス!無事か⁉︎」
「うん!何とか!」
フリスは防御用の魔弾を放ち、身体強化に神気まで使用して逃げていく。攻撃できそうな時間はなかった。
「俺達がやるしかないな」
「でも、余裕なんてないわよ」
ソラとミリアも、身体強化をフルに使い弾幕を避けている。フリスと比べればまだマシだが、攻撃に転じれるような隙はない。
「……行くか」
「ちょっとソラ⁉︎」
何を血迷ったのか、クリスタルエレメントへ突撃するソラ。だが光線は的確に避け、避けられないものは闇魔法で防いでいる。クリスタルエレメントも焦ったのか、ソラへ火力を集中させた。
そしてそれは、残る2人に余裕ができることを意味する。
「フリス!」
「ミリちゃん!」
そして同時に動いた。その動きは始めから打ち合わせていたかのごとく、連携までもが完璧だった。
もしここで、クリスタルエレメントがソラの排除を優先していたのなら、結果は違っていたかもしれない。だが実際は、ミリアとフリスへ魔弾の大半を放っていた。
「ナイスだ」
気がついた時にはもう遅い。黄と黒と白を纏った薄刃陽炎が核を貫き、クリスタルエレメントの体を崩壊させた。
「2人とも、よく分かったな」
「偶然よ。何も言わなかったから、ビックリしたわ」
「当ってて良かった〜」
「すまない。だが、言ってる余裕は無かったからな」
「それは分かってるわ。だからこそ、何か対策が必要なのよ」
「対策、か……想定パターンを増やすか?」
「そうだね。いろんな魔獣と戦ってきたから、アレだけだと足りないって分かるもん」
奥の部屋に進みつつ、打ち合わせを続ける3人。忘れていることもあるのだが……まだ気付いていない。
「誰か……いや、3人それぞれが囮になるパターンもいるな」
「1つの先に複数選べるようにしないといけないわね」
「でもそれだと、臨機応変に対応できないよ?」
「確かに。その時々で変化するとなると……難しいな」
「そうね、どうしましょう……そういえば……」
と、ここでミリアが思い出す。
「宝箱を開けるの忘れてたわね」
「「あ」」
ちなみに今回のメインは、青色と淡い白の宝石のついた指輪であった。




