1話目 紹介を兼ねたとある日常
学園以外での主な登場人物紹介を兼ねています。あまり容姿とか縛りたくないので、想像にお任せします。また、容姿をはっきりしてほしい方がいれば感想などで書いていただけると助かります。
……とある午後の昼下がりのこと。王都にある学園に入ってから3か月経ち、だいぶ慣れたころやってきた夏休み。やっと我が家についたのが昨日の夜。今日ぐらい何もせずにいたい。
「おるかおるかぁ~おきてよぉ~」
「おきてってば~」
湖のほとりでうとうとしていると、聞きなれた、やけに間延びした声が聞こえてきた。どうせいつものことだから、このまま寝ててもいいだろう。そう思いながら意識を手放そうとすると・・・・・
「おきないねぇ~」
「おきないね~」
「やっちゃう?」
「いいね~やっちゃお~」
……???
『せ~のっ、え~いっ!!』
どががが~ん!!
僕の意識は違った方向へと持って行かれた……
*****
僕は、オルクライン・デュラント。毎日をのんびり平和に過ごすことが生きがいの普通の男の子。さっきはいきなり臨死体験させられたけど、あくまで普通の(……)10歳。今年の春から王都にあるデイトス王立学園に入ることになって、今は夏休みに入り我が家に帰って来ている。それでさっきのお手軽臨死体験実行者は、父さんの契約召喚魔、いわゆるペットである妖精さんたちである。ただし注意しておきたいのは、みんながみんなこの子達みたいにバカではないということ。
「あぁ~おるか、いまへんなことかんがえてるぅ」
「ふぃるにいいつけるよ~」
フィリル(フィル)は母さんの名前。とっても優しくておっとりしているのに、やればできる(本人曰くだが)人だ。一応貴族の出身らしいがあまり裕福でなかったらしく、自分でいろいろやってしまう人だ。料理やお菓子作りとか今でもたまに自分でやっている。その時はキッチン担当のみんなを含め、僕も一緒に手伝うのが定番になっている。まあ今は母さんの話よりも、
「一体何の用なの?」
家に帰る道すがら、本人たち曰く迎えに来たらしい黄色と緑色のおバカさん(妖精さん)たちに尋ねた。
「あぁ~またなんかばかにしてるぅ~」
「しらないとおもうからおしえてあげるけど、ばかっていうほうがばかなんだよ~」
「そぉ~なんだ。ならおるかはばかだねぇ~」
「いだいなようせいさんのまえでは、みなひとしくばかなのであるっ!!」
「かぁっこいぃ~」
いい加減頭が痛くなってきたので、その場から足早に退散した。
*****
「ただいま~」
「若様、おかえりなさいませ」
出迎えてくれたのはうちの執事長であるハンスさんだ。30歳を少し超えたぐらいだが、うちで働いている中では最年長である。とってもいい人。
「若様はやめてって。それよりなんか妖精さんたちに呼ばれたんだけど、ハンスさんは何か知ってる?」
「はい。旦那様が探しておられたのでそのことかと」
「やっぱり父さんかぁ……今日は一体何なんだろう……」
「おそらく『いつもの』でしょう。帰って来て早々おつかれさまです」
「だよねぇ……はぁ~」
父さんは一言でいうと『ハチャメチャ』だ。いつも思いつきのように僕を拉致する。本人曰く、『かわいい息子との逃避行だ!!』らしい。本当は、書類仕事とかがめんどくさくなり一人で逃げ出すのも何だからついでに僕を拉致していくというわけだ。今まで何度も抵抗してはみたけど、無理なものは無理だし、隠れても探知魔法を使われてすぐに見つけられた。母さんに頼んでみたが、『私も一緒したいわ』とか言い出したので諦めた。他のみんなもいい加減慣れたらしく、帰って来たときに溜まった仕事をやらせるようにしているので、拉致を止めはしないらしい。僕の扱われ方が……
また今日ものんびり平和に過ごすことができないと分かり、ため息をつきつつも父さんの部屋へと向かって行った。
*****
はい、案の定拉致られました。今僕は父さんのペット(契約召喚魔)であるペガサスの背中に父さんとまたがっています。
「今日はどこに行くの?」
「今日は久しぶりにドニエルのところだ。だいたい昨日帰ってからお前と全くからめなかったからな。3か月も会えなかったんだぞ?それにあいつの娘たちとは会いたがっていただろう?」
「いや、一言もそんなこと言ってないんだけど……ていうかいつもお邪魔してるじゃん……」
「そうだっけか。まあ気にすることはない。むこうはいつでも大歓迎さ(グッ!)」
そんな自信満々に親指立てられても困るんだけど……父さんのハチャメチャ振りにはいつも振り回される。前だって、庭石が欲しいとか言って竜ノ背山脈っていうドラゴンの住処まで取りに行ったし……なんでそんな危険なところまで行くのか聞いたら、『ドラゴンは男のロマンだ』って庭石とは関係ない理由だしさ。結局2mぐらいある大きな白っぽい石を一人で運ばされた。一人なのは父さんが迎えに来るのを忘れたらしい。魔力切れでへとへとの所を迎えに来たうちの人たちに助けられた。色々と気にしてほしいんだけどな……
