二章 =引きニートを極める男【後編】
随分と長くなってしまった:(;゛゜'ω゜'):
気長に最後まで読んで頂ければ幸いです♪
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三。
学校に着いた頃には、全部の信号に足止めを食らってたこともあってか、結構ギリギリの時間になっていた。そのため教室には寄らず、カバンを持ったままクラスの列に混じって体育館に向かう事にした。『あいつらまた遅刻かよ』というような声が聞こえたが、それもまぁいつものことだ。今更一義も古谷も気にしない。
「おい古谷。クラスの奴等から注目浴びてるぞ」
「今日はみんな、俺の為に来てくれてありがとぉ!!」
『……。』
「馬鹿だろお前」
「何を今更」
古谷は一義に向かってグーサインをしたが、それを無視してスタスタ歩き出す一義だった。
体育館に全部のクラスが集合するなり、騒ついた雰囲気のまま終業式が行われた。
当然のように壇上の校長先生の話などほとんどの生徒が聞いておらず、一義が周りを見渡しても、他のクラスの奴と駄弁っている者や、ぐっすり夢の中に入り込んでいる者と様々だ。
(俺もとりあえず寝とくか)
そんな風に思いながら後ろの方を見ると、唯一真面目に校長の話を聞いている人物がいた。
(さすがは『鉄の鈴』、文句無しの優等生っぷりだな)
深見鈴は見事な体育座りを決め込み、真っ直ぐと壇上を見つめている。極限まで瞬きすらしない程の集中力で、後方からの古谷のちょっかいもガン無視。
亜麻色のショートカットの可愛らしい容姿からは想像も付かないぐらいの男勝り。その鉄壁っぷりから『鉄の鈴』なんて呼ばれ方もしている変わり者。
深見に抱きつこうとした古谷が、鉄拳を鼻筋で受け止めて顔面から地面に叩きつけられたのを見て、一義呆れたような視線を2人に向ける。
(そういや、あいつ等っていつから喋るようになったんだ?そんな仲良かったっけか?)
まぁ、考えても仕方がないか、とすぐに思考を停止させ、眠りについた。
目が覚めた頃には終業式も終わりかけており、もうそれぞれの教室に戻ろうとしている所だった。
後ろの方に顔を向けると、古谷の姿がない。あのあとすぐに保健室送りにされたのだろう。実に愉快だ。
「んじゃ、俺等もそろそろ教室に帰るか」
担任の気怠い声で全員のっそりと立ち上がり、各々出口に向かって歩き出した。
四。
「そんじゃ、坂上。俺は今から部活だから行ってくる」
「おう、頑張ってこい!」
顔面に包帯をぐるぐると巻いたジャージの古谷に、ここぞとばかりに馬鹿にした返事をして見送る。
帰宅部ってジャージで部活するんだな。
そんなどうでもいい事を思いながら学校から出た一義。
教室に戻った後も通知表を渡されたりだとか、担任のゆる~い話を聞かされたりだとか、正直どうでもいい感じの事ばかりだった。一義は教室の窓からグラウンドの方を眺めて聞き流していた。
「今、この瞬間から俺は学校という呪縛から解放された」
訳、今から待ちに待った夏休みだ。
「この機会を存分に利用して、今年こそ引きニートを極めようじゃないか」
訳、今年もとりあえずぐーたらしておこう。
独り言の後に小さくガッツポーズをして、家に向かう。
それにしても、今日は不可解なことが多い。
なにも起こらなすぎる。
(ま、なんも起きないならそれに越したことはないか)
家に着いたら、途中で寝落ちてしまったままのゲームを進めようとか、あのスレ更新されてるかなとかで頭がいっぱいになり、上の空状態で相変わらず信号待ちをしていた。
しばらくすると、道路を挟んで向こう側の、それも遠くの方から何かが近づいてくるのが見えた。
別に普通の道なら気にならないようなものなのだが、この辺りは交通量の割りに特に人通りが少なく、滅多なことがない限り人とすれ違わない。
(あれは、女の子……?)
