一章 =引きニートを極める男【前編】
……こんなはずじゃなかった(・ω・`)
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一。
朝。
朝方の冷え切った空気が部屋中を支配する。
カーテンを閉めきっているせいで、妙に閉鎖的な部屋の中、パソコンのモニターだけが淡い光を放っていた。
部屋の中は至って普通。
見るからに男子高校生の一般的な部屋で、ベットの下を漁ればエロ本の1冊や2冊は出てきそうな程に普通だった。
そんな中、机に向かってキーボードに突っ伏すような形で寝ていた少年が目を覚まして、ゆっくりと体を起こした。当然のようにまぶたは閉じたまま。
(うーん……、今何時だ?)
目をこすりながらチラッとデスクトップの右下を確認する。
7時17分。
帰宅部には朝練の概念がないため、今からゆっくり準備しても十分学校には間に合う時間だった。
(完全に寝落ちてんな~、昨日何時まで起きてたんだっけ?)
確か、4時前にツイッ○ーに『ねむぽよwwwwwwwww』とつぶやいたのを最後に記憶がないから、だいたい3時間睡眠。
いつも通りだ。
さて、そろそろ準備でもしようか思ったところで、扉の向こうから階段を駆け上がってくる音が聞こえた。と、同時にバタンッと勢い良く扉が開け放たれた。
「一義!さっさと起きないと食べちゃうよっ!」
少年、坂上一義は、半開きの目で扉の前で仁王立ちをしている母の姿を捉えた。
……何を思ったのか裸エプロン姿の母を見てため息しかでない。
「食べるって、俺の朝ごはんを?」
「ううん、一義を」
「ホントそういうの勘弁して下さい!」
母、坂上涼は黒髪美人でスタイルも良く、家事スキルも万能なのだが、言動通りのダメ親。一義は毎日のようにセクハラを受けていた。
「わかったから、もう起きたから、さっさと降りて服を着てくれ」
一義は呆れたように、寝癖のついた髪を掻き毟りながら、めんどくさそうに言う。
「え?この状態で振り向いちゃっていいの?」
「……。」
裸エプロンで振り向く= ーーーー
「もう、一義のえっち♪」
「『えっち♪』じゃねぇ!!俺が違う方見てたらいいんだろ!?だからもう行ってくれよ!」
「母親に向かってイってくれなんて一義ったら「あぁ!!もう!うるせぇええええええぇぇぇぇええええええぇぇぇえええええ!!」」
どうして自身の親のケツなんざ拝まにゃならんのだ!それも寝起きそうそうに。
まったく全体的にふざけてやがる。
一義の悲痛の叫びは、2階建ての家中に響いた。
……これはこれである程度いつも通りの目覚めなのだが。
こんないろんな意味でいつも通りな感じで、坂上一義は今日という日を迎えてしまった。
二。
頭がクラクラする。
昨日遅くまで起きてたせいか、朝から思いっきり叫んだせいか、母にご飯を口移しさせられかけたせいか。とにかく朝から体中が重い。疲れ切っていた。
ため息と一緒に吐く息は、いちいち白くなってのぼっていった。
「今日を乗り切れば明日から冬休みだ。大丈夫。今日だけ乗り切ればいいんだ」
そう。
今日は2学期終業式の日。明日からは晴れて冬休みに入る。学校の束縛から1ヶ月近くも解放されるとなれば、今の疲れなんてどうという事はない。
「明日からは存分に引きこもってやる」
……こっちもこっちでダメ人間な一義だった。
少ししてから、赤信号に引っかかり足を停めていると、
「よぉ、坂上!」
と言いながら隣に学校指定の紺のジャージを纏った男が並んできた。
「なんだ、古谷か」
「なんだとはどういう事だ失礼なニートだな」
「うるせぇ」
古谷啓祐。
一義のクラスメイトで一緒に連んで遊ぶ事が多い友人だ。そして、
「ってかなんでジャージなんだよ」
「帰宅部の朝練に決まってるだろ」
相当な馬鹿だ。
というよりも、人前で馬鹿をするのを信条としていて、とにかく面白かったらなんでもするタイプの馬鹿。別に染めたわけではない茶色の短髪。ある程度は整った顔立ちからは想像もつかないような馬鹿だった。
古谷はシュシュシュッと息を吐きながらシャドーボクシングをしだした。
それ帰宅部関係ねぇだろというツッコミを待っているのだろうか。
「そういや、坂上と合流しちまったって事は、こっから全部赤信号になるんじゃないか!?」
「悪かったな、疫病神で」
少し残念というより、めんどくさそうな表情をする古谷。
疫病神というのは、一義のちょっと変わった体質だ。
(不幸体質か……)
とことん運がない。ここまでの道のりでも、信号はすべて丁度いい感じに赤信号になってしまっていた。それでもまだマシな方で、いつもなら信号待ち中にトラックが突っ込んできたり、道を歩けば鉄柱が降り注いできたりなんてこともざらだ。
「つーか、俺と一緒にいて『赤信号ループ』程度で済むと思ってたら痛い目遭うぞ」
「威張って言うことじゃねぇよな、それ……」
むしろ、このあと何かあるんじゃないかと身構えてしまう。
それに今日が終業式というのにも妙な胸騒ぎを感じていた。
と、そこでようやく信号が青に変わる。
「まぁ、なんにせよさっさと行こうぜ。そろそろベットが恋しくなってきた」
「そこまできたら流石だな、坂上」
「当然だろ。俺は引きニートを極める男だ」
この胸騒ぎはきっと気のせいだと、そう自分に言い聞かせながら、一義は学校に向かってゆっくりと歩き出した。
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坂上一義。
本作の主人公。
黒髪短髪で若干の癖っ毛。
ボサボサって程じゃないけど整える気ゼロ。
取っ付きにくい感じのつり目。
坂上涼。
一義の母。
変態。
古谷啓祐。
馬鹿。
よし、以上キャラクター紹介でした!!