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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第4話 獣窟①



「……段々広くなってないか?」

「なってるわね。階段を探すのも一苦労よ」

「狼牙と同じなのかな?」

「もしくは、巨大な木のうろにあるかだな」

「馬鹿正直に置いてあるわけがないものね」


サバンナのような場所を、3人は歩いていた。視界を遮るようなものはほとんど無く、小さな林が点在しているのみだ。

ただしダンジョンの中なので、当然魔獣はいる。


「来たよ」

「何処に……あれか。ジャッカル系だな」

「狼みたいなものよね?」

「ああ。だが、狼より平原での戦闘には慣れてるはずだ。油断するなよ?」

「勿論よ」


そして、2人は駆ける。フリスが魔法を使うまでもなく、一瞬の交錯でソラ達は切り刻んだ。


「気をつけるまでも無かったわね」

「まあ、Cランクだしな。こうなっても仕方ないか」

「出番なかったね」

「全部フリスに任せるわけにもいかないだろ。魔力切れになる可能性はゼロではないんだぞ」

「分かってるけど、それでもだもん。次はわたしで良いよね?」

「ああ、それでいい」


ソラ達という規格外の存在では、ダンジョンの浅い階層は面白くない場所である。制限をかけ、自身の技術を高めたりすることには使えるが、出てこなければ暇なのだ。交代で1人ずつ戦闘を行っても、暇なものは暇だ。

とはいえ、状況次第でその必要は無くなったりする。


「あれ?」

「どうし、ん?」

「どうしたのよ?」

「いや、何というか……」


いつも通りの魔獣の混成群。バイソンやガゼル、ジャッカルにライオンなどの獣系で、総数は200ほどか。ソラ達にとってはいつものダンジョンである。だが今回、その前では……


「何でこんなにいるのよ!」

「追いつかれるぞ!急げ急げ!」

「ちょっと前!人!人」

「……逃げてるよな」


5人の男女が走っていた。所謂トレイン状態だが、必死なのでわざとではないだろう。


「どう見たって、逃げてるわよ」

「そうだね。助ける?」

「ああ。というか、俺達に来る魔獣に巻き込まれた形だろ」

「そうだね」

「勿論、全力よね?」

「当たり前だ」


実際には見た目と加害者と被害者が逆なので、ソラ達には救援の義務が生じるのかもしれない。だが、それが分かるのは1()だけだ。

逃げてくる5人を迎え入れるため、3人は多少広がる。そしてすれ違う瞬間に、ソラは先頭の魔獣数十匹を血祭りにあげた。


「ちょっと!逃げっ……⁉︎⁉︎」

「下がってろ。すぐに終わらせる」

「加勢なんて考えない方が良いわよ」

「いっくよー!」


ソラが先頭の魔獣を抑えている間、ミリアは高速で群れの中を突っ切りつつ、触れる魔獣全てを倒している。また、フリスは雷を大量に撃ち込み、魔獣が広がろうとするのを阻止していた。


「ミリア、下がれ。大技を決める」

『分かったわ。フリス、頼める?』

「うん。ミリちゃんの先に撃つね」


ミリアはソラの方へ駆け、フリスは進路上の魔獣に片っ端から雷を落としていく。ソラはミリアが下がったのを確認し、納刀。


「さあ……飛べ!」


そして抜刀。火と雷を纏った暴風が魔獣を飲み込み、駆け抜ける。後に残ったのは、焼け焦げた魔獣の斬死体、それもすぐに光の粒になって消え去った。


「あ、ありがとう……強いんだな」

「慣れてるからな。この程度だったら、物の数にも入らない」

「凄いのね……」

「僕たちじゃあ、押しつぶされるだけだよ」

「俺達はAランクだっているのにな。若いやつに抜かれるなんて……」

「わたし達、SSランクだよ?」

「は?」

「え?」

「ええ、魔人も何人も倒してるわ」

「……嘘だよな?」

「本当だぞ?王国に住んでいれば、フリージアの話は聞いてるだろ?」

「まあな。あの時は黒髪の……ってまさか」

「ああ、俺だ」

「あの噂が本当だったら……こうなるのも納得」

「噂?どんな風に聞いてるの?」

「そんなに詳しくはないぞ。数百の魔獣を1撃で吹き飛ばしただとか、魔人を数十人同時に皆殺しにしたとか。本当にやったのか?」

「……誇張しすぎだろ」


今ですら、誰かが見ている場所で1撃で数百(・・・・・)を蹴散らしてはいないし、同時に(・・・)皆殺しにしてはいない。ダンジョンの奥では何度かやっているし、倒した魔人の数は二桁なのだから、一概に嘘とは言えない。

