第20話 王都ハウル③
「さて、今日は「大変です!魔獣の群れがこちらに!」……またか。今日は中止、まずは話を聞きに行くぞ」
駆け込んできた兵士からすれば大変な事態だが、ソラ達にとっては本当にまたかである。すぐに頭を切り替え、城の中へ向かった。
だがあまりの切り替えの早さに、ジュン達はついていけていない。
「ソラさん、魔獣の群れって⁉︎」
「話は後、情報の方が先だ」
「でも、そんなに急がなくても」
「遅れたら目も当てられない。何万人が死ぬかもしれないんだぞ」
「え……」
「魔獣をなめるな。俺達にとっては容易い相手だが、他にとっては違うんだ。ここで遅れたら……」
「ソラ、遅れないで」
「急ごうよ」
「すまん」
だがずっと何も分からないというのは癪なので、ソラは中央の会議室へ向かいつつ、同じ方向へ歩いている兵士を1人捕まえて聞いた。
「おい、魔獣の数は?」
「5万ほどと思われます!」
「猶予時間は?」
「ほとんどありません!遅くとも昼前には来ます!」
「なるほど。ありがとな」
「い、いえ、それでは!」
今は朝少し時間が過ぎたあたり。逃げる時間は無いとはいえ、兵を展開させるだけの時間はある。どうこうするまでもなく、迎撃戦になるだろう。
「ミリア、フリス、どう思う?」
「ここの防衛はほぼ大丈夫でしょうね……魔人が前に来なければ、だけど」
「魔獣のランクは多分Cまでだよね?」
「ああ、恐らくな。今までのだって、その町近くにいた魔獣ばかりだった。周辺で集めてるのか、似た種類を他から連れてきてるんだろうな」
「カノンアントみたいな例外が無ければ良いけど……問題は無いわよね」
「多分な。並のSSランクなら倒せるだろ。それで会議室は……あそこか」
「やっぱり集まってるね」
「当たり前よ。それより、行きましょ」
「ああ。ジュン達は外で待ってろ。流石に素人は邪魔だ」
「……分かり、ました」
多少戦う技能を持っているとはいえ、軍略の才をこんな所で試すわけにはいかない。ジュン達を部屋の外に残し、ソラ達は会議室に入った。
そこで会議の中心になっているのは当然なのか、アノイマスとライハートだ。
「団長、どうしましょうか……」
「どうするも何も、フリージアやエリザベートと同じようにするしか無かろう。率いておる魔人を倒せる冒険者は、まずおらんのじゃぞ」
「だったら俺達の番か」
「そうね。むしろ、防衛戦なんていらないと思うわ」
「わたし達だけでやっちゃう?」
「そうだな。そういうわけだから、行くぞ」
「待て待て待て待て待て!」
ソラ達の言ったことに多くの面々が呆気にとられる中、ライハートだけは正常に動けた。……これを正常と呼べるのかどうかは疑問だが。
「そういうわけ、ってどういうことだ!」
「俺達だけで殲滅することだが?」
「じゃあお前達の番ってのは何なんだよ!」
「なにって、俺達は両方に参加していたからな」
「ああ、知ってる」
「ついでに言うと、終わらせたのも私達よ」
「それも聞いたぞ。だが、3人だけで行ったわけでは無いだろう?」
「ああ。だが今回はこれで良い」
「は?」
「この程度の相手なら、俺達3人だけで十分だ」
「この程度って……5万以上いるんだぞ」
「5万しか、だ。エリザベートはBランクもいた上に、恐らく20万を超えていたからな。それに、この程度しか集められないなら、率いてる魔人は大したこと無い」
「大したことないって……」
「本当のことだ。ミリア、フリス、行くぞ」
「ええ」
「うん」
「ちょ、ちょっと待て!」
「……若いもんは元気じゃのう」
そしてソラ達を先頭に会議室を出て行く。普通なら話がまとまったとしても、冒険者であるソラ達が先頭にいるのはおかしい。扉の前で待っていた人達は、異変でもあったのかと思っただろう。実際有ったが。
「あれ?ソラさん、早かったですね。それと……ライハートさん?」
「一緒に城壁まで行くぞ。1番外側だ」
「待て、勝手に決めるな」
「だったらお前も来れば良いだろ」
「それも勝手に決めるな!近衛騎士団副団長だぞ俺は!」
「前線指揮はしないのか?」
