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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第5章 新たな希望と白の迷宮

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第16話 特訓①

「お前らが考えてる通り、俺は転生者だ。半分は召喚みたいなものだけどな」


ソラの告白に騒然とする周囲……なおミリアとフリスは、この後のソラの反応を楽しみにしている。


「転生者ってことは……日本人ですか?」

「転生者だったのね……でもあの強さなら納得……」

「同郷の人がいるって、ちょっと安心かも」

「でも、何で隠していたんですか?」

「バレたら面倒なことになりそうだったからな。それと転生者だから、俺は向こうじゃもう死んでる。この世界の住人として考えてくれよ?まあ、この姿のままこっちに来たから微妙かもしれないが」

「そんなことありえるのか?」

「僕達が来たこと事態、普通ならありえないことだよ。転生というより、ワームホールを通ってきた感じかな?」

「小説で良くあるよね」

「ああ、大体そんな感じだ」


だが2人の期待はどこへやら、1人を除いてまるで同窓会のような雰囲気となった。


「ちなみに、名前は?」

「本名は小村空だ。こっちだとソラだけだけどな」

「小村空って……あ!不良狩りの」

「ああ、あの不良狩りか!」

「不良狩り?何だそれ、初耳なんだが」

「2年前の秋に、学年が1つ上の人が隣町の不良を全滅させたって噂になったんです。他にも新生安田(やすだ)だとかリアル五右衛門(ごえもん)とか」

「えっと……安田(ケンカ十段)五右衛門(斬鉄剣)はある意味合ってるが……2年前?俺がそれをやったのは死ぬ3年前だぞ?」

「え?」

「ついでに言えば、俺が来てからこの世界では1年半経ってるな」

「え、何で……」

「時間の流れというか、何かが違うんだろうな。俺より後に死んだ生粋の転生者が、今の俺より年上だったりするし」


ソラにとっては何気ない一言だが、そこに突っかかたのはリーナだ。王族としては、見逃せない情報だろう。


「ちょ、ちょっと待って!他にも転生者いるの⁉︎」

「ああ。ロスティアに1人いるぞ」

「……聞いたこと無いわね」

「料理人をやってるからな。仕方ないだろ」

「料理人、ですか?それと……ロスティア?」

「ああ、分からないか。そうだな……日本料理は食いたいか?」

「え?いきなり何で?」

「まあ、食べたいですけど……」

「じゃあ、ロスティアを目指せばいい。和食米付き、食べれるぞ」

「はぁ……」

「……1ヶ月だから薄いか?まあ、半年もすれば分かる」


いつか日本食が恋しくなるだろう、と考えているソラ。ジュン達はよく分かっていないようだが、心惹かれないわけではなかった。。

とはいえ、雑談を続けていて良い仕事では無い。


「さあ、さっさと稽古を始めるぞ。ミリアはトオイチとハルカを、フリスはカズマとアキを看てくれ。ジュンとリーナは俺が担当する」

「分かったわ。こっちよ」

「うん。こっちだね」

「じゃあ俺達はこの辺りだな。準備は良いか?」

「はい」

「ええ」


そうして9人は3人ずつに分かれていく。円形の練兵場の中に、自主稽古をしている騎士達の邪魔にならないようほぼ正三角形にばらけた。

まずはソラ達のところを見ていくが……早くも一波乱起きようとしていた。


「でも、大丈夫なんですか?」

「何がだ?」

「俺達と一緒に、魔王の所までついていくんですよね?冒険者とはいえ、一般人のソラさんがそんなことを……」

「ちょ、ちょっとジュン⁉︎」


ジュンはソラの実力に疑念を持っているわけではなく、純粋に心配しているようだった。だがいくらなんでも、これは聞き逃せない。


「……バカにしてるのか?」

「そ、そうじゃ無いわよね……?」

「勇者だから強い、他は弱い。そういうつもりなのか?」

「……先代がそうだったらしいじゃないですか。他の人達を守るには、俺達だけでやれるようにならないと」

「はぁ……お前は驕りすぎだ」

「何でですか!」

「俺は聖剣に選ばれなかった。だが、それがどうかしたのか?選ばれなかった人は全員戦ってはいけないとでも、お前は言うつもりか?」

