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第一話




 心地のいい柔らかな風が、二人を見守ってくれているかのように部屋を舞う。

 しっかりとお互い手を繋ぎ、真剣な顔から照れた顔に変わった君につられて、いつの間にか顔が綻ぶ。

 ねえ、君はあの時の言葉を覚えている?


 ──大丈夫。僕が悠理(ゆうり)ちゃんのことを守るから



***

 

 


 リリリリリン。

 朝を知らせる目覚まし時計が鳴り、悠理は目が覚めた。


 「またあの夢見ちゃった……」


 目覚ましを止め、屈伸をし、朝の支度を始める。


 「おはよう」

 「おはよう、悠理」


 母が作ってくれた朝ご飯の匂いが好きだ。

 父はコーヒーを飲みながら新聞を読み、弟は眠い目を擦りながら朝ご飯を食べている。

 この何気ない毎日が、私を安心させてくれる。

 当たり前じゃない、この日々がかけがえのないもの。



 朝食を取り、制服に着替え


 「いってきます」


 私はいつものように家を飛び出した。




 両親にお願いをして、家から少し遠い高校へ入学。

 誰も私を知っている人がいない、私が私らしくいられる場所。

 電車に揺られていると視界にある人が目に入った。


 『葉山旭(はやまあさひ)

 私の幼馴染。

 小さい頃は家が目の前だったから仲が良くて。

 中学のときには完璧に疎遠。

 というか、避けていた。

 なのに蓋を開けたら隣の高校で。

 家から近い高校を受験すると聞いていたから拍子抜け。

 まあ同じ駅の高校でも同じ電車でも、会話はないんだけど。

 駅についたら千佳(ちか)が待っているのが目に入り


 「おはよう、千佳」

 「悠理おはよう!」


 学校までの道のりは歩いて20分くらい。

 わちゃわちゃ話していると突然千佳からのお誘い。


 「今日帰りに一緒に買い物に行ってほしいんだけど時間ある?」

 「うん、いいよ」

 「ありがとう。デート服一緒に選んでほしいの!」

 

 千佳には拓斗(たくと)くんという中学からの彼氏がいる。

 私には恋愛なんて程遠いものだと思っているから、彼氏がいる生活なんて想像できない。

 高校生活も少しずつ慣れて、毎日穏やかに過ごせている。

 それだけで私は充分だ。


 放課後になって千佳とショッピングモールに。

 あれこれ見ながら千佳に似合う洋服を選ぶことができた。


 「悠理のおかげで可愛い服見つけられたよ。ありがとう!」

 「千佳に似合う服見つかってよかった。デート楽しんできて」

 「ありがとう!」


 女の子が好きな人の為に努力する姿は、眩しいくらいに輝いている。

 恋に向かって一直線な姿は本当に応援したくなる。

 そして私にはないものだから、少し羨ましい。


 「あっ、拓斗から電話だ。ちょっとごめん」

 千佳がスマホを取り出し、耳に当てる。

 私はお礼に買ってもらった飲み物を飲みながら待つ。


 「えっ今、同じショッピングモールにいるの? うん。えっでも」

 私は気になって、千佳の腕をツンツンしながら小声で「どうしたの?」と聞く。 

 

 「拓斗がここにいるらしいんだけど、少し会えない?って聞かれて」

 

 確か拓斗くんは部活が忙しくて最近なかなか会えないって言ってた。


 「よかったじゃん。会ってきなよ」

 「えっでも今悠理とせっかく遊んでるんだから断る」

 「いいよそんなの。なかなか会えないってこないだ愚痴ってたばっかじゃん。私はまた別の機会で大丈夫だからさ」

 「うーん、でも」

 

 煮え切らない千佳に向かって、背中をバシッと叩いて

 

 「私がそうしてほしいから言ってるの。お願い」


 その言葉を受けた千佳は申し訳なさそうに、そして少し頬を赤く染め「ありがとう」と言った。


 無事拓斗くんと合流して、千佳とバイバイ。

 二人にお礼を言われて、拓斗くんなんかわざわざお菓子を渡してくれて。

 (本当にいい彼氏さんだな。友だちが幸せだと私も嬉しい)