とはいえ、あの頃はそんなことできなかったことに変わりはないのだが。


「混ざったのよ、きっと。合わせて倍にすればそのくらいだもの」

「それでも、誇張しすぎだよ」

「噂なんて誇張されるものだけどな……75日はもう過ぎたはずだが」

「積極的に増やしてるから……むしろ10年くらいは残りそうね」

「それは嫌だな……」


もう手遅れな気もするが。今後するであろうことも考えると、諦めた方が良いのかもしれない。


「まあ、気にしてても仕方がない。先に進むぞ」

「そうね。この人達にも大した怪我は無いし、(とど)まっている意味は無いわ」

「助けてもらったのに何もできなくてすみません」

「大丈夫だよ、あんなのは良くあるもんね。あ、ソラ君」

「まったく……今来るな!」


ソラが適当に放った魔法により、20体の魔獣が一瞬で消滅する。これだから余計な噂が流れる気もするが……もう諦めたのかもしれない。


「これで良いな」

「「「「「…………」」」」」

「チリ一つ残さないのはやりすぎよ。完全に固まってるじゃない」

「ソラ君って、時々やりすぎちゃうよね」

「まあ……それは自覚してる。だが……さっさと起きろ。魔獣に食われても知らんぞ」

「はっ、今まで何を」

「……復活したなら良しとするか」


ここまでやってくれるのだから、まだ優しい方だろう。ソラは一瞬、諦めて立ち去ろうとしていたのだから。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「何よこいつ……」


ミリアが絶句するのも無理はない。目の前にいるのは狼と熊と猪を合わせたかのような凶暴な顔をした、二足歩行の魔獣だ。毛皮の上からでも分かる筋肉の塊、両手の先についている巨大な爪。それは日本人にとって、あまりにも有名な魔獣だった。


「初めて見る魔獣だね」

「こいつは……ベヒーモスか」


旧約聖書の3体の怪物の1体、それを元にした魔獣であろう。Sランクでありながら、ドラゴン同様他とは隔絶した雰囲気を醸し出している。


「エルダードラゴンほどじゃないだろうが……肉弾戦特化だ。油断するなよ」

「アトラスキングみたいなのはゴメンだもの。最初から本気でいくわ」

「あの時は魔法が効かなかったりしたし、一気にいくね」

「今の段階だと介入はなさそうなんだが……まあ、やる気なら良いか」


その直後、ベヒーモスは雄叫びをあげて突っ込んできた。それは爆発的な加速で、すぐにトップスピードにのっている。ソラ達なら避けられる速度ではあるが、簡単に対処できるというものではない。


「あれとマトモにやりあうのは面倒だな。フリス!足を止めろ!」

「分かった!」


それに従い、フリスは顔を狙って幾条もの雷を放つ。とはいえスピードを重視した魔法では、その威力は目くらまし程度でしかない。

たったそれだけではあるが、ソラとミリアにとっては十分だった。


「今だ!」

「はぁ!」


ソラの一閃は右半身を狙い、ミリアは双剣て背後から襲う。だが……


「ちっ、硬すぎるだろ」


薄刃陽炎は右腕の途中で止まり、抜けなくなってしまった。反撃を避けるために仕方なく手放し、後方へ跳躍する。

見るとミリアも下がってきていた。その手にルーメリアスはあるが、血はほとんどついていない。


「ソラはまだマシよ。私なんて、毛皮を切っただけだもの」

「ねえソラ君、今の神気だよね?」

「ああ。最初は隠して、油断を誘うつもりだったみたいだな。かなりの出力があるし……面倒なことをしてくれる」

「それでどうするのよ?」

「最初の作戦は破棄するしかないな……俺が正面で相手をする。身体強化を最大にすればスピードでは負けない。2人は……牽制しつつ、最大威力を叩き込め。その隙に薄刃陽炎を取り返し、終わらせる」

