13話 ルシアン王子の無駄足
「フェリシアの不正を教師たちに知らせてやろう」
「ルシアン殿下、私もお供いたします」
ルシアン王子は、婚約者ラルベル公爵令嬢セリーヌとともに、教師たちが詰めている研究室を目指して学院の廊下を歩いた。
まずは公用語の教師たちが詰めている研究室を訪ねた。
そしてそこで担当の教師に言った。
「フェリシアの試験結果はおかしい。不正の疑いがある」
ルシアン王子がそう言うと、教師は問い返して来た。
「不正の疑いとは……。どのような根拠があるのでしょう?」
「フェリシアの点数が高すぎる。不自然だ」
「フェリシア嬢は優秀です。妥当な得点でしょう」
「妥当なわけがあるか!」
ルシアン王子は眉を吊り上げた。
「フェリシアの成績は私より下だったんだぞ」
「むしろそちらのほうが不自然でした」
「は? どういう意味だ?」
「フェリシア嬢は授業では優秀でした。指名されてもすらすら回答していた。宿題のレポートもいつも素晴らしいものでした。しかし彼女は何故か、試験だけができなかったのです」
「授業では、隣りの席の者に回答を教わって答えていたのだろう。宿題など、いくらでも他の者にやらせることができる」
ルシアン王子はフェリシアの手口について、推理を述べた。
しかし教師は冷たい目でルシアン王子を見た。
「それはルシアン殿下がいつもなさっていることでは?」
「……っ!」
教師の指摘は図星だったので、ルシアン王子は怯んだ。
◆
「……」
ラルベル公爵令嬢セリーヌは、ルシアン王子と教師とのやりとりを、ルシアン王子の後ろに控えて聞いていた。
(ルシアン殿下は、宿題を他の者にやらせていたの……?)
教師に見つめられて、ルシアン王子は明らかに怯んでいた。
そのルシアン王子の行動が、教師の指摘が正解であることを示していた。
(……宿題くらい些細なことよ。それにルシアン殿下は政治でお忙しいのですもの。きっと宿題などやっている暇がないのよ)
ルシアン王子は、王太子だ。
ルシアン王子が政治的な会議に出席して意見を言っていることを、セリーヌは聞き知っていた。
ラルベル公爵領の復興案は、ルシアン王子の提案だ。
その案を、提案できた事実こそが、ルシアン王子が政治的な会議に出席していることの証拠だった。
(政治に比べたら、宿題など些細なこと)
セリーヌは、ルシアン王子が宿題をやっていないことを許した。
◆
「フェリシアの奴、教師たちを買収しているのか?!」
ルシアン王子は教師たちの研究室を回り、フェリシアの不正を訴えた。
だがどの教師も、フェリシアのことを優秀だと褒め、今回の試験結果は妥当だと言う。
フェリシアが、教師たちを何らかの方法で買収したとしか考えられなかった。
「ルシアン殿下、マルク・セルネなら何か知っているかもしれません」
セリーヌが、セルネ男爵令息マルクの名を出した。
マルクは秀才の誉れ高く、今回の試験で首席だった生徒だ。
「そうなのか?」
ルシアン王子は首を傾げた。
マルクは、ルシアン王子がフェリシアの不正を指摘したときに、フェリシアやユベールの肩を持ち、ルシアン王子に意見した生意気な下位貴族だ。
「マルク様はもともとユベール様とは犬猿の仲でした。何か知っていたら教えてくれるかもしれません」
「あの男は、授業を聞いているだけで八十点が取れるというフェリシアやユベールの戯言に同意をして、あいつらの肩を持った男だぞ?」
「あの場には他の生徒たちの目がありました。マルク様の実家は男爵家。モンフォール公爵に睨まれたら、立ち行かなくなることでしょう」
「……! なるほど。フェリシアに脅されているのか!」
「人目が無い場所でなら、真実を話すかもしれませんわ」
◆
「はあ? 脅されてなどいません」
ルシアン王子は、セルネ男爵令息マルクに尋ねた。
モンフォール公爵家の権力を笠に着たフェリシアに脅されていないかと。
しかし、答えは否だった。
「そもそもフェリシア様とは話をしたことすらありません」
「そんなわけがあるか!」
「この学院の生徒のほとんど全員が、フェリシア様とはろくに話をしたことがないと思います」
マルクは冷めた目で語った。
「フェリシア様は、ルシアン殿下のご婚約者だったときには、いつも一人で自主勉強をしていました。ルシアン殿下とのご婚約を解消した後には、ユベール殿にべったりです。彼女は他の誰とも話をしていません」
マルクがそう言うと、セリーヌが異を唱えた。
「私はフェリシア様と話したことがありましてよ!」
「それはセリーヌ様が、フェリシア様に話しかけたからでしょう。話しかければフェリシア様は答えるようです」
「……」
マルクの説明に、セリーヌは黙った。
「脅されていないのであれば……」
ルシアン王子はマルクに質問した。
「どうしてフェリシアやユベールの味方をしたのだ」
「お二方の味方をしたわけではありません」
マルクは淡々と答えた。
「事実を言っただけです」




