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涸れ川に、流れる花  作者: 碧檎
本編
25/39

(4)

 路地に突如大きな溜息が響いたのは、二人が何度目かのキスに夢中になっている時だった。


「――おい、そろそろ行くぞ」


 そして低くどこか甘い、特徴的な声が辺りに響いたとたん、ヨルゴスの腕の中に大人しく体を預けていたシェリアが跳ねた。


「え!? ――ちょ、ちょっと離して! うそ! 人が見てるじゃない!」


 裏返った声が家々の壁に当たって反響し、甘い雰囲気が砂で作った彫刻のように脆く崩れた。


「……もうちょっと待ってくれてもいいだろう」


 ヨルゴスは舌打ちする。

 完全に夜が明けた街では、裏通りでも人が増えていた。起き出した人々がヨルゴスたちにぎょっと足を止めたあと、そそくさと足早に去って行く。ヨルゴスの正体は知れている。邪魔をして逆鱗に触れる気はないのだろう。

 そんな中、頭一つ飛び抜けた一人の男がまばらな人垣を分けて遠慮なく近づいて来る。

 ヨルゴスは顔を上げ、目の前に立った男――ルティリクスをうんざりと睨んだ。

 結局、猶予をくれた彼は、正午までに片を付けるという条件でシェリアを探しに行くことを許したのだ。感謝はしているのだが、いいところで中断されたという不満は隠せない。中途半端な位置で止まった手が空を切り、行き場を失った。


「時間切れだ。これ以上は待てないし……第一、人前でいちゃつくな。痒い」

「常時いちゃついているお前に言われたくはないんだけどね」

「は? 俺たちが? いつ?」


 きょとんと目をしばたたかせるルティリクスから目を逸らすと、


(お前たちは並んでいるだけでいちゃついているように見えるんだよ)


 とヨルゴスは嘆息する。そして真っ赤になってもがいているシェリアを渋々手放した。

 離れると顔に手の痕がくっきり残っているのが見え、腹の底の怒りに再び火が着くのがわかった。色が白いから目立つのだ。痣にはなっていないが、見ているだけで痛々しい。


(それに――――)


 短くなった髪には気が付いていたし、どうして切ったのかもすぐに見当がついた。ヨルゴスにとっては髪型が少し変わっただけのこと。だが彼もジョイアで女性の髪がどれだけの価値を持つかを知らないわけではない。そっと手を伸ばすと銀の髪の毛を指にからめた。


「あれがたった金貨一枚?」


 シェリアが相場を知らないのはすぐにわかったのだろう。先ほどの男にも腹が立つが、髪を買い取った者にも腹が立つ。あとで店を調べようと考えるヨルゴスの前で、シェリアはからりと笑った。


「ええ。でも全くお金を持っていなかったから助かったのよ。正当な取引なら普通に感謝してたのだけれど」


 ヨルゴスは彼女の髪をなぞるように視線を下ろす。あの長さを保つこと自体が相当な苦労だろうに、毛先までに手入れの行き届いた美しい髪だった。それだけ大事にしていたもののはずだ。

 大丈夫なのか?――そんな想いが顔に出たのかもしれない。シェリアは「気にしてないわ。軽くなってさっぱりしたし。もう私には必要ないもの」とヨルゴスの心配を否定する。しかし眼差しの中に陰りを見つけ、例の強がりだとすぐにわかってしまう。


「――あの人買い、一刺くらいしても良かったな」


 あの薬の効力は長くは持たない。命にも別状はない。優し過ぎたかと後悔しながらシェリアの頬を撫でる。


「人買いって――組織なの?」


 シェリアが問う。頷くとふっと彼女は不敵な笑みを浮かべた。


「ああいう輩は根こそぎ退治すべきだわ。親玉をひっ捕えて組織自体を壊滅させないと。あの男から引っ張れるでしょ? 囮って結構有効ね。たまたまだったけれど、役に立てたようで良かった」


