第22話 光都ニーベルング②
「何なの、これ……」
『光宮だよ〜』
『王様がいるんだよ』
『おうさまおうさま』
「王様?そんなのがいるのか?」
『うん。ボクたちの王様〜』
『私たちの王様〜』
「それって、誰なの?」
『秘密だよ〜』
『言っちゃダメなんだよ』
「ちよっと、私にも説明してよ」
「ああ、すまん。このダンジョンの中に、俺とフリスには聞こえてる声の主の王がいるらしいんだ」
「……訳が分からないわね」
声は要領を掴まず、自由に話している感じがした。子どもでもここまで自由なのは少ないだろう。
「ミリア、フリス、俺はダンジョンと思ってるんだが……どうだ?」
「同じよ。でも……」
「ニーベルングの近くにダンジョンがあるなんて、聞いたこと無いよね?」
「ああ……どういうことだ?」
『知らないの?』
『隠してる隠してる』
『王様が隠してる〜』
「隠してる?それくらい重要な場所なのか?」
『それは秘密』
『ヒミツヒミツ〜』
「秘密って……よく分からないね」
「何も言わないんだな……」
それでいて、何もかも話すというわけではない。ソラには、相手がどんな存在か分からなかった。
「……一旦戻るぞ。このダンジョンについて、何か情報が無いか調べる」
「ええ、良いわ。このままだと怖いもの」
「そうだね」
『え〜、行っちゃうの〜?』
「また来るから、静かにしてくれ」
『本当?』
『約束だよ〜』
「うん、約束」
「……本当に大丈夫なのよね?」
「大丈夫だ」
ミリアの心配も、分からなくは無い。
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「そうですか……」
「はい。ですが、どうかなさいましたか?」
「いえ、聞いておきたかっただけです」
「そうでしたか。他にはございませんか?」
「はい、大丈夫です。では、失礼します」
「何かありましたら、またお越しください」
ソラは神殿の資料室から出て、大通りへ戻る。そのまま宿まで歩いていき、部屋の扉を開けた。
「あ、ソラ君おかえり〜」
「ただいま。俺が1番最後か」
「おかえり。それで、どうだった?」
「駄目だった。この町はダンジョンどころか、普通の遺跡すら見つかったことが無いそうだ」
「そうなの?」
「ここは昔から宗教の総本山なんだろ?遺失した歴史はほぼ無いらしい。想定外もいいところだ」
「そう……手がかりが無いわね」
「まあ、ダンジョンに関しては一切関係無いんだねどな。2人はどうなんだ?」
やってきたことは当然、光宮の情報収集だ。存在すら知られていなかったとなると、迂闊に入るのは躊躇われる。
「ギルドも駄目だったよ。何も聞けなかったもん」
「商人も駄目ね。ダンジョンがあるならそれらしい食料とかの購入があるはずだけど、聞いたこと無いらしいわ」
「商人からも聞けるのは良いが……何もないか」
「ごめんなさい、力になれなかったわね」
「いや、俺達だって見つけられなかったんだから気にしなくて良い。それより、この結果だと……」
「隠してたっていうのは本当みたいだね」
むしろ隠されていなくてこれだったとしたら、怪しすぎる。入り口で全員殺されているのではないだろうか?
