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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第5章 新たな希望と白の迷宮

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第18話 特訓③

「おはようございます……」

「お、起きてきたか」

「遅かったわね」

「大丈夫?」

「やっぱり辛そうね」

「……リーナは元気だね」

「疲れるのは慣れてるもの」

「この世界ならこれが普通だからな。リーナは外にも出ていたし、疲れを取るのは慣れてるんだろう」


数日間、ソラ達に練兵場でしごかれていたジュン達。起きるのが遅くても、その顔には疲労の後が残っている。

だが、日の出とほぼ同じ時間帯に起きるベフィアの生活サイクルに、夜遅くまで起きる現代日本人が慣れるのは大変なのだ。どちらかと言えば、それにすぐ順応したソラの方がおかしい。


「早く朝食を食べて、準備してこい。今日もやるからな」

「はーい……」

「分かりました……」

「大丈夫かな?」

「問題無い。そのうち慣れるだろ」

「そう、そうよね」


慣れないと話にならないので、5人も頑張るだろう。リーナは兎も角、ミリアとフリスが気になるのは別のことだった。


「それにしてもソラ、厳しすぎじゃない?」

「大丈夫だ。明後日は休みにする」

「連続だし、そろそろ休んだ方が良いんだよね?」

「ああ。疲れを抜いておかないと、大変だからな」

「やっとね……」

「いや、リーナも今日は休みみたいなものだぞ」

「どういうことよ?」

「今日と明日の稽古は、リーナにはほとんど問題無い。主にジュン達用だからな」

「……何をするつもり?」

「これから先に行くために必要なことだ。精神的には辛いだろうけどな」


これだけでなく、たわいのない話をしながら待っていた4人。暫く経って、ようやくジュン達がやって来た。


「来ました!」

「装備に問題は無いな?」

「はい」

「ええ」

「おう!」

「大丈夫です。それで……今日は何をするんですか?」


そう聞かれて、人の悪い笑みを浮かべるソラ。ジュン達も嫌な予感がしたが、遅い。


「今日は外に行くぞ」

「外って、町の外に?」

「ああ、ゴブリンあたりを狩る」


この世界に召喚された時点で覚悟はしていたが、面と向かって言われたため緊張していた。


「1対1の状況を作るから、好きにやってみろ」

「そんな、いきなり……」

「いつかやらなきゃいけないことだ。それに、俺達も早めにお前達の様子を見ておきたいからな」

「確かにそうですけど……」

「でも……」

「覚悟しなさい。ここで生きていくなら、絶対必要なことよ」

「辛いかもしれないけど、頑張って」


そう言って勇気付け(騙し?)、外へ向けて歩いていく9人。するとそこへ、見慣れた顔が近付いて来た。


「おい、ソラ」

「ライハート、どうした?」

「どうしたじゃないだろ。練兵場はこっちじゃないぞ」

「だからだ。外に行くからな」

「外に?早くないか?」

「ゴブリンあたりなら1対1でも余裕だろうからな。俺達が場を作れば、問題無い」

「そうか……お前の見立てなら信頼できる。頼んだぞ」

「依頼に手は抜かないから大丈夫だ。それに、魔王は俺達も無関係じゃなさそうだからな」

「どういうことだ?」


ジュン達から離れ、ライハートと顔を近づける。ミリアとフリスはソラの意を()み、6人を連れて先に進んだ。


「ジュン達が魔王を倒しに行く時、冒険者も動員するんだろ?」

「⁉︎……どうしてそれを?」

「俺達のことは、ガイロンから直接言われたからな。冒険者を騎士にしていることも考えれば、簡単に予想できる」

「そうか……その通りだ。ここから先は機密だが、大丈夫か?」

「勇者だって今は機密なんだろ?冒険者の間に噂が回ってなかったぞ」

「いや、ソラ達が来た時点で機密は解いた。今は噂になってるだろうな」

「そうなのか。それで?」

「冒険者、特にBランク以上の者達に騎士への勧誘をしているが、Sランク以上にはほとんど蹴られてる」

「それはそうだろうな。そのランクだと、自由な冒険者を辞めて国に縛られるだけの意味がほぼ無い」

「それはこちらも承知している。だが依頼なら動くだろ?」

「騎士よりも魔獣に慣れている冒険者を、一時的に任官させるつもりか」

「そうだ。まだジュン達が弱いから、大まかな計画だけだけどな」

「それで良いだろ。冒険者と騎士に違いはあるが、そういう依頼なら動かない奴の方が少ない」

「なら安心か」

「それじゃあ、俺はそろそろ行くぞ」

「おう。後でまた手合わせしてくれよ」

「今日は無理だ。やるなら明日か明後日だな」

「なら明日で頼む。明後日は新兵の教育があるんだ」

「分かった」


ライハートと別れた後、ソラは少し駆け足になって進み、門の近くで合流した。


「すまないな、遅れて」

「何の話をしていたんですか?」

「たわいの無い雑談だ」


客観的にはそんな雰囲気では無かったが、ジュン達はソラとライハートが何度か仲よさげに話をしているのを見ていたため、信じたようだ。リーナは機密を知っていたのか、わけ知り顔である。


「外に行くが、その前に少し寄るぞ」

「何処なんですか?」

「行けば分かる」


そう言ってソラは少し寄り道し、ある建物の前にやってくる。


「ソラさん、ここは?」

「冒険者ギルド、ハウルにある中でギルドマスターがいる場所だ」

「ギルドってことは……」

「冒険者登録をするぞ。その方が動きやすいだろ」

「いよっしゃぁ!」

「トオイチうるさい!」

「静かにしてください」


騒ぎ出した面々を静かにし、ソラ達ギルドの中へ入った。勇者の話は流れていても顔はバレていないようで、反応は新顔が来た時とそう大して変わらない。そのためソラはジュン達を引き連れ、受付嬢の前に進む。