 あんなことがあった後なのに少しも懲りていない様子に、ヨルゴスはやれやれと溜息をつく。しかも言っていることが――まぁ、いつものことだが――愛らしい顔に似合わない。


(まったく僕の周りの女の子ときたら)


 何だかんだでメイサに振り回されているルティリクスに自分が重なる。親近感を抱きつつ、シェリアの顔を見ていると知らず腕が伸びていた。


「だから。いちゃつくなって」


 同士から発せられた苛立った声に邪魔されて、抱擁は断念する。妙に辛くて苦笑いが漏れる。少しの間でも離れられない自分がおかしくてしょうがない。

 頭の半分が今すぐ寝台に連れて行こうと訴えるけれど、実行すればおそらく初心な彼女から平手が飛んで来るし、何よりルティリクスに見切られて『王子様』で無くなった彼は、現金な彼女にきっとあっさり振られるだろう。二回目のプロポーズの返事に『金のない男には用はないわ!』と言われている自分を想像してげんなりと肩を落とす。それを言われてしまうと、いくら好きでも彼女の幸せのために諦めざるを得ないような。

 ぼんやりしているうちに、どんどんその未来が現実味を帯びてきてヨルゴスは身震いした。


(ああ……面倒ごとはさっさと片付けるか)


「――行こうか」


 ヨルゴスは理性を総動員して、名残惜しげに留まっている腕を体の脇に収めた。シェリアが「どこに?」と少し戸惑ったように彼を見つめるので、ヨルゴスは強引に小さな手を取って指をからめた。

 やはり頬を染める彼女だったが、振り払ったりせず大人しく手を繋いでいる。そんな小さな変化が戦う勇気をくれる気がする。


「――僕が言われた悪口で一番傷ついたのは『彼女によく似ている』だったな」


 問いに答える代わりに言うと、シェリアは鋭く察したらしく、ヨルゴスを見上げた。


「はっきりさせに行くのね?」

「ああ。君はどうする? ヴェネディクトと安全な場所で待っていてもいい」

「いいえ。仲間はずれにしないでちょうだい。第一私もれっきとした被害者よ。一言言ってやらないと気がすまないわ」

「……そう言うと思っていたけれど」


 戦闘体勢に入ったギラギラとした表情にも関わらず、彼女がどうしても愛らしくて気持ちが急くのを抑えられなかった。思わず本心から出た笑みを浮かべるとルティリクスの「お前が女でここまで変わるとはな」と言う声と、呆れたような溜息が聞こえる。自覚はあったので否定はしない。ヨルゴスはシェリアの手を引いて大通りを進むルティリクスの後に続いた。



 *



 ヨルゴスの邸に入り、廊下を奥の部屋に向かって歩いていると、やがて獣の咆哮にも似た怒鳴り声が聞こえて来た。


『――この役立たず!』

『おやめくださいませ、レサト様。その壷は金貨十枚は下らない品でございますよ』


 決して大きくはないのに通る声の主は、どうやらレサトの忠実な側近だ。どうやって主人を操るかよく心得ている。ヨルゴスがいくら勧誘しても昔からの主を裏切らなかった、ある意味とても感心な家来。


『一体どうなっているの。王太子がカルダーノに来ているってどういうことなの!? あの娘が捕まったのではないの!?』

『どうやらヨルゴス様が直接王妃と交渉された様子でして……。思いのほか彼女に御執心だったようでございますね』

『あの子は騙されてるの。優しい子だから騙されやすいのよ。メイサといい、あれだけ賢いのにどうして女を見る目だけはないのかしら。大人しく子供を産むだけの娘を選んでいればいいと言っているのに。結婚に夢を持っても不幸なだけと何度言っても、愛だとか恋だとか娘みたいなことばかり言って聞いてくれない』