「そ、それは……」

「第一、10万を超える大軍から、お前らだけで町を守れると思ってるのか?」


エリザベート防衛戦で最も功績を立てたソラ達ですら、3人では絶対に守りきれなかった。いくら勇者とはいえ、数で押されて全てを止めることはできないだろう。


「先代の冒険譚を一部だけ知ってるみたいだな。いいさ、教えてやる。お前の言う、一般人の力をな」

「……分かりました。やりましょう」

「ちょ、ちょっとソラ……」


ソラは殺気を出すと同時に、ワザと派手に己の魔力を活性化させる。だが、これに気付いたのはリーナのみ、ジュンは気付いていない。これが分かるのはそれ相応の経験を積んだ者のみ。つまり、ジュンはかなりの経験不足だ。

そして遅れてジュンも身体強化を施したようだが、出力はソラに大きく劣っていた。それでも純度はかなりのもので、聖剣に施された光の付加も高い強度だ。


「へえ、なかなかの魔力だな。勇者って言われるだけはあるか」

「無かったら意味が無いですから。アノイマスさんやライハートさんとも互角にやれますよ」

「あの2人にか?素人にしてはやるじゃないか」

「まだ勝ててないですけど……貴方になら!」

「威勢が良いな。だが……雑だ」


叫びながら馬鹿正直に突っ込んでくるジュンに対し、ソラは半身になって避け……足を引っ掛ける。当然ながら避けられず、ジュンは盛大に転がっていった。


「身体強化はマシだが、技が無い。あの2人に善戦できたのは……手加減されていたからだろうな」

「……ええ、あの2人はもっと強いわ。帝国や共和国より質が下がると言っても近衛騎士、本気だったらジュンに勝ち目は無いわよ。ソラには勝てないでしょうけど……」

「何を!光よ……」

「はあ……何故詠唱などする。しかも省略無しで」

「ジュン⁉︎」


起き上がって詠唱を始めたジュンを、ソラは掌底で突き飛ばす。……ジュンは呟いただけなのにソラが聞いていたことは、気にしてはいけない。


「完全な後衛ならまだしも、半前衛のお前が敵前で隙を晒してどうする。ただの的だぞ」

「ジュンは魔法を使い始めたばかりなのよ⁉︎」

「そんなものは言い訳だ。力があり、覚悟があるなら、弱点なんか作るな」

「そんな無茶苦茶な……」

「……リーナ、言ってないのか?」

「ええと……何を?」

「俺達に関しての詳しいこと」

「あ……忘れてたわ」

「……どういうこと?」

「ソラはSSランクの冒険者よ。この国の近衛騎士の誰より、確実に強いわ」

「……え?」

「ミリアとフリスもだ。この世界にはまだまだ上がいる。それを知っておけ」

「はい……」

「それと!」

「ぐっ⁉︎」

「ジュン⁉︎ソラ⁉︎」


ソラはジュンの襟を掴み、持ち上げる。ソラの方がジュンより一回り以上背が高いため、つま先立ちの状態で顔を突きつけられていた。


「選ばれたからって威張るな。今のお前は魔力が多くて聖剣に選ばれただけの、ただのガキだ」

「でも、俺がどうにか……」

「だったら頼れ!」

「え?」

「魔王の問題は、この世界全体の問題だ。お前だけが背負う必要は無い。弱いんだから頼れ。それから強くなれ」

「で、でも……俺がどうにかしないと……」

「あー……召喚されたことへの混乱と、責任や期待に雁字搦(がんじがら)めになった感じか。これは……リーナ、お前達が悪いな」

「え、えっと……何でよ?」

「喚んだ側なんだからケアは当たり前だろ!特にこいつは勇者、他の4人とは違うんだからな」


ジュンは降ろされたが、ソラの矛先はリーナに向かった。ベフィアからしたら勇者様かもしれないが、当人達からしたら誘拐と同じなのだから。

なお、ソラは喚ばれただけでケアなんてされてないが、こんな所で言っても仕方が無い。


「さっきも言ったが、周りを頼れ。そして、一緒に強くなれ。仲間がいるだろ?」

「ですけど……」

「いくら勇者でも、最初から強いわけじゃない。人っていうのは、努力する生き物だからな」

「ということは……ソラさんも?」

「ああ。最初はここまでになるとは思ってなかった」


リーナが遠い目をしているが、ソラは努めて無視する。実際、1年でここまで強くなるとは思っていなかったし、流派に入門した時はこんなことになるなんて思ってもいなかった。当たり前だが。


