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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第5章 新たな希望と白の迷宮

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第8話 人魚姫③



「このあたりかな?」

「そうね……どうかしら?」

「大丈夫だ。そこの岩、目印で言われたのと同じだろ?」

「あ、本当だ」


今日の狩場は海岸線の岩場で、ここへは歩いてやってきた。海に潜る予定もあるため、また3人とも水着だ。

……海岸の近くとはいえ、変な絵である。


「今日は……ハンマークラブとバブルシェルだよね?」

「ああ。どうせ他も倒すだろうけどな」

「そうね……探すのも大変そうだけど」

「まあな……蟹と貝だから仕方ないか。どっちもCだけどな」


前回はBやAばかり、挙げ句の果てにSランクが出てきたが、この辺りならこれが普通だ。だが、また異常である。


「……小さいやつしかいないな……」

「それって……どういうことよ?」

「分かんないけど……あれ?何か来てるよ?」

「やっとね。いつでもやれるわ」

「ちょっと待て、これは……」


待ってましたとばかりに臨戦態勢を取るミリアだが、ソラとフリスに制止される。ミリアは訝しんでいたが2人が止めた理由、海の中からエルザが飛び出してきた。


「そこの貴方……ソラさん!」


その顔はかなり切羽詰まった様子で、何かあったのだろう。ソラ達もすぐに察した。


「エルザ⁉︎どうしたんだ!」

「どうしたの?」

「魔獣が……村に……」

「襲撃か?状況は……不利なんだな」

「はい……今は何とか保ってますが」

「……手加減されてるんだな?」

「はい……」

「ちっ、ミリア、フリス、行くぞ」

「ええ。魔法はちゃんとお願いね」

「わたしもどんどん撃つね」

「ああ、頼む」

「え?ソラさん?」

「せっかくお前が来たのに見捨てられるか。行くぞ!」


ソラは水中活動用の魔法セットをかけ、飛び込む。ミリアとフリスもそれに(なら)った。慣れてきたその移動速度は、かなり速い。


「エルザ、魔獣の詳細を教えてくれ」

「ランクはほとんどがE〜Cで、少しだけBとAも見つかってます。魔人の見た目は……」

「どうした?」

「……私達にそっくりなんです」

「人魚族に似てる、か……海の中だと戦いにくそうだな」

「今の戦況は?」

「魔獣は散発的な襲撃しかしてきません。村の戦士達が何とか防いでいますが……」

「一気に来られたら終わり、か……城壁が無い分、陸の町より守りづらいだろうな。フリス、それを考えておけよ」

「うん」


陸では飛行系の魔獣の侵入を防ぎづらいのと同様に、海の中では壁があっても意味をなさない。水際での迎撃戦しかできないのだから、防衛戦が不利になりやすいのも当然だった。


「見えたわ」

「フリス、捕捉できてるか?」

「うん、いつでもやれるよ」

「ならフリスは魔法を撃ちつつ、人魚側の真ん中に下りろ。俺とミリアは群れの上へ移動、そのままかき乱す」

「分かったわ」

「頑張ってね」


フリスがエルザを連れて下りていってからしばらくした後、高圧水流と水刃を含んだ水の竜巻が群れを飲み込み、多くの魔獣が倒れていった。さらにその後、無数の水の針が飛ぶ。


