第四話
なぜか私は今、佐伯くんに頼まれて一緒に買い物にきている。
突然の申し出であたふたしていると、佐伯くんに強く懇願されてしまったから、どうしても断りきれなくて。
もしかしたら今の葉山くんの情報を得られるかもしれないという淡い期待と、佐伯くんのお姉さんを思う気持ちは素敵だなって思ったから微力ながら協力することにした。
佐伯くんと話しながらあれこれ見ていると
「星名さんって話しやすいね!」
急に言われた。
「そ、そうかな?」
「うん。俺の話ちゃんと聞いてくれて、反応してくれるのすごく嬉しい。初対面なのに俺の言いたいことちゃんと汲み取って、一緒に真剣に探してくれるの、ものすごくありがたい」
(確かに初対面だけど葉山くんの友達だからきっと悪い人じゃないだろうし、私が話しやすいように気さくに話しかけてくれるからなんだけどな)
「それは佐伯くんが私が話しやすいように配慮してくれるからだよ。ありがとう」
そう言って笑顔を向けると、佐伯くんは目を見開き
「あー、旭の気持ち少しわかるかも」
顎に手を当て、何度も頷きながらもごもごなにか呟いている。
「ねえ、今日協力してくれたから何かお礼にしたいんだけど、何かある?」
「お礼なんていいよ。大したことしてないし」
「そんなことないよ。何かないかな?」
じーっと見つめてくる佐伯くんに断るのも悪い気がして。
(ただついてきただけみたいになってるから申し訳けないし、ほんと何もいらないんだけどな。あっ、今葉山くんの好きなものとか、欲しがっているものとか聞いてもいいかな? お礼のヒントになるかもしれないし)
「じゃあ――」
佐伯くんに詳細を話してみた。
「なるほど。旭の好きなものか。食べ物なら甘いものとかも好きだよ。チョコとか食べてるのたまに見るし。あとは――」
色々と佐伯くんに葉山くんの話を聞かせてもらった。
(やっぱり昔と変わらない旭くんもいっぱいいるんだ)
そう思ったらなんだか親近感が湧いて、無意識に顔が緩んでしまう。
佐伯くんは一緒に探す?と聞いてくれたけど、ヒントはたくさんもらえから自分一人で探したいと伝えた。
応援してる!と言われて、佐伯くんの優しさに自然に笑みが溢れた。
そろそろ帰る?と話していると
「悠理ちゃん!」
名前を急に呼ばれ、ビクッと体が強張る。
あっ私の知っている声だ。
声のした方へ目を向ける。
「葉山くん」
先ほど話していた話題の中心の人物が走ってきたことに驚きを隠せない。
焦っているかのように勢いよく私の腕を掴んで
「何もない!?」
「へ?」
「何もない」
横からひょっこり顔を出し、佐伯くんが旭くんに伝える。
「本当にありがとう、啓太」
ホッとしている様子の葉山くんに頭が混乱する。
「どっどういうこと?」
二人の会話の意味がわからない。
溢れた言葉に葉山くんはハッとしてこちら向く。
「湊から怪しい男がいたから、二人が悠理ちゃんのこと守ってくれたって。啓太が悠理ちゃんとここにいるから迎えに来いって」
「もしかしてっ私、また」
さっきまで呑気にしてたのが嘘のよう。
一気に現実を付きつけられた気がしてガタガタ震えてくる。
「違う。悠理ちゃんがってわけじゃなくて、悠理ちゃんの高校の子たちを狙っていたらしい。啓太たちが悠理ちゃんに話しかけていた時に、違う子の後をつけようとしていたらしくて。ショッピングモールで後つけていたのも、そいつだろうと警察が」
力が抜けそうになるのを、葉山くんが支えてくれる。
何も知らない間に、佐伯くんと戸川くんが助けてくれたことを知ると、申し訳無さでいっぱいに。
そして被害者も出なくて捕まったんだと、もう怖がらなくてもいいとわかって、安堵で葉山くんのシャツをギュと握る。
「佐伯くん。ありがとう」
「俺も助かったからお互い様だよ。旭が来たからもう安心だな」
そう言って二カッと笑う佐伯くんは本当に優しい。
おずおずと葉山くんを見る。
本当に急いで走ってきたのだろう。
息が上がってるし、微かに汗の匂いもする。
