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目が覚めたら夕方だった。半日以上寝ていたことになる。妙にだるい頭を振りながら体を起こす。
蓬が言うには明日、世界中の人間が神がいることを実感するらしい。そして、明日世界が終わるのか。なにか情報はないのかとテレビをつける。
『神はあなたたちのすぐそばに来ている。あとはそれを感じることだけなのである。神はあなたたちが滅びを回避する術を自ら手に入れることを望んでいる』
昨日にも増して宗教色が強くなっている。世界が滅びなかったとしても社会はすでに終わりを迎えているのかもしれない。
そんなことを考えつつ、出かける支度をする。
蓬に会った駅前に行くために。
駅前に来るまでに暴動の跡が残されているのをいくつか見つけてしまった。自分の目で実際に見てみるとぞっとする。澪は大丈夫なのだろうか。そういうことを考えつつ駅前に到着した。
人はいない。どうやら電車も止まっているようだ。これは本当に社会が終わってしまったのではないか。
そんな嫌な予感を振り払う。蓬とはここで出会ったが、話をしたのはここから少し離れた路地裏だ。そちらへ向かう。
日が暮れて真っ暗になった路地裏、蓬との会話を思い出す。
『神』か、この間まではそんなもの、一切考えもしなかった。世界滅亡がテレビで報道されるようになったのが一昨日、それからの間に世界はどれだけ変わったのか。
2000年の恐怖の大王のように何もなかったで済ませられるようなものではない。社会は途轍もない被害をこうむっている。
フッと、疑問が頭を掠める。
……JRすら止まるような状況のなかで、どうして民放が動いているのか。青一色の画面とただの字幕が放送される前までテレビに映っていた学者たちは何処に行った?
すべてのチャンネルで同じ映像が映っている。これだけを考えるなら電波ジャックを考える。しかし、まだテレビに人が映っていたときにこの放送のアナウンスが入っていた。
もしかしたら本当に放映されるはずだった映像とは違うものが放送されたのかもしれない。
そんなことを考えていると携帯が鳴った
「兄さん、父さんがいなくなっちゃた。昨日の晩、取引先の人と話をするって言ってからいままで帰ってきてないの。どうしたらいい?」
「お前と母さんはどうしているんだ?」
「車の中で一晩過ごしたの。世界が終わるとか新しい神が生まれたとか、よくわからない事ばっかりで私もう嫌になってきた」
父さんの上司は世界が終わるわけがないと言って父さんを商談に行かせた。なら、相手方はどうなんだ?相手方も世界が終わらないと言ってこんな状況で商談を始めたのか?そんな可能性の低いことより父さんの会社と相手の会社がなにかしら良いか悪いかは別として縁があって、父さんはそれに巻き込まれたと考える方がしっくりとおれには来る。
「澪、母さんと二人でこっちに帰ってくるんだ。澪と母さんの二人だけじゃ危険すぎる。俺と合流した方がいい」
「父さんはどうするの、もしかして放っておくの?」
「そうだ、もしかしたら商談相手との話が長引いてるのかもしれないしな」
「……分かった。明日には家に着くと思う」
ふと疑問に思ったことを聞いてみる
「澪、お前は世界が終わると思うか?」
「終わらないよ、少なくとも世界は。社会はもう終わってるのかもしれないけどね」
「そうか、……気を付けて帰ってこいよ」
澪が俺と同じ考えだったことに安心しつつ、時計を見た。
11時58分
すべてが分かるまで後2分。このまま路地裏で時間をつぶすことにした。