「それは担当者がいる。というか、俺より歳上だ」
「なら、リーナの護衛で良いだろ」
「まったく……アノルド、リンダ、ついて来い」
「はっ」
「了解しました」
「懐かしい面子だな。じゃあ行くか」
ライハートがいるため多少ゴタゴタしつつも、ソラ達は進んでいく。そしてそう時間をかけず、魔獣が向かってきている城門の内側に設置された、テント群の近くまで来た。
この付近は多くの兵士や騎士がおり、門の外にはさらに多くの兵士や騎士がいる。王都だけあって、その数は多い。ソラ達は人々が城へ駆けて行ったり門を出て行ったりする様子を見つつ、戦いへ向けて休息を取った。
そして昼前、魔獣が見えたという報告があったので、全員で城壁の上に登る。確かにそこからは、地平線から伸びる魔獣の大群を見て取れた。
「まあまあな数だな」
「殲滅しきるのは大変ね。突撃して魔人を倒しましょうか」
「暴れればわたし達に注目するだろうし、良いんじゃないかな?」
「そういう問題ですか……?」
「そういう問題だ。さて、このまま行くとして、最初はどうしようか……」
普通に考えればその発想自体が恐ろしいのだが、3人は至極真面目なことの方が恐ろしい。この会話を聞いた兵士達や騎士達は、味方なのに戦々恐々としていた。
ソラの目に、ある物が留まる。
「そうだ、借りるぞ」
「あ、ちょっと!」
隣に立っていた騎士から配給されている剣を借りると、ソラは城壁を飛び降りた。展開している兵士達を抜けて先頭に出ると、弓を引くように構え……
「ふっ飛べ」
剣が雷を纏って吹き飛ぶ。そして剣は魔獣の群れに飛び込み、衝撃波でなぎ倒した。
「け、剣がー⁉︎」
「な、なんだアレは……」
「もしかして……レールガン?」
「……こんなのあり?」
「滅茶苦茶ですよ……」
「何だよあの威力……」
そして後ろで騒がれる。これは予想通りであって問題は無いのだが、何故かソラは不満げだ。
「この程度か……蒸発するのが早いな」
「あれだけ倒しておいて、何言うのよ?」
「アレだけで魔人も倒せれば良かったんだがな……威力自体は可能だった分、残念だ」
「それよりソラ君、予定通り行くの?」
「いや、もう1発放つ」
そういうとソラは直径1mほどの火球を6発撃つ。それらは高速で空を飛び、大群の上へ到達し……
「弾けろ」
弾けた。1つの火球が数百の火弾に分かれ、魔獣達を襲う。1つ1つが魔獣数匹を焼き払えるだけの火力を持ちつつ、着弾地点から周囲に燃え広がるというオマケつきだ。
それはまるで焼夷弾。第二次世界大戦中、アメリカ軍が日本の木造建築を焼き払うために使った火の雨のようだった。
「今の、凄いね」
「よし、これで良いな。フリスはここにいてくれ。岩の塔を作るから、その上から魔獣を防げ」
「うん、分かった」
「ミリアは俺と一緒に行くぞ」
「ええ」
魔法により穴だらけとなった魔獣の大群へ、ソラとミリアが飛び込む。そして、血が吹き上がった。
「雑魚ばかりだな」
「そうね……魔人は何を考えてるのかしら?」
「普通なら最初にオークやオーガを出すはずだが……先に疲れされるつもりなのか?」
『それって意味あるの?』
「俺達がいなくても、無駄に消耗するだけだな」
どういうわけか、魔獣はほとんどがゴブリンやコボルトにシャドウウルフとDランクで、鳥や蜂などの飛行魔獣もいない。オークやオーガは奥の方にいるのかもしれないが、飛行魔獣がいないのはおかしかった。
「ただ……俺達には関係無い」
「私達はこのまま進むだけね」
『魔獣はほとんど通してないよ〜』
「ナイスだフリス」
とはいえ数は多い。ソラ達は当たるを幸いに片っ端から魔獣を斬り捨て、魔法で消し飛ばしていく。
「魔人は……流石に前に出てきてはいないか」
「そんなこと言わなくて良いから、進むわよ」
『あ、あと少しで援護できなくなっちゃうよ。ソラ君とミリちゃんの位置は分かるけど、そっちばっかり気にしてると周りが疎かになっちゃいそうだから』
「分かった。そっちも頼んだぞ」
『うん。任せて』
「じゃあ、魔法はソラ任せね」
「だが、問題は無いだろ?」