「やるわね、フリス。やりづらいって言ってたのに」

「そうだな。俺達も行くぞ!」

「ええ!」


魔獣達は上のソラ達に気付いていない。目標が人魚の村1つに絞られているのもそうだろうが、フリスに混乱させられたというのもあるだろう。絶好の奇襲チャンスだった。


「ブチ抜け!」


闇魔法を併用し、ソラは大量の魔獣を雷で焼き尽くす。そうしてできた穴へ、2人は飛び込んでいった。


「やぁぁ!」

「しっ!」


ミリアのルーメリアスが振られるたび、鮫や魚が切り裂かれる。ソラの薄刃陽炎が振られるたび、海が紅くそまっていった。


「な、あんた何で」

「それは後!さっさと撃退しろ!」

「は、はい!」


そう言いつつ、ソラは雷を連発していく。今倒した集団にハンマークラブとバブルシェルが何体もいた気がするが……誰も気にしない。それどころでは無いためだが。


「ミリア!右から魚の群れだ!」

「分かったわ。任せなさい!」

「頼む」


ミリアは水を蹴り(そのままの意)、ソラの言う方向へ進む。特大の戦力が1つ減るが、その間ソラがこの場を守る……使えるものは何でも使うが。


「お前達は俺を抜けたやつだけ攻撃!正面だけじゃなく囲んで殴れ!」


無茶苦茶ではあるが、この方が効率的だ。1匹も通さないというのは神経を使うが、これなら倒せるだけ倒すで済む。

もともと数はそう多くなかったため、大した時間はかからず殲滅し終えた。


「取り敢えず、今の分は終わったか」


ソラ達としては日常だが、人魚の戦士達には驚異的な光景だったようで……


「すげぇ……」

「強すぎだろ……」

「何で雷を使えてるんだ?」


最後の疑問は尤もだが、ソラも有利な点の1つを答えるわけにはいかない。答えたところで使えないとは思うが、念のためだ。


「ソラ」

「ミリア、そっちはどうだった?」

「抑えるのには苦労したけど、何とかできたわ。新しい怪我人も無しよ」

「分かった。なら村の方に行くか」

「ええ、フリス1人だと心配だものね」

「そこまで酷くはないだろ」


近くにいた人魚達に感謝されつつ、ソラとミリアは村へ向けて進む。ちょうどそこでは、フリスがエルザとその父の2人相手に歓談しているところだった。


「エルザちゃんに呼ばれたんだもん。来るよ」

「駄目元だったが……まさか来るとは……」

「本当にありがとうございます」

「大丈夫だよ。ソラ君だって、感謝されたいからやってるわけじゃないもん」

「フリス、来たぞ。それと、よく分かってるな」

「ソラのことだもの。私達が1番よく分かってるわ」

「うん」

「……それは後だ。遅くなりましたが、助けに来ました」

「……ありがとう」


村人として、村長としては、感謝を表すしか無いだろう。だが、ソラとしてはそんなことどうでもいい。


「そんなことよりも、戦況はどうですか?」

「先の規模が大きすぎる。かなりの戦士がやられた」

「そろそろ最大の攻勢が来ますね……でもそれがチャンス」

「何だと?」

「俺達が群れを突っ切って、魔人を倒します。人魚の皆さんはその間村の守りを」

「なっ⁉︎」

「えっ⁉︎」

「できますから、心配しないでください」

「前にも同じことしてきたわ」

「3回目だもんね」


突拍子も無い提案だが、すでにクラーケンを倒した実例があるのだから、まだ受け入れやすいだろう。

会議はこれで終わりにして、ソラはついでに簡単な疑問を聞いてみる。ほぼ予想はついていたのだが。


「ちなみに、何故エルザをシーアの方へ行かせたんですか?他の人魚や半魚人の村にも送ったんですよね?」

「え、まあ、それは……」

「援軍を求めるという体裁で、エルザを逃したかったのでは?」

「お父様⁉︎」

「……隠しきれないか。その通りだ」

「お父様、何で……」

「途中で魔獣に会う可能性はあったが、ここにいるよりは安全だからな。死なせるわけにはいかなかった」

「私だって村のために……」

「そういう話し合いはもう良いでしょう。俺達が倒してきます」

「……頼む」

「お願いします!」


元からそのつもりだったのだから、頼まれて断るなどしない。まあ、思うところはあったようで……


「まったく……俺達は変な縁しか作らないな」

「本当ね。何かに巻き込まれてばかりだもの」

「でも、逃げたりなんてしないんだよね?」

「当たり前だ」


緊迫の村の中を、3人はいつも通り過ごしていた。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「……ソラ君」

「ああ、さっきより多いな。準備しろ」

「やっとね」


ソラとフリスの魔力探知範囲、そこに入り込んで来た魔獣の数は多い。恐らく村を潰すため、最後の攻勢に出たのだろう。


「では、後はお願いします」

「いや、本来なら君達には関係無いことだ。こちらこそ頼む」


光の遮られる海の中では、多少は視界が狭くなる。目に見えた瞬間、開戦となるだろう。


「俺とフリスが魔法を放ちつつ中央突破、魔人を探す形だな。魔人が見つからない時は、魔獣を後ろから削るぞ」

「ええ。暴れていれば魔人も来るでしょうしね」

「でも私、遅いよ?」

「ああ、フリスは奥まで俺が抱えて走る」

「やった」

「…………」

「……ミリアにも後でやるから、今は我慢しろ」


こんな時に不機嫌になったミリアを宥めつつも、ソラは気を待つ。そして、その時が来た。


「ぶっ放せ!」

「行っけぇ!」


フリスは魔獣のいる範囲の水を操り、高圧部分と真空部分を無数に作り出した。それにより巻き込まれた魔獣は押し潰されるか内臓破裂、さらにその後の乱流で陣形はバラバラになる。