「どのようなご用件でしょうか?」

「こいつらの冒険者登録をしに来た。それと、ギルドマスターに話を通してくれ」

「っ⁉︎……少しお待ちください」

「他の人に登録を頼んでも良いか?」

「はい。人員はこちらで用意いたします」


対応した受付嬢はソラ達の容姿を知らなかったらしく、ギルドカードを見てようやく気付いたようだ。慌てて奥へ行って代わりの人を寄越し、階段を急いで登っていった。


「どうするんですか?」

「名前とかを書いて、ギルドカードを発行してもらえ。ああ、ギルドについての説明は勝手に聞けよ」

「ソラさんはしてくれないのか?」

「最初はちゃんとした説明を聞いた方が良い。疑問は聞かれたら答えるからな」

「分かりました」

「失礼します。マスターが今すぐ会いたいと」

「分かった、すぐ行く。お前達は登録の続きをしていろよ」

「はい」

「それは良いけど……どうしてギルドマスターの所に行くの?」

「お前達は軽々しく動いてはいけない、そういうことだ」


疑問符を浮かべているジュン達を置いて、ソラはミリアとフリスと共にギルドマスターの部屋へ向かう。

ここのギルドマスターは着物を着たハイエルフの女性だった。一見普通の笑顔を向けているが……確実に気付いているだろう。


「ようこそおいでくださいました。勇者様と殿下には……」

「挨拶をするなら後でお願いします。それよりも、来た理由についてですが……お判りですね?」

「……勇者様と従者様の冒険者としての権利と制限、ですか?」

「はい。俺達のような普通の冒険者ならまだしも、あの6人は特別な存在です。依頼の中には、受けない方が良いものもあると思います」

「その通りですね……国や町からでは無く、貴族の個人的な依頼は回さないよう、各地のギルドマスターに伝えましょう」

「お願いします。貴族側へは陛下を通じて伝えてもらいますので」

「陛下に直接ですか……」

「俺達は陛下から指名され、依頼を受けています。正式な手続きはしたはずですが?」

「ええ、承知しています。何をしているかは分かりませんが……」

「そう公にはしてほしくないですが……勇者への戦闘指南です。まあ機密では無いので、他のギルドマスターに伝えてもらっても構いません」

「確かに。貴方の名前が持つ意味は大きいですから」

「……やはりご存知ですか」

「ええ。ギルドマスター同士、仲の良い場合が多いです。それに貴方は、バードンの問題を解決していただきましたので」

「その服装でもしやと思いましたが……」

「私はあの町の出身です。バードンのギルドマスターとは同じパーティーで、先代勇者と共に戦った仲ですよ」

「そうでしたか。それで、これでもう話す必要のあることは無くなりましたか?」

「ええ。こちらとしても、不安に思っていたことが解消できて良かったです」


そう言って部屋を出て、階段を下りる。そして受付に戻ったのだが……一部のパーティーの雰囲気がおかしい。


「……バレたか」

「何のことですか?」

「いや、何でもない。行くぞ」

「え⁉︎ちょっと!」


なおこの後、勇者には師匠がいるという噂が流れたのだが、これはまた別の話。ギルドを出た後ソラ達は門を通り、王都の南にある森へやってきた。


