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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第5章 新たな希望と白の迷宮

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第26話 光宮④



「ねえソラ君」

「どうした?フリス」


フリスの眼は何故か輝いており、何かを期待していることがよく分かる。そしてその内容は、ソラの想定の範囲内に収まっていた。


「神器って作らないの?」

「そういえば、オリハルコンがあったわよね?」

「神器か……作れるな」


ボス部屋を抜けたここには、山ほどのオリハルコンインゴットがあった。そして貰っていいと言われたので、全てソラの指輪に収めてある。他の精霊王の所には無いと聞いたのが大きかったか。

ベフィアではオリハルコンは古代遺跡(太古の天才の遺物)にしかなく、それですら純度はかなり低い。それでいて性能は高く、数世代以上使い続けることができる。

なので、こんな高純度のオリハルコンを売りさばくことなどできない。自分達で消費しきるのが最善だろう。


「もっと強く?」

「ああ。神気の扱いにも慣れたし、良いのが作れそうだ」

「じゃあ、ルーメリアスを預けるわね」

「わたしのオルボッサムもね」

「その2つだけじゃなくて、鎧とローブも脱いでくれ。それと、イヤリングとネックレスも神器にするし、指輪も強化する。ついでに鎧の腕部分も直しておくぞ」

「ここで脱げって?ソラ、頭大丈夫よね?」

「夫に何言ってるんだ。それに、鎧だけだって言ったろ」

「はぁ……面白い反応しなさいよ、まったく」

「むしろ見せたかったのか?すまんな、分からなくて」

「はい⁉︎そんなわけ無いでしょ!」

「そういう反応が面白いんだよ。フリス?」

「はい、ソラ君。ミリちゃんは慣れた方が良いよ?からかわれるだけだもん」

「フリスが言わないでよ!」


からかっていても作業は止めない。ソラは神気の火と金槌を作り出しつつ、ソラは強化するものを並べていく。改めて広げてみると……かなりの数だ。


「さて……8属性の魔法具、内6つは既に神器。薄刃陽炎とルーメリアスとオルボッサム、手甲足甲と鎧とローブ、3つの指輪に4つのアクセサリーか……多いな」

「オリハルコンは十分そうだけど……大丈夫よね?」

「多分な。まだ魔力も込めないと作れなさそうだが、神気も半分は残るはずだ」

「凄いね」

「一応、2人より使ってる期間は長いからな」


まずは武器類から順番に行っていく。光と闇以外はそのまま強化するだけなので簡単だ。光の長剣も変更する必要はないためすぐに終わり、ノウルオートという銘を与えた。なお、特に意味は無い。

そんな中で少し時間がかかったのは、闇属性の手甲だ。


「こいつは……このままだと使いにくいし、やっぱり形も変えるべきだな。一回り大きくして、今のやつの上から着けるか」


ソラは上手く加工して一回り大きくすると、それと同時に前腕の方を伸ばし、さらに手首の部分を開く。その部分は細かな鎖帷子(くさりかたびら)をつかって繋げ、可動域を確保した。神器化も完了し、ダークフォルスという銘をつける。


「次は、これか」

「それもなんだね」

「ちなみに、どうするのよ?」

「利便性を上げる。神気……はまだ無理か。魔力を自動で貯蓄、意識1つで強固な障壁を張れるようにする。今のままだと、古竜には障害にすらならないしな」

「文字通り、紙みたいに引き裂かれたわね」


次に手にしたのは、ほぼ同じデザインのイヤリング・ネックレス・ブレスレット。障壁を作り出すシリーズだ。武器と比べれば小さいので、作業は手早く終わる。


「こんな感じか。つけてみてくれ」

「うん。えっと……んっ」

「……勝手に魔力を吸われるのね」

「最初はこうなるな。一定度以上にまで貯まれば、自然に放出する分だけで十分になる。貯めるだけなら半日もいらないはずだ」

「じゃあ、どれくらい使えるの?」

「試すのはまた後だからな?魔力が貯まりきっていない」

「ええ、勿論よ」

「はーい」


この説明の間に、空間収納の指輪も強化し終えた。続いてソラが手にしたのはブレスレット、魔法の増幅装置だったあれだ。


「それも?」

「俺にはフリスみたいに杖があるわけじゃないからな。増幅できるなら欲しいさ」

「今でも十分よね?」

「オルボッサムを強化しただろ?このままだと置いていかれるだけだ」

「そうかな?」

「そうだ」


フリスとしては違うのかもしれないが、ソラとしては結構な危機感を感じている。今最大威力を出せるはソラだが、そのうち抜かれるだろう。発動媒体含め、新たな力の形を生み出すのは急務とも言えた。