 涙まじりの溜息が部屋に充満した頃、三人分の足音が部屋の前でぴたりと止まる。すぐに扉を開けようとするルティリクスに、ヨルゴスは目で様子を見ようと静止を促した。


『とにかく見つかる前に処分しなければ。よろしいですね? どこにあるのですか?』


 側近が急かすが、レサトは固辞した。


『駄目よ』

『あれは元々エラセドで、娘の荷物に紛れ込ませる計画でしたでしょう。娘の使っている薬剤で穴の一つでも空けてやれば容疑はあっさり固まるはずでしたのに、どうして勝手に隠してしまわれたのですか。お売りになるつもりですか? 禁色ですし、誰も買いませんよ?』

『穴も空けないし、売らないわ。――私が着るのよ』


 絞り出すようにレサトが言ったとたん躊躇うような沈黙が落ちる。やがて遠慮がちに側近が口を開いた。


『…………レサト様には寸法が合わないでしょう』

『いいえ。痩せれば着れるわ。若い頃にはあの寸法でも入ったのだから』


 自信の滲んだ言葉に、廊下で様子を窺っていた三人分の大きな溜息が重なった。二人は完全に呆れからくる溜息だが、一人は落胆による溜息だった。


「無謀も無謀ね。メイサ以外に着れるわけがないわ。あの人無駄な肉がないのよ。無駄じゃない肉はたっぷりあるくせに」


 シェリアがひそひそと呟き、恋人を誉められて嬉しかったのか、ルティリクスが「ああ」と珍しく彼女に同意した。

 ヨルゴス一人が母の向こう見ずな行動に青ざめる。

 足一本さえも入らないのではないか。彼女が何をしたいのかさっぱりわからず頭を抱え込みたくなった。


(とにかく無理に着てなくて良かった。破っていたら王妃だけでなくルティリクスもキレる)


 僅かにほっとするヨルゴスの耳に、側近の毒が届く。


『痩せればですって? 何十年かかるとお思いです」

『なんですって!』

『とにかく、あれは処分します。見つかると厄介ですし、いっそ燃やしてしまいましょう。容疑が固まらなかったのであれば、証拠が残ると殿下にも疑いがかかる可能性があります』


 側近がやれやれと漏らし、部屋の空気に焦躁が混じるのがわかる。

 ヨルゴスは処分されてはまずいとルティリクスに目配せをする。


「行くよ」


 気の毒そうな表情を浮かべていたルティリクスは無言で頷いた。シェリアを見下ろすと、緊張した面持ちで彼女も頷く。ヨルゴスは一つ深呼吸をすると思い切って扉を開けた。



 *



「ヨルゴス? なんであなたが」


 レサトは突如現れた息子の姿を見て、反射的に嬉しそうな顔を浮かべた。二十六の立派な青年になろうとも、母からすればずっと可愛い息子なのだろう。彼女の中ではヨルゴスは今も子供のままなのだ。母親独特の愛に溢れた顔。見ればすぐに親子だとわかる。


(いつから彼女の中で成長が止まってしまったのかしらね)


 シェリアはレサトの半生を辿りながら想像する。せっかく王に見初められ、王子まで生んだのに、結局寵愛は得られなかった。

 ヨルゴスの持つ華やかさはおそらくは彼女に由来する。似ているのだ。昔はさぞ美しかったのだろうというのは肉に埋もれてはいるが目鼻立ちの華やかさからわかった。だからこそ望みも高かったし、理想に届かなかった落胆も大きかったはずだ。その分、息子に過度な期待を寄せ、得られなかった栄華を別の形で叶えようとし続けている。

 観察するように見つめていたシェリアに、レサトの視線が容赦なく突き刺さる。


「あなた――その罪人をどうするつもりなの」

「罪人? 誰のことなのかな」


 ヨルゴスはいつも通り声を荒立てることも無く、飄々と尋ねた。


「そこの"王太子妃の座を欲しがって、婚儀を妨害しようとした女"のことよ」

「おかしいな。僕は確かに罪人を連れに来たけれど、"恨んでいる王妃に嫌がらせをするために、王太子の花嫁の衣装を盗んだ女"を探しに来たんだけどな。つまり……あなたのことだけど。今の会話、全部聞かせてもらったよ」