「ここですか……」

「魔獣がいるんだね……」

「ああ。雑魚ばかりだから気にするな」

「わたし達がいるもんね」

「そうだけどな……」

「気にしないのは無理だと思います」

「そうか?まあ、戦い慣れてないからそんなものか」


ソラ達は蜂や蛇など、立ち回りにコツがいる連中を鎧袖一触に片付けながら、森の中を歩き回る。見えない範囲で除去されているため、ジュン達も話をする余裕ができていた。


「こんな森初めて来ました……」

「見た目だけなら日本と同じようなものだけどな。それで、最初はリーナで良いか?」

「大丈夫よ。でも何で私が?」

「慣れてるからな。実力的にも、例にするにはちょうど良い」

「そう、分かったわ」

「その後は、トオイチ、ハルカ、カズマ、アキ、ジュンの順でやるぞ」

「何でジュンが最後なんだ?」

「こいつは責任に押し潰されかねないっていうのがあるが、適切な対応をすれば逆に重圧で踏ん切りが付く。それを考えると、最後以外ありえない」

「そんなこと……」

「無いか?」

「……あります」


飛んでいる相手や隠れる相手は対処が面倒で、例にするにも向かない。しばらく歩き回って、ようやく獲物を見つけた。


「いたよ」

「5匹か。4匹は先に倒しておく」


リーナの前に出てきたのはシャドウウルフ、それが1匹だけだ。群れの仲間が意味不明な攻撃で全滅したため、多少怯えてるようである。


「どうやって倒せば良い?」

「自由にやってくれて良いが、できれば魔法も使ってくれ」

「分かったわ」


それでも獣、弱そうな相手が出てくれば襲いかかる。完全に見た目に騙されているが。


「走れ、ライトニング!」


駆け抜けた雷はシャドウウルフの後ろ足を正確に穿ち、動きを止める。そしてリーナは接近し、堅実に槍を振るった。


「身体強化も、出力の高さに驕ってないか」

「ええ。動きもしっかりしてるわ」

「魔法も上手だったね」

「思い切りも良いし、問題無いな」


(すじ)や筋肉を傷付けることで動きを鈍らせ、自分有利に進めている。確実な手を取るやり方は、ソラにも好ましかった。


「これで、終わり!」


そして最後に首を貫き、絶命させる。勿論、怪我は無い。


「これで良いのね?」

「ああ、手本としては十分だ」

「これを、やるのか……」

「ああ。トオイチ、お前からだからな?」

「でもな……」

「気持ちは分かるが、そんなこと言ってられないみたいだぞ」

「うん、来たよ」


トオイチが相手をするのはゴブリン、覚悟さえできていれば勝てるだろう。ソラは出てくる瞬間に1匹を残して殲滅し、トオイチを前に出す。


「1匹にした。やれるな?」

「おう……おう!」

「なら行け」


覚悟を決め、勇んで突っ込むトオイチ。その様子は頼もしくもあるが、危険でもあった。


「力任せだね」

「でも、上手にやってるわ。近付かせないようにしてるもの」

「偶然の可能性の方が高いけどな。まあ、悪くは無いだろ」


トオイチは身体能力を生かし、大剣をデタラメに振り回している。ゴブリンは割と素早いため直撃はさせられていないが、幾つもの傷を負わせられていた。上手くは無いが、悪くも無い。


