第三話
それから今まで通り、千佳や他の子たちと登下校をしている。
怖かった出来事が何事もなかったかのように、あの楽しかった日々が幻だったかのように、淡々と毎日が過ぎていく。
「私、自分の都合のいい夢でも見ていたのかな……」
「急にどうしたの?」
ポツリと呟いた私に、千佳がケーキを食べながら聞いてくる。
今日はテストが終わったご褒美に二人ででカフェにきた。
「あれから不審者情報全然聞かないし、私の妄想だったのかなって」
「それはないんじゃない? 先生に話したら、他にも同じように後つけられた子いたみたいだし。それに学校も警備とか強めてくれたから、違うところに行ったのかも」
「そうなのかな」
「あーもしかして葉山くんのこと?」
「へ?」
「隠さなくても悠理わかりやすいから。葉山くんに会えなくなって寂しいーって感じでしょ?」
「うぐ、っ、違う、違うよ……!」
図星を突かれてアタフタする私に、ケタケタ笑いながら
「会いたいって連絡すればいいじゃん。幼馴染なんでしょう?」
「それはそうなんだけど……会いたくない」
「どうして? わざわざ迎えに来てくれて、側から見たら恋人みたいだったよ?」
「はっ、恋人!? あり得ないっ!」
前のめりになりながら思いっきり否定する。
「そっそうなの? 悠理に春がきたってみんなと喜んでいたんだけど。まあ色々あるんだね」
どう答えていいかわからなくて言い淀む。
「あっそういやまだ葉山くんにお礼してないんでしょう?」
「うん。お礼させてって何度も言ってたんだけど、毎回頑なに断られちゃって。葉山くんの好きなもの渡そうと思ったんだけど、葉山くんの好きなもの小学生の時までの記憶しかなくて。絶望」
「あー、それは難しいね」
項垂れる私に、肩をポンポン叩いて慰めてくれる。
「でもやっぱりちゃんとお礼したいから、何とか見つけて渡そうと思う」
「うん、それがいい! そしたらまた会えるしね!」
「……っ、だからお礼するだけで、会いたいわけじゃないの」
(うぅ、恥ずかしい。見透かされている気がしてならない。いや、お礼するのが礼儀で当たり前のことなんだから!下心なんてない!うん!ない!)
……そんなの私が持っちゃいけないんだよ。
数日後。
今日は久しぶりに一人で帰ることに。
改札に向かおうと歩いていると、葉山くんと同じ高校の生徒たちががやがやしている。
私は関係ないから素通りする。
「あっ星名悠理ちゃんだ!」
急に大声で自分の名前を呼ばれて、ギョッとして立ち止まり、声のする方へゆっくり顔を向ける。
こっちこっちと満面な笑みで手招きする男の子。
なんとなく見たことある人で。
明らかに私を呼んでいるのはわかるんだけど……
「あれ?違う?俺、葉山旭の友達なんだけど」
ニカっと笑い、私の方へやってきた彼は
「俺、佐伯啓太って言うんだ。よろしくね」
なんで声をかけられたかわからなくて、後退りしてしまう私に
「おい、啓太!急にごめんね、星名さん。俺ら葉山旭の友達なんだ。ちらっと会ったことあるよね?俺、戸川湊って言います」
そう言って軽く会釈してくれる。
この人も知ってる。
葉山くんと一緒にいるの見たことある。
「あっ、えっと、星名悠理です」
私も軽くお辞儀をした。
「星名さん今帰り?それともどっか行くの?」
相変わらず人懐っこそうにニコニコ笑いながら話しかけてくる佐伯くんに圧倒されながら
「……っ、帰るところです」
恐る恐る言うと、何やら一度考える様子を見せ、ピカッと目を輝かせ
「お願いがあるんだけど!」