まあ、普通の冒険者からしたら何を言っているんだというレベルだろうが。


「最後は、これだな」

「手甲足甲と鎧とローブ……信頼してるけど、どういう風にするつもりなのよ?」

「鎧は身体強化、ローブは魔法の強化と魔力の活性化だ。手甲足甲は……両方つけるか」

「贅沢だね」

「その代わりに、それぞれの出力は減るだろうけどな。上手く制御して、同じくらいの結果を出さないと……」

「私達の方にもっとつけて欲しいわよ。ソラは神術だって使えるようになったじゃない」

「まだ最高威力なら魔法の方が上だ。それに使える回数は少ないし、制御と甘い。まだまだ魔法を使うしかないんだぞ」

「それでもよ」

「それでもだよ」

「理不尽な……」


火と金槌を保ちつつ、ソラはさらに集中し神気を練る。初めての強化であり、メイン装備であるため、できる限り高い性能にするためだ。


「右腕の部分は……まずミスリルで作ってからオリハルコンで強化するか」

「オリハルコンで作るんじゃないの?」

「ミスリルの段階で、ミリアの魔力に慣らしておきたい。その後にやった方が使いやすくなるはずだ」

「そうなのね。それで、どうするのよ?」

「俺が合図をした時に、鎧に手を置いてくれればいい。作業自体はは俺がやる」

「分かったわ」


ミリアは新しい右腕部分に手を当てるが、少し顔をしかめた。だが、これも予想の範囲内ではある。


「……やっぱり魔力を吸われるのね」

「ああ、そうするしか無いからな。それにしても……」

「どうしたの?」

「予想以上に難しいな。早く馴染むよう神術まで使ってるのにどうして……俺の巫女なんだろ?」

『はい、その通りです』

「急に話し始めるなよ……魔力が操りづらいのと、神気を操れないのは仕様か?」

『おかしいですね……巫女と触れ合っているのなら、魔力も神気も取り出せるはずです。何故そのようなことが……』

「そういえば、神気の色も違ったわよね?」

「何か関係があるのかな?」

『そんな……まさか……いや……ですが……』

「どうした?」

『ここまで……でもこんなことは……』

「おい、大丈夫か?」

『あ、はい、申し訳ありません。考え込んでしまいました』

「それで、原因は分かったのか?」

『いえ、分かりません。神気を使えるとはいえ神ではないので、全てを知るというのは流石に……』

「そうか……まあいい、続けるか。ミリア、もう良いぞ」


ソラはオリハルコンを持ち、鎧全体に浸透するようにしていく。その過程で、鎧を構成していた鉄やミスリルはオリハルコンに変わったり、神気に還元されたりしている。質量保存の法則をガン無視、滅茶苦茶もいいところだ。