「さて、もう良いか?」

「はい、ありがとうございました」

「し、心配したわよ……私まで怒られたし」

「心配させたのはすまないが、怒ったのは当然だからだ」

「そうかもしれないけど……」

「まあ今はいい。それより、近接の稽古を始めるぞ。魔法は無しでだ」

「はい!」

「ええ」

「その意気だ。打ち込んでこい」


ソラが言うと同時に構える2人。言った本人は自然体だが……今度はジュンも油断はしない。隠そうとしないソラの殺気を、今度は感じ取ることができたからだ。

そして2人は同時に動く。


「はぁ!」

「ふっ!」


長剣と槍、得物の長さが違うため、戦い方も異なる。今回はリーナがジュンを援護する形だ。リーナの方が上手いのだから、仕方がないのだろうが……


「長剣も槍も、使い方は悪くない。が、隙を探ろうともしないのは駄目だ」


そんな努力もソラには通じない。どちらの武器も避けられ、逸らされ、時に蹴りで弾き返される。

だがその光景、地の技量に大きな差があるのは分かっているが、リーナは違和感を感じていた。いや、感じなかった。


「なんで、魔力を感じないのよ……」

「単純に、身体強化を使ってないからだか?」

「「え⁉︎」」

「お前達にはこれくらいで丁度良い」


馬鹿にしたような言い方だが、実際に抑え込まれているのはジュンとリーナだ。

勿論、今の身体能力は2人の方が上だ。だがソラは動きを先読みし、誘導し、居着きを誘うことで有利に進めてている。ジュンもリーナも、ソラの手の平の上で踊っているだけだった。


