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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第5章 新たな希望と白の迷宮

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第25話 光宮③

「ミリちゃん⁉︎」

「こ、の……」

『ここまで追い込まれるとは……む?』

「クソ野郎が!」


ミリアの右腕が食いちぎられたという事態に、ついていけていないフリス。その反対に、怒りに飲まれたソラが展開した(やいば)、それは尋常ならざる存在だった。


『それはまさか……我もここまでか……』


闇で形作られた漆黒の太刀は、古竜を豆腐のように斬り裂いていく。四肢をまとめて切断し、翼を引き裂き、首を斬り落とす。その先の壁まで両断するほどの威力だ。流石の古竜も耐えられず、崩れ落ちる。

その死体は(もや)(かすみ)のように消え、後には完全に透明な魔水晶だけが残った。だがソラにとって、そんなことを気にしている場合では無い。


「はぁ、はぁ、ミリア!」


疲労が溜まり、今すぐにでも倒れこみそうな体に鞭を打ち、ソラは駆け出していく。


「ミリちゃん!ミリちゃん!」

「フリ、ス……」


その先は血溜まりの中に倒れるミリアと、そばで(かが)み込むフリス。そしてソラは汚れるのも構わず、ミリアを抱き上げた。


「ソ、ラ……」

「大丈夫か!おい!しっかりしろ!」

「ごめん、なさい……私、もう……」

「ふざけるな!勝手に死ぬなんて俺が許さん!」


何か変な魔力が邪魔をしているようで、回復魔法が全く効かない。血が、止まらなかった。


「効け!効け!効け!」

「ソラ、良いの……よ……」

「良いわけ無いだろ!」

「フリス……ソラの、こと、支えて、あげて、ね……」

「ミリちゃん……そんな……」

「ソ、ラ……フリスの、こと……お願い……」

「断る!こんな……こんな……」


だがソラは諦めない。効いていなかろうと、誰が何を言おうと。


「こんな結末、認められるか!」


ソラの意思に反応したのか、膨大な力がソラからミリアへ流れ込む。そしてそれは、眼に見えて効果を出した。

ミリアの右腕から流れていた血が止まり、半透明の腕が現れる。それはどうやら神経が繋がっているようで、ミリアは唐突に現れた腕の感覚に戸惑っていた。


「ソラ君……?」

「え……痛く、ない……それに、これ……?」

「腕が無いなんて認めない!治っちまえ!」


そしてその半透明な腕は実体感を増していき、本物の腕となって定着した。

ミリアは目を丸くし、腕を動かす。新しい腕は、食いちぎられた腕と寸分狂わず動いていた。フリスは状況に少しついていけていない。


「嘘……腕が……」

「ミリちゃん……ミリちゃん!」

「フリス……ありがと。でも私としては……別れを言ったのに戻ってくるなんて、予想外にも程があるわね」

「はは……俺もだ……まさかここまで……できるなんて……思って無かった……」


フリスは永劫(えいごう)の別れを覚悟していたようだが、ようやく状況を理解し、ミリアに泣きつく。ミリアもフリスを両手で受け止めた。愚痴をこぼす元気もあるようだ。

そしてその愚痴に答えたソラは……今にも倒れそうなほど顔色が悪かった。


「ソラ君、大丈夫?」

「力の大半を……消費したな……だけど……ミリアの命に比べれば……安いものさ」

「ソラ……ありがと」

「なに、この程度……」


むしろ気絶していないのが不思議なほど、ソラの力は枯渇している。まだ気合いで何とかなる領域なので、保たせられているが。


「ミリちゃん、腕大丈夫なの?」

「ええ、完全に前と同じよ。あ、服は……」

「諦めるしか無いな。流石に修復はできない……腕部を無くした鎧はどうしようか……」

「新しく買えば良いわ。血塗れの服は、ソラが戻してくれっ、あっと」


フリスから離れようとしたミリアだが、ふらつき、またフリスの腕の中へと戻ってしまう。一瞬心配になったソラだが、その原因に思い当たり納得する。


「大丈夫?」

「フラフラしてるわ……フリス、このまま支えてくれる?」

「うん、良いよ」

「血が足りないか……しばらくは安静にしておけよ」

「こんなに出てるもんね」

「よく死ななかったわね、私」

「結構ギリギリだっただろうな」


ソラの回復魔法(??)には血を増やす効果もあったようだが、それを上回って失った量が多い。ソラの力の回復も含め、動けるようになるのにも時間がかかるだろう。

だからこいつは、その暇潰しのために来たのだろうか?


