第八話
戸川くんと駅で別れて家に帰った後、旭くんに連絡をした。
『こんばんは。突然ごめんね。葉山くんに聞きたいことがあるから電話したいんだ。時間ができたとき連絡くれる?』
こんな簡単な文章なのに、すごく悩んでやっと送った。
ふぅーと息を付くと、スマホが鳴る。
『こんばんは。わかった。今電車の中だから、駅に着いたらまた連絡する。』
ありがとうと返信して、ベッドに顔を埋める。
本当のこと聞くって決めたけど、緊張で吐きそう。
葉山くんなんて言うかな?
悠理ちゃんはただの幼馴染だよ?勘違いしないで?って笑われたりするのかな。
手が震えてきて、近くにあるぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめる。
知りたくないことを聞かなきゃいけないって、恐怖が追いかけてくるみたい。
現実と向き合うことは、心を締め付けられるくらい苦しいんだ。
悶々としながら時間が過ぎていく。
食欲も沸かない。
プルルルル――スマホが鳴る。
「えっもう電話?!」
一旦メッセージがくると思っていた私は一瞬身構える。
「もしもし?」
「あっ悠理ちゃん、遅くなってごめん。今駅に着いて歩いて帰るところなんだ」
「お疲れ様。その、忙しいときにごめんね」
「ううん。悠理ちゃんからの連絡初めてだったから嬉しくて。今時間大丈夫?」
嬉しそうに話す葉山くんの声に早くも心が挫けそう。
「私は大丈夫だよ」
「そっか。それで悠理ちゃんの話って何?今度出かけることの話?」
(うっ、直球、やっぱり言わなきゃだよね)
少しスマホから離れ、葉山くんには気づかれないように深呼吸する。
震える手でぬいぐるみを思いっきり抱きしめながら、話し始める。
「あのね、葉山くんに聞いておきたいことが、あって。その」
なんて伝えたらいいのか、どう尋ねればいいのか、どんな返事がくるのか、頭を巡らせるけど言葉に詰まる。
「ゆっくりでいいよ」
その言葉に泣きそうになる。
ああ、私は葉山くんのこと気づかないうちに益々こんなに好きになっていたんだ。
だからこそ向き合わなきゃいけない。
「葉山くんは、加原さんと付き合ってるの?」
言えた。やっと言えた。声も体も震えている。
しかし返ってきた言葉は意外で
「は? なんで加原? 俺、誰とも付き合ってないけど。なんでそうなった?」
葉山くんからは想像もつかなかった質問に困惑している様子が電話から伝わってくる。
「付き合ってないの?」
「付き合ってない! 付き合っている人いたら悠理ちゃんをデート誘うわけないだろ。なんで加原が急に出てくるんだよ」
ちょっとイライラした感じが伝わってきたけど
「デデデデート!」
そっちの方が私は気になって、顔が爆発寸前。
「そう、デート。俺からしたらデートなんだ。だからずっと浮かれてたのに、こんなこと言われるって全く想像してなかったから驚いてる」
最近爆弾を何発もぶち込んでくる葉山くんに私は太刀打ちできない。
恥ずかしいことを平気でストレートに言ってくるから、もう動揺が隠しきれなくなってきている。
「誰かに言われたの?」
葉山くんの言葉にハッとする。
「この間たまたま高野くんに会って、高野くんに葉山くんと加原さんが付き合ってるって言われて」
「大貴っ、あいつっ」
そんな言葉を言うから
「えっ本当は付き合っているの?」
反射的に発してしまう。
「違う、絶対違う! 加原とは本当に何もない。それより!なんで大貴に会った?」
「たまたま電車で会ったの。だから駅に着くまで話して、連絡先交換して、」
「は!? 連絡先交換したの?!」
「うん。今も連絡くるよ」
(何かいけなかった?)
少しの沈黙が妙に冷たさを感じる。
「悠理ちゃん。今から少し会える? 夜だし危ないから本当はこんなことしたくないんだけど、ほんの少しだけでいいんだ。直接話したい」
いつもより少し低い声に心臓がドクン。
(私何をまずいことをしてしまった?)
いつもと少し違う葉山くんを目の当たりにし、怯えそうになるけど、向き合うと決めたんだから。
「わかった」
「ありがとう。じゃあ悠理ちゃんの家の前についたらまた連絡する」
そう言って電話を切った。
切羽詰まっていそうな話し方をしていた葉山くん。
私の知らないところで何か起きているのかもしれない。
ちゃんと聞きたい。
『ついた』
程無くしてメッセージが入ったので、自分の部屋から駆け出して外に出る。
「葉山くん」
「悠理ちゃん。遅くにごめんね?」
「ううん。私は大丈夫だけど、わざわざ走ってきてくれたの?」
葉山くんはハーハー言っているから走ってきたのがわかる。
「少しでも早く悠理ちゃんに会いたくて。それに夜遅いから親御さんも心配するでしょ?」
真っ直ぐ見つめてくる旭くんを見て、私は咄嗟に大丈夫だよと言って顔を赤らめた。
「そんなにかからないようにはするけど、家の前だと悪いから、うーん、ごめん何も考えずに来ちゃって」
そう言ってしょんぼりするから、なんだか葉山くんが犬みたいに可愛く見える。
(家に入れる? でも家族がいるし、私の部屋は恥ずかしいし。葉山くんのお家はもっと緊張するし。少し離れた公園かな?)
とりあえず飲み物を持ってこようとして、葉山くんに声をかけようとする。
「あれ?悠理何してんだ?」
声がする方へ振り向く。
「お父さん」
父が仕事から帰ってきたから、私は目を丸くする。
「あっ悠理ちゃんのお父さん、ご無沙汰してます。葉山旭です」
すかさず葉山くんが父に挨拶をする。
「ああ、旭くん! 久しぶりだね。元気にしてたか?」
「はい、元気です。その、こんな遅くに悠理ちゃんを呼び出しちゃってすみません」
深々とお辞儀をする旭くんを見て父は笑いながら葉山くんの肩を叩く。
「そんな畏まらなくていいんだよ。悠理に用があったんだろう?家に入ったらどうだ?」
「あっいや、夜遅いですし」
「そんな気にすんなって。ほら旭くんおいで。悠理も」
半ば強引に家に入れられて、私も葉山くんも狼狽える。
リビングにいた母と弟にも葉山くんは挨拶をしてくれて、飲み物を持ってそそくさに私の部屋へ向かった。
小さい頃は葉山くんもよくこの部屋に来ていたけど、もう何年も来てない。
好きな人と自覚してから葉山くんが私の部屋に入るのは初めてだから、自分の心の一部を見せているみたいで緊張する。
心臓の音が葉山くんにも聞こえそうなくらいバクバク動いているから、気づかれませんようにと祈った。




