本を読む時は目が冴えている時にしなさい
「シュリエラ=レオネイド……いい加減にしてくれ。今月に入って何人寝込んだと思っている」
「んなこと知るか」
「研究に差し障りが出ている。迷惑なんだが」
「私も規律を守らねぇ奴が研究員にやけに多くて辟易させられてんだが?」
「気絶させて追い出すのではなく、もっと違うやり方はないのかと言っているだけだ」
「もっとソフトにってか?面倒だ、ムリ。だいたいあの程度で気絶するんなら元々消費してたんだろうし、ほっといても気絶してたはずだ。ちょっと早まっただけだろ」
「気絶するだけならまだしも、お前に蹴られて魔導用の術式が飛ぶ者が後を絶たない」
「そんな半端な覚え方してるほうが悪ィんだよ」
現在、図書館入り口のカウンター越しにシュリエラと、魔導研究室の研究統括主任、ユリウス=ノルディードが対立している。
理由は、シュリエラにルール違反で図書館から蹴り出される者が、揃って2、3日使い物にならなくなるから。
昼夜問わず研究している立場としては、せめて追い返す程度にしてほしいところだった。
この王宮には魔導研究室を始め、様々な研究施設が存在し、一概にそうとは言えないものの研究者には仕事に没頭している者が多く、手順を踏み忘れて本や資料を持って行こうとしてシュリエラに成敗されることが少なくなく、特に魔導研究室に顕著だった。
「……なぁ、アンタ最近いつ休んだ?」
唐突にシュリエラが尋ねた。
多少面食らいながらもユリウスは正直に答える。
「二日前だが。」
シュリエラは目を見開いて驚き、それから呆れたように溜息をついた。
カウンターを飛び越え、ユリウスの前に立つ。
「……?それがどうした」
「……テメェも魔導研究室の他の奴らも、毎回毎回今にも倒れそうな面しやがって……それじゃあ本の内容が頭に入んねぇじゃねぇか本に対して失礼だろうがこの馬鹿共がぁぁ!!」
ユリウスの鳩尾に拳を叩き込み、シュリエラはユリウスの意識を沈める。
そのまま前に膝から崩れ落ちたユリウスをシュリエラは受け止めた。
そして、その衿元を掴み、引きずって図書館を後にする。
……もちろん鍵を掛けて。
「それにな、自分の体は大事にしねぇとここまでアンタを立派に育ててくれた親にも失礼だろ。」
シュリエラの呟きは誰に聞かれるでもなく、長い廊下の空気に溶けて消えた。