 レサトがひっと声を詰まらせる。ヨルゴスがシェリアを見下ろして、一言言うんじゃなかったの? と目で問う。だがシェリアはヨルゴスの顔を見て首を横に振った。

 彼が浮かべている微笑みは自嘲の笑みだった。気づくとシェリアは共に断罪をすることができなくなった。レサトを傷つけることで彼をより傷つけることがわかってしまったから。

 彼は母の罪を恥じている。他人の罪ならば恥じることがない。苦しいのは、彼が母を見捨てていないから――見捨てられないからなのだ。

 父と母が罪に手を染めたとき、シェリアは馬鹿だと思った。でも全て自分の幸せのためだということも知っていた。だからこそ見捨てられない。同じなのだ。

 レサトは引きつった笑みを浮かべていた。


「私が王妃を恨んでいる、ですって? 違うわ。その財産目当ての娘に騙される前に引き離してやろうと思っただけ。全部あなたのためなのよ!」

「でも王妃は僕が主犯だと疑っているんだけれどね。僕は着たくもない反逆という罪を着せられかけてる。あなたのせいで」

「なんですって?」


 やはりそこまでの事態は予想していなかったのだろう。レサトは青ざめ、ヨルゴスはさらに追い打ちかけた。


「――あなたは未だに王妃の座に未練がある。だからシャウラ王妃が憎い。シェリアをあなたのくだらない嫌がらせのために利用したんだろう? 後先考えずに。――僕のため? そんなの体の良い口実だ。金を食う彼女が気に食わなかっただけ。僕の幸せなど全く考えていない。考えていたらこんな浅はかなことはできないはずだ」

「ち、違う」


 息子に愛情をきっぱり否定され、レサトの目が悲しみに歪んだ。


「――それは違うわよ」


 シェリアは思わず口を挟んでいた。


「レサト様はあなたのことが第一。おっしゃる通り、全てあなたのためにやったことよ」

「どうして……君が庇うんだ?」


 ヨルゴスと王太子が二人して不気味そうにシェリアを見た。

 確かにシェリアが自分を陥れたレサトを庇うのはおかしいだろう。だが彼女は、レサトを責めることで自らを必要以上に傷つけていくヨルゴスが痛々しくて見ていられなかった。


「借金のある女なんて私が母親でも妨害するわ。当然のことよ」


 同情されるのが嫌いなのはきっとヨルゴスも同じ。極めて理性的に見えるようにいつも通り鼻で笑うと、ヨルゴスと王太子が顔をしかめる。


「それにね、本当に王妃を恨んで儀式を妨害する気なら衣装を破り捨てるなり、燃やすなりするでしょ。そうしてないってことは、そこまでの悪意はないってことよ」

「いや、だから……その人は自分が着る気で取っておいただけで」


 さっき聞いていただろうという視線に、シェリアは腰に手を当てて溜息をついた。

 ちゃんと聞いていたかと問いたいのはこちらだ。衣装は無事。ならば頭に血を上らせて断罪などする必要はない。衣装を安全に取り戻すのが今の最優先だ。

 先ほど側近は衣装をシェリアの元に届けると言っていた。もしも届けられていたら計画は完璧で、シェリアは言い逃れできなかった。妙にねじれたのは、おそらく、レサトが衣装を見て気を変えたからだ。その気持ちを汲めば、きっと丸く収まる。そんな確信があった。


「禁色の花嫁衣装を着れるのは、正式に結婚の儀をあげた妃だけなのでしょう?」


 今王の側妃として王都にいるのは、手を付けた女性の数にはほど遠い、ほんの二、三人の女性だけと耳にしていた。王子を生んだからといって、寵愛を受け続けるわけではない。ザウラクのように移り気な男ならばなおのことだ。

 レサトがヨルゴスに結婚に夢を見るなと言うのは――彼女の結婚への夢が破れたからなのだ。

 夢の象徴――それが、彼女が手放せない花嫁衣装。


「ああ、なるほど……ね」


 ヨルゴスの初めて思い当たったというような表情にシェリアはこっそり呆れる。


(男にはわからないでしょうね、そんな気持ちは)


