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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第6章 銀の獣と三色の庭

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第2話 狼牙①



「ミリア、どうだ?」

「見えないわね……この辺りの全部来てたのかしら?」

「そうかもしれないね。だって多かったもん」

「雑魚ばかりだったけどな」


一際(ひときわ)高い木の上に登ったミリアが見渡すが、視界に入るのは草原と疎らに存在する小さな林や森だけだ。魔獣の姿は全く見えない。それもそのはずで、先ほどまで大規模な戦闘があったのだ。

EランクのウェアウルフとDランクのシャドウウルフだけだったとはいえ100を超える数、ソラとフリスでも倒しきるのは少し面倒だった。


「この中から階段を探すのね……」

「大変だよな……手当たり次第か?」

「それしかないと思うよ」

「さっきまでは簡単だったのにね」


1つ前の10階層までは、ここまで広く無かったのだ。話で聞いていたとはいえ、地下に地平線以上の広さを作り出すとは恐ろしい。


「それにしても……」

「どうした?」

「森が小さいわよね?普通、狼はその中にいたりするのに」

「森の中に複数の群れがいるわけじゃなく、1つの森に1つの群れがいる形なのかもしれないな。もしかしたら、この後森が増えることがあるかもしれないが」

「あれ?じゃあ、森の中に階段があるんじゃないかな?」

「……そうだな。その方が隠しやすいし、合理的だ」

「魔獣の群れの縄張りの中にわざわざ入るなんて、普通しないものね」

「だったら、今がチャンスだ。急ぐぞ」


フリスの予想通り、森の中にはあるものが隠されていた。ただ、それは3人の期待していたものでは無い。


「洞窟か……」

「階段、あるわよね?」

「分からない。だが、ただの行き止まりなんてことは無いはずだ」

「……罠かな?」

「それも分からない。だが……」

「どうしたの?」

「嫌な予感がするんだよな……」


この一言で、ミリアとフリスの顔に緊張が生まれた。ソラの勘がよく当たることを、この2人は知っている。


「少しは生き残ってる……いや、新しく生まれたか?」

「魔獣がいるのね?」

「うん。奥の方に3匹だけ」

「なら問題無いわね」

「ああ」


近寄ってきたシャドウウルフを斬り捨て、奥へ進む。すると、洞窟に似合わないものが見えてくる。


「古い扉だね……」

「ダンジョンの中の物に古いとかあるのかは知らないが……ボロボロだな」

「ボスって感じはしないわね」

「確かに。ボスの扉はもっと荘厳だからな」


警戒しながら扉を開け、部屋の中へ入っていく3人。するとその背後で軋んだ音がし、扉が閉まる。


「扉が⁉︎」

「え?ボス?」

「ちっ、そういうことか」


後ろを振り返った2人に対し、ソラは正面を睨みつける。そこにあるのは横幅250cmほどの大きな宝箱が1つ、横幅150cmの宝箱が6つ。普通なら喜ぶところだが、今そんなことはできない。


「ミミック系のSランク、ヘルミミックだ。Aランクのハザードボックスも6体……それに、今は攻撃できそうにないな」

「この感じ……神気ね」

「ああ。あいつの介入だ」

「増援なんていないよね?」

「さあな。来るぞ!」


大きな宝箱からは長さ2.5mの腕が4本と足が2本、それより一回り小さな宝箱からは1mの腕と2mの足が2本ずつ、さらに宝箱の口の所からは牙が生えた。しかもヘルミミックの方は、宝箱の中から長剣と槍、盾と杖を取り出す。


「ヘルミミックは俺がやる!2人は箱の方をぶっ壊せ!」

「簡単に言ってくれるわね!」

「燃えちゃえ!」


フリスの放った炎弾を合図に、


「遅い、かっ!」


緩急をつけて飛び込むソラにヘルミミックは対応できない。風弾は全てかき消され、槍は穂先から斬り飛ばされ、盾は斬り裂かれる。そしてソラは薄刃陽炎を振るった……が、弾かれた。


