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第五話



 次の日、学校で昨日の不審者の話を聞かされ、ショッピングモールの不審者と同一人物だと伝えられた。

 これでみんな安心して生活できる。

 もちろん私も重いと感じていた体が軽くなった。

 佐伯くん、戸川くん、そして葉山くん。ありがとう。


 

 

 ***


 

 


「それ確実にデートだね!」


 昨日の出来事を千佳に話したら、興奮気味に言われた。


 「ちが、そんなんじゃないよ」

 「デートだよ! デート! あー素敵だねー」

 「ちっちがうの!」


 慌てて否定する私に


 「どう見たってデートでしょう? 明らか葉山くん悠理に気があるし。悠理だって葉山くんのこと好きなんでしょう?」

 「それは、その」


 上手く言えなくて言い淀んでしまう。

 あんなに疎遠だったのに、急にまた仲良くなって。

 たくさん気にかけてくれて、私を見る目がすごく優しくて。

 私が大好きだった笑顔をまた私に見せてくれるようになって。

 それがすごくすごく嬉しくて──泣きたいほど、苦しい。

 好きって想いを封印したはずなのに、気づけばまた溢れていて。 

 逃げたいのに、遠ざけることなんてできなくて。

 やっぱり私、葉山くんのことが好きなんだ。


 「悠理が葉山くんのことで何か抱えているのはなんとなくわかってた。でも言いたくないのかなって思って聞かなかったの。でもそんな苦しそうな顔をしてる悠理のことほっとけないよ。話せる範囲でいいから話してくれる?」


 千佳に言われて、心の中で二つの選択がせめぎ合う。

 (これを言ったら引かれてしまうかもしれない。呆れられてしまうかも。もう葉山くんは諦めなよとか言われちゃうかも。でも、やっぱり千佳に聞いてもらいたい)

 噛み締めていた唇を緩めて、ぽつりぽつり話を始めた。



 

 ***


 


 私が4歳のとき、弟が生まれた。

 弟は小さい頃は体が弱くて、母がつきっきりで看病をすることが多かったから寂しい思いもしたけど、私はお姉ちゃんだから!と自分に言い聞かせて過ごしていた。

 そんなある日、母が過労で体調を崩してしまって。

 父ももちろん育児に協力的だったけど、毎日仕事に追われていたから、元々体の弱かった母への負担が大きかったのは事実で。

 母は弟を連れて一度実家療養へ。

 私は幼稚園があるし、母がゆっくり休めるようにと父方の祖母がきてくれて、少しの間父と祖母と暮らすことに。

 でもやっぱり寂しくて、でもわがまま言えないから我慢するしかなくて。

 そんな私の心の拠り所は真向かいのお家の旭くんと遊ぶこと。

 その日は旭くんとおままごとをしていたんだけど、母が恋しくなっちゃって急に泣きだしてしまう。

 そんな私に旭くんは頭をなでながら「大丈夫。僕が悠理ちゃんのこと守るから」と。

 「どうして?」

 「だってパパが奥さんは誰よりも大事にして守るものだって。守るためにいくらでも男は強くなれるんだって教えてくれたんだ。悠理ちゃんは僕の奥さんでしょう?だから僕が悠理ちゃんのこと守るの」

