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第六話


 

「ごめん!泣きすぎた。話、聞いてくれてありがとう」

「ううん、大丈夫。こちらこそ話してくれてありがとう……少し落ち着いた?」


 頷く私に「良かった」と笑う千佳。


「ねぇ、これから悠理はどうしたい?」


 千佳の言葉に一度考え、素直に口を開く。

 

「……謝りたい。自己満だし、許してほしいわけじゃないけど。でも酷いこと言ったことをちゃんと謝りたい」

「そっか。いいと思うよ」

「うん。それで……もう関わらないようにする」

「えっ、もう関わりがなくなってもいいの?!」

「うん。だってこれ以上嫌がることしたくない」


 私の言葉に千佳が困惑しているのがわかる。

 

「その、葉山くんの気持ちは一旦置いといて、悠理の本当の気持ちは?」

「私の、本当の気持ち? それは、前みたいに仲良く話せるようになりたいけど」

「付き合いたいとかはないの?」

「えっ!? それは、その、うーん、そこまでは考えられない」

「わかった。とりあえず悠理の気持ち聞けてよかった。ありがとう」

「ううん、こちらこそ聞いてくれてありがとう」

 

 千佳に話せたことで、自分の中の今の気持ちを度新たに整理できた気がする。

 どうしたいかも少しずつ明確化したい。

 そうしていると千佳が少し躊躇いながら


「あのね、これは私の憶測で絶対ではないし、お節介なんだけど。いくら優しくても、偶然居合わせても、幼馴染だからってわざわざそこまでしないと思う。それもお礼が二人で出かけたいとか。たぶん悠理のこと少なからず気になっているんだと思う」

「……っ」


 何も言えなかった。

 なんとなくそうなのかもと思ってたけど、自分のいいように解釈しているとか、葉山くんはすごく優しいからとか、何かと理由をつけて勘違いだって言い聞かせて。

 でも他の人から言われると、勘違いじゃないかもしれないと、バラバラになった淡い希望が塊をまた作り直そうとする。

 ダメだってわかっているのに。

 言葉に詰まる私に


「まあ、今は目の前にある葉山くんと出かけること、謝りたいっていうことを優先的に考えようよ」

「うん。そうだよね。色々ありすぎると本来の目的を見失っちゃいそうだから、一つずつ解決する。ありがとう、千佳」


 

 

***

 

 


 千佳と別れて一人電車に揺られる。

 私、未練がましいのかな。

 でももう逃げたくない。

 そう決心したら少し背筋が伸びた気がした。


 

「星名さん?」


 突然声をかけられたから、顔を上げると


 「あっやっぱり!桜庭中さくらばちゅうの星名さんだよね?俺、中学一緒の高野大貴たかのだいき。覚えてる?」


 (あっ葉山くんの友だちだ)


 「うん、覚えてるよ。久しぶりだね」

 「ねっ!星名さんも学校帰り?」

 「うん。高野くんも?」

 「そうそう。いつもより遅くなっちゃって――」


 2年の時に同じクラスで何度か話したことがある。

 葉山くんと同じ部活で明るくて、慕われいて、人気があった人。

 

 「─―最近は旭と一緒じゃないの?」

 「えっ?」


 突然聞かれたことにドキッとする。


「一時期二人で登下校してたでしょう?」

「……」


 見られてたの?

 学校が遠いから朝は結構早かったし、帰りは遅かったから気づかれていたとは知らなかった。

 変な冷や汗が出てきて、なんて返したらいいかわからず戸惑う。


「あっもしかして別れちゃったとか?そしたら聞いちゃってごめん」

「へ? 別れる……?」


 急に意味のわからないことを言われ、ポカーンとしていると

 