「ん?意外と硬いな」


投入した(保護する)魔力(神気)少なかった(多かった)のだろう(ようだ)、表面に傷はついているものの、浅く致命傷には程遠い。自分が有利だと思ったヘルミミックはこの隙に攻勢に出ようとするが……増やせばいいだけの話だ。


「ふん!」


次は違わず両断する。2度の袈裟斬りをくらったヘルミミックは、4つに分かれて地に倒れた。


「終わったね」

「2人とも早いな……俺は1体だけなのに」

「ソラの方は厄介だったんでしょ?仕方ないわよ」

「それでも、だ。一応、俺が1番強いんだからな」


ミリアとフリスが担当したハザードボックスは、3体が細切れとなり、3体は燃え盛っている。

そして光の粒となって消え去っていく魔獣を、ソラは見つめた。


「ミリア、フリス、こいつらから神気は感じたか?」

「いいえ、無かったわ」

「うん。普通の魔獣だったもん」

「じゃあ、ヘルミミックだけか……介入が露骨になってきたな」

「そう……面倒ね」

「そこまで問題にはならないさ。介入しすぎると、精霊王達から何を言われるか分からないだろうからな」

「そうかな?」

「あいつは面倒だからこそ、仕事を早く終わらせるタイプだ。余計な仕事を増やしたりはしない」


そして遊びに傾倒すると、厄介だったりする。ソラとしては、面倒すぎる相手だ。


「それで……奥にも扉があるか」

「後ろのは開かないよ」

「やっぱり、進むしかないのね」

「誘い込まれているか。まあ、全部倒せばいい」


そうして進んでいくと、再びボロボロの扉が出てきた。3人は押し開け、中へ入る。


「次は……ん?」

「何これ?」

「岩……?」


部屋の中には1辺2mほどの立方体の岩が10個置いてある。それからは魔力などを感じず、ゴーレムの変異とは考えられない。

が、背後の扉は閉まった。


「つまり、謎解きか何かの可能性が高いな」

「それじゃあ、ソラ君任せだね……」

「でも、私達もヒントか何かを探した方が良いのよね?」

「ああ、それでたの……ミリア!後ろだ!」


ソラの忠告に従い、ミリアはその場を飛び退く。するとその直後、先ほどまで立っていた場所に岩槍が突き刺さった。


「何よこれ⁉︎」

「妨害、だな。同じ場所に留まり続けると発動するタイプだろう」

「じゃあ、移動し続けなきゃ駄目なの?」

「それも割と早めにな。厄介な仕掛けを……」


話している間も、岩槍は撃ち込まれ続けている。だが不意打ちでもなければ、こんなものに当たる3人ではない。


「いくら避けれても、面倒なことに代わりはないわ」

「そう言うな。岩の配置は……五芒星の頂点か?」

「ごぼうせい?」

「星型のこと……よね?」

「ああ。俺のいた世界だと、悪魔の印だとか言われてたな。勿論、ある宗教が勝手に言ってただけだが」

「そうなの?」

「本当に悪魔がいるなんていう証拠は無かった。いないことの証拠も無いから、過去にいただとか、隠れているっていうのはありえなくもないが」

「どうしてそうなるの?」

「ベフィアの悪魔とは大元からして違うからな。ここでは魔獣として実在しているが、向こうだと……何だったか……人に罪を犯させる存在、だったはずだ」

「随分と感じ方が違うのね」

「魔法なんてのは幻想の話だからだ。ベフィアみたいに使える人はいない」

「そんな所もあるんだね」

「ああ」


これ以上の雑談は止め、目の前のことに集中する。だが岩の周囲は全体的に回ったにも関わらず、ヒントらしきものは見当たらなかった。


「周りに無いなら……上か?」

「でも、どうやって見るのよ。空中だと動けないわよ?」

「普通はな。俺はできる」

「危険だよ?」

「それも分かってる。だが、やるしかないだろ?」