「おらぁ!」


そしてついに脳天を捉えた。刃は上手く当たらず鈍器のようになったが、命を奪ったことに変わりは無い。血の海に沈んでいくゴブリンを見て、トオイチの顔色は悪くなる一方だ。


「うげ……」

「良くやった。これから慣れていけば良い」

「慣れるって……」

「命を奪うことに慣れるなよ。命を奪って罪悪感を感じることに慣れろ。そうしないと、人とは呼べないぞ」

「お、おう……」


罪悪感を感じなくなったら人では無い、と言うと、ソラは人では無いことになってしまうが。まあ、一般人にはこの方が良いだろう。


「次も来たぞ。ハルカ、行けるな?」

「は、はい!」


ハルカの相手もゴブリンだった。ソラによって唯一残されたそいつは戦意をほとんど喪失しているのだが、容赦はされない。


「トオイチよりは有利に運んでるか」

「結構上手にやってるね」

「だが……ミリア、良いな?」

「ええ、分かってるわ」


ハルカは得意のスピードを生かし、ゴブリンの四肢を切りつけ、動きを鈍くしている。後は首に短剣を突き立てるだけだが……


「っ!無理!」


直前で刃を止めてしまった。ゴブリンはすぐさま反転し、反撃しようとする。


「覚悟を決めたなら、止めちゃ駄目よ」


だがハルカに当たる前に、ミリアに首を刎ねられた。その血は吹き上がり、2人に降り注ぐ。


「怪我は無いわよね?」

「あっ……ごめんなさい……」

「無理も無い。生き物を殺そうとするのは初めてなんだろ?」

「うん……」

「いつかはやれるようにならないといけないが、今すぐというわけじゃない。焦らなくても大丈夫だ」


ハルカは下がり、次に譲る。その次は多少暗い顔をしているが。


「次はカズマだな」

「そうですけど、そんなすぐには……」

「ゴブリンが来たよ」

「……」

「ちょうど1匹だな。やれ」

「はい……」


最初から1匹だったため、ゴブリンは本能むき出しで襲いかかってきた。とはいえ、カズマの戦い方なら問題は無い。


「火よ撃て、ファイアバレット!」


火球はゴブリンに直撃し、肉の焼けた臭いを撒き散らした。勿論、焼肉のような綺麗な臭いとは違う。


「うっ、ゲェェ」

「この臭いは……まあ、慣れろ」

「慣れても大丈夫なんですか?」

「流石にこれは慣れた方が良い。好きだとか言いだしたら終わりだけどな」

「確かにそうですよね……」


焦げた臭いが好きな人は少ないだろう。だが、これに釣られて寄ってくるものはいる。


「コボルトだよ」

「この辺りだと珍しいんだったか?まあ良い。アキ、やれるな?」

「はい」


やってきたコボルトの目は、狩りをしようとする目では無い。おこぼれにあずかれると思ってやってきたのだろうが、それは大きな勘違いだ。


「……氷よ貫け、アイスランス」


氷槍がコボルトの頭を貫き、一撃で絶命させる。その早さと正確さにジュン達は湧き上がった。


「アキ、やるな!」

「凄かったよ!」

「上手だったよ」

「自分が恥ずかしいです……」

「最初からこれは凄いわ」


だが、その顔は笑顔を浮かべつつも暗い。それに気付いたのは3人だけだ。


「……ミリア、フリス、良いな?」

「ええ、分かってるわ」

「うん」


2人はアキの所へ行き、話をしながらジュン達から少しずつ離していく。そして少しした場所で立ち止まり、本格的に話し始めた。


「アキ、どうしたんですか?」

「気付いてないのか?今のアキは殺しにかなり動乱しているぞ」

「え?」

「今カバーしないと、心が(すさ)む。だが、あの2人なら上手くやるから安心しろ」

「……気付きませんでした……」

「こういうことは気付けるようになった方が良いが……まあ、そのうちできるようになるだろ」


ソラは深刻そうに言ったが、実際はそこまで酷くはない。ただトラウマになるかもしれなかったから、2人に行かせただけだ。