『ふむ。私の領域だからこそ、この神術になったのでしょうね。他の場所ではどうなっていたことか』

「誰!」


突如現れた光の人型に話しかけられ、臨戦態勢を取るフリス。ソラとミリアは何もできそうにないのだから、フリスがやるしかない。

だが、その必要は無かった。


『失礼、私はアポロンと申します。精霊王8柱が1人、光の精霊王ですよ、半神半人(デミゴッド)様、巫女様』

「精霊王だって?……それで……デミゴッド?」

「はい。半分神、半分人、ここで止まる存在も多いですが……貴方にはまだ先がありそうですね。そこのお2人は貴方の巫女でしょう?」

「巫女、というか……妻なんだが……」

「なるほど、肉の繋がりですか」

「肉っ⁉︎」

「ちょっと⁉︎」

「……そんな言い方はやめてくれ」

『承知いたしました』


ちょっと遠慮が無さ過ぎる気もするが、悪い奴では無さそうだ。事前の推測と合わせ、ソラ達は取り敢えず信じることにした。


「光の精霊王か……もしかして今の俺達を……治せるか?」

『力と血ですね?半神半人様の方は魔力と神気双方のようですが、流石に全てを戻すというのは……』

「俺の持ってる量が……異常なのは知ってる。動くのに……支障が出ない程度で、良い」

『かしこまりました。では……』


アポロンがそう言うと、光の粒が漏れ出す。さらに光の粒から形作られた球や円柱などが移動、回転し、複雑な形を作り出していった。それは所謂立体術式で、ベフィアには無いものである。

そして、光がソラ達を包み込む。


「本当に……」

「戻ったな」

「何その魔法……」

『私の神術です。このベフィアの理に介入、魔法には不可能な現象を起こさせるものですね』


ソラとフリスの魔力が戻り、流れ出した血はそのままだが、ミリアの貧血も治っている。服に関してはソラが直すので、完全に元通りだ。


「わざわざありがとな」

『いえ、私は資格ある者にも仕える身、そのようなお言葉は不要でございます』

「それでも言わせてくれ。っと、そういえば、こっちは名乗って無かったな。俺がソラ、こっちがミリア、もう1人はフリスだ」

『ソラ様、ミリア様、フリス様ですね。承知いたしました』

「様っていうのは大仰だろ。ちなみに、俺のことは知ってるのか?」

『はい。オリアントス様に連れてこられた、資格を持つ者。この目でも確かめられましたし、疑いようがありません』

「目って……あるの?」

『はい、ここに』


冗談はさておき、ソラ達には聞きたいことがある。


「それで……質問しても良いか?」

『はい、ほぼ全てお答えできます』

「なら、そうだな……」

「あの古竜(エンシェントドラゴン)について聞きたいわ。特に、私の動きを止めたのは何だったのよ?」

「確かに。それに、あれだけ魔法を食らって無傷だったのも気になるな。防御された雰囲気は無かったんだが」

「傷も気付いたら無くなってたよね」


魔力でできたダンジョンの魔獣でも、こんな異常な存在はいなかった。この異常さは看過できない。

まあ、答えはすぐに示されたのだが。


古竜(エンシェントドラゴン)は、半分が精霊のような存在です。これでお分かりですか?』

「精神生命体……魔力で体を作っていたのか?」

『その通りです。ダンジョンの中では全ての魔獣が魔力でできていますが、特性は変わりません。ミリア様の腕が普通の回復魔法で治らなかったのも、その影響です。光の精霊に敵対しているのと同じですから』

