第9話 連携②
「この……」
「……ん?」
目を覚ましたソラが見たのは、自分の下で羞恥に顔を赤くし、右の拳を握りしめたミリア。
「馬鹿ー‼︎」
「ゲファ!」
ソラは一回転し、背中から床に落ちた。
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「もう信じらんない!」
「本当に申し訳ございませんでした……」
「この間は私が上だったけどね、今回は違うでしょ?いくら酔ってても女の子の上に乗るんじゃないわよ!」
「大変申し訳ございません……」
「ミ、ミリちゃん落ち着いて」
「そこまでにしておきなさい」
また酒を呑みすぎて記憶が無い3人。
起きた時の状態のせいで、ソラはミリアの苦言を聞き、土下座する羽目となっている。
マーヤが見かねて声をかけたのも仕方がない。
「そもそも、昨日の酒はミリアちゃんが始めたんだよ?ソラ君を責めるのは酷じゃないかい?」
「マーヤさん……でも……」
「でもじゃない。今のは流石にやり過ぎだよ」
「はい……ソラ、ごめんなさい……」
「こっちこそゴメン。酒を呑み過ぎたのは俺も変わらないから」
「良かった〜」
落ち着いたところでマーヤが朝食を持ってきた。この日の献立はレモン風味のチキンステーキ、シーザーサラダ、コンソメスープ、パンとなっている。
「で、今日は予定通り、北の森での依頼を全部終わらせるってことで良いの?」
「そのままで良いだろ。ただ、森に着く前に試してみたい事があるから、協力を頼めるか?」
「良いよ!それで、何をするの?」
「残念ながら、成功して嬉しいのはミリアの方なんだよな。何をするかはその時のお楽しみってことで」
「あれ、私なの?」
「そんなぁ〜」
「……なんかゴメン」
「……気にしない方が良いわよ」
朝食を食べ終えた後、また北へと向かった3人であった。
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北の森手前
「で、私は何をすれば良いの?」
「双剣を構えてくれれば良いよ。後は俺がやることだから」
「早く早く〜」
「そう急かすなって。さて、ファイアエンチャント!」
「……これ本当?」
「……夢じゃないの?」
ミリアの持つ双剣にはしっかりと火の付加がかかっている。
当然ながら、ミリアは何もしていないし、本来なら出来ない。
「よし、上手くいったな」
「……付加って、自分の体から離れた物には使えないはずなのに、なんで?」
「放出系の応用だよ。ミリアの双剣に炎を纏わせるっていう形で出したのさ」
「そんな使い方もあるのね」
「凄いね、でもソラ君がやってるってことは……」
「ああ、練習はいるだろうが、全属性の付加が出来るぞ」
「ソラ、それ本当⁈本当よね⁈ヤッター!」
「ミリちゃん、落ち着こうよ」
「もうすぐ森だからな。静かにしろよ」
森へと進んで行く3人。少し早足となっているのは、今日の目的地が前の2日とは違って奥地となるためだけではなさそうだ。
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「ん?何か居るな」
「あれはホーンビートルよ。この辺りにいるのは珍しいんだけど……」
「何でだろうね?」
「俺のせいじゃないことを祈っておくよ……」
「流石に違うでしょ。大体、ソラが原因なら逃げる方向が逆よ」
「まだ直接的な被害は出てないんだから、気にしなくて良いんだよ」
「ありがとな、2人共。さて、やるか」
約30m先に3人が見つけたのは、全長1.5mという巨大なカブトムシだ。1匹だけなので問題ないはずだが……
「ヤバい、来るぞ!」
「フリス、避けて!」
「キャア!」
運悪く3人は見つかってしまい、ホーンビートルは背中の羽根を広げ、一瞬で最高速度に達して突っ込んで来る。
ミリアは余裕を持って、フリスはソラが引っ張ったお陰でギリギリ避けられたが、あの突進はオーガすら吹き飛ばす威力であり、人間がくらえばひとたまりもない。
「さてどうする?」
「後ろから奇襲できなかったのはキツいわね……」
「魔法を使っても……落とせる自信は無いよ……」
今、ホーンビートルは3人の頭上を旋回していて、攻撃のタイミングをうかがっている。
次を避けられる保証は無い。
ミリアとフリスは殆ど戦った事が無く、戦っても他の冒険者仲間が奇襲で終わらせていたため、この状況への打開策は持っていない。