「ええ、勿論よ」
Dランク程度ではソラとミリアの足を止めることはできない。2人は勢いそのままに進んでいった。
一方、その後方では……
「なんじゃこりゃ……」
「なんだよこれ……」
「めちゃくちゃ……」
兵士も騎士も、全員呆然としている。それはジュン達も同じだった。
「なんだこれ……」
「こんなの考えられないって……」
「いくらSSランクでもこれは無いだろ……」
「普通は……こんな人いませんよね?」
「当たり前よ。1パーティーで軍勢レベルなんて聞いたこと無いわ」
「先代勇者だってここまでじゃなかったそうだしな……神話くらいにしか無いんじゃないか?」
「ソラさん達神様級ですか……」
実はそれが正解に1番近いのだが、誰も気付きようが無い。そんな風にほとんど話もせずこの光景を見ていたのだが、ふとある騎士が呟いた。
「漆黒の魔刀に……金の双刃……あれが銀の四魔か……?」
「何だそれは?」
その呟きを耳にしたライハートは、その騎士に聞く。冒険者の2つ名を聞いたことは何度もあったが、この3つに聞き覚えが無かったからだ。
「知り合いの商人から聞いた話なんですが……エリザベートでの魔獣の襲撃を退けた3人の2つ名だそうです」
「……殿下?」
「ごめんなさい。父上に言うなと言われていて」
「えっと……リーナ、どういうこと?」
「……ソラ達3人が、エリザベートに襲来した魔獣10万を蹴散らし、率いていた魔人を無傷で倒したそうよ」
誇張もあるが概ね事実である。それ故、ジュン達としては安心できなかった。
「ソラさん達、無茶苦茶なんだ……」
「こんな存在ってありかよ……」
「だがこれでもSSランクだぞ?」
「魔王ってこれより上なんですよね?」
「……これを超えろと?」
「まあ、な……頑張れ」
「ライハートさんは良いですね……」
ソラ達が聞いていないと思っているからこそ、ここまで言えるのだろう。だが……
「そんな風に呼ばれているなんて、初めて知ったぞ」
「何よ、こんな時でも盗聴する余裕があるの?」
「ミリアだって聞いてただろ?」
「まあ、そうだけど。フリスもでしょ?」
『色々言われてたね』
今のソラの手にかかれば、この程度は朝飯前だ。激戦の真っ只中だが……ソラ達が一方的に殲滅しているだけなので負担は少ない。問題は無かった。
「ん?……魔人がいたぞ」
「やっぱり奥なのね」
「ああ。偉そうにふんぞり返ってる」
『教えてくれれば、魔法で消しちゃうけど?』
「いや、俺達で瞬殺した方が面白いだろ」
『できるの?』
「俺を誰だと思ってる?」
「馬鹿みたいに強いSSランク冒険者ね」
『SSランクの魔人と1対1で勝ったよね』
「そういうことだ。魔力量的にはあいつほどじゃないし、良いな?」
『うん』
「私は一緒よ?」
「ああ。行くぞ」
ソラ達が突っ込んだ先、そこにはソラの言う通り魔人がいた。竜の眼と竜の翼と竜の尾を持った、赤い肌の人間風の男だ。手には長斧を持っており、正面から戦えば普通に強いのだろうが……
「おい!貴様らへぶらぁ⁉︎」
一瞬で首と四肢を刈り取られ、胴体を3枚おろしにされる。名前も知らない魔人、かなり不憫である。
「終わりだな」
「本当に一瞬ね」
「魔獣も逃げ始めているから、終わりだな。とりあえず少しでも多く狩るぞ」
「分かったわ」
そして帰りはゆっくり歩き、目につく魔獣を片っ端から殺していく。魔人以外の死体の回収はしていなかったため、戦場跡は凄惨な状況だ。まさしく死屍累々である。
「さてと、終わらせてきたぞ」
「おかえり〜」
「フリス、大丈夫だった?」
「うん。少しは通しちゃったけどね」
「見た所被害は少なそうだし、大丈夫だろ」
「お前ら……」
言っていることのケタが違う。確かに実際の被害はほとんど無いのだが……ライハート達の精神はボロボロだった。
「ライハート、どうした?」
「どうした?じゃないだろ。無茶苦茶なものを見せつけて……」
「そうか?」
「無茶苦茶だ」
「無茶苦茶です」
「無茶苦茶だね」
「無茶苦茶ですね」
「……最近はこれが普通だったものね」
「変になってたのかな?」
