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王妃教育の謎から始まる溺愛 ~ 王子と婚約破棄?大歓迎です!  作者: 柚屋志宇
最終章 真実の愛

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62話 命がけの恋

「ユベール様、これをどうぞ」


 王立貴族学院のお昼休み。

 いつものカフェテラスで、私はユベール様にプレゼントの包みを渡しました。

 包みの中身は、私が刺繍をしたハンカチです。


「ここで開けても良いでしょうか?」

「どうぞ。またいつものハンカチですから」


 ユベール様は包みを開け、中に入っているハンカチの刺繍を見て喜んでくださいました。

 いつもの王冠の刺繍なのですけれどね。


「王冠と、今回は薔薇の花ですか。素晴らしい刺繍です。いつも私が貰うばかりで申し訳ないです。私も早く仕事を片付けて、のんびり刺繍ができる時間を確保したいものです」


 ユベール様は苦笑なさいました。


「私がフェリシア嬢にお約束した王太子妃の宝冠(ティアラ)をプレゼントできるのは、来年になります」


 ユベール様が私に王太子妃のティアラをプレゼントできるのは、ユベール様が正式に王太子となり私と結婚するときです。

 それはヴェルニエ公爵の戴冠式の後となります。


「戴冠式は来年に決まりましたのね」

「はい。重要な国家行事ですから、やはり準備にはどうしても時間がかかるようです」


 学院の中は平穏ですが、一つの王朝が終焉して世の中は大きく変動しました。


 国王不在の期間、次の国王として即位が決まっているヴェルニエ公爵が暫定国王として政務を取り仕切っておられます。


 王妃が魔女、国王が魔女の手先、そして王太子が悪魔憑きであったと教皇庁に正式に認められた我が国は、諸外国からも注目を集めました。


 この事件は『魔女王妃事件』と呼ばれ、王国に王妃として巣食っていた魔女を断罪したヴァレリウス枢機卿の名声は高まりました。


「戴冠式にはヴァレリウス枢機卿が教皇特使としていらっしゃいます」

「まあ! 随分と良くしてくださいますのね」


 王権は神から授けられるものです。

 教皇特使、すなわち教皇の代理人として枢機卿が派遣されることは、王権の権威の強化を意味します。


「魔女王妃事件を解決した悪魔祓い師(エクソシスト)として、ヴァレリウス枢機卿は今や飛ぶ鳥落とす勢い。民からも絶大な支持を得ています。都合の良い案件を融通した、我が国への謝礼の意味もあるのでしょう」


 我が国ではもちろんのことですが、周辺諸国でも『魔女王妃事件』の怪談が盛り上がっています。

 魔女王妃を成敗したヴァレリウス枢機卿は、最も庶民人気のある枢機卿となりました。


 大抵の庶民は枢機卿団にどんな人物がいるか知らないことが普通のようです。

 しかし魔女王妃事件の怪談とともに、悪魔祓い師(エクソシスト)ヴァレリウス枢機卿の名は高まり、その名は広く庶民にも浸透しました。


 魔女王妃事件の流行(ブーム)に乗って、緋の衣を纏った枢機卿が悪魔祓いをするという物語が、あちこちの劇場で上演されて人気を博しています。


 我が国の王都のお祭りでは毎年、広場に舞台が作られ、庶民たちは舞台で上演される歌や踊りや劇を楽しむのですが、今年はそのお祭りの舞台で魔女王妃事件を題材にした劇が上演されました。

 舞台の演目の中で、魔女王妃事件の劇は一番人気で、追加の上演も行われたそうです。

 枢機卿が悪魔王子を倒す大立ち回りのシーンには子供たちも大喜びだったとか。


「人気を得たお礼ですか」

「そういうことです。簡単な茶番を演じるだけで、ヴァレリウス枢機卿は不動の地位を築かれたのですから」

「たしかにお仕事としては簡単なものでしたけれど。ご心労は大変なものだったと思いますわ。ルシアン様を相手に奮闘なさっていたヴァレリウス猊下のお姿は目に焼き付いております」

「それはまあ……そうですね。我が国も恥をさらしました……」


 ユベール様は残念そうに小さく笑いましたが、顔を上げると話題を戻しました。


「戴冠式が終わったらすぐに私の立太子式です」

「ユベール様は約束を守ってくださいましたね。嬉しいです」

「はい、フェリシア嬢がお望みでしたので。それに……」


 そしてユベール様は、隠していた悪戯を告白するかのように、それを言いました。


「実は私も王太子になりたかったのです。フェリシア嬢に王太子妃の宝冠(ティアラ)をプレゼントするために」

「存じておりますわ。私の望みを叶えていただいて嬉しいです」

「いいえ、私の望みだったのです。愛する女性に宝飾品をプレゼントするのは、その女性が自分のものだと周囲に示すためで、宝飾品は女性を繋ぎ止める鎖だと聞きましたので」


 ユベール様は爽やかな笑顔で、不穏な単語を口にしました。


「鎖……ですか?」

「そうです。その考えを聞いたとき、なるほどと思いました。それで思ったのです。どうせなら最強の鎖が良いと」


「最強の鎖……?」


「王太子妃のティアラはフェリシア嬢を私に繋ぐ最強の鎖になると思ったのです。王太子となった私の妃として内外に告知すれば、フェリシア嬢に近付く男を国家反逆罪として片っ端から捕らえて潰すことも可能となります。名案でしょう?」


 ユベール様は良い笑顔を浮かべました。


「……」


 嬉しいような、怖いような。

 私はちょっと良く解らない複雑な心境になり言葉を詰まらせました。

 これだからユベール様は複雑怪奇で面白いお方なのです。


(もしかしたらこれは……命がけの恋かもしれないわね)


 もし私がユベール様と両想いでなかったら厄介な事態になっていたかもしれません。


(でも私とユベール様は両想いなのだから、何も問題はないわ)

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