「何で……」

「全部防がれる……」

「勝ち目が無いわけじゃ無いぞ。身体能力のゴリ押しなら、今の俺に勝てる」

「でもそれだと、意味がありません。格上に勝たなきゃいけないのに、格下の状態の人に善戦すらできないんじゃ……」

「自分を許せない、か。見上げた根性だ」


根性だけで全てを解決できるとは言わないが、根性が重要であるのも事実だ。


「一旦休憩にするぞ」


と言いつつ、ソラは2人を弾き飛ばす。仕切り直しの合図には良いかもしれないが……いや、2人とも怪我は無いので良しとしよう。


「ジュン、基本がしっかりしていたが、剣術は誰かに習ったのか?」

「はい。近衛騎士の方々に」

「主にライハートといったところか」

「あ、はい」

「あいつは守りがメインだからな……補正はしたんだろうが少しズレてる」

「それは……」

「まあ、そこは自分でやりやすいように変えていけば良い。型は重要だが、それが動きを妨げるのは本末転倒だからな。他の人に習うのも良いぞ」

「ソラさんは教えてくれないんですか?」

「俺は刀の扱いしか知らん。違いがありすぎるから、戦い方だけだ」

「じゃあ、何を教えてくれるんですか?」

「駆け引きの仕方や身体操作だ。馬鹿にしてたら痛い目見るからな」

「流石に覚えますよ……」

「まあ、これでおしゃべりは終わりだ。再開するぞ」


再開しても光景は変わらず、一方的な状況が続いた。

だが流石は勇者と従者と言ったところか、稽古を続けても多少息が切れるだけでまだ元気そうだ。当たり前だが、ソラの息は乱れてすらいない。


「近接はこんなところでいいか。次は魔法だな」


疲労は見えるがまだ元気な2人。ソラは元気ならば、とまだまだ続けるつもりだ。ある意味、覚悟が仇となった。


「さっきはああ言ったが、ジュンの魔法はどれくらいだ?」

「まだ使えるようになったばかりで……」

「バレットとランス、アローとボムを詠唱ありで使えるようになった感じよ。付加の方はかなり上手だけどね」

「付加に関してはさっき感じたな。放出の方は慣れないといけないか……それで、リーナはどれくらいできるようになった?」

「え、私?」

「ああ。今まで努力してないなんて言わないだろ?」

「ええ、大丈夫よ……聖剣の加護にも慣れてきたし……」

「ん?」


ソラの重力魔法を思い出したのか、また遠い目をしている。だがリーナはすぐに気を取り直し、構え……


「撃て、サンダーバレット!」


リーナはソラへ向けて複数の雷弾を放った。その練度、数、速度は以前とは段違いだ。聖剣の加護もあるのだろうが、本人の努力も伺える。


「リーナは省略詠唱をできるようになったのか」

「まあ、ね……ソラのそれはどうかと思うけど」

「普通だろ?」

「いやいやいや……」


それをソラは、闇の塊に受け止めさせた。しかもそれはソラの背後から、腕のようなものを8本伸ばしソラを守っている。

どう見ても、闇の支配者だ。


「……魔王……」

「いや違うからな?というかこの程度で魔王なら、簡単に倒せる」

「まあ、そうだろうけど……どんな魔法よ……」

「形としてはバレットを変化させたものだ。規模はデカイが、割と基本に近いぞ」


ソラはこう言っているが、単純なものを射出するだけのバレットに比べ、自在に動かすのはとても難易度が高い。ソラと同格はほとんどいないのではないだろうか。


「ジュンは省略詠唱を試したことはあるか?」

「ありますけど、普通に飛んだりすらしませんでした……」

「まあ、今は良い。最終的には無詠唱をしてもらわないと困るけどな」

「結構無茶よ、それ……」

「できない場合は、お前達を囮にして俺達が魔王を倒してくる。まあ、トドメだけは刺させてやるが」


詠唱省略ならまだしも、無詠唱を使いこなせる人は比較的少ない。バレット系ですら難儀しているジュンには無理かもしれないが、ソラとしてはできてくれないと困る。


「さて、次は魔法込みで近接戦闘だ。俺も強めにいくぞ」

「な、何ですかその笑顔は……」

「嫌な予感がするわ……」


2人の予感は外れず、最後のこれが最も過酷かつ長時間行われた。そして後に残ったのは、ボロボロの2人と元気な1人である。

そんな頃、ミリアは……


「放出系は誰も使わないし……この辺りで良いわね」

「ハルカはともかく、オレの得物とは違うんじゃ無いか?」

「双剣だと……短剣とも違うよね?」

「はあ……貴方達、リーナから聞いてないのね。人を見た目で判断するなんていけないわ。それに……」