「周りにとっては異常でも、俺達にとっては普通だから問題無い」
「いやいやいや、そういう問題じゃないぞ」
「そうか?」
「そうだ」
「まあ確かに……」
何処か遠い目をして……
「目立ちすぎたか」
「目立ちすぎたとかいう話じゃないぞ」
「そうね。仕方ないことだけど」
「おい、無視するな」
「どうするの?」
「このままハウルから出た方が良いかもしれないな」
「いや、このまま居れば良い。十分な報酬も出るし、兵士達の士気も高まる」
「俺達が目立ちたがってないことは分かってるだろ。察してくれ」
「どの道有名になるんじゃないか?」
「それはそれ、これはこれだ」
「まったく……ギルドの方は俺が手を回しておいてやる」
「頼んだ」
無理を言う。そんないつも通りのソラで、ようやくジュン達も元に戻った。
「ソラさん……もう行くんですか?」
「ああ。お前達に教えることはもう無かったから、ちょうど良い機会だ」
「ちょうど良い?」
「教え終わっているのに、長居をするのは悪いだろ?」
「教え終わってる?」
「もしかして、これがあることを知っていたんですか?」
「可能性は、だけどな。お前達の稽古が休みの時俺達は外に出ていたが、魔獣が多かったから警戒はしていた」
「……言えよ」
「可能性だけでもパニックになりかねないだろ」
「俺達みたいな上層部だけなら大丈夫だ。それより、情報が無いことの方が問題になるぞ」
「……それもそうだな。すまん」
「もう終わったことだし、終わらせたのもお前達だ。気にするな。それよりも……」
ライハートが懐から取り出したのは金貨が3枚、それをソラの手に握らせる。ジュン達への稽古の報酬は28日間で金貨1枚銀貨40枚であり、かなり多かった。
「ほら、報酬だ」
「随分と多くないか?」
「今日のを含めたんだよ。裁量は陛下から一任されているからな」
「へえ、偉いんだな」
「おいおい、俺は近衛騎士団の副団長だぞ?」
「そういえば、そうだったわね」
「忘れてたね」
「おいコラ」
ライハートとの漫才はそこそこ、ジュン達へ向き直る。
「じゃあ、またな。次はまともに打ち合えるようになってろよ」
「無理を言わないでください」
「でも、そうならないと何もできないわ」
「でも……」
「大丈夫、きっとできるよ」
そしてソラ達は、戦場を去っていった。
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「さて、ミリア、フリス、ここからが本番だぞ」
その後、ハウルから少し離れた街道近くの森の中。
「うん、分かってるよ」
「私も気付いてるわ」
「そういえば、去年もこんなことがあったか……」
「場所は違うし、相手の強さも違いすぎるけどね」
「私達も違うわ」
「ああ、そうだな……隠れてるやつら、出てこい」
3人とも振り返り、ソラが問いかける。そこにはただの森が広がっているようだったが……木の陰から合計6つの影が出てきた。
「なるほど、気付かれていたのか」
「そのようね、バウエン」
「いいじゃねえかアルメダ。やりがいがありそうでなぁ」
「フリードよ、そう油断するでない」
「ゼファーよぉ?何でいつもそんなジジイみたいな喋り方なんだよ」
「良いでしょ?昔からなんだから」
「フフフ……エリは気にしなさすぎ」
「お前こそ気にしろ、アリス」
右手が闇、左手が光ででき、槍を持つ、バウエンと呼ばれた男。髪が炎で、竜の尾を2つ生やした、ローブを着て杖を持った、アルメダという女。赤と黒の毛皮のライオンが人型になったかのような、大剣を持った大男、フリード。鷲顔で、背中には翼が生えた、杖を持った、ゼファーと言われた人型。背中から蛸の足を4本生やした、エリという女。額から2本の角を生やし、巨大なハンマーを持った幼女、アリス。この6人だ。
見るからに高ランクの存在だが……ソラ達の反応がおかしい。
「人外が極まったな」
「元から人じゃないわよ」
「何を言ってるんだ。魔人だから人ではあるだろ」
「あ、そっか」
「まあ、人間じゃ無いけどな」
「……貴様らは何をやっておるのだ」
