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2話目 ちょっとしたお勉強

 クライツェ領から帰ってのこと……あれから夕食をいただいたりしたわけだが、泊まっていこうという父さんを放っておけるわけがなく、かといって仕事をほっぽり出してきているわけであって、「僕も手伝うから」というと、それならということでやっと帰ってこれた。

 今回は逃げずに仕事をするべく部屋に向かう父さんを見て、みんなびっくりして逆に仕事を止めようとしたのだが、それで父さんは若干切れてしまった。


「そんなに俺が仕事をしないと思ってんのかっ!」


 するとみんなは、なぜにそんな当たり前のことを……といったように口をそろえて、


『『旦那様ですから』』


 父さんはふて寝してしまった……



+++++



 翌日、なんとか回復した父さんは、朝からちょっとずつではあるが溜まっていた書類とにらめっこしながら、時にハンスさんの力を借りて、順調に仕事をこなしているようだった。そんな父さんとの約束を守るべく、僕は父さんの書斎に顔を出した。


「父さん、約束通り手伝いに来たよ」


「おぉ、オルカか。ちょうどいいところに来た。お前には昼からやってくるドワーフの代表との商談に行ってもらうことになったから、そのつもりで昼は空けとけよ」


「……それって僕がいっていいの?」


「申し訳ありません。本当であれば私がついていくべきなのでしょうが、私は昼から急用が入りまして、少し屋敷を開けなければならなくなりました」


「なぁに、俺がいるから大丈夫だろ」


「それならしかたないね」


 午後からの予定が決まって、それまでの間僕は自分の部屋にもどって勉強することにした。



+++++



 僕たちのいるデュラント領は、全体的に丸い形をしたアンドバル大陸の最南端、ここだけ半島のように突き出た部分に位置する。もともとアンドバルの中でも最も辺境と言われ、誰の手も付けられていなかったため、魔物たちの温床となって来ていた。王家は貴族たちに義勇兵を募ったのだが、危険しか待ち受けていない場所へなど誰も行くはずもなかった。そこで宮仕えの貴族たちは、最近ポッと出た平民での貴族でありながら王家と懇意にしており、数々の功績で子爵の位にまで上り詰めてきていた父さんに全責任を押し付けようとした。そのころ母さんと結ばれたばかりだった父さんは、世間の喧騒に嫌気がさし、母さんのためにも静かに暮らせる場所を探していたため、その申し出を条件付きで快く引き受けた。それは、『併合したのちは自分の領地とできること(当然だろ)』、『緊急時以外で王都への出向には応じないこと(遠くてめんどくさいから)』、『領地内でのことに関して必要最低限の介入しかしないこと(人の所にまでとやかく言うな)』等、なかなか自分の都合勝手のよい条件ばかりであったのだが、友人でもあった王様はそれだけではと『税を撤廃』、『その他最低限の報告があれば好きにしてよいこと』、いっそのこと公国として独立してはどうかとも言われたらしいが、父さんは王様との関係は崩したくないといって断ったらしい。他の貴族たちも生き残ることすら怪しいし、たとえ併合するにしてもその規模は小さく、自分たちの脅威になるほどではないだろうということで満場一致した。

 

 ところがそのたった3週間後、アンドバルにいるすべての人々は戦慄する。父さんは単身で半島を丸々全部併合してしまったのだ。その知らせに他の貴族たちはみな開いた口がふさがらず、平民たちは自らと同じ出所ながらまた一つ増えた若き英雄の伝説に酔いしがれ、そして誰よりも王様は友人の偉業を称えた。そして伯爵位を与えられることとなった。

 しばらくして父さんたちが王都を去る時になったのだが、その周りには30人以上の人々がそれぞれ荷物を持って現れていた。平民出ではあるにしろ貴族であった父さんたちだったのだが、お手伝いさんと呼べるものは近所に住んでいた老夫婦だけであり、しかし今回に関しては自分たちでは足手まといであると身を引いたらしい。それでも今までの恩を忘れることなく、父さんはその老夫婦のために立派な家を建ててあげたと聞いた。

 話は戻るが、その集まっていた人たちとは昔から父さんや母さんに良くしてもらったり、誰にでも等しく接し、その考え方や人柄に惹かれ感銘を受け、ついていこうとする人たちであった。その中にはもちろんハンスさんも含まれる。中には王都でも様々な方面で名の知れた人たちも含まれており、それはかなり人目を引くことになった。

 

 そうしてたどり着いた新天地。その直後から領地開拓の動きが始まった。半島の先端付近を中心に拠点を置くことにした。色々と目立ってしまったため、多少の危険を顧みず移住してくる人たちが現れだしたころ、やっとの思いで自分たちの居住スペースを作ったばかりの父さんたちは、そこであらたな出会いをする。海を越えてやってきたのはドワーフたちであった。意外にも目と鼻の先であったお隣アズガルドからやってきた彼らは、父さんたちが新たな領地を築くことを知り、またその人柄にも惹かれ、遠路遥々(実際は船で1日といったところ)手伝うためにやってきたということだった。それから家々の集まりが村になり、町になり、必要な建物の建造もあっという間に終わって、今のようなささやかながらに立派な領地が出来上がった。

 

 それからというものドワーフたちと友好の盟をを結び、親交を深めていき、今ではデュラント領に移り住んでくるドワーフたちもいてとても仲良くやっている。そして月に一度の割合で今日のような商談などが行われるようになった。だが商談とは名ばかりで、本当は仲良くなった者同士が飲み食いしながら話したいことを話すというものらしい(ハンスさんより)。それでも公の場であることには変わらず、僕は緊張している。約束したから仕方ないけど、僕はまだ10才なんだけどな……

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