「……それが現実的ね。分かったわ」

「ソラ君、お願い」

「任せろ」


あんな筋肉ダルマと肉弾戦など考えたくもないが、他に手段が無いのだから仕方がない。

ソラは一気に加速し、腕を潜り抜け、懐に飛び込んだ。


「それじゃあ、しばらく付き合ってもらおうか」


固い筋肉ダルマとはいえ、衝撃は通る。ダメージが少なかろうと、体勢を崩すことはできる。

そして、それを逃す2人ではない。


「やぁ!」

「駆け抜けて!ライトニングサン!」


ミリアは再度背後から切りつけ、フリスは白雷を放つ。それには十分な魔力と多少の神気も混ざっており、2人はこれで倒せると予想していた。

だがミリアの双剣は、今度は筋肉に弾かれる。フリスの白雷は腹部を貫いたが、動きを妨げたような様子はない。


「嘘でしょ……」

「かなりの魔力を込めたのに……どうして……」

「神気が多くないと傷つけられないみたいだ。2人とも、やれる、っと」


見るからに危険な、魔力が大量に込められた爪をそらして防ぎ、スウェーバックでラリアットを避けた。比較的安定しているが、薄氷の上を歩くようなものだ。気は抜けない。


「ソラ君は?」

「そう簡単にいけば、ちっ、ここまで苦戦はしてない。神気を込めて殴っても、そんなに聞いた感じが無いな」


会話をする余裕があるだけでも十分凄いのだが、ソラとしては満足できないらしい。相手を傷つけられないのだから、ある意味当然かもしれないが。

だが辛くなったのか、風魔法で吹き飛ばし、氷魔法で壁を何重にも作る。攻撃としては効かないとはいえ、足止めにはなるのだ。その隙に、ソラは一旦下がった。


(とばり)が神器とはいっても、薄刃陽炎には負けるからな。だが、ルーメリアスとオルボッサムで全力を出したなら、恐らく貫ける」

「全力って……」

「一応、倒れる覚悟はしておけよ」


ソラが神術を使えば片付くのだろうが、気の抜けない肉弾戦中に他事を考える余裕はない。今のままでは薄刃陽炎を回収、もしくは神術を発動する時間は取れないので、2人に犠牲になってもらうしかなかった。


「さっきと同じように、正面は俺が受け持つ。頼むぞ」

「分かったわ」

「うん」


ソラは再び前に出る。そしてほぼ同時に、ベヒーモスも氷の壁を全て破壊して出てきた。ソラは出てきた瞬間を狙ってできる限り細く絞った高威力の神術を放ったが、避けられてしまう。そのまま肉弾戦に突入した。

ミリアとフリスは後方に残り、魔力と神気を集めていく。とはいえ、多少話をする余裕はあった。


「ねえ、ミリちゃん」

「フリス?何よ、そんな心配そうな顔は。ソラなら大丈夫よ」

「ううん、そうじゃないよ。でも、そうなのかも」

「どういうことよ?はっきりしなさい」

「……ソラ君、ドンドン危険なことをしてる気がするの。いつか死んじゃうんじゃないかって……」

「フリス……前も言ったと思うけど、心配しすぎよ。信じてるんだったらね」

「うん……」

「それにソラに言っても、プライドだとか言って聞かないわよ。頑固なんだから」

「……そっか」

「さあ、元気出しなさい。助けに行くわよ」

「うん!」


普段の何十倍もの魔力を使い、そこに神気を混ぜるため、相応の時間がかかる。ソラはその時間耐え続けた。


「雷よ、白き輝きを持って飛べ。進む先は……」

「ソラ」

「ミリア、用意はできたか?」

「魔力も神気も、注ぎ込む準備は終わってるわ。後はフリスと合わせるだけ」

「分かった。だが、大丈夫か?こいつの前で動けなくなるんだぞ?」

「でも、すぐにソラが助けてくれるのよね?」

「当たり前だ。さあ、やってこい」

「ええ」


そして三度(みたび)ミリアは背後から切りつけ、フリスは全詠唱の白雷を放つ。見た目は先ほどと同じだが、結果は違う。ミリアの双剣は背中を大きく切り裂き、フリスの白雷は左前腕部を消し飛ばした。

だがやはり神気が足りないのか、致命傷と言うのには程遠い。


「魔力はもう……」

「でも……できたわ」


魔力が尽き、その場に倒れこむ2人。ベヒーモスは背後のミリアへターゲットを変える。

ようやく、隙ができた。


「これで終わりだ」


右側へ回り込んだソラは薄刃陽炎を掴み、魔力と神気を大量に注ぎ込みながら振るう。その一撃はベヒーモスの心臓を確かに破壊し、その巨体は崩れ落ちた。


「ふぅ……ミリア、フリス、大丈夫か?」

「大丈夫なわけ無いわよ……こんなに辛いなんて……」

「もう動けないよ〜」

「すまないな。ここで休憩するか?」

「ん〜、奥の方が良いかな」

「分かった。じゃあ順番に抱えて……」

「1人で残されるのは嫌よ」

「流石に2人同時は物理的に無理……ああいや、できるか」

「きゃっ」

「ちょっと⁉︎」


ソラは片手で1人ずつ、腕と肩を椅子のようにし、2人を抱え上げた。当然ながらバランスは悪いため、ソラにしがみつくしかない。ただ、その体勢は割と無茶であった。


「ソラ、これは……」

「……恥ずかしいよ」

「誰も見てないんだから良いだろ」

「そ、そういう問題じゃないわよ」

「だけどなぁ……」

「ねえソラ君、宝箱はどうするの?ミリアが元気になるまで待つ?」

「大丈夫だ。蓋を壊せば良い」


宝箱の蓋を斬り裂いた結果、多数の魔水晶が砕けてしまったのだが。

赤色(ルビー)の指輪が無事だったのは幸いである。












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