「手がないことはないが……厳しいな……」
「賭けるしかないわよ。私達は何もできないんだし」
「お願い!」
「分かった。準備するから、警戒しておいてくれ。タイミングが少しでもズレたら終わりだからな」
ソラは目を閉じて集中し、ミリアとフリスはホーンビートルを見つめて、見逃さないようにしている。
「来るわよ!」「来たよ!」
「……今だ!」
ソラが叫ぶと同時に、大量の火球や風球が突っ込んで来ているホーンビートルの周りに現れ、爆発した。それと同時に、土壁が何枚も出現し、全て壊されつつもホーンビートルへ地面に落ちる程のダメージを与えることに成功する。
それを見逃すはずもなく、ミリアは止まったホーンビートルに駆け寄り、甲殻の隙間や目に双剣を突き込んで殺した。
「ふう、なんとかなったな。ミリア、お疲れ様」
「ソラだって凄いわよ。まさかシールドで攻撃するなんて、普通考えないわ」
「元々壁だから、ぶつかれば痛いとは思ったが、あの速度だとこうなるんだな……」
「わたしも使ってみよっと。それにしても、被害が酷いよね」
「動きを制限すふためにボムを使ったからか……結構吹き飛んだな」
「更地よね。早く移動した方が良いんじゃない?」
「そうだな、急ごうか」
3人はホーンビートルを処理した後、身体強化も使ってこの場を離れた。
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「あれは……鷹か?」
「遠いけど……クローホークね。こっちには気付いていないみたい」
「魔法を使うにも遠いよ。逃げられたらおしまいだし……」
ソラが見つけたのは、かなり大きな2羽の鷹だ。距離があるので、正確なサイズは分からないが。
「あいつらって、攻撃してもこっちに来ないのか?」
「魔法を使うと逃げるよ。油断しているところに奇襲してくるだけなんだ」
「そのせいで警戒を怠れないのよ」
「……ここから撃ち落とす……しか無いか」
「出来るの?」
「光魔法なら何とか、な。バレットとかとは違うから、上手くいくかは分からないけど」
「逃げられたら、奥の崖の所にある巣に行きましょ。夜営になるけど、それしか無いわ」
「そうだね。じゃあ、ソラ君頑張って!」
「地味にプレッシャーかけるなよ……さて、やるか!」
ソラは2つの光球を作り出し、細長い形態に加工する。鷹に向けられた先端部分は鋭く、もう一方には少し小さな光球が出来ている。
「……発射!」
「あ!」
「当たった当たった〜」
「よし行くぞ」
光線が直撃し、クローホークが落下していくため、落下地点へと急ぐ3人。
水平方向ではそこまで離れていなかったため、直ぐに全長60cmの2羽の鷹の死骸を見つけたのだが……
「あ……こっちの嘴は消し飛ばしちまったか……勿体無い」
「まあ、当てただけでも凄いわよ。依頼で求められているのは1羽だけだしね」
「これで十分だよ」
片方は討伐証明部位である嘴を含んだ顔の半分が光線の直撃により無くなっていた。もう1羽は胴体だったので大丈夫だったが。
「さて、次はどこに行こうか」
「川の方に行きましょ。依頼もあるし」
「そうだね。ソラ君、雷魔法の準備をしておくんだよ」
「準備って……まあ、相手がアレなら雷だろうけどさ……」
「ソラも使えるから楽よね。2人だと大変だったんだから」
「そうだったのか。だけど、2人だけでも戦えていたこと自体凄いんじゃないか?」
「まあ、そうね。自慢でもあったし」
「ソラ君も十分凄いけどね!」
「ま、そうなるわな」
毎度の事で慣れた処理を行い、3人は移動していった。
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「ん?止まれ」
「どうしたの?」
「目の前にトレント系の群れが居る。やっぱり擬態は面倒だな」
「これは……ビックトレントね。攻撃能力は低いけど、奇襲が怖い奴よ」
「トレントの上位種か?」
「そうだよ。大きくなっただけだけどね」
「幹が硬くなってもいるけど、殆ど問題無いわ」
「じゃあ、切り裂くだけか」
「擬態してたら大変だよ?」
「そうだな、アースボム。そして、アクアエンチャント」
「流石、上手いわね。じゃ、早く終わらせましょうか」
「奥はわたしがやるよ〜」