魔人が出れば普通は戦うのだが、いきなり漫才を始めたソラ達。魔人達も呆れてしまっていた。
「ただの漫才だ。気にするな」
「物怖じしないのか?」
「してどうする?」
「いくら勇者の師であろうと、人間が我らに勝てないだろう」
「俺達が師だと知ってるのか?」
「外に出ていた時の様子を見てれば、誰でも分かるだろうが」
「どう見ても、教える側のやることじゃな」
「なるほど、最近付けられてる気がしていたがお前らだったか。それで、ノールドという名前の魔人がいたが、知っているか?」
「あいつか。あいつは強かったが……ここより北で敗れ、死んだそうだな。私に会った者は全て殺してきたと言っていたが、情けない奴だ」
「多分そいつだな。そして俺達も会った。それで、何故俺達がここにいて、何故奴が死んだか分かるか?」
「……まさか」
「そのまさかだ……俺が倒したんだよ」
その一言の意味は大きかったらしい。魔人達は一瞬で殺気立つ。
「人間風情が……何を言う」
「嘘だと思うか?なら試してみろよ」
「人間など群れるしか能の無い猿だろうが。後悔しろ」
「バウエン、冷静に……」
「俺はいつも冷静だ。お前達、やるぞ」
「まったく……」
「悪くねぇなぁ、おい」
「いつでも来い。ミリア、フリス、良いな?」
「大丈夫だよ」
「拒否する時間なんてなかったじゃない。でも、良いわ」
「大した余裕、よねっ!」
エリは4本の蛸足をさらに隠していたようで、両手と合わせて10本のナイフを同時に投げてきた。だがソラとミリアには簡単に避けられ、フリスには魔弾で迎撃される。
奇襲は失敗に終わったが、これを合図に戦端が開かれた。
「ハアッハッハァッ!」
「ヌルい」
まずフリードがソラへ突撃し、大剣を振るう。だがそれは大振り、ソラは避けて反撃しようとした。だが……
「ちっ、邪魔だ」
「さっさと死ね!」
「潰させてもらおうぞ!」
横に回り込んだバウエンの槍と、上から氷を降らせるゼファーを無視できず、さらに後退する。
「どきなさいよ!」
「嫌ね!」
ミリアはエリに足止めされていた。スピードはミリアの方が上だが、エリは腕が多い。そのため、結果的に拮抗している。
エリが投げたナイフは簡単に避けられるが、ミリアの双剣もナイフに弾かれていた。そしてエリは多少の傷ならすぐに治ってしまうため、ミリアだと決定打が打ちにくい。
「燃え尽きて!」
「そっちこそ!」
フリスはアルメダと1対1の魔法戦を繰り広げていた。牽制用の魔弾を放ちつつ、チャンスに高威力の魔法を叩き込む。双方が主に火を使っているため周囲は凄まじい惨状となっており、他は誰も近付こうとしていない。
「フフフフフ……」
だが魔人側には、まだアリスがいる。得物のハンマーがとても大きいためあまり動いていないが、ソラもミリアもフリスも、油断できないことは分かっていた。
「3対1か……」
「貴様が中心なのは分かっている」
「ワシらとしては見逃さん」
「楽しそうだしなぁ!」
「むさ苦しい連中はいらねぇ!」
この3人の連携は、フリードが中心のようだ。というか、考えなしに突っ込むフリードに2人が合わせている。だが考えなしとはいえ強いのだから、ソラも油断などできなかった……まるで漫才のようになっているが。
そんな様子を見たミリアの一言。
「……気にしなくて良いみたいね」
「あの男の方に行かなくて良いの?」
「ここで止める方が先決よ。ソラなら貴女が行っても対処できるでしょうけど、無理はさせられないわ」
「そう……あの男を貰うのも面白そうね」
「それは私に勝ってから言いなさい。まあ、そんな機会は絶対に無いけど」
どうでもいい口論の後、2人は互いにスピードを上げ、乱舞する。完全に2人の世界に入り込んでいた……ミリアは嫌悪感というか、怒りというか、そんな負の感情を丸出しだが。
「人間で、ここまでやる相手は初めてね」
「奢ってるわけじゃないけど、自信はあるもん」
「でも、魔力の量で勝負をするなら、結果は見えてるわよ?」
「なら、試してみる?」
「……良い度胸ね」