「……そうね、任せるわ」

「頑張ってね」


2人はソラから離れ、陽動となる。そしてソラは飛び上がった。空中での移動には生み出した氷の塊を使い、岩槍は同じく岩槍で迎撃する。

そして下を見てみると、予想通り岩の上に模様が刻まれていた。


「星か……半分のやつがあるのは何でだ?」


岩の上には星型、もしくはその半分が描かれている。内側と外にある1つは半分で、残る4つが完全な星だ。そのままでは意味が分からないが……その模様は岩を削って描かれていた。


「……そうか。星型の一筆書きの順に岩を破壊しろ!ただし、2回通る所は半分ずつだ!最初は入り口に1番近いやつを半分!」

「分かったわ!」

「任せて!」


そうと分かれば後は容易い。3人は順に岩を壊していき、1周する。すると先へ続く扉が開いた。


「やっと終わったわね」

「結構時間がかかったな」

「岩を壊すんだもん。長くなっちゃうよ」

「というか、ヒントを見つけるまでが長かったな。あんな場所にあるせいだが」

「私達に合わせたのなら、問題無い場所なんだけど……」

「合わせたんだろうな……」

「無駄に凄いことやるわね」

「普通に凄いよ?」

「俺達に被害が無ければな。できれば、やめてほしいんだが」


そうして歩いていくうちに、また扉が見えてくる。が、次の相手はすでに予感できていた。


「アンデットだな」

「多分そうね」

「扉に書いてあるもんね」

「暗号みたいな絵だけどな。まあ、覚悟できるだけまだマシか」

「奇襲されるよりはマシよ」


扉を開いた先にいたのは、骨と皮だけのローブを着て杖を持った死体、かなり明確に姿を見ることができる幽霊、首の無い剣を持った全身甲冑、恐怖を撒き散らす大型の犬。

普通なら1体だけで1つの町を絶望させられる戦力が、群れをなしている。


「リッチにレイス、デュラハンにグリム……高ランク魔獣が何でこんなにいるんだか」

「そんなこと言っても始まらないよ?」

「3体ずつ、全部で12体。普通の冒険者なら手も足も出ないわね」

「Sランクだからな。さっさと倒すぞ」

「ええ」

「うん」


3人はアンデットより先に動く。ソラはグリムの群れに最も近いデュラハンへ突っ込んだ。


「はぁ!」


ソラが振るった薄刃陽炎はデュラハンの持つ剣を腕ごと切り裂く。だがアンデットだからか、隻腕になりながらも、追いすがってきた。

さらにグリムも来たため、一旦下がる。


「このランクだと、この程度なら阻害にならないか……ミリア!光の付加をかけるぞ!」

「ええ!お願い!」


ミリアはデュラハン2体を相手にしているが、神器として中途半端な双剣では相性が悪い。光の付加を得て、本格的な攻勢に出る。

なお、すでにフリスによってレイスは全滅していた。幽霊でも、雷の雨は怖いようだ。


「フリス!リッチを抑えろ!」

「分かった。倒しちゃっても良いんだよね?」

「ああ。というか、倒せ」

「よーし、いっけぇー!」


そして、フリスは火炎弾を大量に放つ。リッチからも闇魔法が放たれるが……数と威力が違いすぎた。

そしてソラも前を向き、居合からの5連撃。デュラハンもこれには耐えきれず、細切れとなる。


「邪魔だ!……ん?」


その直後、グリムが連携して襲ってきた。1匹は避け、1匹は斬り裂き、1匹は蹴り飛ばすが……その手ごたえが軽い。


「何だ?」

「グリムは半分霊体よ!」

「忘れたの?」

「ああ。そうだった、な!」


足甲が神器だったためある程度のダメージは与えられたが、牽制ではそれ以上の威力は出ない。ソラは光の付加を足にかけ、グリムを踏み潰す。そして後ろに回り込んだもう1匹も、振り返りの一閃で倒した。ついでに、こちらへ魔法を撃とうとしていたリッチも光魔法で貫いて殺す。