そのせいか、小学校低学年ぐらいの女の子が、目を瞑ったまま一心不乱にこっちに向かって走ってくる姿は、妙に印象的だった。
ご丁寧にも、一義がどんなに立ち位置を変えても、女の子も同じように向きを微調整してそこ目掛けて走ってくる。
そう。
小学校低学年ぐらいの女の子が、
目を瞑ったまま、
一心不乱に、
こっちに向かって、
走ってくる。
「いやぁぁあああああぁぁぁあああ」
「嫌ぁぁあああああぁぁぁぁああああああ」
突進系幼女の悲鳴が聞こえて、一義も盛大に悲鳴をあげる。
結局、その幼女は車の行き交う道路なんてもろともせず、目を瞑ったまま一義の元に辿り着いて、いきなり抱きついてきた。
「ぐぬぅ……」
それと同時に強烈な頭突きが腹部に直撃して、一瞬視界がぐらつく。
体が後ろに持っていかれそうになるのを、なんとか踏ん張って態勢を立て直した。
「たす、けて」
一体なにが起きたのかさっぱりな一義だったが、嗚咽混じりにその言葉を呟く女の子を見てただならぬ事態であることは理解した。
「あぁー、なるほどねぇ」
この子が来た道を辿って目を向けると、同じようにこっちに全力疾走している強面のゴロツキ連中が2.3人程いた。
「とにかく逃げるぞ!」
一義女の子を持ち上げて抱っこしてから、一気に後方に駆け出した。
しかし、勢いよく走り出したのは良いものの、子供とはいえ、人を1人担いでいるというハンデは大きく、走るスピードも落ちてしまい、体力もそう長くは持たない。
それに加え、この通りは特に人気がないため、人混みに紛れて逃げるなんてこともできない。
このままでは捕まるのも時間の問題だ。
(くっそ!路地に入ったらなんとか撒けるか!?)
距離を詰められ、すぐ後ろから追ってくる3人の姿を確認してから、店と店の間の狭い道に飛び込む。
そこからは、彼等の視界に入らないように何度も方向転換を繰り返しながら走った。
(今までの胸騒ぎはこれか?あぁもう、めんどくせぇ!)
ゴミ箱や積み上げられたダンボールを蹴り倒し、転がして足留めをしていたおかげで、3人の内2人は撒けたらしい。追っ手の足音は1つになっていた。
(よし、この調子で……ッ!?)
もう一度道を曲がればなんとか逃げ切れた所で、急に動きを止める一義。
「嘘だろ、オイ」
行き止まり。
目の前には到底越えられそうもない高さの壁が佇んでいた。
『疫病神』である一義としては、不良連中に追われて逃げている時と同じいつもの展開だった。きっと道を把握した上で逃げていても、工事やらなんやらで、行き止まりにはぶつかっていたはずだ。
でも、今回はいつもとはわけが違う。
「……、」
汗も垂れ流しで、息を整えようとしている一義の体に、抱っこされている女の子が、しっかりしがみつようにきゅッと背中のシャツを握る力が、ほんの少し強くなるのを感じた。
いつもとは違い、この子がいる。
「ったく手間取らせやがって。さっさとそいつをこっちに渡しやがれ!」
ガラガラの怒鳴り声が聞こえた。
声のする方に体を向けると、ゆっくりと息を整えながらこっちに来る長身でドクロのTシャツにジーンズの大男がいた。
「悪りィな、この子俺を離してくんねぇんだわ」
「いいから渡せ!!」
「イヤだね」
とは返してみたが、これまでの全力疾走のせいで体力は限界に近い。太ももには乳酸が溜まって、足が重い。
いや、それ以前にコンディションが良かったとしても、こんないかにもケンカ慣れしてそうな奴とやり合って勝てるはずがない。
今のように不良連中に絡まれたり、黒尽くめの怪しいのに追われたり、強盗事件に巻き込まれたりしたことはあっても、全部逃げ切ってきたため、一義の戦闘力はきっと、某スカウターで測っても『0』と表示されるだろう。
「だったら力づくで!」
「来いよデカイの!」
右拳を振り上げて雄叫びをあげながら突っ込んでくる大男対して、一義一歩も動かない。動けない。
横に避けようにも、この狭い路地裏ではそんなスペースもないため、動こうにも動けないでいた。
まさに袋の鼠。
「くたばりやがれぇぇぇえええ!!」
そうこうしている間に、距離を詰められてしまった一義の鼻筋目掛けて大男の拳が放たれた。
「フンッ!」
そして見事に直撃。
したように見えた。
「なっ!?」
大男の拳は狙い通り一義の鼻筋に入ったはずだったが、当たった感覚はなく、その事に驚いていると、さっきまで女の子を抱えて突っ立っていた一義の姿はそこになく、空を切るような形になっていた。
それどころか、空振ってバランスを崩した状態で、何かが足に引っかかっていったせいで、大男は派手に転び、体をコンクリートに打ち付けた。
「ど、どうなってんだぁ!?」
「ハハッ!はなっからお前みたいな強そうなのと張り合う気なんざねーよ、バーカ!!」
慌てて後ろを振り向くと、そこにはバカにするようなめつきと、バカにするような口調で、男をバカにする一義がいた。
「んじゃーな、おバカさん♪」
ずり落ちそうな女の子を持ち直し、そそくさと逃げ去る一義とそれを呆然と眺める男。
