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逃げるだけでなく女の子に守ってもらってます
ホントにひでぇ
周囲の家がすべて崩れている中、一軒だけ無事だった自宅が目の前で漫画みたいに崩れていく。
そうそう体験できるような事ではない。
澪は大丈夫かと考えるが、この状況ではどうしようもない。一応、澪たちが帰ってきたときに分かるように、無事だと書いた紙を新聞受けに入れておく。
横では蓬が新しい球体を取り出している。
「待て、今度は何が起こるんだ?」
「雨が降り始めます、けどただの雨ではありません。今から降る雨に触れることで、管理者権限は譲渡されます」
そして球体を握り潰し、再び何かが歪む音がする。
「今度のは少し時間がかかります。ここで待っているというのは論外ですし、連盟に補足されるかもしれません。まだ気づかれてはいないと思いますが私は連盟を裏切ったわけですし」
蓬が歩き始める。ちゃっかり自分の荷物だけは確保してあったみたいだ。
俺の持ち物はすべて家と一緒にガラクタになってしまった。着の身着のままでこれから過ごさなくてはいけないと思うと憂鬱になる。
「どうしたのですか?これから合流しなければいけない人もいますし、ぼさっとしてる暇なんてないんですよ」
「どうもこうも俺の荷物は全部あの瓦礫の山の中にあるわけなのだが……」
「そんなこと、適当な店で盗んで来たらいいじゃないですか。……私は手伝いませんよ」
「なんてこと言いやがる。そもそもこの様子じゃ大半の建物は崩れてるんじゃねーか。どうやって盗むんだよ」
「耐震がしっかりしてある建物なら大丈夫だとは思いますけどね。私は手伝いませんよ」
無責任なことを言ってくれる。
「しかし、すごい揺れだったな。津波とか大丈夫なのか?」
もとは住宅地だったところが一面瓦礫の山となっている。
生き延びた人たちは茫然と自宅があった場所の前で佇んでいる。
家族が心配なのか、携帯で連絡を取ろうとしている人もいるが、やはり圏外のようだ。
「心配しなくてもこの地震で死んだ人はいませんよ。あまり死なれると面倒ですし、さっきやった裏ワザで大体は回避しました」
「大体って不安になるようなことを言うなよ。それと裏ワザってなんなんだ?」
「大体は冗談です。裏ワザはもうできませんよ、管理者権限を私がすべて持っていたからできたことなので。さっき球を砕いたときに使えなくなりました」
「そうかい。そもそも管理者権限って具体的にどんなものなんだ?」
「この世界を構成する事象へと干渉する力のことです」
なるほど、分からん。
そんな事を考えているのを見透かしたように、蓬は説明を続ける。
「例えば……風が吹いたとき、気温の差によって風が生まれるのが普通です。干渉というのは気温差が無くても風を吹かせることが出来るようになることや、その気温差なら生まれるはずのない強さの風を作り出したりすることです」
「それを世界中の人ができるようになるのか。同じものに干渉しあうということはないのか?」
「一人一人、得る権限は違うようになっています。風を扱うにしても山風や海風、果ては台風なんていうものもあります。そう簡単にはおこらないでしょう」