ソラが放った爆発により、8体のビックトレントは擬態を解く。
そこからはただの的だ。
「はぁ!」
ソラによって水の付加を得た双剣を振るい、ビックトレントの枝葉や幹を切り裂いていくミリア。
「ふっ!」
ミリアの双剣と同じく、水の付加を纏った薄刃陽炎を振るい、ビックトレントを輪切りにするソラ。
「よっ!ほっ!」
水矢や風槍を放ち、ビックトレントを解体していくフリス。
動きの遅いビックトレントでは、3人の獲物となることしかできなかった。
「やっぱり、トレントは弱いな」
「まあ、擬態さえ分かればね。ビックトレントだって、強さ自体はDランクと同じだし」
「ソラ君が見つけてくれるから、楽なんだよ。前は結構苦労してたもんね」
「そうよね。ソラがパーティーに入ってくれて、本当に助かってるわ。ありがとう」
「こっちこそ。この世界に来たばかりの時から助けてくれて、ありがとな」
「お互い様だね。でもソラ君、ありがとう」
処理後、そのまま進んでいく3人であった。
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「川の近くに着いたのはいいが……」
「こんなに居るとは思わないわよ」
「スケイルアリゲイトだね。え〜と、数は……」
「32匹だな。これって、多過ぎないか?」
「多いわよ」
「多いね」
3人の前には、川辺で日光浴の最中の、大きめのワニの群れが居る。
当然ながら普通のワニでは無く、鱗は複雑な形をしつつ、突起状の物体を生やしている。
「あの鱗は厄介だな……刀が滑って斬れないかも……」
「普通にいくなら目か口を狙うんだけど……あの数だとね……」
「雷魔法で暫く動けなくするのが一般的だよ」
「それで良いか。じゃあ、準備を頼む」
「分かったわ」
「良いよ〜」
3人は森の中を迂回し、スケイルアリゲイトの多くを一直線上に望む事が出来る、位置に移動した。
「ここで良いよね?」
「私はいつでも良いわよ」
「じゃあいくか、ライトニングフラット!」
「サンダーボム!」
ソラが前に出した手から雷の濁流が流れ出し、フリスの周りから雷球が6発放たれる。
雷はスケイルアリゲイトの群れを飲み込み、一部を炭化させつつも行動の阻害に成功した。
「あ〜威力が強すぎたか……何体かは右手まで炭化してるし」
「雷使って、ここまでなるんだ……」
「ホーリーレイシャワーで良かったな。あれはあれで誘導が面倒だが」
「ソラだったら簡単に当てそうだけどね」
「確かにそうだよね」
「おいおい2人共、俺を何だと思ってるんだ?」
「「ソラ(君)」」
「そりゃそうだけどさ……」
川を汚さないように注意しながらトドメを刺し、処理を終わらせた3人は、町の方へと戻っていった。
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「……すみませんが魔法を消して貰えますか?幻影が見えるんですけど……」
「いや、これ実体あるから。実物だから」
「北の森の奥地にしかいない魔獣を、1日だけでこんなに狩れる訳が無じゃないですか!」
「ルーチェ、本当だから諦めて。ソラとパーティーを組んでからの私達の効率は、とんでもなく良いのよ」
「本当に何者ですか……」
項垂れるルーチェ。ここのギルドでもトップクラスのミリアとフリスのペアでさえ、多い時でも今回の3分の1程だったのだから、当然と言えば当然だ。
「で、どれ位になる?」
「ソラさんは本当に人使いが荒いですね……ええと……
オークは5体で1万3500G。
オーガは9体で2万3400G。
ブラウンウルフは8匹で2万G。
キラービーは12匹で2万2800G。
ホーンビートルは依頼1つで4500G。
クローホークは依頼1つで3500G。
ビックトレントは依頼1つで9500G、余剰分が5体で1万2500G。
スケイルアリゲイトは依頼1つで、余剰分が24匹で6万7200G。
スレッドバタフライは6匹で1万4400G。
合計は19万1300Gです。
……何を買うつもりなんですか……」
「あ〜、狩りすぎたかな?」
「大丈夫よ。昔、20人位でやった事もあったけど、直ぐに増えたから」
「増えると困るのにね〜何でだろう?」
「無視ですか……」
大量のお金を持ちつつも、何に使うか決めていないソラ達。
そんな彼らの思いは、次の町である王都ハウルに向かっていった。