「? 付き合ってるじゃないの?」

「えっ?! 付き合ってないよ」


 驚きの発言をされたことにより、焦りで顔から火が灯りそう。


「あれ? 違かったの? てっきり付き合ってるのかと思ってた」

「違うよ! その、前に少し怖い思いをして。その時たまたま葉山くんが居合わせて、心配だからって一時期一緒に登下校してくれただけなの」

「あっそうなんだ。なーんだ、あいつやっぱり本命は加原かはらなのか」

「えっ? 加原……さん?」


 ガシャン。

 今、私の心の中に見えていなかった鎖が現れ、巻きついた。


「そう、加原。同じ部活のやつだよ」

「高野くんとも同じ部活だったよね」

「そうそう、あいつらさ――」


 あの出来事をすっかり忘れていた。

 葉山くんと加原さんが抱き締め合っていたことを。

 昂っていた体に頭から思いっきり冷水をかけられたかのように、一気に現実に引き戻される。

 浮かれていて忘れていた、いや、目を背けていた。

 カタカタ震えてしまいそうなのをカバンをぎゅっと握りしめ、足つま先まで力を入れ、高野くんに動揺しているのをバレないように必死に堪る。


「星名さんも知っている? あいつら隠れてお互いを抱きしめてたらしいよ。卒業式のとき他のやつから聞いて驚いたわ。付き合ってんならハッキリ言えって感じ。星名さんもそう思わない?」

「えっうっうん、そうだね」


 それどころじゃない私は、うまく言葉を返せない。

 (葉山くんと加原さんは付き合ってるの? ならどうして葉山くんは私に? それとも今は別れたの?)

 なぜ?で頭がいっぱい。


「だからさ、旭が加原のこと好きなのに星名さんとも一緒にいるから二股?!って心配になったんだよ。俺の勘違いだったんだな。ねえ、星名さんは……旭と本当に何もないんだよね?」


 高野くんが最後の言葉を、圧のある声で言うから肩がビクッとなる。

 チラッと高野くんの顔を見るけど、普通な様子。


「ん?」


 きょとんとした顔でこちらを見ている。

 

「うん、何もない、本当に何もないよ」

「そっか! ならよかった! でさ――」


 高野くんは話題を変えて話し始める。

 (気のせい?)

 さっき高野くんに少し恐怖を感じた。

 でも今はニコニコしてて、昔と変わらないように見える。

 勘違いだと自分に言い聞かせ、少し気持ちを落ち着かせながら、動揺を隠して高野くんの話に耳を傾けた。

 二人のことをもう少し詳しく聞きたかったけど、ボロが出るかもと怖気付いたのと、あの時の高野くんの違和感が引っかかって、静かに心の内に仕舞う。 

 駅に着いたからここで高野くんとお別れ。


「よかったら連絡先教えて? 星名さんと話してるの楽しかったから、また話したいなって思ったんだ」


 先程の違和感が一瞬頭によぎる。

 (交換は、怖いかもしれない)

 

 「スッスマホ充電切れちゃって……」


 どう断ればいいかわからず、咄嗟に出できた言葉はなんともベタな断り方。


「へ? 今スマホ使ってなかった?」


 (バっバレるよね、普通!)

 諦めて恐る恐るスマホを出す。


「ありがとう!」


 無邪気にお礼を言われるから、良心が痛む。

 (まぁ社交辞令で交換しただけだよね? 同じクラスだったこともあるし。私の考えすぎだ、きっと) 

 高野くんが家まで送るよって言ってくれたけど、親が駅で待っていることを伝えると、また話そう!と言って帰っていった。

 

 (とりあえず高野くんのことは置いといて。葉山くんは彼女がいるのに私と登下校してくれていたのかな? 確かに彼女がいるかは聞かなかったけど。いないから登下校一緒にしたり、一緒に出かけようとしたんじゃないの? それとも加原さんとはもう別れていて、高野くんが知らないだけ?)

 わからないことだらけだ。

 いくら幼馴染だと言っても彼女がいる人が他の女の人と仲良くするのは、いい気はしないよね。

 家に帰ってスマホを見ると、高野くんからよろしく!とメッセージが。

 

「今日いろいろありすぎて、ちょっと頭の中整理しよう……」


 高野くんにこちらこそよろしくと返して、その日は早めに寝た。

 


 


 このことが、これからの私に大きな影響を与えるなんてその時は夢にも思ってなかった。

 


 

 


 


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