表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

第九話



「どうぞ」


 そう言ってゆっくりと部屋のドアを開ける。

 もっと部屋を綺麗にしとけばよかった……!

 変なところはないか視線を動かし確認する。

 後ろをこっそり見るとなかなか入ってこない旭くん。


「葉山くん?」

「はっ、ごめん! おっお邪魔します」


 ゆっくり入ってきた葉山くんはぎこちなく座る。

 (どうしたんだろう? やっぱり部屋おかしいのかな?)

 不安になりながら机を挟んで葉山くんの真向かいに座り、飲み物をコップに注ぐ。


「どうぞ」

「あっありがとう。いただきます」


 すごく喉が乾いていたのか、一気に飲み干すからびっくり。

 またコップに飲み物を注ぐけど、なんだか葉山くんがそわそわしている気がする。


「私の部屋、変かな? リビングにいく?」

「あっ違う! このままが、いい!」


 慌てて言うから少し身を引いてしまう。


「うっうん、わかった」


 お互いぎこちない。

 小さい頃に遊んでいた時とは違うんだ。


「忙しいのに時間作ってくれてありがとう」


 居た堪れなくなり、私から声をかける。


「俺こそ時間作ってくれてありがとう。それで大貴との話、詳しく聞いてもいい?」


 先程までソワソワしていたはずなのに、いきなり真剣な顔でまっすぐ見つめてくるから、自然と背筋が伸びる。


「高野くんとは――」


 電車で会ったこと、私たちが一緒に帰っているのを見て付き合っていると勘違いしてたこと、葉山くんと加原さんが抱き合っていたと聞いて付き合っていると言っていたこと、連絡先を交換して今連絡を取り合っていることを話す。


「大貴とたわいもない話をしている?! 俺は悠理ちゃんに頻繁に連絡するの我慢してるのに?!」


 信じられないとでも言うかのように目も口も開いている。

 (えっそこ? 他の方が大事なんじゃ?)


「? 好きな時に連絡くれて大丈夫だよ?」

「たわいもない話でも?」

「うん。私のペースでの返信でいいのなら」


 目がキラキラしている。

 (葉山くんってこんな感じだったっけ?)

 知っている昔の葉山くんと、成長して新たな一面がある葉山くん。

 そんな姿をどんどん見せてくるから鼓動が止まらなくなる。


「ごめん、話の途中で脱線した」

「ううん。あの、高野くんと葉山くんの間に何かあったの?」


 ずっと気になっていたことを伝えると、その言葉を聞いた瞬間、葉山くんの顔がみるみる険しくなる。


「うん、あった。俺がうまく立ち回れていたらこんなことにはならなかったんだろうけど。結果的に大貴を思いっきり傷つけた。大貴は俺に裏切られたと思っていると思う」


 歯切れが悪く、苦しそうに言うから、どう声かけていいのかわからない。

 大きい背中がどんどん縮んでいくように見える。


「そう、だったんだ」

「うん。卒業式の後問い詰められたけど、ちゃんと話せることは話して許してもらったんだ。今も変わらず接してくるけど、やっぱりずっと違和感があって。だけど悠理ちゃんの話を聞いて確信した。大貴は納得してなかったんだ」


 (卒業式? あっもしかして)


「もしかして加原さんが関係している?」


 ハッとこっちを見て、バツが悪そうに頷いた。


「加原を抱きしめたと、付き合っていると、勘違いされた」

「抱きしめてなかったの?」

「うん。ただほんの少し肩を貸しただけで、俺からは加原に触れていないんだ」

「えっ、だってあの時確かに……あっ」


 思わず発してしまった言葉に急いで手を口を覆う。


「もしかして、あの時悠理ちゃんも見てたの?」


 驚いた顔で唖然としている。


「……うん。見るつもりはなかったの。本当だよ? ただ、先生に葉山くんに渡して欲しいって言われたプリントを届けようとして、探していた時に偶然」


 その言葉を聞いた後、ゆっくり私から目線を逸らし、そっかと言った。


「俺が、迂闊だったんだ。俺も突然のことで驚いて、もっと考えれば良かった。でも加原のあんな姿初めて見たから簡単に振りほどけなくて。最低だな、俺」


 失笑しながら、額に手を当てる。


「ごめん、悠理ちゃん。俺のせいで関係ないのに巻き込んで」


 姿勢を正して真っ直ぐ私を見た後、頭を下げて謝る葉山くんを見て、胸が締め付けられる。


「謝らないで。私は大丈夫だから。私こそ聞いちゃってごめんね。話してくれてありがとう」


 葉山くんが頭を横に振る。


「本当にごめん。俺、もう一度大貴とちゃんと話すよ」


 葉山くんから様々な感情が入り乱れていると感じる。

 机の上に置かれていた手は震えるほど力強く握られていて、私は怖くなり咄嗟に旭くんの手を握る。


「大丈夫だよ」


 信じてほしくて、頼ってほしくて、守りたくて。

 全ての想いを乗せるよう真っ直ぐ目を見つめる。

 彼の大きい、女の人とは違うゴツゴツとした手がビクッと反応し、少し躊躇った後しっかり握り返して「ありがとう」と優しく、そして弱々しく微笑んだ。

 私の前で必死に元気を取り繕う葉山くんを見て、何もできない自分が情けなくて、手を握ること、大丈夫しか言えない自分が不甲斐なさすぎて悔しい。

 きっと心配するって本人も苦しいけど、大切だからこそ何もできない自分が、頼れる存在にじゃないと突きつけられる現実と絶望は、計り知れないんだと気づいた。


 本当は三人の関係に私が介入するのは間違っているってわかっている。

 迷惑だってわかりきっている。

 だけど誤解が誤解を生んで絡まり合っているのに気づいたからほっとけない。

 これだと葉山くんも高野くんも、もしかしたら加原さんも辛いままなのかもしれない。

 だから私が今できること、それは――

 

 

 

 


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