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どうやら世界はあと三日で滅びるらしい。
世界中のテレビがそんな事を言いだしはじめた。なんでも二年も前から予測されていたことだそうだ。まだ解決できるかもしれないと研究され続けていたが研究者たちがさじを投げたのが一昨日で、昨日各国の首脳が集まって一斉に世界滅亡を発表することをきめたのだとか。
ふざけているとしか思えない。地元の放送局が盛大なビックリ番組を仕掛けていると思った方が理解できる。しかしテレビに映っているのは誰だってニュースで見たことがあるような教授ばっかり何人も集まっている。
やれ昨今の異常気象はだとか、やれ異常犯罪の増加傾向だとか、そんなこと生放送に出て喋っている暇があったら世界滅亡を回避する研究をしとけってんだ。
そんなことを考えながら駅前を歩いているといかにもな恰好をした男どもが少女に絡んでいるのが目についた。どうせ世界が終わるんだから一発気持ちいいことをしようぜとかなんとかナンパをしているらしい。
「すまない、待たせたな」
そんなことを言いながら少女の手を掴んで無理やり歩き出す。すると、少女も心得たように、「遅かったですね。待ったんですよ」と男どもに聞こえるように喋り出す。
しばらく歩いて男どもが完全に見えなくなってから少女から手を放す。
「悪い。無理やりだったかな?」
「いえ、ありがとうございました。……私は新井 蓬っていうんです。あなたは?」
「久慈川 朔だ」
「よろしくね、朔君」
少女……蓬はそのまま俺と話を続けようとしてくる。なんだか面倒な女を拾ってしまったんじゃないかと思いつつも彼女の話がさっきまで俺が考えていた世界滅亡の話だったので乗ってみることにした。
「世界が本当に滅ぶとしても『一体どういう形で滅ぶのか』っていうのが明確に語られていないんですよね。今のニュースでは」
「だからこれはただのドッキリだって言い張る人間もテレビの中にでもいるんじゃないの。でも実際どういう形で滅びるのか……
銀河ハイウェイのコース上に地球があったからとかなら研究者がさじを投げる気も分かるんだけどね」
「この世界の神があと三日で死ぬからとかどうでしょう」
「確かに研究者もさじを投げたくなるような考えだな。そもそもこの世界に神はいるのかどうかから考えなくちゃならんな。神というものをどのような存在とするか……。一神教神話に出てくるような超常的、概念的な存在とするのか、多神教神話に出てくる寿命を持ち、子孫を作っていく生死ある存在とするか」
「一神教神話の神も元をたどればカーバ神殿に祭られていた多くの神々の中の一柱でしかないんですから生死という概念も少しは当てはまるのでは?」
「すると、神を殺すことは神が存在するという前提条件において可能なわけか。そして神はいるのかどうかという最初の疑問に戻ってくるわけだが」
「神はいますよ。三日後、世界中の人たちが実感することになります」
蓬はその言葉だけははっきりと断言した。
「……君は何かを知っているのか」
俺のその言葉を聞いた蓬は笑いながら
「朔君との話は楽しかったですよ。でも、サヨナラです。またいつか会いましょう」
そう言って歩き出した。
三日後世界が終わるというのならば、それまでに彼女に再会できるのかと。
そう思いながら俺も帰路についた。