第14話 王都ハウル②
「……リーナが何故ここにいる」
「居ては悪いかしら?ここは私の国よ」
「そうじゃなくて、なんで王女様がギルドにいるのってこと。護衛の人も少ないみたいだし」
「大丈夫よ。何か危険があったなら、通りに戻れば良いもの。何も無いとは思うけどね」
「……めちゃくちゃね」
「……ああ」
ハウルへ着き、ギルドで登録して人心地ついたソラ達。だがそこへ、リーナの|《強襲》があった。姿を見せない護衛はいるようだが、その数は前より少ない。
だがリーナはそんなこと気にせず、割と強引に話が進んでいった。
「じゃあ、城に行くわよ」
「おい、いきなりか」
「召喚状を受け取ったでしょ?」
「そうだけど……」
「王が直々に説明するってことね」
「そういうことよ」
大通りを進み、町の中心にある王城へ向かう。その間、ソラは周囲を気にしていたが、周りの雰囲気は1年と少し前と一切変わっていなかった。
「町の風景は変わってないな」
「こんなに早く変わるのも変だけど、少し安心するわね」
「そういえばソラ達って、どこまで旅をしたの?」
「帝都と首都は行ってきたよ」
「間にある町にも、結構長い間滞在したわね」
「旅の途中にある未踏破のダンジョンは、ほぼ全てに潜ったな」
「……変わらないのね」
完全に呆れられているが。これに潜ったダンジョン全てを踏破したなどという情報を加えたらどうなるのだろうか?……変わらない気もするが。
そしてこんな流れになったので、当然ながらリーナも聞かれた。
「リーナの方はどうだ?無茶してないか?」
「流石にしないわよ……無理をしたら、父上に怒られるわ」
「まあ、そうよね」
「護衛も多いか?」
「最初は、そうね……20人くらいいたわ。最近は5人とかで済んでるけど」
「なるほど、強くなったんだな」
「勿論。負けてばかりはいられないもの」
「そうか。ならこっちも負けてられないな」
「大きく引き離した気がするけどね」
「フリス、そう言わないの」
「……報告とかは聞いたけど、あれ本当なの?」
リーナの表情から予想はついていたが、ソラは一応聞いてみる。
「あれって、何のことだ?」
「エクロシア共和国の首都エリザベートでのことよ。3人だけで蹴散らしたって本当なの?」
「それは言い過ぎだ。中心にはなったが、中央突破をしたのは150人でだ」
「勿論知ってるわよ。さっきのは吟遊詩人が言ってたこと、真実じゃないのは分かりきってるもの」
「なら良いんだけど……」
「そんな噂が流れてるのね……」
「流石に王族が誤報を広めることなんてしないわよ」
「それなら良いが……でもな……」
自分の噂に不要な尾鰭が付くのは面白く無いだろう。少なくとも、ソラ達はそのタイプだった。
だが、噂が現実と異なることが多いのもまた事実である。
「大丈夫よ。噂だと名前なんて出てないし、姿だって全然違うんだから」
「そうなの?」
「そうよ。だってソラとミリアの髪色が紅色なんだもの」
「え?誰よそれ?」
「血のような髪の色だって言ってたわ。面白いわね」
「いや、多分それは……返り血の色だ。真っ赤になるほど浴びた記憶は無いけどな」
いくらこの2人とはいえ、あの密度の魔獣を相手にして返り血を浴びないなど不可能だ。門の中に戻った時は血塗れで、かなり驚かれていた。
またリーナにはもう1つ、現実と異なる点がある。
「それと、フリスはもっと背が高いらしいわよ」
「……具体的には?」
「ソラより高いことになってたわ。一部だと主神様みたいって言ってたわね」
「確かにあの時は高い所にいたけど……」
「完全に曲解されてるな」
故意に間違えたかどうかはさておいて、当人像と噂の人物像は完璧な別人だ。ソラの心配が当たることはまず無いだろう。
「まあ、バレる危険が少ないのは良いことか」
「そうなの?」
「面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だからな」
「そんなものなのね……っと、着いたわよ。話をしていたら早かったわね」
「前も思ったけど、大きな門だね」
「そうだな……ああ、そういえば、武器を預けるんだったか」
そう思い出し、近くの騎士の所へ行こうとするソラ。だがそれはリーナによって止められた。
「あ、武器を預けなくても良いからね」
「……は?いやいや、ダメじゃないのか?」
「騎士とか以外にも、信頼できる人は大丈夫なのよ。特例ね」
「わたし達、そんなに信頼されてるの?」
「王女を助けたSSランク冒険者ってだけで十分よ」
「そうなのか……?」
ソラは疑問に思っているが、普通に問題は無い。人の国家同士で争いがあるわけでもないので、それほど警戒する必要が無いのもあるのだろう。
騎士や侍従達もそれを知っていたようで、城の中をそのまま歩いていても誰も警戒しない。3人は安心し、リーナと談笑する。そんな時フリスが、急に思い出したように言った。
「ねえ、泊まる場所どうするの?」
「そういえば決めて無かったわね」
「城に泊まれば良いわよ?」
「いや、いくらなんでもそれは悪いだろ」
「いえ、その方が都合が良いの」
「都合が良いって……依頼のこと?」
「勿論よ」
まだ内容は聞いていないが、いくつかヒントは出されている。何となくではあるが、ソラは予想ができていた。
「そういえば、どこかの部屋で待ってなくて良いのか?」
「大丈夫よ。準備はできてるから、すぐに行けるわ」
「早いわね」
「ソラがギルドに来たっていう報告を受けたから。私が呼びに行く間に父上達は準備していたわ」
「そんなことできるの?」
