第11話 雷都ライデン②
「鉱山に魔獣?普通じゃないのか?」
「普段はいてもCランクまでですが……今回はカノンアントでして……」
「Sランクね。それなら私達が受けるわ」
「勝手に決めるな。まあ、受けるのは賛成だが」
「わたしも良いよ〜」
「……ありがとうございます」
感極まり泣きそうになっているギルド職員をどうにか宥め、個室で依頼の確認を続けていく。
Sランク魔獣が化け物という認識はどこも同じだが、オルセクト王国で強い魔獣はほぼ出ないため、その傾向が特に強い。もしソラ達がいなかったら、より大変なことになっていただろう。
「坑道の地図を貰えるか?流石に迷いそうだ」
「は、はい!少しお待ちください!」
「……慌てすぎだよね?」
「仕方ないわよ。Sランクが町の近くに出るなんて、ここじゃ普通は無いもの」
「そうだな。命のやり取りに慣れてる冒険者ならともかく、一般人はこんなものだろ」
「そっか。じゃあ、早くしてあげた方が良いよね」
「お待たせしました!」
「見方を教えてくれるか?」
「はい!」
見方を教えてもらい、ソラ達はギルドを出る。ソラ達と違って住民は知らされていないらしく、昨日と様子は変わっていない。だが、3人には確信があった。
「昨日の音はこれだな」
「きっとそうよ。兵士の動きにも納得ね」
「早く倒しちゃおうよ」
「ああ、不安は無い方が良い。ここはリーナ達の国だしな」
特に意気込んだりもせず、3人は普通に歩いていく。
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「鉱山の入り口は……あれだな」
「あの人達って、どこにいるか知ってるかな?」
「フリス、常に移動してるって言ってたわよ」
「と言っても、蟻が1匹だけなんて思えないからな……女王蟻がいないことを祈るか」
町から鉱山までは整備された専用の道がある。普段は鉱夫や屋台などで賑わっているそうだが、今は閑散としていた。そこをソラ達は歩いていく。そしてそのまま坑道へ入ろうとした。
「おいおい君達!入っちゃいけないよ」
なので当然ながら声がかかる。注意してきたのは衛兵のようで、他にも何人かいた。声をかけてきたのは経験豊富そうな男だが、ソラ達の実力が分かるほどでは無いらしい。なので……
「通してもらえないかしら?依頼で入らないといけないのよ」
「駄目だ。今日鉱山は立ち入り禁止だぞ」
「カノンアントがいるんでしょ?」
「は?どうしてそれを?」
「SSランク冒険者、ソラ、ミリア、フリス。Sランク魔獣カノンアントの討伐依頼を受注しました。通してもらえますか?」
「……は?」
こうなるのも仕方がないだろう。目の前にいるのは若い男女、それも見た目は華奢な3人だ。普通に見たら、強いとは思わない。
だがギルドカードを見て、ようやく現実を把握したらしい。
「し、失礼いたしました!お通り下さい!」
「いえいえ、お仕事ご苦労様です」
うってかわって頭を下げた衛兵達の間を通り、ソラ達は鉱山内へ入る。普段は松明や篝火、電光石の灯りが灯されているのであろう坑内も、今は真っ暗だ。ただ、その幅はかなり広い。
「暗いわね」
「いつも通り、光は俺がやっておく。フリス、魔獣はどうだ?」
「弱いのなら幾つかいるね。カノンアントは……見つけたよ」
「どこだ?」
「右下の方。あっちだよ」
「俺も確認した。地図だと……この辺りか?」
「うん、その辺りに何匹か……2匹か3匹でいるよ」
「この程度なら大丈夫だな。行くぞ」
「ええ」
坑道を進んでいくソラ達。何ヶ所か分かれ道があるが、地図のおかげで迷わず目的地に近づけていた。
「左側が今も使ってる坑道で、右側が廃坑か」
「行き先は右なのよね」
「そうだよ」
「カノンアント以外にも注意しないとな」
カノンアントがいるのは廃坑となった部分なので、崩落の危険もある。魔獣のランク以前に、兵士や騎士団が対処するには厳しい場所だった。
「所々木が腐ってるか……できれば通路では戦いたく無いな」