これから向かうのは隣の領を治めている、ドニエル・メオ・クライツェさん(男爵)の所だ。隣といっても馬車を使って2日かかる(うちの領が馬鹿でかいらしい……それについてはまた後程)ので、こうして父さんから訪れることがほとんどだ。二人は昔からの仲らしく、こうして気まぐれに訪れても歓迎してくれる。ちょっと父さんに似たところのある人だ。4の娘持ちでもある。本人は男の子が欲しかったらしいが、長女・次女と女の子ばかり。次こそはと意気込んでみたものの、双子の女の子が生まれて男の子は諦めたらしい。今では娘たちを溺愛しているものの、行くたびに僕に嫁がせようとするので疲れる。父さんも賛成しているので尚更だ。
「そろそろだな。今回は何をご馳走してくれるのやら。ふっふっふっ」
「父さん、そうやって口に出すのはやめようよ……」
*****
「今日も助かったぞ、ペガサス。帰りもよろしく頼むぞ」
「今日もいろいろとお疲れ様、ペガサス」
無事到着した。ペガサスにお礼を言うと、気にしないで(女の子だから)と言うようにひと鳴きしてから魔法陣の中に消えていった。ほんとにいいこだなぁと感心していると、向こうからドニエルおじさんがやってきた。
「久しぶりだな、ドニエル」
「これはこれはデュラント伯爵、ご機嫌麗しゅう……」
「いつもみたいに形だけ畏まりやがって……皮肉か?」
「まあ気にするな。そんなこと7割ぐらいしか思ってないぞ。とりあえずよく来たな、ジル」
「逆に残りの3割がきになるわっ!!」
「こんにちは、おじさん」
「おおっと、やっぱりオルカ君もいっしょだったか。こんにちは。そろそろ帰って来てるんじゃあないかと思ってたよ。それよりうちの娘たちを貰ってってくれる気になったか。どの子がいいんだ?クリスか?それともマルティナか?あの子も最近は大人っぽくなってきたからなぁ……学園での話もいろいろ聞いたぞ。それにリリアとルルアも捨てがたい。あのかわいさがたまらんっ!!はっ!?それともクシャナか?それはだめだっ!!それだけは許さんぞっ!!」
「おじさん、落ち着いてください。クシャナさんはおじさんの奥さんでしょ?そんなことはしません。他の子たちも大丈夫なので安心してください」
必死におじさんをなだめてから、後から駆けてきた二人に向き直った。
「お久しぶり、二人とも元気にしてたかな?」
「はいっ!リリアはいつも元気ですっ!」
「……ルルも元気……オル兄、久しぶり」
この子達は双子の末っ子で、昔から一緒に遊んでいるせいか兄妹のように接してくれる。
「今日は何をしていたの?」
「今日はルルと一緒に父さまに魔法を教わっていましたっ!!」
「そっか、頑張ってるね。……あ~父さんたちどっか行っちゃったみたいだし、中に案内してもらっていいかな?」
「……わかった、行こ……向こうの話とか、聞きたい」
二人に手を引かれながら僕は姉妹の家へと入っていった。
小さい頃からけっこうな頻度で連れてこられていることもあり、今では第二の我が家にさえ思えてくる。デュラントの家にいるように落ち着ける空間だ。
「こんにちは、シェリーさん」
「あら、オルカ様、お久しぶりにございます」
客間へ向かう途中でこうして出会うメイドさんたちともあいさつを交わす。みんな今回みたいな急な訪問にも慣れてしまっているようだ。なんか申し訳なくなってきた。
「今日は来て早々リリア様とルルア様のお二人ですか……あぁ、将来が楽しみですわ……」
「「(ぽっ)」」
前言撤回、どう考えたってシェリーさんの方が失礼だ。あと二人にはこんな冗談で顔を赤くして欲しくない……僕だってまだよく分かんないのに、まだ9歳の二人には早すぎる。どことなくいたたまれなくなって今度は僕が二人を先導するように客間へと足を向けた。
*****
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
「あらいらっしゃい、オルカ君」
「おひさしぶりです、クシャナさん」
「また大きくなったわねえ。また一段とかっこよくなって」
「そんなことありませんよ。前に来てからそんなに経ってないでしょう?それに比べたらクシャナさんはいつも綺麗ですよ」
「あらまぁ、そんなこと言ってくれるなんて嬉しいわ。それにオルカ君ぐらいの年なら一日会わなかっただけでも、全く変わっているものよ」
今話しているのはドニエル男爵夫人、つまりリリやルルの母親であるクシャナさん。とても美人でいい人だ。
「兄さま、母さまばかりではなく私ともおしゃべりしてくださいっ!!」
「……(じ~)」
「分かったからそんなに引っ張らないでっ!あとルルもそんなに睨まないでっ!」
早々に暇をクシャナさんに告げて、僕たちは双子の部屋へと場所を移した。