 「旭くんは悠理とずっと一緒にいて守ってくれるの?」

 「うん!ずっと一緒にいる!悠理ちゃんは僕の奥さんだもん!」

 そう言って私が落ち着くまで手を繋いでそばにいてくれた。

 今思えばん?って思うけど、あの頃の私はすごく嬉しくて、その言葉を何よりも信じて、ずっと旭くんと仲良しでいられると思ってた。


 だけどそれは私が壊した。

 小学校に入り、学年が上がるに連れて“男女”というのが壁になって。

 旭くんのこと好きな子たちがちらほらいて、私は旭くんと仲が良かったから目の敵にされ、クラスの女の子たちに無視され始めた。

 クラスが違う旭くんも気づいたみたいで気にかけてくれたんだけど、私は拒んで

 「旭くんのせいだ!旭くんと仲良くならなければいじめられなかった!守るって言ったのに!嘘つき!」

 泣きながら最低な暴言を吐いてしまった。

 全然旭くんのせいじゃないって今ならわかる。

 だけどそのときは母の入院が重なり、心配かけたくなかったから誰にも言えず、いっぱいいっぱいになってて。

 あのときの旭くんの傷ついた顔は今でも忘れない。

 次の日から旭くんとは目も合わない、会話ない、悠理ちゃんから星名に呼び方も変わった。

 クラスの子たちとは徐々にまた話せるようになり、いじめもなくなった。

 旭くんに謝りたかったけど、避けられてるからどうしようもなくて。

 それにまた旭くんと仲良くなったらいじめられると思うと、怖くて近づけなかった。

 でもこのままじゃよくないと思い、卒業式のときに意を決して謝ろうと旭くんのところに向かうと、旭くんのことが好きな子と話してる声が聞こえてきて「星名とはもう仲良くしない」と。

 自分のせいなのに、自分で壊したのに、最低なのは自分なのに、胸が苦しくて涙が止まらなかった。


  中学に入って、クラスが増えたからなかなか会えない。

 小学のときだけではなく、中学のときも一度も同じクラスになることはなかった。

 旭くんのこと好きだった子は、中学に入りすぐ違う人に恋をしていた。

 そんなにあっさり変わるのならあのいじめはなんだったんだろう。

 私はそんな軽い気持ちのために旭くんのことを傷つけたのかと思ったら、苦しくて、悔しくて、自分が許せなかった。

 だからと言って謝る機会は全然なくて。

 目すらも合わない。

 仲良くしないって言ってたから自業自得なんだけど。

 3年になっても相変わらずで。

 たまたま先生に頼まれて旭くんに書類を届けることに。

 旭くんと久しぶりに話せると思って、嬉しさがだだ漏れで、浮かれすぎてたんだと思う。

 ……見てしまった。

 旭くんが同じ部活の子を抱きしめているのを。

 旭くんのことが好きな子がちらほらいるのは知ってたけど、彼女がいるって話は聞いてなかったから、密かに安心していたのに。

 本当は彼女がいたんだ……

 その現実がいつか起きるとわかってたのに、好きな気持ち自体分不相応なのに、実際目の当たりにしたら、持ってはいけなかった小さな希望がパラパラ崩れ落ちていく。

 どうしようもなく受け止めきれなかった私は、急遽親にお願いして家から少し遠く、誰も知ってる人がいない高校に受験を変更した。

 旭くんから離れたかったから。

 いつまでも避けるのも、避けられるのも苦しかったから。

 現実逃避をしたかった──。


 


 ***


 

 

 「──こんな感じで私が全部壊して、旭くんを傷つけた。全部私の独りよがりで。旭くんは私と仲良くしたくないのに、何も悪くないのに、優しいから気にかけてくれて、本音隠して無理して関わってくれて。わかってたのに。また関われたことが嬉しくて、旭くんのこと考えられてなかった。最低なの、私」


 いつの間にかボロボロ泣いていた。

 好きなのに、大切なのに、傷つけたくないのに。

 誰よりも優しい君にひどいことをしたことを忘れちゃいけないのに。

 関わらなければ大丈夫だと思ってた。

 関わらなくても生活できていた。

 でも自分のせいでまた関わるようになって。

 欲が出て、舞い上がって。

 自制しなきゃいけないのにできなくて。

 わけわかんなくなって。

 情けない。悔しい。

 逃げたかったのに――逃げきれなかったの。

 そんな私に千佳は抱きしめてくれて背中をさすりながら

 

「……苦しかったね」

「……っ」


 ずっと誰にも言えなかった。家族にも、友達にも。

 中学では幼馴染だけど関係ないように振る舞っていたから。

 苦しかったね、その言葉に私はとめどなく溢れる涙を抑えことができなかった。




 

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