「そうだね、って……あれ?」
「塞がってるわね」
「崩落か……あの音はここが原因だな」
「そうみたいね。ソラ、迂回路はどこかしら?」
「おいミリア、忘れたのか?」
「ソラ君ならできるんだよ」
「ああ、ごめんなさい。忘れてたわ」
ソラにかかれば崩落だろうと土を押し上げて固めるだけだ。すぐさま元に戻し、進む。そして、捉えた。
「この先だな」
「3匹だよ」
「気付かれてないなら、奇襲できるわね」
「いや、気付かれた。来るぞ!」
灯りを使っているのだから、仕方が無いだろう。カノンアントと思われる魔獣は、ソラ達の方へ真っ直ぐ進んで来ていた。
「初弾は俺が迎撃する。その直後に行くぞ」
「ええ、任せるわ」
「お願い」
そして姿を見せたのは、全長4.5mの巨大な蟻。間違いなくカノンアントだ。そしてカノンアントは、ソラ達へ向けて口から岩の塊を高速で撃ち出した。
「行け!」
そしてソラはその岩塊を、さらに一回り以上大きな氷塊で撃ち落とす。そしてこれで、カノンアントの命運は決した。
「はぁ!」
「行って!」
「ふっ!」
1匹は全身を切り刻まれ、1匹は雷で黒焦げにされ、1匹は頭から真っ二つに両断される。町の上層部を混乱させていたSランク魔獣が、同数の人により簡単に倒された。
「こんなところか……他にも何グループかいるな」
「本当だね。行く?」
「当たり前よ。倒せるのに無視するなんて、嫌じゃない」
「ああ。行くぞ」
その後も、カノンアント2匹か3匹の集団をいくつも殲滅していく。ソラ達の歩みは順調……すぎて、逆に違和感も感じる。
「簡単すぎる……考えすぎか」
「どうしたの?」
「いや、どうにも簡単すぎる気がしたからな。多分考えすぎだろうが」
「簡単ね……どうしてそう感じたか教えてくれるかしら?」
「良いが……根拠はほぼ無いぞ?」
「それでも良いわ。ソラの勘が当たったこと、何回あると思ってるのよ?」
「分かった……カノンアントの集団、グループの動きが変に感じた」
「変って?」
「襲撃が散発的すぎる。Sランクなんだから、ある程度の知能は持ってるはずなんだがな」
「確かにそうね……何でかしら」
「それが分からないからな。何か意図があるとしても、杜撰すぎるし……」
色々と考えるところはあるが、そんなことを考えている暇は無かった。
「考えない方が良いかと考えてな。それで……ん?これは……」
「どうしたのよ?」
「向こうの方にもいるね」
「数が多い……27匹だな。それともう1つ、妙な魔力もある」
「そう。で、行くのよね?」
「当然だ」
魔力探知を頼りに、ソラ達はどんどん奥に進んでいく。その間にも2回ほどカノンアントの集団に遭遇したが、問題無く倒した。
「あの先だね」
「少し下に広間があるな。そこにいるぞ」
「妙な魔力っていうのも、そこにあるのよね?」
「ああ。それが真ん中にあって、カノンアントが守っている感じだな」
「守ってる?それってもしかして……」
「もうすぐ見えるよ」
縦穴の少し上の方に出たソラ達は、下を覗き込む。何故か電光石が光って明るい中、底は縦穴の底はすり鉢状となっており、その中央に白く丸い巨大な何かがあった。そしてソラの言う通り、それをカノンアント達は守っている。
「何よ、あれ……」
「もしかして……繭か?」
「それって……女王の?」
「ああ、可能性はあるな」
「危なかったわね」
「産まれた後だったら、どうなっちゃってただろう……」
Sランク魔獣の集団など、普通の町なら破滅しかない。もしその場合、蟻なので数は特に多いだろう。この段階で見つけられたのは幸運だった。
「産まれる前に倒すぞ。Sランクとはいえ蟻だ。1匹1匹は弱い」
「それでも、連携されると大変だよ?」
「連携なら俺達の方が上だろ。違うか?」
「いいえ、違わないわ」
「うん。それで作戦は?」
「そうだな……俺がまず中央の繭を壊す。その隙にこちら側から倒してくれ」
「大丈夫?」