そしてそこへソラが無数の雷を流し、進む道を作り出した。


「後は各個撃破だ。ミリア」

「ええ、準備はできてるわ」

「わたしも大丈夫だよ」

「それなら良い。行くぞ!」


ソラがフリスを抱え、ミリアがその近くを走る。近寄るものは魔法で排除し、近寄られた場合はミリアが倒す。後ろに回してしまう数は多いが、突破するには問題無い。それ故に、気付いたことがあった。


「……数が少ないな」

「え?」

「全体数は分からないが、魔獣の密度が低い。エリザベートは論外だが、フリージアの時だってもう少し多かったぞ」

「他の場所にも攻撃しているとか、まだ隠してるとかはありそうよ?」

「他も攻めてるなら、ここの担当魔人が1人とは限らないが……もし1人しかいないなら、襲撃はここだけだ」

「どうして?」

「集団で何ヶ所も同時に攻めるなら、連絡をする人員が必要だ。俺達みたいな方法があるなら別だが……」

「伝令が必要ってことね。確かにそうかも……」

「シーアで見つけた魔人とも関係があるのかな?」

「あるだろうな。むしろ、無い方がおかしい」


こんな会話をしているが、ソラ達は休みなく魔獣を葬っていく。3人が通ってきた場所は紅く染まり、とても見通しが悪かった。作り出している先頭にそんな被害は無いため、当人達に自覚はほぼ無い。

そして群勢も終わりに近付いた頃、ソラはある提案をした。


「ミリア、フリス、別行動をするぞ」

「え?」

「魔獣の数を減らしておいてくれ。それともう1つ、頼みたいことがある」

「大丈夫よ」

「ソラ君が言いたいことなら、簡単に予想できるもん」

「すまんな」


2人がペアとなってソラの進路から外れる。そのまま後方から魔獣の群れを襲っていった。

ソラはそのまま海底を進んでいく。そして、対象が見えた。


「あれか。確かにエルザの言う通りだな」


確かに、見た目は人魚に似ている。だが肩のあたりからトゲのついたヒレのようなものが出ており、また眼の白目の部分が黒いのだから、到底人魚と同じとは思えない。濃い紫色の髪と赤い眼、そして黒い鱗の魔人はさらに三叉の銛を持っており、ファンタジー系マンガの登場人物さながらだった。


「あらら?自由に泳げないはずの地上の民が、何故こんなところにいるのかしら?」

(うるさ)いぞ、エセ人魚」

「ほほほ、被害が大きいからと来てみればこうですか。立場をわきまえた方が良いですわよ」


どうやら、優越感に浸っているタイプらしい。ソラとしてはこんな性格の人と会いたく無かったが、敵なのでまだマシだ。


「立場だ?それがどうした」

「地上の虫風情が……こちらのことを知らないようですわね……」

「へえ、どうなるのか教えてくれよ。俺は地上の虫だから、海の中はほとんど知らないからな」

「よくもぬけぬけと……泳げぬ者など、このアルネーラ様の餌食になりなさい!」


そしてこの瞬間、両者の間で大量の水がぶつかり合う。


「これほどの……⁉︎」

「何だ、この程度か?」

「まだまだですわ!」

「ちっ、流石に速いな」


アルネーラの泳ぎは速いが、飛んでくる水弾はしっかり避ける。そして海底に立つ(・・・・・)ソラには近寄らず、泳ぎ回って水魔法や闇魔法を撃ち込んでいた。ソラは水弾を撃ちつつも水と土の壁でやり過ごす。


「おほほほほ〜泳げないのに来るからこうなるのですよ」

「でもまあ、雷は当たるな」

「ほ?」


雷はソラの狙い通り、正確にアルネーラへ向かう。水の中で雷は使えないという常識、そしてクラーケンと違って知能が高いため魔法を無駄撃ちしないこと、この2つが仇になった。

さらに雷なので、水の盾で受け止められても、多少のダメージは与えられる。そしてソラはアルネーラがどれだけ傷付こうと、雷を容赦無く放っていった。


「この私が……」

「そんなこと言ってる場合か?フリス!」

「はーい!」


そして細く絞られた高圧水流が20本、アルネーラとその周囲へ飛んでくる。アルネーラは避けようとしたが、下半身を中心に7本が命中した。


「この……」

「もう終わりよ?」


そして上から落ちてきたミリアに首を()ねられる。完全にソラの目論見通りだ。


「2人、良くやったな」

「ソラが囮になっていてくれたおかげよ。回り込み易かったわ」

「うん。」

「そうか。魔獣も逃げ始めているし、頃合いだな」

「でも、今からだって倒せるだけ倒すんだよね?」

「ああ」

「ふふ、付き合うわ」


この後もしばらく3人は狩りを続け、人魚の村へ帰還した。











エイプリルフールですが、嘘ではありません

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