ミリアは指輪からファウガストを取り出す。トオイチの大剣もゲームの物のように大きいが、こちらの方がゴツくて強そうだ。さらに火まで出ている。


「この程度の大剣なんて軽いものよ?」

「「……え?」」

「なんなら打ち合うけど?」

「ご、ごめんなさい!ほらトオイチも早く!」

「す、すみません!」

「なら良いわ。それに、私が教えるのは戦いのやり方だけ。武器の振り方は自分で覚えなさい。一応、武器は一部以外は全部使えるけど」


トオイチもハルカも、ミリアには敵わないと感じたようだ。素直で良い。


「さてと、戦い方は……トオイチは大剣で正面から力比べ、ハルカは短剣で一撃離脱、間違ってないわよね?」

「あ、ああ」

「は、はい」

「さて、どうしましょうか……ハウエルにソラがやっていたことを、真似すれば良いわね」


ミリアの笑顔に嫌な予感がした2人だが、止める手立ては無い。


「私が攻撃するから、反撃してきなさい。どちらかが1撃でも当てれたら、終わりにしてあげるわ」

「は?」

「え?」

「自由に動いて良いわよ。まあ……動けないかもしれないけどね」


言うと同時、トオイチの目の前に現れるミリア。だが、驚くことではない。ソラほどでは無いが、ミリアも無拍子が使えるのだから。


「な⁉︎」

「はぁ!」


構えられていた大剣に双剣が当たり、トオイチはそのまま吹き飛ばされる。


「トオイチ⁉︎」

「よそ見は感心できないわよ」

「きゃあ!」


そしてハルカは構えすらできず引き倒される。相手が同性だから、多少は遠慮したのだろう。


「ちょっと速すぎたかしら?」


それでもこの程度の感想なあたり、ミリアも染まってきたようだ。


「速いってレベルじゃねえ……」

「見えなかった……」

「これでも本気じゃないわよ。本気を出しても、ソラなら反応するしね」

「リアル斬鉄剣は化け物か……」


本心だったとしても、ネタ台詞は反応されなければ寂しいものだ。ミリアは知らないのが普通だし、ハルカもこれの元ネタには疎かった。


「変なこと言ってないで助けてよ。動けないんだから」

「そんなことしなくても放すわよ。稽古にならないもの」

「ありがとうございまっ⁉︎」

「奇襲は良いけど、バレバレよ」


起き上がった瞬間に短剣を突きたてようとするハルカ。だが両手それぞれに持った短剣は弾き飛ばされ、首筋に双剣を当てられる。模造剣なので刃は無いが。


「何で簡単に……」

「私達はずっと戦い続けているのよ?これくらいできないと生き延びられないわ。それと、トオイチは早く起きなさい。ソラから魔法が飛んできても知らないわよ」

「うげ……」


ちょうど今、ソラはジュンの襟首を掴んで持ち上げている時であり、ソラの人となりをほとんど知らないトオイチからしたら恐ろしい光景だ。

だが現状、立ち上がっても地獄に変わりは無い。


「さて、また始めるわよ?」

「げぇ……」

「そんなぁ……」


一方的と言っても足りない蹂躙は、まだまだ続いた。

またフリスの方では……


「じゃあ、この辺りでやろうか」

「でも、子ども相手に教わるって……」

「いくら冒険者でも、ね……」

「……ねえ」


フリスも自分が子どもっぽいことは分かっている。だがそれを理由に非難されるのは、自分だけでなくソラとミリアも侮辱されているようで嫌だった。


「ふざけてるの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「いいよ、構えて。それくらいのことはやらせてあげるから」

「……大丈夫か?」

「手加減してあげれば……たぶん」

「後悔しても……知らないから」


満面の笑みで水球を放ち始めるフリス。慌てて2人も迎撃しようとするが……いかんせん無詠唱ができない。あっと言う間にずぶ濡れになった。


「それで?手加減するとか言ってたよね?」

「え、えぇと……」

「まだまだ行くよ」


次は雷球。勿論威力は抑えられていて、痺れる程度だ。


「あががが」「あうっ」


スタンガンレベルの電撃なので特に支障はない。かといって、威力以外での手加減はほとんど無かった。


「な、何ですか、これ……」

「撃ち墜とさないと、いつまでも続くからね?」

「ちょ!早すぎ!」

「無詠唱ができないと話にならないもん。頑張って」


1番の鬼はフリスだったようだ。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「「ぜぇはぁぜぇはぁ……」」