「壊した直後に反対側に跳ぶから大丈夫だ。2人は後ろから奇襲するだけだな」
「そう……なら良いわ」
「うん、任せて」
「じゃあ行くか」
そして、ソラは跳んだ。というか飛んだ。
「ぶった斬れ!」
位置エネルギーも加わり、異常なほどのスピードで繭を斬り裂いた。そして真っ二つになっな繭から現れた蟻は、異様に腹が大きい。予想通りだ。
「間違いなく女王蟻だな。危なかった……っと、行くぞ!」
今は囲まれているので、惚けていてはリンチに遭うだけである。ソラはすぐさま反応し、1匹のカノンアントの頭の下を通ると同時に足を刈り取った。さらに奥の2匹を氷の槍で貫く。
そして全てのカノンアントの注意がソラに向いた瞬間、合図を受けた2人が動いた。
「やぁぁ!」
「貫いて!」
上から強襲し、頭を切り落とすミリア。そして幾つもの雷を放ち、黒焦げ死体を量産するフリス。何匹かは岩を放つが、すぐに全て撃ち落とされる。そして次の瞬間には首を落とされるか氷塊に潰された。
そしてそんな騒動もすぐに終わる。
「これで終わりだな」
「うん。他にはいないよ」
「結構多かったわね。何匹かしら?」
「47匹だな。これだけ広い場所を守るには少ない気もするが」
「十分多いよ」
魔獣は弱いものばかりであるはずのオルセクト王国にて、Sランク魔獣がここまで多くいるのはおかしい。何かある、とソラは感じていた。
「それにしても、何でこんなところに繭があったんだろうな」
「そういえば……似たようなことなら、前にもあったわね」
「あの時は蜘蛛の子どもだったよね?」
「ああ。あれと同じ原因か?」
「原因っていっても、何も分かってないけどね」
「まあそうだが。それでも関連がある……しっ!」
突如飛来した影をソラが打ち落す。それは3本のクナイ、1人ずつ頭を狙われていた。こんなことをする相手、できる相手、3人には1人しか思い浮かんでいない。
「……またお前か」
「お久しぶりですね」
「……こんなところで会いたくなかったわよ」
「おや、お嬢さんもお話になるのですか」
「あの時は驚いて固まってただけだもん。2回目なら、大丈夫だよ」
「足、震えてますよ?」
「くっ……」
「う……」
「俺の嫁を虐めるな。それで、何か用か?」
「ただ見ていただけですよ。知らずの内に罠を破っていたのは驚きでしたが」
「罠だ?」
「あの蟻達は、女王の卵を囮にしていたんですよ。あの広間に入った瞬間、全方位から攻撃して一網打尽という算段です」
「俺達に各個撃破されたのが誤算だったわけか。それで、他には?」
「ありませんね」
「なら帰ってくれ。誰かに見られたら説明が面倒だ」
「敵、と言えばよろしいでしょう?これだけ殺気を向け合っているのですから」
「それでも、だ。未知の相手についての説明、お前が魔王にする時も面倒に思うんじゃないか?」
「さて、どうでしょうね。それではまた」
「こっちはもう会いたくねえよ」
ゴアクは背を向け、暗闇へ進んでいく。だが追撃はできなかった。
「はぁ……ミリア、フリス、大丈夫か?」
「ええ、でも……やっぱり怖いわ」
「死んだかも、って思っちゃったもん……ソラ君はよく大丈夫だね」
「殺気の向け合いには慣れてるからな。主に稽古で」
「……平和だったのよね?」
「稽古で殺気を向けちゃいけないなんて決まりは無かったからな」
「何それ……」
3人はしばし休憩し、元来た道を戻っていく。ダンジョンでは無く地図もあるので、帰るのは簡単だ。
「何だか疲れた……」
「まあ、最後にあいつが出てきたからな」
「それにしても、何の目的があるのよ。出できただけじゃない」
「町を狙ってたりするのかな?」
「流石にそれは無いだろ。というかそのつもりなら、俺達を殺してる」
「そうね。目撃者は消すでしょうし……本当に分からないわ」
「何だろうな……」
3人は町に着いた後、カノンアントは殲滅したとだけ報告した。数が多かったことは言ったが、ゴアクのことは一切言わない。
そして数日後、ソラ達はライデンを旅立った。




