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図書館司書と犬武官

図書館司書の仕事は多い。

広い図書館の掃除から貸し出し、返却の受付、本の整理、修復を一手に担っている。さらに、責任者議会などの議会記録を取るのは、基本的には彼女の仕事。彼女は機密事項の多くを知っていた。

つまり、彼女が狙われることは多い訳で。


「シュリエラ=レオネイドか。」

「ん?そうだけど、なに?」


城の中を歩いていたとき、突然現れた仮面に黒いコートの男。明らかに胡散臭い、とシュリエラが警戒し始めたちょうどそのとき、見事なまでに予想通り襲い掛かってきた。


手には短刀を持っている。


「警備ザルかよ……誰か止めろって。」

真っ直ぐ攻めてきた仮面の男を左に体をずらして躱し、足払いをかける。仮面の方も易々と躱して素早く攻撃に転じた。グッと屈んだかと思えば今度はバネのように下から短刀が跳ね上がってくる。シュリエラは体に届く寸前で左手を左に思い切り打ち払い、攻撃を反らして自身は反対に飛びのいた。


「おっかないったらありゃしねぇな……。」


シュリエラはズレた眼鏡を直しつつ、ジリジリと後ろに下がる。


「目的は何だ?私を攫う?機密を吐かせる?痛め付ける?それとも機密ごと私を消すことか?」


「拐って吐かせて嬲って殺す。」


「全部か。」


思わず苦笑が漏れた。

この手の輩には人質にされるかと思っていたが、それをされないあたり、シュリエラの宮廷内での立ち位置を理解しているらしい。


しかし……。

「雇い主は情報を欲しがる、私の地位のみを羨む奴……どっかの貴族のボンボンか。下っ端士官の。あぁ、シュワルツの次男か?それともマクベルの令嬢?リズセノ男爵か。高官ゆすって良い役職でももらおうってか。」


狙われることは多い。しかし、それは敵対している国外ではなく、国の内側から、が殆どだった。

ピクリと仮面の男が反応した。

焦ったのか、連続して攻撃を仕掛け始めた。


「へぇー……犯人はその3人の中か。嬲ぶるとか言っちゃうあたりマクベルの令嬢が1番可能性が高いな。あいつが1番性格悪いし。」


割と普通に仕事してるだけなのに、どーしてこうも怨まれるかねぇ。と、シュリエラは笑う。

仮面の男はのらりくらりと躱すシュリエラにいよいよ苛立ちが隠せなくなったらしく、攻撃が単調になってきた。


そろそろ、か。


シュリエラはちらりと後ろを見る。

曲がり角。

分厚い絨毯に反響を吸い込まれた足音が複数近付いてきていた。


「別に逃げなくても私が捕まえればいいんだろうけどさ……。」


シュリエラは仮面の男の脇の下を潜って背後に回り、その背中を押した。

よろけた男が、慌てたようにシュリエラに向き直ろうとし、固まった。


「規則だからなぁ。」


走って来たらしく息を微かに乱しながらも、こちらに向かって剣を構える武官が3人。背後にシュリエラ。仮面の男は囲まれていた。


「残念だったな。」


今度こそまともにシュリエラの足払いを喰らい、実にあっさりと仮面の男は武官に捕獲された。


3人のうちの2人に引っ立てられていく。

残った1人の男に、シュリエラは声をかけた。


「お疲れさん、ナノ。」

「……うん。」


ナノと呼ばれた寡黙な男、ナフィノット=ラルドレイン。

ガタイはそこそこガッシリしているものの、やたら中性的な顔のお陰で幸か不幸か、腕は随一なのに城の警備の全てを任される武官には見えない。


「……どうして自分で対処しない?」


ナノはシュリエラなら出来たはずと言外に含み、対してシュリエラは肩を竦めた。


「書物に関すること以外で武力使うのは緊急時以外許可されてない。」


そして、緊急時に自分の身の危機は含まれない。


一度シュリエラが自身に送られた刺客を返り討ちしたことがあった。

結果、刺客が捕らえられたのはもちろんだが、シュリエラ自身も規約違反で3日間の牢屋行きを命じられたのだ。

シュリエラの命は、現時点で本よりその価値は軽いらしい。

尤も、本人からしても価値観は全く同じなので何の抵抗もなく受け入れているが。


ちなみに、足払いは『相手が勝手に転んだ』でごまかせるために多用する。



武官とはいえ責任者、頭のいいナノは、そのことにすぐ思い至る。

悲しそうな顔を見せるナノに、シュリエラは話をすぐ切り替えた。


「っつーか、それよりも疑問だけど、あの仮面は警備素通りか。何やってんの、あんたら。侵入経路なんていくらでもあるんだし、城内の警備増やせば?」


失敗。ナノは悲しそうな顔の上更に申し訳なさそうに眉尻を下げた。

シュンと凹んだその様子はさながら犬のようで。


「……っだぁぁー!」


シュリエラは自分より高いところにある頭を背伸びして押さえ付け、ワシワシと撫で回した。


「今回は私で良かった。王族に及ばないようにな。」



『私で良かった』という発言に不満を抱きつつコクンと頷くナノは、とても武人にはみえない。愛らしい。


「……警備。シュリエラにも、つけるか?」


「いらない。貧民の警備したい貴族なんて居ないだろ。」


「俺……。」


「それこそ令嬢に怨まれるわ。」



面食いの令嬢は、美人で気の強い恋人がいるユリウスをさっさと諦め、ナノに懸想しているのだから。

しかし、そのナノがシュリエラに懸想していることを、シュリエラは知る由もない。





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