なお既に、2人もそれぞれの獲物を倒し終えていた。


「また俺が最後か」

「グリム3体の相手をしてたじゃない。アレが1番厄介なのよ?」

「だって、いるだけで怖いって思わせるんだもん」

「俺達には効かないだろうが。あれは格下だけだぞ」

「それでもよ。人型の方がやりやすいもの」

「わたしは魔法を撃ってただけだしね」

「そうか?……まあ良い、次だ」


奥の扉を開ける。その先には……壁があった。そしてそこは、明るい。


「ここは……入り口近くか?」

「そう、よね……左が出口よ」

「何も無かったね」

「取り越し苦労……結構辛いな」

「また探せば良いじゃん」

「それでもよ……」


結局、3人が階段を見つけたのは3つ目の森の中であった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「たわいない」


ソラの一閃が、最後まで残ったケルベロスの首を落とす。そしてケルベロスは地に伏せ、光の粒となって消えた。


「結構強かったわよ?」

「いやまあ……俺の比較対象が古竜(エンシェントドラゴン)になってるからな……」

「それは比較するのが間違ってるのよ」

「ケルベロスはSランクだし、白虎より弱いんだもん」

「そうだが……フェンリルあたりが相手なら別かもしれないけどな」

「それは他の所に期待しましょう」

「まだ7つもあるんだしね」

「……ああ」


少し警戒しつつ、奥の扉へと進む。それを開けた先は、予想と異なる点はなかった。


「宝箱は……開いてないな」

「そういえば……普通の宝箱を見るのって、かなり久しぶりね」

「全部魔獣だったもんね」

「小さい物すらトラップボックスだったからな。なんでこんなにいるんだか」

「罠と狼に関係なんて無いのにね」


3人の言う通り、ここでは何故か宝箱トラップが多かった。魔獣で無かった時も中が罠まみれだったりしたのだから、徹底されている。

そのための警戒だったが、ここでは意味をなさなかった。開いた宝箱、その中央に存在する今回の主役は小さい。宝石のついたリングのようだ。


「指輪?」

「緑と茶色ね」

「エメラルドと……トパーズか?これは……魔法の強化?いや……属性の強化か」

「どういうことよ?」

「この指輪を付けて決まった属性の魔法や付加を使った場合、その効果が上がるみたいだ。魔力を一時的にこの中に溜めて、増幅するみたいだな」

「へぇ〜凄いね」

「そんなもの聞いたことも無いわよ」

「効果量自体は少ないからな。使ってる本人はともかく、外から見たらほとんど分からないだろうさ」


ソラの感覚では、2〜3%ほどの強化ができるだけである。これだけなら、他人はほとんど分からないだろう。

有効活用する手段は考えるが。


「さて……神器に組み込めるか?」

「できるの?」

「同じ属性なら、できなくはなさそうだ。だが……必要性はなさそうだな」

「……そうね。ほとんど使わないのに、強化する意味なんて無いわよ」

「そういうことだ。また何か機会があれば使うかもしれないけどな」


今のソラ達には、特定属性に特化させる必要は無い。なので、これを有効活用する機会が無かった。


「じゃあ、これは俺がしまっておく。必要になった時に出せばいい」

「うん、分かった。それで、この後はどうするの?すぐに戻っても良いけど」

「そうだな……神術の練習でもするか?ここなら周りの目を気にする必要が無いからな」

「私達はまだできないから、神気を混ぜる練習ね」

「ついでに、神気そのものの操り方もやっておけよ。神術を使う時に楽になる」

「ええ、分かってるわ」

「魔法と同じなんでしょ?だったらやらないといけないもん」


そして何度か暴発したが、当然ながら被害は無い。















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