「つ、疲れた……」

「全身痛い……」

「グラグラする……」

「ライハートとの訓練よりつらいわよ……」


死屍累々、そう評するのが最も正しいであろう惨状が広がっていた。

特にしごかれたジュンとトオイチは、会話すらできない状態だ。そして魔法専門のカズマとアキは、全身びしょ濡れの泥だらけである。


「情けないな、勇者様御一行のくせに」

「それだけしか動けないなんて、ガッカリよ」

「根を上げるのが早すぎるんじゃないかな?」


それに対し、ソラ達は息1つ切らしていない。まあ手加減をして自由気ままにやっただけなので、息が切れているのもおかしいが。


「ちなみにフリス、カズマとアキの2人がずぶ濡れなのは何でだ?」

「2人とも無詠唱ができなかったから、水球を飛ばして迎撃するようにさせたんだよ」

「できなかったから、そのまま水球をぶつけたと。実戦形式の方が伸びやすいし、良かっただろうな」

「そうね。それで、結果はどうなったのよ?」

「無理だったよ。全然できなかったね」

「俺の方もそうだったな。リーナは省略詠唱をできるようになってたが」

「あれ?ソラ君って最初から無詠唱できてたのね?」

「ああ。科学の知識があるならできるはずなんだが……それに至ってないのか?ちょっとアドバイスしてくる」


そう言うとソラは、地面にへたり込んでいるジュン達の所へ向かう。ミリアとフリスも、面白がってついてきた。


「少し良いか?」

「はい……どうしたんですか?」

「魔法の詠唱だが、どんなイメージでやってる?」

「ええと、見せてもらった魔法を思い出してますけど……」

「なるほど……それじゃあ特権を使えないか」

「特権?」

「科学の知識、これを使えば簡単だ」

「どういうことですか?」

「例えば竜巻、どんな原理で起こってるか知ってるか?」

「上昇気流が回転して……発達すると竜巻になるんですよね?」

「ほぼその通りだ。そんな感じで原理を考えて、魔法を使えば良い。慣れないと消費魔力も多いが、お前達なら問題無いだろ」

「バレットとかはどうしてるんですか?」

「銃弾みたいなものだな。火の玉を飛ばすじゃなくて、火の玉を作ってそれを移動させると考えろ」

「なるほど」

「ついでだ。俺達の戦いも見せてやる」


ジュン達は何気なく受け取ったこの一言、周りの騎士達を大層喜ばせた。SSランク冒険者の戦いなどほとんど見ることができないのだから、当然かもしれないが。

なおリーナが反応しなかったのは、疲労でそこまで頭が回らなかったためである。


「え、良いんですか?」

「ああ。ミリア、フリス、良いな?」

「ええ、大丈夫よ」

「うん。今日こそ勝つもん」

「いいや、まだまだ勝ちは譲らないぞ」

「「「「「「え?」」」」」」


6人とも驚いてるが、仕方が無いだろう。手加減されていたとはいえ、圧倒的すぎる実力の差を見せつけられたのだから。


「ソラさんがずっと勝ってるんですか?」

「1対2でもまだ勝てるな。まあマトモに戦うと勝てないだろうが」

「何言ってるのよ。1対1なら私達が圧倒されるだけじゃない」

「闇魔法の使い方が上手だもん。ミリちゃんと協力してやっとなのに」

「フリスは光を使えないから勝ってるだけだ。操作性も数も、フリスの方が上だしな。ミリアは俺より数段速いだろ」


ソラと旅をするようになってミリアもフリスも強くなり、ソラの持つ技や科学知識といった優位性はかなり薄れてきていた。今もまだ勝てているのは、単に駆け引きが上手いからだ。ただし、稽古では使えないような広範囲殲滅魔法(戦略爆撃)を使えば、ソラの魔獣の殲滅速度は2人の合計の倍以上を誇っているのだが。

ソラ達は得物を持ち替え、対峙する。その周りには離れてジュン達や騎士が集まっていた。


「さて、良いか?」

「うん」

「いつでも良いわ」

「じゃあ……俺から行くぞ!」


ソラの方が先に踏み出す。当たり前だが、その鋭さはミリアの比では無い。ミリアは双剣で受け止めたが、片手のソラに吹き飛ばされた。


「くっ、速いのに重いわね」

「当然だ。技まで負けるわけにはいかない」

「ミリちゃん!」

「フリスにも、負けてられないからな」


片や火、風、雷。片や氷、闇、光。フリスのいつも通りの弾幕に対し、ソラは氷と闇による防御、そして光の速さで対処する。ミリアとの剣舞は続いているが、その程度で魔弾の射手は止まらない。


「す、すげぇ……」

「これは……」

「速すぎ……」

「こんなに、こんなの……」

「何これ……」

「ソラさん……」


ジュン達からしたら、目の前の光景は人外魔境だ。身体強化無しでは何も分からず、眼へ集中的に施して何とか追うことができている。そんな速度で戦って、稽古だというのは、考えられないことだった。