*****
『ガチャッ』
「いらっしゃい、兄さま」
「……入って」
「お邪魔しま~す」
いつ来ても女の子の部屋に入るのだけはためらわれるな……しかもピンク主体のフリフリファンシーな飾りつけと、紫主体のゴスロリックな飾りつけとが部屋の真ん中で綺麗に分かれている。ちょっとカオス……
「(コンコン)失礼します」
慣れることのない光景にいつも通りの感想を浮かべていると、ティーセットを持ったシェリーさんが入ってきた。この部屋には三人しかいないのだが、なぜかカートの上には五人分のカップ……
「シェリーさん、二人分多いですよ」
「大丈夫ですよ。そろそろでございますから」
僕が頭に疑問符を浮かべていると、「ごゆっくり」と意味深な笑顔を浮かべながらシェリーさんは出て行った。すると、それと入れ違いになるようにしてものすごい勢いでドアが開け放たれた。そこでようやくさっきの疑問が晴れた。
「やあマリー、久しぶり」
「ひさしぶり、オルカ……ってそれよりもっ!!なんで私の所には顔見せに来ないのよっ」
「あ~ごめん、わすれてた。でもさ、学園でもたまに顔合わせてたじゃないか」
「っ、そうだけど……でも人の家に来ていながら家人への挨拶を忘れるなんてありえないわ、どこの常識知らずよっ!だいたいあなたは」
「マリーちゃん、オルカ君にはせっかく来ていただいたのに、それじゃあ返って失礼でしょう」
今まで怒っていたのは、次女のマリー(マルティナ)。僕と同い年で普段はとてもいい子なんだけど、たまに怒りっぽい……でもほとんど僕が悪いから反論なんてできない。彼女に遅れてやってきたのは長女のクリス(クリスティナ)さん。マリーとは違っていつも笑顔で、クシャナさんにとてもよく似ている。ちなみにクリスさんが11歳、マリーが10歳、リリとルルが9歳。クリスさん、マリーとは学園が同じだけあってたまに顔を合わせるが、新入生は色々と不慣れなことが多く、毎日が忙しかったためなかなか会う機会はなかった。来年はリリとルルも学園に入ってくるから、今よりも楽しくなりそうだ。
「クリスさんもこんにちは。僕は昨日帰ったばかりなんですけど、二人はそれよりも早かったみたいですね」
「そうね、4日前についたわ。今回は魔物にも盗賊にも会わなかったし、天気も良かったからとてもはやかったのよ」
「ははは、うらやましいですね。僕も盗賊には出くわさなかったんですが、あの道ですからね……魔物に3度ほど襲われましたよ」
「オルカっ、大丈夫なの?けがとかしてない?」
「大丈夫だよ。じゃなきゃここにはいないでしょ。心配してくれてありがと、マリー」
いつも一番にマリーは心配してくれる。本当はとってもやさしいんだけどな。
「っ……うっさい!!あんたが寝込んだりしたら、みんなが心配しすぎて私が困るからよっ」
「兄さまがけがしたらリリは心配ですぅ~」
「……傷薬、作って持ってく」
「なら私はオルカ君の看病を付きっきり夜通しでしてあげましょう」
「「「それはダメッ」」」
やっぱり仲がいいな。なんかだんだん話に置いていかれてきたから、僕はあの子たちと遊んでいよう。小さい頃から慣れてきたおかげで、召喚魔法は詠唱なしでも使えるようになっている。こうして召喚するとやっぱり父さんの子だなぁと思う。
「出ておいで」
中くらいの大きさの魔法陣が3つ目の前に出現し、中から白い毛玉のようなものが一つずつ飛び出してきた。
「ひさしぶリュッ」
「「「もふもふ~」」」
この子達が僕のペット(契約召喚魔)であるモフモフ三兄弟(?)だ。白くて真ん丸な体に小さな二つの目。口はどこかにあるのだろう。自在に大きさ、形を変えることができて、ある程度体温も変えることができる。しかも打撃が効かない地味にすごい子たちなのだ。それにクッション性が半端なく、僕の昼寝の友でもある。ただ、定期的に出してあげないと、こうして僕めがけて突撃してきてしまう……これが全く痛くなく、逆に気持ちいいぐらいなんだけど……
さすがにこの登場には気づいたのか、さっきまで話し込んでいた3人がこちらに顔を向けた……と思われる。目の前が真っ白で気配でしか感じ取れないからだ。
「こらっ、はなれろって」
「「「も~ふっ」」」
「……もふ」
いっこうに離れる気がしない。というかおなかのあたりにも何かいる……
「こらぁー、ルルっ、私より先に……とにかく兄さまからはなれてくださいっ」
「そうよルル、おとなしくその場所を私に空けなさいっ!」
なんか違う気がする……?
「それなら私も。えいっ、もふもふ~」
今度は後ろからクリスさんらしき人が抱きついてきた。今度こそ身動きが取れなくなり、しかし乱暴にするわけにもいかず、何とも言えない時間だけが刻々と過ぎていった。
こんな騒がしくも退屈しない日常が、僕の安穏とした生活を犠牲にしながら過ぎていく……
(1話終)
思ったこととかあれば、なんでもいいので書いてください。