「そうなんだ」

『さらにこの古竜は、少しだけですが神気も扱えていました。光魔法ではありえないものも、実現可能だったということです』

「なるほど。普通に戦うなら相性は最悪だな」

「普通なら無理よ」

『有史以来、普通の古竜すらほとんど討伐されておりませんので。他の所の古竜も、似たようなものだそうですが』

「他の?……ああ、精霊王それぞれに似たような場所が有るのか」

『その通りです』


それはつまり、ここと同じ難易度のダンジョンが後7つあるという意味でもある。そんな話は聞いたことが無かったので、やはり人には完璧に隠されているのだろう。

尤も全てを踏破するかどうかは、ソラ次第だが。


「精霊王がいるってことは、ここが神の座なの?」

『いいえ、違います』

「じゃあ、何でここにいるのよ?」

『ここはオリアントス様によって作られた、私の仕事場です。本物の神の座は天界にございますが、そこから移されました』

「それは……大変そうだな」

『ええ、あのお方の傍若無人さは目に余る限りです。ですが……快適なので文句などは言えないのですよ……』

「……何とも言えないわね」


滅茶苦茶ではあるが、やればできるらしい。ただ、その方向性が残念だ。


「それで、何でこのダンジョンを隠してたのよ?ここだけじゃないみたいだけど、公開したって問題は無いわよね?」

『いえ、ここまで到達される可能性がゼロではありませんので』

「あるのか?」

『はい。もっとも、人では無く、魔の者の方です』

「SSSランク魔獣……いや、魔王か?」

『特に魔王です。排除は不可能ではありませんが、入られるということ自体が問題なので』

「魔獣って……精霊にとっても敵なの?」

「でも、魔法を使う魔獣もいるわよ?」

『普通の魔獣は違います。ですが、魔王は別ですから』

「どういうこと?」

「理由は教えてくれないのか?」

『申し訳ございませんが、教えることはできません。少なくとも、今の御三方には』

「どうしてよ」

「ミリちゃん落ち着いて」

「まあ、魔王に関わるならそのうち知るだろうから、慌てなくてもいいだろ。まだ時間はある」


ジュン達が育つには、まだまだ時間がかかるだろう。知ることができるのなら、その間に知れば良いのだから、慌てなくとも良い。


「それで、まだ聞きたいことはあるが……取り敢えず最後だ。神気、神術っていうのは何だ?」

『神気とは、神と呼ばれる存在が己を己と定義するための力です。我々精霊王も少しは持っていますが、本物の神にはかないません』

「つまり俺にも……いや、巫女とか言っていたから、ミリアとフリスにもか?」

『はい。御三方とも、神気をお持ちです』

「そんなものがあるのね……」

「わたしも神術っていうのを使えるの?」

『はい、勿論です』

「巫女って区別するなら、当然だろうな」

『そして魔法とは異なり、神気は特に感情に大きく反応します』

「感情に?」

「どういうこと?」

『ソラ様が古竜にトドメを刺した闇の刃、そしてミリア様を治したものも、神術の一種です』

「俺の感情……激情に反応してああなったと?」

『はい』

「そんなこともあるんだね」

「……嬉しいわ」

「ミリア、どうした?」

「何でもないわよ?」

「そうか?なら良いが」

「ミリちゃんったら」


なお、ソラにはちゃんと聞こえていた。正しい難聴の使い方である。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














『それでは、授業を始めましょう』


ここはボス部屋の奥にある場所で、バスケのコートが2〜3個入りそうなほど広い。そこでアポロンはソラ達を机の前の椅子に座らせ、自身は壁を背に立っている。そしてその壁には光で文字が書かれていた。

