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図書館司書と犯行予告

シュリエラを動かすにはどうすればよいのか。答えは簡単だ。


「ねぇ、シュリエラ……おねがいよ、この研究の正当性を証明してほしいのですわ。」

「ん、分かった。」


友ならばこうして誠意を込めて頼むだけでよし。


「レオネイド、この術式の綻びを見つけ出してもらえないか。絶版の『旅人の異文化交流日記』シリーズ5冊で。」

「よし、のった。」


そうでなければ、本を対価に頼みごとをすればよい。


シュリエラは図書館の仕事の合間で、意気揚々とアイラに頼まれた新薬開発の正当性を主張する文を作成し、術式の描かれた紙を眺めて綻びを探した。


「安上がりだねぇ、シュリエラは。」

「対価が釣り合わなきゃやらねーよ。」

ふらりと遊びに来たルディーノにそう返事をして、シュリエラは見つけた綻びに、赤いインクを付けたペンで大きな丸をつけた。


「こっちは仕事の合間にちょちょっとやれば絶版が手に入る。向こうはたかだか子供のお小遣い程度で仕事がはかどるようになる。素敵な協力関係、だろ?」

「それ、ちょちょっと出来ちゃうあたりがシュリエラだよねぇ。」


ルディーノはのほほんと笑う。

シュリエラはそんなルディーノにピシャリと言い放った。


「そう言うお前は能力は有るのに使わない典型的なバカだよな。」


手厳しく非難されても、ルディーノは笑うばかりだ。

シュリエラはひとつ舌打ちをして、ルディーノを軽く睨んだ。


「『使える時に使えるものを仕える人々のために用いないのは、罪深いことだと思わないかね、少年。』ってな。仕事しろ、仕事。」


シュリエラは声音を低くして、ゆっくりとそう言った。

国民誰もが知っている冒険物語の、賢者が勇者に言う台詞。

要するに、国のために働かないのかと聞いたのだ。


ルディーノは笑みを崩さぬまま口を開いて、返事をした。


「『私が生涯、身も心も捧げるのは、君の言う彼の者ではない。君だって、本当はそんなことを思ってはいまい。そして、本当は君自身の内に答は出ているだろう。』……で、どうかな。」


芝居のように大袈裟な口調で、ルディーノは答えた。

この国で有名な恋愛物の劇の、一番よく知られている台詞だ。

身分の低い女に、身分の高い不器用な男が言う、精一杯の愛の言葉。そして、抱き締めるのだ。



当然、ルディーノはこの場合、シュリエラに愛を囁いているわけではない。

シュリエラは眉を潜めた。


「あんた、それ本気で言ってるのか?」

「さて。どうだろうね。」


ルディーノの言葉は、国に対し忠誠心を抱いていないことと同義だった。


「まぁ、能力有る者を身分云々で見下す無能な奴等と一緒に働くのが気分的にちょっと嫌ってことにしといてよ。」

「……そういうことにしといてやる。」


感がいいね、シュリエラは。

ルディーノはまた口を開いた。シュリエラが最初に引用した冒険物語の、勇者の台詞だった。


「『僕は、機を待っているのだよ。僕の力を最大限発揮できるその時を。』……ねぇ、シュリエラは対価に何を与えたら僕に添うて動いてくれるかな?」


ルディーノ最後にそう言ってウインクし、図書館を出ていった。


シュリエラは背中に冷たい汗が薙がれるのを感じていた。


「最後は丸々本音出てるし、目がマジだったんだけど?ルディーノくん。」


ルディーノは、国内反乱(クーデター)を企んでいる。間違いなく。


「まぁ、本が燃えるようなことがなければ構わないけど。」


第二王子であるルディーノが反乱を起こしたとして、倒さねばならない人物は主に二人だ。

一人目の威厳たっぷりな王は、見た目のままに高圧的な人物であり、選民意識の強い貴族たちをそのカリスマ性を以て支配している。二人目、第一王子は恐ろしく腕の立つ武人。それこそナノと互角に渡り合う人を、シュリエラはこの第一王子以外に知りえない。


ルディーノ自身は、はニコニコ笑って道化を演じつつも腹の内は真っ黒である。頭の切れは父譲りで剣の腕前は未知数だ。ルディーノは個の力の強い二人を制圧するのに、シュリエラをはじめ王の息のかかっていない者を選び出している……ということは人を集めて何かを果たし、それで国を覆そうとしている。選民意識に毒された上司達を、いかように処するのか。ルディーノの考えは、全く読めない。

ともかく、シュリエラとしてはあの二人が切り捨てられることに何の感慨も抱かないし、もっと言えばルディーノには恩もある。ここらで恩を返すのも、悪くない。


「あんたを助けんのに対価なんて求めやしないよ、ルディーノ大恩人。」

シュリエラは、書類を纏めて席を立ち、叫んだ。


「昼休みだ、閉めるから出ろ!」


時計の針がふたつ、真上を向く頃の出来事だった。


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