 私はその後も一人でショッピングモールを軽く回り、駅へ向かう。

 (たぶん、気のせいだと思うの。なんとなくショッピングモールにいるときから、知らない人につけられてる、気がする。いや、思い過ごし? でも私と一定の距離でいつも歩いている。勘違いならいいんだけど、なんだか不安)

 震える手を握りしめ、助けを求めようと周りを見渡すが近くに知り合いはいない。

 誰に声をかけたらいいかもわからない。

 というか本当に付けられているかも定かじゃないのに、知らない人に声をかけたら迷惑に違いない。

 振り返って確認するのも怖い。

 どうしたらいいかわからない。

 でも自分でどうにかしなきゃ。

 幸い駅までそんなに遠くないから、走っていけば近くに交番があるはず。

 よし!と駅まで走り出そうとしたとき


 「わっ」

 「おっ」


 人に思いっきりぶつかってしまった。

 (おでこが……痛い!)

 ハッとして

 

 「すっすみません!」

 

 勢い良く頭を下げる。


 「……星名(ほしな)?」


 名前を呼ばれ、驚いて顔を上げる。

 

 「葉山くん……」

 

 そこには幼馴染。

 久しぶりに近くで見る彼はまた身長が伸びて、体つきも大きくなっていた。

 

 「ごめん、大丈夫?」

 「うん、大丈夫。ごめんね。葉山くんは大丈夫?」

 「俺は大丈夫。急いでた?」


 その言葉にハッとして、さっきの恐怖を思い出して体が震える。

 それに気づいたのか、葉山くんは私の後ろを一度見渡し「こっち来て」と私の腕を掴み、近くのベンチまでやってきた。

 私の震えが落ち着くまで何も言わず、隣に座って待ってくれている。

 (あっ──あのときと一緒だ)

 昔を思い出し徐々に安堵が広がると同時に、もう関わりたくなかったのにという気持ちも込み上げてくる。

 それでも少しずつ落ち着を取り戻し、周りを見渡すがさっきの人はもういないみたい。

 (確か白に緑の二本ラインの靴の人だったよね)


 「少し落ち着いた?」

 「うん。ごめんね、急に。もう大丈夫。ありがとうね」


 無理矢理笑顔を作る。

 横からはぁーとため息が聞こえたので、予想していなかった反応に体にまた緊張感が。


 「昔から星名の嘘はわかりやすい。何かあったんだろ?」


 もう何年も関わりがほとんどなかったのに、気づかれてしまったことで身を縮こませる。

 (話したくない、関わりたくないのに)

 でも今はどうしてもこの今の恐怖を吐き出したくて。


 「実は、その、気のせいだと思うんだけど……ね?誰かにつけられている気がして怖くて。駅まで走ろうとしたときに葉山くんとぶつかっちゃったの。ごめんね、急に。多分勘違いだと思うんだけどね、あはははは」

 「怖かったよな。無理して笑わなくていいから」


 優しい言葉をかけてくれたことが、怖かった気持ちを認めてくれた気がして、涙が零れそうになるを唇を噛み締め、気づかれないように下を向いてひたすら耐える。

 (変わらないんだね)

 葉山くんはこっちを見ず、落ち着くまでずっと、ずっと、そばにいてくれた。


 「一緒に帰ろう」

 

 私は頷いて後をついていく。

 何を話していいかもわからず、お互いただ一緒にいるだけ。

 電車から見える景色がいつもと違う気がしてなんだか落ち着かなくて、早く駅に着いてほしいと切に願った。


 

 結局何も話さないまま家の前まで来てしまった。

 お礼を言おうと葉山くんの方へ体ごと向けると


 「連絡先教えて」

 「えっ?」

 「何かあったとき連絡くれればすぐ駆けつけるから」

 「えっ大丈夫だよ。自分でも気をつけるし、しばらくはできるだけ一人にならないようにするし。そこまで葉山くんにしてもらわな――」

 「どうしても心配なんだ」


 私の言葉に重ね、眉を下げ、心配そうに切実に言うから頷くしかなくて。

 結局家に入るまで見届けてくれてるから名残惜しくなる。


 「旭くんは私がしたこと、もうなんとも思ってないのかな……」

 

 あの時の光景が今も心にこびり付いて苦しくなる。

 そっとスマホの連絡先を見ると

 

『葉山旭』

 

 そうしっかりと刻まれていた。 


 



 


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