「……なんだ今の?幻覚を見せるタイプの異能か?ーーーーってそんな事考えてる場合じゃねぇ!待ちやがれクソガキィィイイイ!!!!」
すぐに立ち上がり彼を追うが、完全に見失ってしまった。
五。
「はぁ……、これからどうすっかなぁ」
なんとかあの大男から逃げ切った一義だったが、この現状から脱したわけではない。
人通りの多い道に出ようとしたが、さっき撒いたはずの2人が出口の辺りをうろついて見張っていたので、相変わらず路地裏で隠れていた。
ずっと抱っこのままだとそろそろ腕が辛いので、女の子を降ろしたけど、すぐにしがみついてきてシャツの裾を握って離してくれそうにない。
なにを聞いても答えてくれないし、一体どうしたものか……。
「……はぁ、」
壁に背中を預けた状態で、さっきからため息しか出てこない。
ポケットから携帯を取り出して時間を確認する。
3時47分。
もう1時間近くここでこうしている。
本来なら、今頃家でぐーたらしていたはずなのに、ゲームしていたはずなのに。
とりあえずする事もないので、ツ○ッターに『幼女と2人きりで命の危機なう』と呟いておいた。すぐに『またかよwwwwww』『そういうのもういいから』と、呆れ気味の返しがきた。
古谷からも返しがきた。
『だから犯罪だけには手を染めるなとあれ程……』
『そういう事じゃねぇからwww』
『ちなみに聞くがその幼女はいくつだ』
『小学校低学年』
『このロリコンがぁぁああああああぁぁぁぁああああ』
ちなみに、このロリコンがぁぁ!!はこの会話を見ていた他のやつからも送られてきた。どんな統率力だよお前ら。
しばらくしてから、そろそろあいつらも諦めただろうと思い、立ち上がる一義。
「んじゃ、もう帰るとすっか」
「…うん」
「家どこだ?住所とか言われてもわかんねーから、案内頼むわ」
「…わかった」
そう言って抱っこしようとしゃがんだのを見て、女の子も両手を広げた。
「て、手慣れてやがる」
「…?」
幼い顔に疑問符を浮かばせ、艶のある黒髪を揺らして首を傾ける幼女。まぁ、持ち上げようとしていたわけだから、別に構わないのだれけど。
と、女の子の背中に手を回そうとした時、ザザッと近くから足音が聞こえた。
(まさか!)
「やっと見つけた」
違う、女の声だ。
すぐに立ち上がり音源を辿ると、そこにはよう知った顔があった。
「って、深見じゃねぇか」
「なっ!坂上じゃないか!」
そこまで仲がいい訳ではないが、話しをした事がない訳でもない。この男っぽい口調も相変わらずだ。
「もしかしてこの子、深見の妹か何かか?」
「まぁそんなところだ」
なら安心じゃないか。
ゴロツキに追われている妹を助けに来たのか?普通の女子高生ならわからないが、超ド級真面目ちゃんの深見なら納得できる。
心強い姉が現れて、女の子もホッとした表情をしているはずだ。一義もやっと無事家に帰ることができる。そんな風に思っていた。
「それじゃあ坂上、そういう事だから、その子を渡してくれないか」
が、そこで違和感に気付く。
服の裾を握る力が、さっきよりも強くなった。それになにより、後ろを見ると
「さぁ、早く」
「……深見、お前」
「なんだ、どうした?」
女の子は怯えた表情で深見の顔を凝視していた。
「何が目的なんだ?」
「……、」
深見の顔から表情が消えた。
「さすがに今の小芝居で、お前みたいな勘の良い男を騙せるとは思ってはなかったけどな」
「さっきからなんなんだよ!あのデカイのといい深見といい、なんで追いかけ回されてんだよこの子は!?」
「いいから早くこっちに渡すんだ」
わけがわからない。一体なにをしたんだこの子は。一義自身わざわざ他人様の子をかばう必要もないのだが、何故だか体が勝手に動いていた。
「さっさとしないと、『殺すぞ』」
あまりにも非現実的な単語に、戸惑いすら覚えたが、その言葉の意味をすぐに理解することになる。
深見がゆっくりと片手を横に広げていくと、
刹那、
「……え?」
一義の左頬を掠めるように、風が吹いた。
違う。
空きカンだ。深見の足元に落ちていた空きカンが、高速で左頬を掠めていき、パイプにぶち当たってカァン!と甲高い音を響かせている。
(な、なんだよ今の)
「念動力だ」
色々なことが起きすぎて、何が何だかわからなくなっていると、深見が静かに口を開いた。心なしか声音が重くなっている。
「いや、私の場合念力と呼ぶのが正しいのか。まぁ、その辺りは別にどうでもいいんだが……」
やれやれというようにゆっくりと、また他の空きカンに手を向ける深見鈴。
念力を使うため。
それを一義に撃ち放つため。
「もう一度だけ言う。その子を渡さないのならーーーーー」
そして、この言葉から全てが始まる。
「ーーー殺す」
.
アナログ画しか描けねぇんだってば(・ω・`)
ちょっと長くなってしまったけど、どうしてもこの回で異能を見せておきたかったので、そこまでいって良かったです。
それと、一応一つにつき一枚ずつは挿絵入れていこうかなって思うので、よかったら見てやってください。
次回も、サービスサービスぅ♪←(エヴァにわか)