第17話 特訓②
「言ってなかったか?」
「聞いてないわよ!」
「前に会ったリーナは別だが、3人だけで旅をしている時点で察せるだろ」
「予想できなくはないですけど……」
「いや、会ったばっかのオレ達には無理じゃないか?」
「疑問を持つまでも無く、無理です」
「そういうことは……私はありませんでしたし……」
「え?ソラさんってロリコン?」
勇者パーティーはそれぞれで言いたい放題言っているが、ソラはそれらを聞き流していく。まあ、流石に最後だけは許容できなかったが。
「おいこら、誰がロリコンだ」
「いやー、どう見てもロリっ娘に手をつけたお兄さん……」
「1歳下の成人にロリコンも何も無いだろうが」
「えっと……合法?」
「フリスのどこが合法ロリだ」
「いえ、見た目が……」
「童顔なだけだろうが!」
フリスは子どもっぽいため、最初は勘違いされるのかもしれないが、決して見た目が子どもというわけでは無い。だが、からかっている5人には無視された。そしてソラも、やり返す気満々だ。
なおこの会話、ミリア・フリス・リーナの3人には通じていない。……教育上はその方が良いのだろう。
「……お前らの認識は良く分かった」
「じゃあ、認めるんですか?」
「……俺がロリコンなら、カズマは真正のロリコンだからな」
「えっ!ちょっ⁉︎」
「そうだな」
「異議なし」
「賛成ー」
「異議はありません」
「何で⁉︎」
「俺はこういう仲になって結婚した、お前は見た目だけで手を出そうとした、それだけだ」
「本気にしたんですか⁉︎」
「本気だろうと冗談だろうと許さん」
「そういう意図じゃないですよ!」
カズマは純粋に個人練習を頼もうとしただけだった。その頼む相手の旦那の意地が悪かったのは、唯一かつ最大の誤算だろうが。
「まあ、遊ぶのはこれくらいにしておくか」
「遊ぶ……またですか……」
「何かあるのか?」
「いえ、もういいです……」
「カズマ……あの、2人って大丈夫なんですか?」
「この世界は一夫多妻も可能だからな。それとも、幼馴染同士の2人が同時に告白してきて、どっちか選べって言うのか?当時から両方大切なのに。少なくとも、俺には選べなかった」
「それは……難しいですよね」
「そうなのか?」
「素敵です。そんなに想える人がいるんですね」
「良いなー」
「…………」
なおこの間カズマは沈黙、というか意気消沈していた。だがそんなカズマは無視され、ハルカが気になっていたことを聞いてくる。
「ねえ、ソラさん。一応聞きたいんだけど……ソラさんって、帰りたかったりしないの?」
「帰る、か……俺は転生だからな。向こうだともう死んでる」
「でも……」
「ってことで、最初は自分を納得させてたな。未練を持っていても仕方なかった、っていうのもあるが」
「じゃあ、帰りたいんですか?」
「最初はな。でも今は、もっと大切なものがある。気にならないわけじゃないが、全てを置き去りにして帰りたいなんて思ってない」
「大切なものって、もしかして……」
「当然、ミリアとフリスだ」
「……正直に言われると恥ずかしいわね」
「うん……」
「まあ、な……」
「弱点発見」
「意外です」
「こういうのは面白いですね」
ただの惚気話で自爆したソラ達。そしてそれを、5人はニヤニヤしながら見守っている。
「お前ら……色々と長引いたが、これで今日の稽古は終わりだ。明日もやるからしっかり休めよ」
「いや無茶苦茶な……」
「ソラは無理だけはさせないから、安心していいわよ」
「大丈夫だからね」
「……諦めようぜ」
「……そうよね」
ここが地獄の一丁目となるのかどうか、それはジュン達次第だ。
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翌日……
「これで終わりなのね」
「簡単すぎない?」
「無理を言わないでください……」
「仕方ないだろ。ジュン達は召喚されるまで戦ったことはないんだし、リーナとは会って1ヶ月だ。この程度でもできるんだから、努力は認めてやれ」