「ギルドの通信用魔法具を使えたんだから、これくらいは簡単だろうな。この町だけなら話も広まりにくいだろうし。それで、リーナも話し合いに参加するのか?」
「勿論。こっちよ」
リーナに案内されて進んでいく道は、どこか見覚えのある通路だ。そして辿り着いた部屋の扉には、円卓の間と書かれている。
「またこの部屋か」
「父上は面倒ごとが嫌いだもの。気楽な方が良いのよ」
「そうだよね。あんな性格だもん」
「確かにそうね。」
「お前等……相手は1国のトップだぞ。まあ、同感だが」
リーナが合図をすると、両隣に立っている騎士が扉を押し開けた。部屋の中には円卓に6つの椅子があり、内2つは既に埋まっている。ガイロンとレイリアだ。
「久しぶりだな、ソラ」
「こっちこそだ。旅をしていたから余計にだろうが」
「何処まで行ったんだ?」
「リーナには言ったが、帝都と首都、その間の町々を巡ってきた」
「……かなりの旅路だな。滞在日数は少ないんじゃないか?」
「いくつかの町の滞在は長かったぞ。興味の薄い所は短かったが」
「ほとんどソラが決めてたわね」
「それって大丈夫なの?」
「他の町にも行きたかったし、問題は無かったもん」
「俺達の旅は、色々な町を巡るのが主目的だからな。短かったとしても問題は無い」
「そういうものなのか」
世間話をする6人。このまま話し続けても良いが……どうやらそうはできないようだ。
「このまま話していたいが……無駄話はそう長くできないな」
「どうしたんだ?」
「冒険者を騎士に採用しているのを知っているか?」
「他の国でも少しは聞いたことはあるわね。でも、何でわざわざそんなことをしているのよ?」
「戦力を増やすためだ。確かに冒険者も戦力になるが、集団戦闘は得意ではない。それに、配置する町をこちらで決められるからな」
「それなら、新しく任官する騎士を増やせば良いんじゃないか?冒険者はパーティー単位で動くし、騎士団の集団戦闘に慣らさせるのは大変だろ」
「そんな悠長に待っていられる時間は無いの」
「……何があったの?」
まとまった戦力が早急に必要というのは、只事ではない。ソラ達としても、無視できることでは無かった。
「お前達がここを出た後、魔獣の群れの侵攻があった」
「フリージアとエリザベート、それとシーアは知ってるが……まさか他にもあったのか?」
「ああ。他は最初のフリージアほどの話題性も、最大のエリザベートほどの規模も無いから、冒険者は知らなくても問題無いかものな。だが、その3つ以外にも10ヶ所ほどの町が、1万から3万ほどの魔獣の攻撃を受けた。陥落してはいないが、被害は大きい」
「やっぱり、魔人がいたの?」
「全てで見つかっている。討伐に成功したのは3ヶ所だけだがな」
「つまり、そういうことだな」
「魔人は魔獣を操ることができるのね。規模が違うのはよく分からないけど……」
「魔人の力の問題じゃないかな?」
「それぞれの素質と言っても良いだろうな。恐らく、人に指示を出すのと同じだ」
「それは参考になるな……だが……」
ガイロンとしては複雑だろう。簡単な解決法が見付かったが、それが最も損害の大きい中央突破なのだから。これを簡単に行える者など、ベフィア中に100人もいまい。そして、そういった人は前線で戦っているのだから、抱え込むことなど不可能だ。
とはいえ、今は別だ。
「まあ俺達がいる間なら、何とかなるだろ」
「エリザベートより酷い惨状なんて、まず無いものね」
「そう言ってくれると心強い」
「そう言えるくらい酷かったんだよ」
この3人、自分達だけで戦線維持の7割近くを担っていたというのに何を言っているのだろうか。
「……よく生き残れたわね」
「というか……好き勝手やってたからかもしれないな」
「結構派手にやったもんね」
「派手じゃ済まない気もするけどね」
「何をしたのよ……」
王国側は伝聞だけなため、ソラ達が何をやらかしたか詳しい情報が無い。知らないというのは、やはり恐ろしい。話そうとしないソラ達もソラ達だが。
その結果、双方の感じ方に差違が生まれた。
「ソラ達に近衛騎士を加えれば、何とかなりそうだな」
「ダンジョンにも何度も行ってるそうだし、大丈夫よね」
「あの子達のためにも、いてくれた方が良いものね」
ガイロン達は3人を中核にし、近衛騎士をサポートにつけるつもりのようだ。だがソラ達は……
「この辺りなら、俺達だけでも行けるよな?」
「そうね。フリージアの時の状態でも、今なら私達だけで大丈夫だと思うわよ」
「Bランクだってほとんど出ないもんね」
単独で殲滅するつもりと、結構な意識の差があったりする。本人達が一切気にしていないのでどうしようもないが。
だが6人とも、1つ忘れていたことがある。
「そういえば……俺達を呼んだ理由は何なんだ?」
「おおそうだ、忘れていた」
「忘れるなよ」
「すまんな」
台詞はふざけているが、そこに乗せられた意味は重い。先ほどまで笑っていた顔が真剣なものとなり、眼光は鋭くなった。それにつられ、ソラ達も姿勢を正す。
「3人には彼らの師になってもらいたい」
「やっぱりそうか。近衛騎士の誰かか?」
「いいえ、違うわよ」
「じゃあ……誰?」
「あなた、早く呼んでは?」
「そうだな。おい、入ってこい」
入ってきたのは計5人の男女。だがその特徴に、ソラは驚く。
「紹介しよう……」
全員が黒眼黒髪、5人の方も目を見開いていた。恐らく、ソラと同じことを思ったのだろう。
「今代の勇者とその従者達だ」
ベフィアの人とは違う。日本人、同郷人だと。
やっと彼らが出てきました
なお、主人公の変更はありません