なので、すぐに3人は戻ってきた。その中にいるアキの顔は、打って変わって明るい。2人は上手くやったようだ。


「それでジュン、ゴブリンだぞ」

「やるん、ですね……」

「やっぱり怖いか」

「はい……」

「……心の弱さは欠点じゃない。弱いからこそ分かることもあるからな」

「え?」

「弱さがあっても、それを認めて進めば良い。強いやつには見えないことも出てくるぞ?」

「……ソラさんはどうなんですか?」

「さあ、どうだろうな」

「……行ってきます」

「ああ、行ってこい」


覚悟を決めたその顔は、誰よりも鋭い。ジュンは聖剣を構えつつ、唱えた。


「光よ貫き滅せ、ホーリーレイ!」


そんなジュンが放った光はゴブリンの右肩を貫かれ、棍棒を落とさせる。そしてジュンはその隙を逃さず、ゴブリンに接近した。


「振り回されているな」

「腰が引けてるわね」

「逃げてるね」

「そんなこと言わないで下さい!」


ふざけているように見えるが、悪い点はすぐさま直されている。そしてジュンは的確に追い詰めていき、光の付加をかけられた聖剣がゴブリンを真っ二つにした。力技の結果ではあるが、筋が良いためでもあるだろう。ソラ達としても、満足のいく出来だ。


「はぁはぁ……」

「良くやった」

「……それだけですか……」

「他に必要か?」

「いえ……これで十分です」


初めての殺しの後だが、ジュンは晴れ晴れとしている。重圧から解放されたためだろうか。


「それでソラ、この後はどうするのよ?」

「この後は……そうだな……今の順番で繰り返しやるか」

「じゃあ、もうちょっと奥に行く?」

「いや、この辺りで良い。オークやオーガが来ても困るしな」

「そうね、そうしましょう」

「ジュン達も良いな?」

「大丈夫ですけど……」

「拒否権は無いんだよな」

「ああ」


その後もこのやり取りは続いた。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「もう少しで日も沈むか」

「じゃあ、戻りますか?」

「いや、このまま夜営する。ガイロン達にも言ってあるからな」


その後ジュン達は全員殺しを体験し、何とか耐えることはできるようになった。本格的に戦うにはまだまだだが、初日としては十分だろう。

その5人は疲労困憊で今にも倒れそうだが無視し、ソラ達は夜営の準備を始めた。


「場所はこの広場だな」

「広場というか……荒地なんですけど」

「問題無い。」

「じゃあ、私達は食事の用意をしてくるわね」

「分かった。こっちは任せろ」

「うん、お願い」


ミリアは荒地の外側へ行き、石を積み上げてカマドを作る。フリスは木々の中へ入り、薪を集めていた。なお、フリスは周囲の監視も担っているが、狩りすぎたのかほとんど反応が無い。

ソラも中央に陣取り、ジュン達の質問に答えつつ風魔法を使って草を刈っていた。


「夜営って、キャンプとは違いますよね……」

「ああ、魔獣の対策は必須だ。人によるけどな」

「ソラさん達はどうしてるんですか?」

「俺達はまず結界を張ってから、テントを立てたり食事の準備をしたりしている」

「結界?」

「無属性の魔法だ。放出系を持ってるなら使える人は多い」

「そんなものがあるんだ」

「使用者の実力にもよるが、魔獣が簡単には入ってこれなくなる。呼吸には問題無い程度に穴は開いているが、音や匂いは完全に遮断されるな」

「そんなものがあるんですね。それにしても……もしかして、魔獣に壊されることもあるんですか?」

「そういうものだからな。俺のものは多少形式が違うが、普通は寝る時等に使っている。常に魔力を送り込んでいるわけではないから、シールド系より壊れやすい。実力にみあった相手なら、体勢を整えるくらいの時間は稼げるだろうけどな」