「隠されてないって考える方がおかしいからな。ギルドは何の異変も把握してなかったんだろ?」
「うん。原因は分からないけどパーティー全員が行方不明になったってことは無いらしいよ」
「それなら確定ね」
「ああ、あれは隠されていたんだろうな。それで、俺達が見付けられた理由だが……」
「やっぱり、ソラ君?」
「多分な」
「でも、フリスも声を聞いてたんだから、ソラだけってことは無いんじゃないかしら?」
「ミリアも把握はされてたから、俺達3人を呼んだのかもしれないな……何で3人なのかは分からないが」
「ソラと一緒だからじゃないの?」
「いや、それだけだと薄い気がする。何か共通の条件があるはずだ……」
隠されていたのなら、解放される条件もあるはずだ。ソラ達はそれを満たしているのだろうが……何も分からなかった。
「こんなこと考えていても仕方ないわ」
「ミリア、そんなこと言うなよ。重要なことなんだぞ」
「でも、ほとんど情報が無いのよ?見付けられるわけ無いじゃない」
「そうだけどな……」
「ミリちゃん、あの声が分からないと危険なのかも分からないよ?」
「それもそうね。でも、声の主に関しては、1つだけ心当たりがあるわ」
「あるのか?」
「何なに?」
「精霊よ」
魔法は精霊の加護と言われているが、精霊そのものとコンタクトを取るわけではない。そのため、精霊と言われてもイメージがつかなかった。
「精霊が?ありえるのか?」
「ありえるよ。私達みたいに魔法を使うんじゃなくて、精霊に魔法を使うように頼む、精霊術士っていう人達もいるし」
「それに、精霊術士のような才能のある人しか精霊とのコミュニケーションはできないと言われているわ」
「つまり、俺達が何らかの条件を満たしたから、精霊が声をかけてきたと?」
「ええ。でも、王っていうのが気になるわね」
「精霊王とかはいないのか?」
「精霊王はいるわ。でも、神の座にいると言われてるのよ」
「神の座、か……普通なら地上にあるわけがない。あったとして、もしあのダンジョンがそうだとしたら……」
「どういう場所になっているのか、想像すらできないわね」
最悪、神域を守る要塞となっている可能性だってある。ミリアがこんな考えに至ったのも、当然だろう。
「それで……ソラ?」
「ミリア?」
「……あのダンジョンに行くの、やめましょう」
「ミリちゃん、どうしたの?」
「絶対危険よ。未踏破どころじゃない、あんな普通じゃないダンジョン」
「確かにそうだな……」
「そんな風じゃ駄目だよ!」
「フリス?」
「わたし達は精霊に呼ばれてたんだよ?絶対行かなきゃいけないんだから!」
「それで死んだら意味無いのよ?別に今行かなきゃいけない理由なんて無いんだから」
「今呼ばれたのは理由があるからだよ。それに、危険なのは今までだって同じだったもん」
「2人とも落ち着け」
ヒートアップしかけていた話し合いだが、ソラが何とか止めた。このまま感情論で言い合っても、良いことは無いだろう。
まあ、前に巻き込まれて大変な目にあっただけなのだが。
「とりあえず、それぞれの意見をまとめてから言ってくれ。まずはミリア、あのダンジョンの中へ行くということに対して、どう考える?」
「私は反対よ。今までのダンジョンに比べて、異常すぎるもの。無駄な危険は犯すべきじゃないわ」
「そうか。じゃあフリスは?」
「私は賛成だよ。精霊に呼ばれてるってことは、役割か何かがあると思うの。わたし達に限定されてたんだから、ソラ君に関係するんじゃないかな」
「どっちも間違ってはいない、か……どうするべきなんだろうな……」
「ねえソラ君、ソラ君が決めちゃって?」
「良いのか?」
「うん。ミリちゃんもそれでいいよね?」
「ええ、全部ソラに任せるわ。やっぱり、中心にいるのはソラだから」
「分かった。そうだな……俺は……」
ソラの出した答えは……
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『あ、来てくれたんだ〜』
『遅いよ〜』
「ごめんね」
「俺達にだって準備があるんだからな?」
『そーなのー?』
「そうだ」
「だから、納得してね?」
『はーい』
精霊を宥め、扉へ向けて足を進めていく。子どものような精霊は、これだけで納得した。
「ミリア、本当に良いんだな?」
「……ここまで来て言う言葉じゃないわよ?」
「すまないな、こんな性格で」
「分かりきったことを言わないでよ。それに、私はソラの結論に従うって言ったでしょ?」
「……その通りだな。俺はミリアの意見よりフリスの意見を選んだ。それは2人とも了承したんだし、これ以上むし返すべきじゃ無いか」
とはいえ、こんな会話をすれば察しの良い精霊には気付かれるようだ。
『逃げるつもりだったの?』
『えー』
「そんな風に言うな。俺達は命を賭けているんだぞ」
「だから、ミリちゃんを責めないであげてね?」
『分かった〜』
「……何となく予想できるわね」
「それ、多分あってるよ」
「そうだろうが……まあいい。行くぞ!」
「ええ」
「うん」
そしてソラ達は迷宮の中へと入っていった。




