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03 椿佳の腕前

早く拳法アクションを書きたい。

ですが、今しばらく幼少期にお付き合いください。

「具合はどうだ? 腹が減ったろう、飯にしよう」


寝台で休んでいた椿佳は、いつしか眠っていたようで、部屋は薄暗くなっていた。

家に戻った泰海が、飯にしよう、と椿佳を起こしに来ていた。

泰海について行った食卓は夕食の支度の最中で、12歳位の少年が部屋の隣、厨房から食器を運びんでいた。


「弟子の俊雷だ。お前をここまで運んだのもこいつだ」

「椿佳です。ありがとうございました」

「いや、元気になってよかったよ」


泰海は給仕をしていた少年、弟子の俊雷を紹介しつつ、座りなさい、と椿佳の背を優しく押して席に誘導する。

先ほど運び込んだ食器で準備は整ったのか、俊雷も泰海が席に着くのを見届けてから座ると、椿佳に顔を向けて安堵したように微笑んで返した。

食卓には上座に泰海、泰海の右手側に俊雷、俊雷の向かい側に椿佳という配置で座り、部屋の奥、泰海の背後には酒の入った甕が置いてある。


(ジャッキーの映画に出てくるお師匠さんの家みたいだ、えーと、酔拳?”鉄の爪”さんが襲ってきたりしないよね?)


などと、ぼんやり考えていると、泰海は俊雷に今後のことを話し始めた。

ちなみに、”鉄の爪”は酔拳には登場するキャラクターではない。


「俊雷、実はこの椿佳は義鷹の娘でな、うちで引き取ることにした。家事は椿佳に任せて、修練に専念しなさい」

「そうでしたか、義鷹さんの…」


椿佳の父、義鷹とも面識があったようで、沈痛な面持ちで見やる。

“鉄の爪” 襲来に思考が飛んで難しい顔をしている椿佳を見やり、今後のことを不安に思っていると勘違いしたのか大丈夫だよと微笑んでやる。


(おー、微笑み2ゲット、この微笑み王子め、それに子供を見るような優しい目じゃないか、あ、私は今子供か)


子供はこういう時、どのような反応を返すのだろうと考えた椿佳は、とりあえず微笑み返しで対抗するが、返ってぎこちない表情になっていたため、この師弟には健気な娘だとの印象を与えていた。

実際のところは椿佳(彩花)としては、盗賊に襲われ、命からがら逃げ出した時のショックがトラウマとして刻まれている可能性はあるが、現時点では意識しておらず、父を失ったわけでもない。


「うむ。だが暫くは勝手が分かるまい。明日から色々教えてやれ」

「はい。任せてください!」

「ははっ、そう気張るな、さぁ、食べなさい」


不安げ(に見える)椿佳を守るべき年少者と認識したのか、気合が入る俊雷に、これは修行に専念どころでは無いかな、と思う泰海であった。


「おいしい!」


椿佳の体調に合わせて消化のいい粥と、良く火が通り薄い味付けの野菜炒め、鶏がらのスープが本日の献立であった。

全体的に薄味にまとめられていたが、バランスの良い味付けであった。


(これを明日から私が作るのか、ハードル高いなぁ)


この味を覚えようとするが、薄味であるため難しい。

パクパクと一心に食べる椿佳を見て、余程空腹であったのかと泰海は、たくさん有るから、慌てるでない、と孫でも見るような目で語りかける。

師より早く逝ってしまった嘗ての弟子に、迷わず逝けよと心で語りかける泰海であった。


(義鷹よ、椿佳の事は心配するな)





翌朝、椿佳は俊雷に起こされ炊事場に立っていた。

この師弟の朝は早く、日の出とともに修練を開始する。


「椿佳、炊事は経験有るのか?」

「はい、大丈夫です!」


椿佳の記憶では、母親を手伝って炊事場に立った覚えが有った。

ただし、包丁や火の周りのような子供には危ない事は母親が担当していたため、野菜や食器を洗う程度だったのが実状である。

彩花としてはどうであったかというと、いや、何も言うまい。

そんな彩花から見て、椿佳は実にしっかりお手伝いをしている印象が有ったため、自信満々で大丈夫と宣言してしまったのだった。


「そうか、米や小麦は後ろの籠に、牧は家の裏手に有る。水は井戸水を使ってくれ」

「はい!」

「野菜は、裏の畑で老師が食べごろの物を見つくろってくる」

「たまに俺も山に入って、山菜なんかを取ってくるから、その時は頼むよ」

「わかりました!」

「ははっ、元気だな」


椿佳の記憶を手繰り、牧に火を着けようとするがなかなか上手くいかない、見かねた俊雷が火をつけてやり、火が強くなる間に下ごしらえを済ませる。

そこまで見て、俊雷は朝の修練に出かけて行った。

三時間ほどして早朝の修練を終えた師弟は家に戻り、朝食の準備の済んだ食卓に着く。


「老師、今日から朝餉は椿佳に任せています」

「ほう、なかなか見事じゃないか」

「へへっ」


師弟の言葉に得意げに笑顔をこぼす椿佳であったが、一口、二口と食べる間に三人の表情は沈んでいった。


「うむ、まぁ、なんだ、見た目はそう悪くないのだが…」


泰海はいうが、雑に切られて所々繋がっている野菜、芯の残った粥、味のしないスープ、と散々であった。

後に俊雷は、まずは味見をしてから出せ、ということになるのだが、椿佳の心境を考慮して優しい言葉を掛けておくことにした。


「椿佳、昼は何か買ってくるよ。夕餉は…、一緒に支度しようか」

「はい…、お願いします」

「これから覚えていけば良いのだ」

「はい…」


生温かい空気が食卓を包んだ。


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