ソラ達はパーティーでの連携を、実戦形式で見ていた。召喚された5人は仲の良い友人だったそうで、スジは良い。リーナは合わせようという努力の結果、ジュンとはかなり良い連携ができている。
だが阿吽の呼吸とまではいかず、昨日と同じく死屍累々と惨状が広がっていた。
「……ちなみにジュンさんって、こっちに来た時何やってたんですか?」
「俺か?ゴブリン5匹を蹴り倒した」
「……本気、よね?」
「ああ」
「は?ゴブリンってザコじゃないのか?」
「その勘違いは直しておかないとな」
ドラゴン等の化け物なら問題無いだろうが、ゴブリン相手にこの間違いはやめておいた方が良い。
「ゴブリンは日本じゃザコの代名詞だが、ベフィアじゃ違う。割と強い相手だ」
「と言ってもDランクだから、わたし達にとっては弱いけどね」
「ジュン君達だとどうかな?」
「技がまだまだとはいえ、元の力は強いからな。1対1なら余裕で勝てるだろ」
「……でも1対1なんだ……」
ソラ達からすればゴブリンなど敵ではないのだが、普通の日本人だった5人には厳しいだろう。リーナ以外はまだ経験が無いため、3人が守るつもりだ。
「まあ、そのうち気にしなくてよくなるから大丈夫だ」
「そうなのか?」
「そうよ。勇者や従者だから能力は高いし、筋が良いからね」
「魔法だって、昨日より良くなってるよ。見違えるくらい」
「全部防がれましたけどね……」
「そこは経験の差だ。なんだかんだ言っても、1年以上戦い続けてるからな」
近接戦闘はそう大して変わっていないが、4人の放出系魔法は1日でかなりのものとなっていた。昨日より速く、省略詠唱もできるようになっている。ソラ達には敵わないとはいえ、このレベルの成長はかなりのものだ。
「もうすぐ昼飯か……食べ終わってしばらくしたら、昨日と同じく1対2でやるぞ」
「またですか……」
「ゆっくりしてる暇なんか無いからな」
「厳しいかもしれないけど、外に出るなら必要だからね」
「魔獣だって、魔法を使うもんね」
「外ってどうなってるの……」
「この3人が言ってる外は、普通じゃない場所のことだから。普通はこんなに酷くないから」
「リーナ、油断はいけないぞ」
「メチャクチャなことを吹き込んでる人に言われたくないわよ!」
滅茶苦茶だが、ソラ達は実際にこれ以上の地獄をくぐり抜けてきた。勇者と従者である6人なら、必ず直面するだろう。ソラ達はそのことを前提にして言っていた。
そして9人は練兵場から出て、城の中にある食堂へ向かう。そのまま昼食をとっていたがその時、外について他にも聞かれた。
「ダンジョンってどんな感じなんですか?」
「ダンジョンか……中は色々だな。洞窟だったり、沼地だったり、森だったり」
「そうなんですか……」
「それで、魔獣は?」
「魔獣なら、嫌になるほど来るぞ」
「「「「え?」」」」
「だいたい10から20匹で来るわ。まあ場所によるけど、高くてもAランクまでね。Sランクは群れで出て来たことは無いから、安心して良いわ」
「安心できねぇ……」
「そうかな?」
「Aランクの群れってのは……ね」
「Aランクなんか、北に行けば普通にいるぞ?エリザベートに来た魔獣を率いていたのは、SSランクの魔人だしな」
ゴブリンがDランクで1対1である現状、そのはるか上であるSSランク魔人。興味は当然あるだろう。直接対峙すればまた別だろうが、そこまでソラは気にしない。
「……どんな相手だったんですか?」
「青い肌で、大剣を両手に持ってたな。それと、未来予知ができたらしい」
「未来予知って……」
「勝てませんよね?」
「全部バレちゃうじゃん」
「……どうやって勝ったんですか?」
「居着きを誘った」
「いつき?」
「人の名前か?」
「居着き、体の動きが止まる瞬間のことだ。武術家が1番嫌うものだな」
「それを……誘えるってこと?」
「ああ。あの魔人の技は未熟だったからな。逃げ場を無くすように動けば誘えるものだ」