不安そうな顔でこちらを見ながら、壊れないように私を優しく包んでくれる。
石鹸と汗の匂いが混ざりあった香りがより強くなる。
「葉山くんもありがとう」
「うん。何もなくて本当によかった」
葉山くんの体も少し震えているのに気づいて、すごく心配かけたのだと知る。
「本当、無事で何よりだな」
私たちを見ていた佐伯くんがそう言ってくれたから、旭くんと二人で頷いた。
私が落ち着きを取り戻したあと、三人で駅まで向かう。
もう他愛もない会話ばかりだ。
佐伯くんはホームが逆だから途中でお別れ。
「星名さん、今日はありがとう。たくさん話せてすごく楽しかったよ。じゃあお二人さん、またね」
「佐伯くん、本当にありがとう。今度お礼させてね」
お互い手を降ってそれぞれのホームへ。
葉山くんと二人に。
若干気まずい。
だって力が抜けたから支えてくれたのもあるけど、葉山くんに縋りついたのは事実で。
(無意識だからって私なにやってるの)
今更先程の出来事を思い出し、体中に熱を持つ。
勇気を出して、改めてちゃんとお礼を言おう。
「葉山くん。今日はありがとう」
私の言葉に反応し、目線を少し下げた後こちらを向く。
「ううん。啓太と湊がしたことだから俺は何も。本当は俺が助けたかったんだけど、何もできなくてごめん」
「そんなことないよ。確かに佐伯くんと戸川くんの助けがあったから今回何もなかったけど、話を聞いた時に葉山くんがそばにいてくれたから安心できたし。葉山くんが私のこと二人に話してくれていたおかげでもあるから。登下校だって私に合わせてくれて、いっぱい助けてもらえたよ。だから感謝でいっぱい」
今まで二人で過ごした日々を思い出し、自然と顔が綻ぶ。
(本当に嬉しかったんだ)
「本当にありがとう」
私が笑うと、葉山くんもつられてか柔らかい笑みを見せてくれた。
「あのさ、」
お互いぼーっと景色を眺めていると急に声をかけられる。
「どうしたの?」
「その、啓太と一緒にいて、楽しかった?」
「うん。楽しかったよ。気さくでいい人だね」
そう伝えると彼は息を呑む。
合っていた目が逸らされ
「っ、啓太のこと好きになった?」
「へ?好き?」
(なんでそんなこと聞くんだろう?)
「いい人だと思うよ?」
「恋愛感情は?」
「えっ恋愛?!それは、ないかな」
(よくわからないけど、そんなありもしないこと聞いてくるなんて恥ずかしい!)
益々全身がかーっと熱くなり、顔に熱が集まるから、耐えられなくなって下を向き、目をぎゅっと瞑る。
私のその態度を見ていた葉山くんは一度頭をガシガシと掻いたあと、ふーと息を吐いて
「あのさ、前に俺にお礼がしたいって言ってたでしょう?それってまだ有効?」
想像もしていなかった言葉に顔を上げ
「うん、もちろんお礼したい。何かほしいものがあるの?」
ずっとお礼がしたかったからこの提案は素直にありがたい。
真っ直ぐ見つめられて何故か少し震えた声で
「うん。俺、悠理ちゃんとの二人の時間がほしい」
「えっと、時間?」
「そう。二人だけで出かけたい。だめ?」
(どういうこと? ほしいものってその食べ物とか、趣味のものとか、その時間、時間って何? 想像してたのと違う!)
驚きと困惑で目をぱちくり。
「だめとかでは、ないんだけど、できれば物とかの方が、」
「いや、お礼は時間がいい。他のお礼ならいらない」
「それはそのー、少し強引じゃない?」
「強引だよ。だけどだめって言われてないし、お礼したいって言ったのは悠理ちゃんだから。いいよね?」
そう強く念を押されてしまったから頷くしかなかった。
だって内心すごく嬉しいから。
「ごめんね」と言いながら「でもこれはどうしても譲れなくて」と複雑そうな顔をして言う彼。
「大丈夫だよ」と言うと照れながらは柔らかくはにかむ。
(嬉しそうにしてる。それに2人で出かけるって、それって……)
頭に浮かんだ言葉に勝手に淡い期待が膨らむ。
鼓動が勝手に早くなるから、気づかれないようにひたすら外の景色を眺めるしかなかった。