しかも、眼鏡を指で押し上げるような仕草までしている。まあ、高価とはいえ眼鏡はあるのだから、合っているといえば合っているのだが。


「……何で教師風なんだよ」

『人達の間では普通と聞きますが?』

「普通……普通だけどね」

「何か違うよ」

『そう、でしたか……』

「まあ、このまま良いから続けてくれ。」


なお、何故机と椅子が3人分あるのかは聞けなかった。というか、聞けるような雰囲気では無かった。


『神気と神術について、まずは神気です』

「分けるのには何か意味があるのか?」

『はい。簡単に言いますと神気とは力そのもので、神術は神気を現象に変えたものです』

「神気が魔力で、神術が魔法みたいな感じなの?」

『神気の状態でも外に多大な影響を与えられるという違いはありますが、概ねその通りです』

「私は身体強化以外の魔法は使えないけど、神術は使えるのよね?」

『はい、勿論です。それではまず、見えるように神気を出していただけますでしょうか?』

「出せるのか?」

『はい。魔力とは異なり、意志があれば霧散することはございません』

「今までは魔力に混ぜて使ってたから……っと、こうだな」


ソラの右手から、薄金色で金の粒子が混じった球体が浮かび上がる。魔力とは何か違うそれは、神々(こうごう)しく、優しく、それでいて厳しい光だった。


『そうです。それが神気です』

「これが、か……維持は結構辛いな」

『慣れれば楽になります。最初が肝心ですので』

「なるほど」

「ねえ、ソラ君……」


自分ができたことですっかりミリアとフリスの問題を忘れてしまっていたソラ。振り返ると、2人は困り顔だ。


「どうやるの?」

『御二方も神気をお持ちですが?』

「いきなり言われても分からないわよ」

「そうだな……魔力とは違う、濃い力の塊が分かるか?それが神気だと思うが……」

「分かんないよ〜」

「ん……これね。これを……できたわよ!」


上手くいったようで、ミリアの両手が金色に光り始める。それはソラよりも攻撃的な感じがした。


「良いな〜」

「フリスもできるさ。もっと集中してみろ」

「フリスは魔力が多いけど、できるわよ」

「う〜ん……あ、これかな?」

「お、できてるぞ」


多少の時間差はあったが、フリスは全身を白い輝きに包まれた。その光はソラより強く濃く、ミリアより優しい。


出方(でかた)の違いは何か関係あるのか?」

『はい。特に指定しない場合、力の特性によって異なります。と言っても、異なる力でも同じ形になるので、この段階では何も言えませんが』

「なら、自分で見つけるしかないんだね」

「そうね。簡単に知れたら良いけど……」

「系統くらいなら今でも分かるんじゃないか?今の戦い方から大きく外れる可能性は低いだろ?」

『はい。神として生まれたのなら別ですが、人から神になるのであれば、人の時から大きく変わった例は少ないです』

「そっか。じゃあ大丈夫だね」


会話をしつつ、ソラは取り出した神気の濃度や形を変えていく。最初はたどたどしくとも、段々上手くなってきた。


『それでは神術です。神術とは神気を用いた術、中には理を変えるほど強力なものもあります。もっとも、恒常的に理を変えるのは上級神の方々くらいしかできませんが』

「普通は違うのか?」

『はい。大きく分けると、理を変えずに神気をエネルギーとして放出するものと、一時的に理を変えるだけのもの、この2つになります』

「俺が使ったのはただ放出しただけか?」

「私を治したのは……後者の方ね」

「じゃあ、わたしもさっきみたいなのを使えるの?」

『神術は者によるので、私と同じものは使えないでしょう。同じような結果は生み出せるでしょうが』

「なるほど……俺達は理の一部を改変する形にした方が良いか?魔法と同じにするならだが」

『そうですね。一般的な魔法の使い方の通りなら、その方が行いやすいでしょう』

「どういうこと?」

「魔法を使う時と同じイメージで良い」

「そっか」


個人差が大きいとのことで、精霊王でも一概には言えない。自分で探すしかなさそうだ。


『ですが、ミリア様、フリス様。御二人はまだ神術を使えません』

「え⁉︎」

「……どうしてよ?」

『神気がまだ少ないためです。神術を使うには個人差がありますが、一定以上の神気が必要なのです』

「どうしたら良いの?」

「魔力に混ぜれば良いだろ。俺もやってたぞ」

『その場合、魔法の効果が高くなります』

「つまり、ソラの魔法は増強されてたってことね」

「ズルいよ〜」

「これについては知らなかったんだよ……」


魔力より圧倒的に濃いものを混ぜているのだから、強くなるのも当然だ。その分、必要なものもあるのだが、2人はまだ気付いていない。


『それでは、ミリア様とフリス様は神気を込めた魔法の練習を始めましょう』

「私は身体強化しかできないけど、大丈夫よね?」

『はい、問題ありません。魔力を使うものなら全てで可能です』

「じゃあ、やってみようよ」


ということで、取り敢えず試してみることにしたが……


「あれは……怖すぎるわよ……」


制御できないほどの速度になり、すっ飛んだミリア。ギリギリでソラに受け止められた。もしソラのそばを通る軌道でなければ、そのまま壁に激突していただろう。


「びしょ濡れだよ〜……」


被害が少なそうということで水魔法を使ったフリス。だが生み出した水が予想を大きく上回っていたようで、そのまま流された。


「ミリアは知覚の方に多めに振るようにした方がいい。恐らく、知覚系の割合が下がっている。フリスはもっとイメージをしっかり持つべきだ。今のはまだ制御が甘い」

「そんなこと言われても……」

「難しいわよ」

『神気を使うと考えられないほど出力が高くなります。それを考慮に入れなければなりません』

「つまり、使う量が少ない状態から慣れていけってことだ。魔法だって、最初から強かったわけじゃないだろ?」

「そっか。そうだね」

「少しずつ、ね。まどろっこしいけど、やるしかないわ」


そして2人は練習を再開する。少しずつやるようになったため、ソラとアポロンも目を離すことができるようになった。


『ではソラ様は神術の練習を始めましょう』

「やっとか。まあ、もうできてるんだが」


ピンポン球サイズの光球を5つ出し、周囲を自在に飛び回らせる。

さらに誰もいない方向に放つと……壁ごと直径10mほどの範囲が光に飲み込まれ、(ちり)と化した。


『……お早いですね。完璧です』

「並列作業は得意だからな。」

『そういう問題では無いと思いますが……』

「そうか?」

『そうです』


こういったことができるから、ソラは規格外なのだ。











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