「それって必要なんですか?」

「ああ。少人数だと特にな。まあ、俺は他にも裏技を使ってるが」

「裏技?」

「作るのは少し大変だったけどな。気になるなら、また後で教えてやる」


会話をしつつも、ソラの作業は手早く進んでいく。ついでに土魔法を使って薪を集めたりしていたが、これはジュン達には気付かれていなかったりする。

すると、ここでカズマがあることに気付いた。


「……ちょっと待って下さい。テントは持ってないですよね?」

「あ、そういえば……」

「無いですね」

「いや、あるぞ」

「何処にですか⁉︎」

「何処って、決まってるじゃない」

「ああ。この中だ」


リーナにとっては常識なのだが、ジュン達からしたらふざけているようにしか見えない。


「……からかってるんですか?」

「いいや。これはアイテムボックスみたいなものだ。これで分かるよな?」

「ああ、なるほど」

「……何なのよその変な言葉」

「元の世界の用語だからな」


ソラは指輪からテントなどを出し、慣れた手つきで組み立てていく。予備として買ったものがあるので、ジュン達の寝床も確保済みだ。


「ああそうだ、魔法の制御の練習は怠るなよ」

「分かってますけど……何でですか?」

「制御に失敗して味方に被害を出すなんて最悪だからな。それに、今のフリスみたいに便利に使えるようになる」


ソラが視線を向けた先、そこではフリスが薪に火をつけたり、空気中の水を集めたりしていた。どちらもソラが作り出した魔法だが、フリスも使えるようになっていた。なお当たり前だが、ソラの方が上手い。

魔力の性質上、攻撃系ばかりが発達しているベフィアでは、このような魔法は一般的ではない。ソラの作ったこれも、要求される技量は高かった。


「……凄いわね」

「まあな。魔法の制御は誰にも負けないと自信を持って言える」

「……凄いですね」

「俺は前の世界の知識が使えるからな。ただ……フリスは素だ。本当の天才だな」

「……凄い」

「ソラ君、どうしたの?」

「できたわよ。話をしてないで来なさい」

「ちょうどいいな。食うか」


ミリアが呼んだ場所にはソラが用意していた岩のテーブルがあり、その上には十数種類の料理が置いてあった。それ自体は普段の旅の時より多少豪華な程度だが、城の料理ほど高価ではない。とはいえ……


「……美味しい」

「美味しいわ。王城の料理人とはまた違うわね」

「だろ?ミリアは味付けが上手いんだよ」

「ソラ、そんなこと言わないでよ」

「でも、本当に美味しいですよ」

「ミリちゃんは上手だもんね」

「先生は?」

「できないよ」

「フリスは家事全般がそんなに上手くないからな」

「ソラ君とミリちゃんがやってくれてるもん」

「少しは申し訳なさそうに言いなさい」


結界で覆われているため、声を出しても問題は無い。雑談は続き、夜も更けていった。日本ではまだまだ大丈夫だろうが、ここではそろそろ寝ないと翌朝がつらいだろう。ソラもそう勧めた。


「警戒は俺達がやるから、ちゃんと休んでおけよ」

「良いんですか?」

「初めての実戦の後に夜営は辛い。無理に任せるとこっちが危ないしな」

「じゃあ、そうしましょ」

「分かりました。おやすみなさい」

「しっかり休めよ」

「おやすみ〜」


6人は3人ずつテントに入り、寝袋に入る。やはり疲れていたようで、すぐに寝息が聞こえてきた。

そしてジュン達が寝た後、ソラは警戒用の魔法をいくつか使う。フリスも自作のものを使っていった。そんな失敗できない作業の間でも、ソラ達には雑談する余裕はある。


「ねえ、ソラ君」

「フリス、どうした?」

「寝てる時間が減ったりしてない?」

「睡眠時間は……確かに減ってるな」

「ソラもなのね」

「ミリア?もしかして、2人ともか?」

「うん」

「ええ」

「そうか……何でだ?」

「分かんないよ」

「それもそうだが……気になるな」


3人はいつも通り夜を過ごしていった。








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