「よし、できた」

「新品みたいね。綺麗よ」

「素材をオリハルコンに置き換えるようなものだからな。傷くらいなら直せる。それよりも、試しに着てみてくれ。違和感はあるか?」

「無いわね。むしろ軽くなった気がするわ」

「実際に軽くなってるからな。オリハルコンは硬いから、厚さは少なくできた」

「なら良いわ。鎧の出番なんて殆ど無いけどね」

「俺としては無い方が良い。防御機能なんてつけてないしな」

「それで良いのよ」


ミリアがこう言っていてもソラは気になる部分があるようで、手作業で1つずつ調整していく。その妥協しない姿勢は評価できるのだが、1つのことにこだわりすぎだった。


「ねえソラ君、まだ?」

「……すまん、少し待ってろ。すぐに作る」

「気になったんだけど、ローブをどうやってオリハルコンで強化するのよ?」

「金属繊維を使う」

「どういうこと?」

「オリハルコンを糸にして、それを編むようなものだ」


実際は糸を少しずつオリハルコンに置き換えていく形である。当然ながら、その難易度は高い。だがソラはそれをそつなくこなしていった。

そしてついでとばかりに、自分の手甲足甲も終わらせる。手を抜いたわけではないが、ローブや鎧に比べれば簡単だ。


「凄いね。何か良い感じ」

「ずっと使ってきたものだからな。馴染みやすい。それで、銘はどうする?」

「やっぱりいるの?」

「ああ。前より強くなったからな」

「そうね、私は……アルマークよ」

「じゃあわたしは……ハウリルエルかな。ソラ君のはどうするの?」

「俺のか?こいつは……(とばり)だ」

「とばり?」

「ああ。空間を遮り、囲い込む……2人を悪意から守ることが、俺の願いだからな」

「それって……やっぱり私よね?」

「まあ、な。守られるばかりなのは流石に嫌だ」

「……それはちょっと……」

「……何か違うわよね?」

「俺の気分の問題だ。聞き流してくれればいい」


全ての作業を終え、立ち上がろうとするソラ。だがその足はフラつき、すぐに座り込んでしまった。

神器作りでかなり深く集中していたため、気づかぬうちに疲労が溜まっていたようだ。ソラは無理せずそのまま休む。2人も気付き、同じように周りに座った。

そしてようやくソラの体力が回復した時、ミリアが楽しみにしているのを隠しきれていない声で言う。


「さて、ソラ。戦ってみましょ?」

「確かに神器の様子を見るにはそれが一番だが……」

「どうしたの?」

「神気も使うようになった2人にどこまで抗えるものか……」

「ソラ君は神術も使えるもん」

「むしろこっちの方が頭が痛いわよ」

「まだ制御が甘いって言っただろ……ただ威力を出すだけなら簡単なんだが」

「それでも十分よ……」


そう言われても、武人としては制御できない技を使いたくはない。だがそれは、残る1人によって解決した。


『万が一の事態になりかけましたら、私が止めます。存分に戦ってください』

「……なら、良いか。広さは十分あるしな」

「そうだね。じゃあ、やろっか」

「ええ」


そして20mほどの距離を取り、相対した3人。先手を取ったのはミリアだ。


「はぁ!」

「しっ!」


今まで以上のスピード、かつ同時に異なるコースで振るわれた双剣だが、ソラの一閃により弾かれる。


「慣れるのが早いな」

「初見で対応するソラもソラよ!」


身体強化で加速された者達の間なら、この会話は一瞬の交錯で終わる。だが、残るもう1人はそれを見逃す相手ではない。


「行って!」

「数が多いな。なら……」


百に届くかという魔弾の嵐。それに対抗するため、ソラは切り札を1つ切る。


「かき消せ」


ソラから周囲へ小さな黒い球が4つ、周囲へ飛ぶ。そしてそれは炸裂し、広範囲を覆い隠した。それが晴れた後に、魔法は1つも残っていない。


「え⁉︎」

「闇の……神術?」

「別に、光しか使えないわけじゃないぞ」


次は両手に1つずつ、さっきの闇球より少し大きな光球を作り出す。


「さあ、凌いでみろ」


そして放った。その光球は光魔法にしては遅いが……


「振り切れない⁉︎」


避けても避けても光球は振り切れない。急加速と急ブレーキを駆使すれば避けられるが、逃げ切ることはできなかった。


「増えるの⁉︎」


そして魔法が当たると2つに増える。魔法が当たれば止まるとはいえ、次の瞬間には増殖した。対処する側としては、きりがない。


「何なのこれ!」

「神術だ。まだまだ制御が甘いけどな」

「これのどこが制御が甘いよ!」

「まだまだだぞ?同時に10個は操れないと困る」

「……相変わらず滅茶苦茶だよね」

「ええ。競うのが馬鹿らしくなってくるわ」