 昔、シェリアはジョイア皇太子妃の着る純白の衣装に憧れた。懐かしさが口から溢れ出る。


「花嫁衣装を着てみたいって思うのは女なら当然の欲求よ。禁色でできた衣装で、王妃の座に憧れていたのなら、なおさら魔が差してもしょうがないと思う。ねぇレサト様。保管していただけなのでしょう? きちんと儀式に間に合うように今から届けるつもりなのですよね? そしてヨルゴス殿下と共に王太子殿下のご結婚を祝福されるのですよね?」


 柔らかい声で追いつめると、レサトは観念したように頷く。もぞもぞと大きな体が居心地悪そうに揺れる。背もたれとの隙間をじっと見つめながらシェリアが微笑むと、レサトの大きな体の後ろに隠してあった赤い衣装が姿を現した。側近がレサトから衣装を受け取り、恭しくヨルゴスへと突き出した。

 衣装の確保にほっとして、ふと周囲に注意が向くと、王太子が気味悪そうな目つきでシェリアを見ている。しかしヨルゴスとレサトから妙に熱の籠った視線を感じて、シェリアはぎょっとし、慌ててつんと表情を尖らせた。


「――ご、誤解しないで! べ、別に、私、許したわけじゃないわよ? 世の中、そんなに甘くないの。やったことの罪ぐらいは償ってもらわないと」

「同感だ」


 黙っていた王太子が頷く。


「大事な息子のためにも王城で母上に頭を下げてもらおう。ま、あの人も無事に婚儀が終われば多少は寛大になるだろう。せいぜいご機嫌を取るんだな」


 喧嘩に負けた犬のように萎れたレサトは、力なく頷く。側近に連れられて部屋を出て行く姿を見送った後、残されたヨルゴスと王太子はシェリアを物問いたげに見つめた。


「どんな魔術を使ったのかと思った。あの母を黙らせるなんて」


 ヨルゴスは驚きを隠さないまま、感心した声をあげる。


「……理解してくれるだけでね、案外満足するものなのよ」


 気恥ずかしく思いながらも、シェリアは答えた。

 レサトは昔の自分だった。この国に来た頃、シェリアは誰の手にも負えない娘だった。怯えて吠えていた彼女を黙らせたのはメイサ、そしてヨルゴスではないか。シェリアが少しでも丸くなったのならば、彼らのくれた理解と親切のおかげだ。同じことをレサトにしただけだ。

 いつしかヨルゴスの眼が熱を帯びていた。彼がふわりと笑うとシェリアは眼差しの甘さに耐えきれずに俯いた。また抱きしめられるのではないか――そんな気がしたのだ。

 ヨルゴスの肩を王太子が意味ありげに叩く。


「彼女を選んだのは母親対策まで考えてのことなのか? だとすると、随分な慧眼だな」

「あら? メイサとの結婚を考え直す? なんなら王妃ともやり合ってみせるわよ?」


 照れ隠しもあって、シェリアが冗談を言うと、真に受けたのかヨルゴスがぎょっとしたように彼女の手を引いて背に隠す。


「お前には――いや、もう誰にもやらないよ」

「いや、全く欲しくないんだが。むしろ絶対に要らない」


 すげない返事に殺気立つヨルゴスに驚きつつ、シェリアは気分よく大きく伸びをした。


「さぁて、これから稼がないとね。保釈金はいくらくらいになりそうかしら?」


 ちらりと王太子に問うと、彼は今日何度目か分からない不気味そうな顔でシェリアを見た。


「わざわざ保釈するのか? 何を企んでる?」


 ヨルゴスも同じく意図を問いたげにシェリアを見つめている。


狂犬・・を手懐けるには恩を売るのが一番じゃない? しかもできるだけたくさんね。調教方法・・・・は二人ともよくご存知でしょ?」


 あの台詞、忘れてないわよ? とにやりと笑うと、男二人は顔を見合わせ、まいったと天井を仰いだ。


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