アルメダも高ランクの魔人らしく、自分の強さにはかなりの自信があるようだ。だがそれはフリスも同じこと、この2人の魔法戦は次第に苛烈を極めていった。
互いが放つ火球がぶつかり合い、炎を撒き散らす。そしてそれを隠れ蓑に放たれる竜巻や豪雷も、すぐに相手にバレて打ち消される。途轍もないレベルの消耗戦を繰り広げているが、2人のどちらにも疲労は見られなかった。
そんな2人と比べてソラはというと、割と苦戦している。
「ゼファー、追い詰めろ!」
「分かっておる!」
「魔法が邪魔だな」
「オラァ!こっち向けよ!」
「お前はうるさい!」
ゼファーの水魔法と氷魔法は上手くコントロールされていた。ソラとしては迎撃で魔法を放たなくてもよいが、避けないわけにはいかない。また魔法で撃ち落そうにもバウエンが上手く立ち回っており、1人だけには集中できなかった。
「面倒な……」
「ハッハッハァァ!」
「うるせぇ!」
「独り言を言うなんて余裕だな?」
「お前達が予想よりは強かったからな」
「それは俺たちの台詞だ。よくここまで耐えていたが……アリス!」
「フフ、もらったー!」
「でもまあ……」
そしてバウエンに従い、アリスが動く。そのハンマーはソラへの直撃コース。いくらソラとはいえ、当たればひとたまりも無い。だがソラは避けず……
「はぁ⁉︎」
「何だと⁉︎」
「この程度か」
ハンマーを受け止めた。しかも、左手だけでだ。自慢の一撃が素手で止められるという異常事態に、アリスは一瞬固まる。
「ど、どうして……」
「言うかよ」
流石は強者と言うべきか、こんな状況でも冷静に退こうした。だが力を抜いた瞬間、そこを狙ってソラは踏み込み、薄刃陽炎を振るう。そして、ハンマーの柄ごと首が綺麗に落ちた。
そしてそれを見て、5人は止まり2人は動く。
「アリス⁉︎」
「そんな……」
「こっちばかり見ていて良いのか?」
「ええ、終わりよ」
「うん」
止まったのは一瞬だけ。だが、このレベルの戦いでは致命的だ。
フリードは足元から伸びた岩の槍に貫かれ、磔のような形で絶命した。エリは一瞬で加速したミリアについていけず、蛸足も含めた全身をバラバラに切り刻まれる。空を飛んでいたゼファーは無数の雷に撃たれ、さらに燃やされた。頭部以外、無傷の場所は無い。
「こんなことって……」
「あいつらが……」
「お前達2人はあの4人より強い。後に回した方が楽だからな」
「そんな馬鹿な……」
「あの女の子は私と魔法を打ち合ってたのに……」
「あの程度なら、フリスは3倍でもやれる。魔力を温存したのが仇になったな」
「けどまだ……」
「ミリア」
「ええ」
ミリアが一気に駆け、魔法を使おうとしたアルメダの左腕を一瞬で刈り取る。そのスピードは凄まじく、前衛のバウエンすら気付いていなかった。
「え?あ……」
「嘘だろ……」
「本当だ。今のは身体強化の使い方の問題だが、俺達はお前達より数段強いぞ」
「こんなことが……」
「じゃあな。予想より楽しかった」
「バイバイ」
ソラはミリアと同様に高速で動き、バウエンの首を刎ねる。フリスは青い炎の竜巻を放ち、有無を言わさずアルメダを消滅させた。
どちらかというと、前者の方がミリアとしては気になる。
「……簡単に使ったわね」
「超えられるわけにはいかないからな。何度も練習して、ようやく使えるようになった」
「それでも簡単に使ってたわよ」
「ミリアほど上手くはないぞ」
ミリアのやっていたことは分かりやすかったので、ソラとしてもイメージしやすかった。簡単に真似されたミリアとしては嫌だろうが。
「それにしてもソラ、数段強いは言い過ぎよ」
「6対3だったら、負けてた可能性だってあったんだよ」
「結果的に勝ったんだから良いじゃないか。それに、駆け引きと引き出しの数は俺達の方が上だったぞ」
「まあ、それを入れれば数段上でしょうけど……」
「そういうことで良いじゃないか」
「終わったことだし、もういっか」
「それもそうね」
そのままソラ達は進んでいく。そしてこの惨状を見つけたライハートがまた頭を抱えるのだが、それは3人に関係は無い。