ミリアとフリス以外、意味不明といった感じの顔をしていた。実際意味不明だが、ソラはできるのだから仕方が無い。ミリアとフリスのように諦めるべきだろう。
それが良いことなのかどうかはさておいて。
「さて、休息はこれで良いな。また始めるぞ」
「はーい……」
「仕方ないでしょ。強くならないといけないんだから」
「そうだけどな……」
「魔法だって上手になったんだし、大丈夫だよ」
「そうですか……」
「じゃあ行くぞ」
そしてジュン達はソラ達により、またボコボコにされた。
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「ここは……これか?」
「いえ、こっちの方が良いわ」
「確かに。マジシャンをDの7へ、Fの6を中心にアタック」
「じゃあ、アーチャーをEの5へ、マジシャンにアタック」
「そっちか。なら……ヒーローをFの6へ、アーチャーにアタック」
その夜、ソラ達は城の中にある談話室のような場所にいた。ここの区画は元々ジュン達がいた場所だが、都合が良いとソラ達も空き部屋に入れられたのだ。そのため、彼らも来る。
「ソラさん、何をやってるんですか?」
「将棋じゃないですよね……」
「レルガドールね……フリス強すぎよ」
「そうかな?」
「そうなんですか?」
「ああ。失敗したら後13手で詰む」
「違うよ。ヒーローをFの7へ、ヒーローにアタック」
「……後4手ね」
「……しかも逃げ場も無いな。俺達の負けだ」
ソラは負けを宣言し、レルガドールを片付けた。
が、ジュンとカズマ、そしてハルカが興味深げに見ていたため、再度並べ直す。
「最初はこう並んでる。ここから交互に動いていくものだ」
「詳しくはどんなものなんですか?将棋に似た感じですけど……」
「スタック系のゲームがあるだろ?あれと似た感じだ。駒を動かして、周囲を攻撃する。攻撃を喰らえば取られるし、持ち駒は再利用できるけどな」
「……何ですかその混ざりまくったゲーム」
「初めて見た時は俺もそう思った」
ゲームと将棋の融合、作ったのはもしかしたら転生者だったのかもしれない。この真相は分からないが、今は関係が無いのも事実である。
「まあ、1回見せるか」
「そうね。フリスにも勝ちたいし」
「わたしは負けたく無いけど……やろっか」
「どんな風なんだろうね」
「オレにも見せてくれ」
「ゲームほど見栄えがするわけじゃないけどな。フリス、先手は貰うぞ」
「うん、良いよ」
もう1局指し始める。そして……
「よし勝った!」
「やったわね!」
「あ〜負けちゃった」
ソラとミリアのコンビが、ようやくフリスに勝った。だが相性が悪いため、その損害は大きい。
「……5戦して1勝だけかよ」
「先生、強すぎですよ……」
「こんな強い人初めて見たわ……」
「先読みが……10手くらい先までですか?」
「フリスさんの動きに迷いって無かったよね?」
「まあ、こうなるのは仕方ないからな」
「私とソラはフリスに対して、本当に相性が悪いからね」
1勝4敗という大差がついてしまった。勿論、フリスが4連勝した後に、ようやく2人が勝てた形だ。その3人の間の実力差を、レルガドールを知らないジュン達は誇大して感じていた。
「まあ、こんな感じで息抜きをしたって何も問題は無い。気負いすぎるなよ」
「そうなんですか?」
「ああ。勉強の合間にゲームをするようなものだ」
「それはちょっと違う気が……」
「冒険者って、そういった酒場とかに行くと思ってたんだけどなぁ」
男と女でグループが分かれた時、トオイチが聞いてくる。男としては気になるだろうが……このパーティーではやめた方が良い。
「大半はそうだぞ。だが俺達の場合……行ったら後でどうなるか、分かるだろ?」
「……絶対酷い目に遭いますね」
「……オレ達もそうか」
「僕は行くつもりが無いから良いですけど……」
「そういうことだ。絶対に行くなよ」
ソラの場合は夫婦なのだから、そういった問題は無いのだが。