ある程度の時間が経つと光球は消えたが、2人とも息は上がり体力も魔力も消耗している。ソラと続けるには厳しい状況だ。


「一旦休憩するぞ」

「でもまだ……」

「いや、休んでくれ。このままだと稽古もままならないだろ?」

「そうね。必要以上に消耗したもの」

「まだやりたいなら、休憩の後にするが……続けるか?」

「勿論よ。あれだけだと足りないわ」

「わたしも!」

「ああ、分かってる」


それ故、暫しの休息を取る。そしてしばらく経った後、再び刀と剣と魔法を合わせた。


「やっぱり楽しいな……大技は使わず、このまま打ち合い続けるか?」

「何よ、自分が有利な方にしたいの?」


賭けに走らなければ、自力で勝る者が勝ちやすい。ミリアとフリスからしたらそうなのだが……ソラとしては違った。


「2対1だと、俺に有利は無いぞ。ただやりたいだけだ。それに、大技を放つだけが戦いじゃないからな」

「それもそうだね。ミリちゃん、良いんじゃないかな?わたしも挑戦したいことがあるし」

「そうね。じゃあ私は、もっと速くしてみるわ」

「おいおい、アレ以上があるのかよ」


と言いつつ、ソラも使う手札を考え始める。そしてぶつかった。


「はぁ!」

「やぁぁ!」

「行って!」

『やれやれ……玩具で遊ぶ稚児ですか……』


アポロンのつぶやきも、間違っているとは言えない。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











『もう行かれるのですか?』

「ああ、世話になったな」

「いつまでもここにいると、私達死んだことにされるもの」

「SSランク冒険者だから、そう簡単にはならないと思うけどね」

「だが、言い訳をするのが面倒だ。1ヶ月ならまだマシだが、これが3ヶ月になると納得させるのも一苦労だろうな」

「他の人の仕事を奪うけど、使える戦力であることは確かだもの。多分後でこき使われるわよ」

「流石にそこまでは無いだろうが……その時は逃げるだけだな」

「それで良いの?」

「魔水晶を売って、まとまった金額を寄付すれば誰も文句は言わないだろ」

「相変わらず、無茶苦茶よ」

『人である故、しがらみもあるのですね』


アポロンはしみじみと言っているが、ソラ達は面倒な厄介ごとが嫌なだけなので格差が酷い。だがアポロンはそんなことに気付かず、両手を重ねる。


『御三方、これを』


そう言って差し出したアポロンの手に乗っていたのは、小さな光る結晶体。魔水晶に似てなくも無いが、込められている力が膨大だ。


「これって?」

『私の力の欠片(かけら)です。恐らく、必要になるでしょう』

「良いの?」

『普段は使わない力ですので。ソラ様にお渡しした方がきっと有用です』

「分かった、受け取ろう」

『本当なら我々この世界の者が終わらせるべきことなのですが……これも貴方の運命なのでしょう』

「どういうことだ?」

『いずれ相見えるでしょう。その時になればお分かりになります』


意味の分からない台詞だが、何も聞かずに受け取る。これに答えないだろうということは、ここで過ごした間に知っていた。


「……分かった。次会う時があったら、よろしくな」

『分かりました』

「無茶を言って、ごめんなさいね」

「大変かもしれないけど、お仕事も頑張って」

『はい、御三方もご武運を』


そしてソラ達は帰還の途に着く。その際、古竜(エンシェントドラゴン)は無視した。アポロンが3人を認めたので帰りの心配はまず無く、戦っても良いのだろうが……面倒だというのが大きい。


「それで、ソラ?他の精霊王のダンジョンにも行くのよね?」

「勿論だ。8柱いるなら、8通りの神気の扱い方がある。それに、これも集める必要がありそうだからな」


そう言ってソラは結晶体を取り出す。物凄い力が込められていることは分かるが、今の3人にはそれが何かわからなかった。


「それ、何なのかな?」

「分からない。だが……」

「また勘ね?」

「ああ……アポロンが言っていたことなのかもしれないな」

「また一波乱ありそうよね」

「良いじゃないか。波乱だらけな人生は困るが、波乱が一切無い人生もつまらないものだぞ」

「ソラ君がそう言っちゃうと……」

「実感がこもってるのよね」

「まあ……確かにそうかもな。波乱とかいうレベルじゃない気もするが」

「そうかな?」

「ソラにはちょうど良いわよね?」

「おいこら」


行きとは打って変わって簡単になった迷路を、ソラ達は揃って進んでいった。












第5章END

これから物語は本格的に進んでいきます。


第6章は暫く後に始まります。8/1から開始の予定です。

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