一般の騎士達は身体強化をしても、残像しか見ることができていないのだから、まだマシだろうが。


「やぁぁ!」

「甘い!」


ミリアは得意のヒットアンドアウェイを繰り返すが、ソラは危なげなく迎撃していく。速度で負けているとはいえ、技は勝っているのだからできないわけがない。


「行って!」

「まだまだ!」


フリスの異常な弾幕、それへは氷と闇の複合魔法で対処した。1畳程度の大きさの黒い氷20個を自在に操り、防ぐ。何気にロボット系アニメの主人公達より凄いことをしていた。

反撃の光線もフリスが対処しきれるレベルではあるが、立ち止まっていられるほどの余裕は無い。


「そろそろ仕掛けるぞ」

「じゃあ、わたしもやるよ」

「私もよ」


その声とともに、3人の魔力はより活性化する。正確には、魔法へつぎ込む魔力量が増えた。


「しっ!」


ミリアは身体強化の出力を瞬間的に上げ、ソラを置き去りにしようとする。


「行っけぇ!」


フリスは火と風の複合魔法を放つ。これだけなら普通だが、フリスは混合率を調整することにより青色の炎を作り出していた。


「よし来い!」


そしてソラは光の塊と闇の塊を作り出す。属性の塊はソラの思念する通り、自由自在に形を変えていく。さらにソラは薄刃陽炎を振るった。

そして3つがぶつかり、衝撃波が走った後……


「また負けた……」

「魔法を破れないのはつらいわね……」

「結構ギリギリだな……」


光の(おり)に閉じ込められたミリアと、闇に全身を覆われたフリス。対するソラは右手の袖が切り裂かれ、左足の(すそ)は焦げていた。


「ミリアのあれは何だよ。速すぎないか?」

「長時間は無理よ。瞬間的に増やすから、何とか体が保ってるんだもの」

「それに反応できたソラ君も凄いよ」

「殺気から位置を予測しただけだ。フリスだって、青い炎をあれだけ作れるようになったんだな」

「魔獣相手でしか使えないけどね。色々と問題はあるもん」

「だが、森を焼き払うのには使えるな。1度火をつければあの火力だ、確実に燃え続ける」

「贅沢よね?」

「余波も強力だからな。下手な大規模魔法より、広い範囲を燃やせるだろ」


青い炎は高温だが、もっと恐ろしいのは余波だ。先ほどはソラが闇で包むことにより無効化していたが、本来なら余波だけでも皮膚を(ただ)れさせる。ソラの広範囲殲滅魔法(戦略爆撃)にも劣らない性能を持っていた。

この決着を目にして、観客はどうなっているかというと……


「「「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」」」


一同(騎士含め)口を開けてポカーンとしていた。現実味の無い光景だったのだから、仕方が無いのかもしれないが。


「おい、どうした?」

「いや、今のって……え?」

「今のが俺達の普通だ。まあ、徐々に派手になってきてるが」

「フリスがソラに対抗して大規模魔法を使って、それをソラが抑え込んでるだけじゃないの」

「ソラ君もミリちゃんも速くなってるし、どうしても派手になっちゃうよ」

「何ですか、それ……」


大半が呆れている中、ある程度回復した2人が立ち上がる。


「ミリアさん……いえ、師匠と呼んでも?」

「まあ……良いわよ?」


その2人……トオイチはミリアに、


「あのフリスさん、いえ先生と呼んで良いですか?」

「え?良いけど……」


カズマはフリスに、


「今度個人的に練習を……」

「今度お茶に……」

「おいこら」


声かけ(ナンパ)を始めた……まあ片方はニヤニヤしているのでふざけているのだと分かるが。

とはいえ、許すことはできない。ソラはトオイチとカズマの腕を取った。


「俺の嫁に手を出すつもりか?」


そして言う。ソラとしては普通に言ったつもりなのだが……


「「「「「「ええぇぇーー!?!」」」」」」


結果として、本日1番の絶叫が練兵場に響き渡った。










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[一言] そりゃ現代日本人からすれば、ね
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